落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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生徒会への招集

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2度目のダンジョンチャレンジの翌日。

座学の講義の合間に配布用のプリントを取りにロイドの部屋を訪れ、リリスは昨晩の学生寮の最上階に感じた気配をロイドに話してみた。だがロイドはふうんと間の抜けた返事をするだけで、全く関心を持とうとしない。
だがロイドの顔色を見ると無関心を装っているが、何か知っていそうな気配は感じられる。
どうやら探知スキルのレベルアップと高度補正のお陰で、人の心の機微にまで敏感になっているようだ。

教室に戻ってリリスはサラに尋ねてみた。

「サラ。私達の学生寮の最上階には誰が入寮しているの?」

「最上階? ああ、最上階は最上級生で我が国の王族の方が入寮しているわ。それと・・・・・」

「同じ最上級生で、お隣のドルキア王国の王族の方も入寮しているそうよ。」

「ええっ! 隣国の王族が魔法学院で学んでいるの? それって留学って事?」

「そうね。留学と言えば聞こえは良いけど、軍事同盟国の関係を確約するための人質と言った方が良いかしらね。」

そうか、そう言う事も有るのかとリリスは現実を再度認識させられた。人質を取られて居れば裏切る事も出来無いと言う事だ。

「でも他国から一人で留学しているの?」

「表向きはそうだけど、王族なんだから護衛は居る筈よ。表には出てこないでしょうけどね。」

ああ、噂に聞くロイヤルガードね。魔法やスキルに長けた諜報員だ。
そう思ってリリスははっと気が付いた。

そうか。どちらの王族にもロイヤルガードが付いている筈だ。
昨夜の学生寮最上階での人の気配の生滅は多分、ロイヤルガード同士の諜報活動や情報交換の気配だったのね。

どうやらリリスにとっては、知らない方が良い案件のようだ。それでロイドも誤魔化していたのかと考えるとリリスは腑に落ちた。


その日の夕方、学院での授業も終えた頃に、リリスは魔法学院の生徒会に呼び出された。
魔法学院には最上級生を中心に生徒会が構成されている。学舎の中にその為の部屋も確保されているが、今回リリスが呼び出されたのは学生食堂の一角にあるガラス張りの別室で、来賓来客用のレストランとして使用されている場所だ。要するに顔合わせの為の集まりだろう。そう思いつつ学生食堂の奥の向かうと、ガラス張りの壁の向こうに10人ほどの生徒が座って、すでにお茶を飲みながら歓談しているのが見えた。

「失礼します。」

リリスが入室して用意された席に座ると、生徒会の副会長の女性が笑顔で声を掛けた。長身で金髪の絵に描いたような美少女だ。
マリアと名乗るこの女子生徒は、王都で国の要職に就く貴族の娘であり、魔法学院卒業後は王宮で働く事になっているそうだ。

「ようこそ。あなたが噂の土壁さんね。」

うっと唸ってリリスは一瞬たじろいだ。

ちょっと待ってよ。『土壁さん』は無いわよねえ。まるで妖怪アニメに出てくる壁の姿のキャラクターじゃないの。

私は壁を塗らないわよ。

「リリスと呼んでください。」

渋面で答えるとマリアはうふふと笑った。

「あら、ごめんなさいね。でもリリスさんの事は学院中で話題になっているのよ。魔法の練度が高い上に戦術にも長けているって。」

マリアの言葉に悪意は無さそうだ。

「それは買い被り過ぎですよ。」

そう答えながらリリスは出された紅茶を一口飲んだ。何気に美味い。鼻を近づけると香りも良く、かなり上質の茶葉を使っている事が分かる。

来賓来客用の高級な紅茶を生徒が使って良いのかしら?

