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――翌日、学校からの帰り道。
商店街を歩いていると、顔なじみの八百屋のおばちゃんが声をかけてきた。
「どうしたの航大ちゃん! そんな浮かない顔をして!」
「あ、おばちゃん……ちょっと考え事してて」
「そんな顔してたら、お母さんが悲しむよ? ほれ、これ持っていきな!」
「え、これ……」
いつも買う人参ではなく、ちょっと高価な人参だ。
これ、この辺りではおばちゃんの八百屋にしか売っていない、契約農家さんの人参じゃ……。
「この人参、昔よくお母さんが買ってたよ。甘みが強くて、豚汁にぴったりだからねぇ」
「豚汁に……」
「そうだよ。出汁を濃くしないで、野菜の甘みを大事にしてただろう? あんたたちが甘めの味を好むからって、いつも言ってたよ」
おばちゃんの声に、霞んだ記憶が少しだけ色を取り戻す。
母さんの手元にある包丁、丁寧に薄切りされていく人参や大根。ちょっとずつだけど……思い出してきた。
けれどまだ、決定的な何かが欠けている。
「甘めな味か……」
その言葉が、どうにも引っかかった。
おばちゃんにお礼を言って、頭の中を整理しながら家に帰ることにする。
……母さんが死んでから、夕星に豚汁を作ってあげたのは初めてじゃないはず。
なのに急に泣き出した。それは母さんの豚汁を思い出したからだ。
「どうして急に、昨日の豚汁で思い出したんだ……」
そういえば……昨日使った味噌は、信州白味噌だった。
あれは甘口なのが特徴だ。
「だから、夕星は母さんの豚汁を思い出した?」
でも、夕星は何かが違うことに気づいていた。
そうか……違う方法で、母さんは甘みを加えていた。
使っていた味噌は、白味噌ではなかったはず。
野菜の甘みにプラスして、何かを取り入れていたんだ。
商店街を歩いていると、顔なじみの八百屋のおばちゃんが声をかけてきた。
「どうしたの航大ちゃん! そんな浮かない顔をして!」
「あ、おばちゃん……ちょっと考え事してて」
「そんな顔してたら、お母さんが悲しむよ? ほれ、これ持っていきな!」
「え、これ……」
いつも買う人参ではなく、ちょっと高価な人参だ。
これ、この辺りではおばちゃんの八百屋にしか売っていない、契約農家さんの人参じゃ……。
「この人参、昔よくお母さんが買ってたよ。甘みが強くて、豚汁にぴったりだからねぇ」
「豚汁に……」
「そうだよ。出汁を濃くしないで、野菜の甘みを大事にしてただろう? あんたたちが甘めの味を好むからって、いつも言ってたよ」
おばちゃんの声に、霞んだ記憶が少しだけ色を取り戻す。
母さんの手元にある包丁、丁寧に薄切りされていく人参や大根。ちょっとずつだけど……思い出してきた。
けれどまだ、決定的な何かが欠けている。
「甘めな味か……」
その言葉が、どうにも引っかかった。
おばちゃんにお礼を言って、頭の中を整理しながら家に帰ることにする。
……母さんが死んでから、夕星に豚汁を作ってあげたのは初めてじゃないはず。
なのに急に泣き出した。それは母さんの豚汁を思い出したからだ。
「どうして急に、昨日の豚汁で思い出したんだ……」
そういえば……昨日使った味噌は、信州白味噌だった。
あれは甘口なのが特徴だ。
「だから、夕星は母さんの豚汁を思い出した?」
でも、夕星は何かが違うことに気づいていた。
そうか……違う方法で、母さんは甘みを加えていた。
使っていた味噌は、白味噌ではなかったはず。
野菜の甘みにプラスして、何かを取り入れていたんだ。
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