水曜日の彼女

揣 仁希

文字の大きさ
36 / 39

第1章最終話 夏の夜の夢 前編

しおりを挟む

「~~♪~~♪」
僕は今、鈴羽の車で北に向かっている。
相変わらずハンドルを握る鈴羽はご機嫌である。

家を出てから3時間程で日本海側の湾岸線にでた、そこから更に北上。
途中、パーキングエリアでお昼ご飯を食べたり、道の駅に寄ってみたりとドライブを楽しむ。

「免許があったら運転代われたんだけど、出来れば夏休みに取りに行きたかったんだけどもうちょっと後になりそうだよ」
「気にしなくていいわよ。運転好きだし」
鈴羽が鼻歌交じりに答える。


走ること更に3時間。
「えっと、ナビだとあの山の向こうくらいなんだけど・・車で行けるのかしら?」
「歩いてはさすがにないんじゃないかな?あっ、そこのコンビニで聞いてみるよ」

僕は、近くにあったコンビニで聞いてみることにした。
店員さん曰く、車で行けるらしいのだが山の向こうではなく山の中だそうだ。

「大丈夫みたいだよ。麓まで行けば看板が出てるって」
「よし!もうひと頑張りしましょうか」

とはいえ土地勘の無い僕等なわけで、途中行き止まりになったり迷子になったりと、やっと麓にたどり着いたころには日も落ちかけていた。

「この細い道を上がるの?」
「みたいね・・・うん、なんとか行けそうよ」
窓から道を見ながら鈴羽は慎重に山道を上がっていく。

しばらくすると少し道が広くなりやがて・・・

「うわぁ~!これは・・・」
「・・・雪よね?」

僕等が山中でたどり着いたのは夏場だというのに屋根や道の脇に雪の残る純和風の旅館だった。

「結構、雪が残ってるんだね?」
「気がつかなかったけど大分山の上まできてるみたいだからかしら」

駐車場に車を止めて外に出ると冷んやりとした風が気持ちいい。

「皐月君!行きましょう!」
「うん。」
鈴羽が僕の腕を抱き旅館の入り口をくぐる。

旅館のロビーは正に純和風。全て木材で造られていて木のいい香りがする。美しい木目の床と壁、大きな一枚板のテーブルに椅子。ラウンジ側は雪の残る庭が一面見渡せようになっていた。

「ようこそ『花月亭』へお越しくださいました。この宿の女将をさせて頂いております。失礼ですがご宿泊のお客様でしょうか?」
僕等がロビーに見惚れていると和服の女性が話しかけてきた。
「あっすみません。あんまり綺麗なので見惚れてました」
「それはありがとうございます。お気に召されて何よりでございます。では、こちらで記帳の方をお願い致します」
女将さんは上品な笑みを浮かべて僕等を受け付けに案内してくれる。

「ご予約の九条様でございますね。お部屋の方にご案内させて頂きます」
年配の仲居さんに案内された部屋に僕等は更に驚く。

この旅館は中庭を囲むように小さな家のような部屋がぐるりとあるのだ。
コテージのようなものではなく、和風の落ち着いた部屋だった。

「お食事はお部屋の方にお持ち致しますので、しばらくお待ちくださいませ」
仲居さんが出て行ってから僕等は部屋というか家の中を見てまわる。

リビングは畳に掘り炬燵。暖炉まである。
寝室はさすがにベッドだったけど、お風呂はなんと露天風呂だった。
雪化粧の林が見えるびっくりのロケーションだ。

「写真では見てたんだけどちょっと想像以上ね」
「えっ鈴羽は知らなかったの?」
「知らないわよ。だって友達に聞いて行ってみれば分かるって。絶対に気にいるからって」
「確かに、気にいるに決まってるよね」
「ええ」

当然、出された夕食は絶品だったことは言うまでもない。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...