ふと疑問に感じながら、リリスはこの場に参加している生徒達を見回した。生徒会の役員が5名参加している。魔法学院は5年制であり、1学年で1クラスの構成なので、リリスを含めてクラス委員は5名だ。リリスは新入生なので当然末席に座っている。

参加者全員に自己紹介をし、参加者の名前と立場を確認した上で、リリスはこの集まりが当初思った通り、生徒会と各クラス委員の茶話会であることを理解した。

「リリス君。先程の副会長の言葉は嘘じゃないよ。3年生の男子の中でも良く話題に上るんだ。」

リリスの声を掛けた男子生徒は3年生のクラス委員のロナルドで、剣術の達人とも呼ばれている細身ながらマッチョな猛者だ。

「君のアースウォールの噂を聞いて、リリス君を自分のパーティーに勧誘して、ケフラのダンジョンに挑戦したいと言っている者も居るんだ。でも君のように可愛い女の子に、タンク役を任せるのもどうかと思うのだがねえ。」

真顔で可愛いと言われてリリスは少し赤くなった。その様子を微笑ましく見ていた生徒会長のアレンが口を挟んだ。

「おいおい。ロナルド君。会話の中に何気なく口説き文句を入れるのはどうかと思うぞ。」

「会長。僕には特別な意図は有りませんよ。女子を褒めるのは僕の生活スタイルそのものですからね。」

さらっととんでもない事を言うロナルドだ。アレンはそのロナルドの態度に苦言を呈した。

「君の生活スタイルにケチをつけるつもりは無いが、使い魔を女子の学生寮に潜入させて、上級生の女子と連絡を取り合うのはほどほどにした方が良いと思うよ。」

ええっ!
昨夜学生寮を探知して感じた小さな魔物の気配は、やはり使い魔だったのね。しかもこの先輩の使い魔だったなんて・・・。

リリスの驚いた表情を見て、ロナルドは怪訝そうに尋ねてきた。

「リリス君。そんなに不審がらないでくれよ。」

「いえ、そうじゃなくて・・・。昨夜学生寮の上の階で、使い魔らしい小さな魔物の気配を感じたものですから、何だろうと思って気に成っていたんです。」

リリスの言葉に今度はロナルドが驚いた。

「ええっ! 君は僕が細心の注意を払って気配を消した使い魔の存在を把握していたのか? 信じられん。君はどんなスキルを持っているんだ?」

その言葉にリリスはうっと言葉を詰まらせて答えられなかった。隠しスキルがバレては拙い。その困った様子を見てマリアが助け舟を出してくれた。

「ロナルド君。女子にスキルを尋ねるなんて、スリーサイズを聞くようなものよ。」

副会長のマリアの言葉にロナルドははいはいと答えて、それ以上聞こうともしなかった。適切な例えだとは思えないが、それで話が完結したのだから良いのだろう。

それにしても自分のスリーサイズなんて気にもしていなかったわ。まだ13歳だから幼児体型に近いもの・・・。
それに元の世界でOLだった時も・・・貧乳だったわね。

転生前の記憶はともかくも、その場が少し気まずい雰囲気になったのでリリスは話題を変えた。

「でも、魔法学院の生徒がケフラのダンジョンには潜れないですよね。」

「いや、そんな事も無いんだよ、リリス君。」

リリスの疑問に生徒会長のアレンは眼鏡を指でくいっとあげて説明を始めた。

「魔法学院の生徒は教師が付き添いなら、第5階層までは潜れることになっている。そこまでなら出現する魔物も弱い上に、各階層のマップが完璧に出来ているんだよ。それでも緊急事態に対応する必要から、教師の同伴は必須だけどね。」

「そう言えば・・・・・」

生徒会の書記で学院側との折衝をも担当しているルイーズがここで会話に絡んできた。

「薬学のケイト先生が薬草の採取の為に、リリスさんを連れてケフラのダンジョンに潜りたいって、授業の合間に言っていたわよ。」

えっ!
ケイト先生が?

それにしてもダンジョンで薬草採取って・・・・・。

「ケフラのダンジョンの第5階層は薬草の宝庫なのよ。それで冒険者ギルドの初級の冒険者達も、薬草採取のクエストで良く来るらしいわ。」

へえ~っ、そうなんだ。

リリスはそれを聞いてケフラのダンジョンに改めて興味を持った。

「でも、ケイト先生が同伴で大丈夫なんですか?」

リリスの言葉にその場にいた全員がニヤッと笑った。

「あら、知らないのね。ケイト先生って見た目があれだからねえ。あの先生は薬師だけど、水魔法のスペシャリストでもあるのよ。」

ルイーズの言葉に他の生徒達もうんうんとうなづいていた。

それなら大丈夫だろう。

「それに土壁ちゃん・・・否、リリスさんが居るから心配は無いわよ。」

そこで何気に言い間違えないで欲しいわね。

そう思いつつも、リリスはケフラのダンジョンに思いを馳せていた。






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