落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リリスの自覚

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転生者の自覚を得た翌日の朝。

深い眠りからリリスの意識が戻ったのは、彼女を起こしに来たメイドのフィナの声だった。15歳のメイドが自分を起こしに来ている。昨日までの記憶であればお姉さんだと感じていたフィナだが、精神年齢が30歳手前になってしまったリリスにとっては、彼女は実質的に年下の少女でしかない。

でも可愛いなあ。
フィナってスタイルも良いし、まるで等身大のメイドのフィギュアじゃないの。
可愛らしい顔立ちだから、私が持っていた戦乙女のコスプレが凄く似合いそうね。

そうだ!
スキルを試してみよう。

そう思い立ったリリスはフィナにわざとらしく声を掛けた。

「フィナ。少し身体が熱いの。私、熱があるのかしら?」

そう言いながら髪を掻き上げ自分の額をフィナに向けて突き出すと、フィナは一瞬戸惑いながらも自分の額をつけてきた。

瞬時にコピースキルが発動される。
リリスの脳内にフィナの属性やスキルの情報が流れ込んできた。

属性は・・・・・火と水だ。魔法はファイヤーボールとファイヤーボルト、ウォーターカッターで、いずれもレベルは1。

スキルは・・・・・鑑定と探知。この二つのスキルもレベルは1。

あらっ!
鑑定を持っているのね。これって重要なスキルじゃないの。探知も役に立ちそうね。

是非とも手に入れたいと思った瞬間にフィナの額が離れてしまった。

「特に熱は無さそうですよ、お嬢様。」

「そう? じゃあ、私の気のせいかしら?」

頭をかしげるフィナに愛想笑いを振り巻いて誤魔化しながら、リリスは心の中でチッと舌打ちをした。

やはり、1分間も額を接触させ続けるにはそれなりの理由が必要だわ。だからと言って自分のスキルを他人に明かすのは危険よね。この世界では他人にどんな風に利用されるか分からないし・・・・・。最悪の場合は魔族のように忌み嫌われるかもしれない。

・・・・・だから、その為の邪眼なのね。

じゃあ、邪眼を使ってもう一度と思った途端にリリスは大事な事を思い出した。

ああそうだわ。コピースキルは1日に一度しか使えなかったのよね。

スキルの制約に気落ちしながらもリリスはベッドから起き上がり、お気に入りのワンピースに着替えた。昨日まで意識もしていなかったが、手触りが良く手の込んだ刺繍が施してある。

この生地は麻と絹の混紡かしら?

生地の手触りに高級感を感じながら、顔を洗って髪を整える為に鏡の前に座ると、昨日まで当たり前のように見てきた自分の顔が写っている。
栗色の髪に艶やかな白い肌。大きな深い緑の瞳。目鼻立ちもくっきりしている。それは以前の世界の自分とは全く異なるものだ。

こうしてみると私って可愛いじゃないの。OLだった頃の私って能面のような無表情な顔立ちだったわよ。

リリスはニヤニヤしながら鏡の前で髪を整え、フィナに付き添われてダイニングルームに向かった。長い廊下のところどころに高級そうな調度品や絵画が飾られている。昨日まで何とも思わなかった事だが、さすがに貴族の屋敷だと改めてリリスは実感した。

屋敷の廊下を奥に進みダイニングルームに入ると、母のマリアと弟のアレンが待っていた。

「お姉様、おはようございます。」

にこやかに挨拶するアレンは今年で7歳になる。年の離れた弟なので日常生活の中で喧嘩になる事はほとんど無い。アレン自身も心優しい子で姉のリリスに懐いているので、リリスとしても何かと面倒を見てあげたくなるのだが、その必要が無いほどに何事もそつなくこなす出来の良い弟だ。

