母の豚汁と僕らの食卓

月乃せい

文字の大きさ
5 / 10

しおりを挟む
 ……僕はまだ、母さんの代わりにはなれていないってことか。
 悔しさという感情が、突如として現れた……。

「母さんの豚汁……か」

 ――その夜、僕は布団の中で天井を見つめていた。
 寝返りを打っても、目を閉じても、夕星の涙が頭から離れない。
 母さんの豚汁とは違う……その言葉が、胸の奥を締めつけ続ける。

 台所に立てば、すぐにでも再挑戦できる。
 けれど、どう作ればいいのかがわからなかった。
 母さんの背中を思い出そうとしても、煙のように揺らめいて消えていく。

 ……母さん、母さんは一体……どんな味付けをしていたの? どんな食材を使っていたの?
 僕だって、会いたいよ……。

 そう考えていたら、涙が頬を伝っていった。
 枕が湿っていくのを感じて、寝返りを打つ。
 もう片方の頬からも涙が伝っていき、結局枕はびしょびしょになってしまった。

 ……あれ、いつの間にか、夢の中に。

 あれは、母さん?
 いや、でも靄がかかっているようで、実態が掴めない。
 台所に立っているのはわかるんだけど、手元なんて全く見えやしなかった。

 その隣に立っているのは……僕と夕星かな?
 何かを切ったり、鍋で煮込んだりしているのが見える。
 もしかして……豚汁? あの夕星の笑顔……絶対そうだ。

 クソ、全然様子が見えない。
 どうしてシルエットはハッキリとわかるのに、工程と食材はまるで浮き出てこないのだろう……。

 母さんを亡くして、五年が経った。
 そうか……母さんの記憶が薄れてしまっている……それがいけないのか。

 ごめんね、母さん。
 夕星のために、頑張って思い出すから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...