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第1章最終話 夏の夜の夢 前編
しおりを挟む「~~♪~~♪」
僕は今、鈴羽の車で北に向かっている。
相変わらずハンドルを握る鈴羽はご機嫌である。
家を出てから3時間程で日本海側の湾岸線にでた、そこから更に北上。
途中、パーキングエリアでお昼ご飯を食べたり、道の駅に寄ってみたりとドライブを楽しむ。
「免許があったら運転代われたんだけど、出来れば夏休みに取りに行きたかったんだけどもうちょっと後になりそうだよ」
「気にしなくていいわよ。運転好きだし」
鈴羽が鼻歌交じりに答える。
走ること更に3時間。
「えっと、ナビだとあの山の向こうくらいなんだけど・・車で行けるのかしら?」
「歩いてはさすがにないんじゃないかな?あっ、そこのコンビニで聞いてみるよ」
僕は、近くにあったコンビニで聞いてみることにした。
店員さん曰く、車で行けるらしいのだが山の向こうではなく山の中だそうだ。
「大丈夫みたいだよ。麓まで行けば看板が出てるって」
「よし!もうひと頑張りしましょうか」
とはいえ土地勘の無い僕等なわけで、途中行き止まりになったり迷子になったりと、やっと麓にたどり着いたころには日も落ちかけていた。
「この細い道を上がるの?」
「みたいね・・・うん、なんとか行けそうよ」
窓から道を見ながら鈴羽は慎重に山道を上がっていく。
しばらくすると少し道が広くなりやがて・・・
「うわぁ~!これは・・・」
「・・・雪よね?」
僕等が山中でたどり着いたのは夏場だというのに屋根や道の脇に雪の残る純和風の旅館だった。
「結構、雪が残ってるんだね?」
「気がつかなかったけど大分山の上まできてるみたいだからかしら」
駐車場に車を止めて外に出ると冷んやりとした風が気持ちいい。
「皐月君!行きましょう!」
「うん。」
鈴羽が僕の腕を抱き旅館の入り口をくぐる。
旅館のロビーは正に純和風。全て木材で造られていて木のいい香りがする。美しい木目の床と壁、大きな一枚板のテーブルに椅子。ラウンジ側は雪の残る庭が一面見渡せようになっていた。
「ようこそ『花月亭』へお越しくださいました。この宿の女将をさせて頂いております。失礼ですがご宿泊のお客様でしょうか?」
僕等がロビーに見惚れていると和服の女性が話しかけてきた。
「あっすみません。あんまり綺麗なので見惚れてました」
「それはありがとうございます。お気に召されて何よりでございます。では、こちらで記帳の方をお願い致します」
女将さんは上品な笑みを浮かべて僕等を受け付けに案内してくれる。
「ご予約の九条様でございますね。お部屋の方にご案内させて頂きます」
年配の仲居さんに案内された部屋に僕等は更に驚く。
この旅館は中庭を囲むように小さな家のような部屋がぐるりとあるのだ。
コテージのようなものではなく、和風の落ち着いた部屋だった。
「お食事はお部屋の方にお持ち致しますので、しばらくお待ちくださいませ」
仲居さんが出て行ってから僕等は部屋というか家の中を見てまわる。
リビングは畳に掘り炬燵。暖炉まである。
寝室はさすがにベッドだったけど、お風呂はなんと露天風呂だった。
雪化粧の林が見えるびっくりのロケーションだ。
「写真では見てたんだけどちょっと想像以上ね」
「えっ鈴羽は知らなかったの?」
「知らないわよ。だって友達に聞いて行ってみれば分かるって。絶対に気にいるからって」
「確かに、気にいるに決まってるよね」
「ええ」
当然、出された夕食は絶品だったことは言うまでもない。
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