「おはよう、リリス。昨夜はよく眠れたかしら?」

母親の笑顔が眩しく感じられる。

「ええ。熟睡しちゃったわ。」

昨夜の夢は勿論内緒だ。
朝の挨拶を交わし、朝食を済ませると、リリスは庭で日課の魔力操作の訓練に取り組んだ。

彼女は半年後には王都の魔法学院に入学する事になっている。それまでに魔力操作や土魔法の訓練を続ける事にしていたのだ。

土魔法しか持っていないのに私って健気よね。

昨日までの自分の努力を褒めつつ、リリスは広い庭の片隅に立った。
その一帯には30cmほど盛り上がった土の畝が幾つも並んでいる。昨日までの土魔法の訓練で盛り上げた畝だ。
思い返すとイメージトレーニングが全くなされていなかった。

魔法ってイメージが大事だって誰かが言ってたわねえ。

誰の言葉だっけと記憶を巡らせると、かつて読み耽っていたラノベの知識だとリリスは気が付いた。そのストーリーを思い返しながら、リリスはとりあえず土魔法を発動させた。
目の前の地面がガタガタと動き、高さ30cmほどに盛り上がった。

無造作に発動させるとこんなものね。これじゃあ役に立たないわ。

リリスは地面の土が流砂のように、柔らかく流動性のある状態になるようにイメージを魔力に添えた。更に手で掴み上げる様に土の壁を大地から引き出す。
目指すは魔法攻撃に耐えられる土の壁だ。

高さは最低でも1mは欲しいわね。

イメージを重ねつつ魔力を放つ事数回にして、リリスの目の前に高さと幅が1mの土の壁が出来上がった。だがリリスが足でその土壁を蹴ると、土壁はガラガラと崩れ去ってしまった。これではさほど役には立たない。

硬化が必要ね。

出来上がった土の壁が瞬時に硬化されるようにイメージを積む。その繰り返しでようやく少し硬化された土の壁が出来上がったと同時に、リリスは眩暈に襲われてその場に倒れてしまった。

魔力が底をついてしまったのだと気づいた時点ではすでに遅かった。
訓練に夢中になるあまり、魔力の枯渇に意識が及ばなかった事を悔やみつつ、リリスはその場で意識を失ってしまった。

「リリス!」

遠くからリリスの後姿を何気なく眺めていた母のマリアは、倒れるリリスを目にして叫びながら走り寄った。リリスの上体を起こしてその様子を見る。
この症状は明らかに魔力切れだ。

マナポーションを飲ませて部屋で寝かせてあげれば大丈夫よね。

そう判断してメイドのフィナを呼び寄せた時に、マリアはリリスの向こう側に異様なものを目にした。
高さ1mの土壁だ。

何時の間にこんなものを造れるようになったのかしら?

しかも魔力で土壁を探知すると、雑ではあるが硬化すら施してある。
ふと気に成ってマリアは小さなファイヤーボールを出現させ、その土壁に向けてふっと放った。

ドンッ!

軽い衝撃音と共に土壁が爆炎を上げる。だが土壁は少し削れてしまったがしっかりと立っていた。
威力を弱めたファイヤーボールではあったが、それでも硬化されているだけにその衝撃に耐えたのだ。

えっと驚くマリアはまじまじと我が子の顔を眺めた。

意外と才能があるのかしら?

魔法学院でのリリスの学生生活に不安を感じていたマリアにとって、それは希望を感じさせてくれる出来事だった。



結局リリスはその日の午後になって目が覚めた。
魔力切れの症状がまだ少し残っていて軽い頭痛があるのだが、それと引き換えに魔力量が増えたような感触がある。
そう言えば昔読んだラノベにもそんな話があったわね。
その主人公が魔力を使い切る事を繰り返しながら、魔力量を増やす訓練をするラノベを思い出しつつ、リリスはベッドの中でふふふと笑った。

まるでラノベの世界そのものじゃないの。

リリスはゲームやラノベやコスプレに夢中になっていた生活が無駄はなっていないと感じて、気分の高揚を抑える事が出来なかった。







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