落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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保養地での出来事4

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突然現れた難敵を前にしてリリスと王子が身構える中。

二人に近付いてきたのは目が赤く光る魔人と豪華なマントを羽織ったリッチだった。まだ距離はあるが威圧を放って二人を威嚇し始めた。
しかもその周囲の輪郭がぼやけるほどに強い妖気を発している。その影響で頭が痛い。リリスは即座に非表示状態で魔装を発動させた。その途端に頭痛は消えたが、王子の方を見ると、王子は平然と身構えている。精神攻撃に対する耐性を持っているのか、あるいはロイヤルガードが特殊なシールドを張っているのだろうか?

紫色の空間に極度の緊張が走る。

だが近付いてくるリッチにリリスは見覚えがあった。

ええっと驚くリリスの表情に王子も違和感を感じた。

ゲールだ。

でもどうして此処に居るの?

ゲールもリリスに気が付いた様子で、威嚇する魔人を制してリリスに話し掛けてきた。

「ようやく落ち着かせたダンジョンコアを刺激していたのは君だったのか、リリス。悪いが今すぐこのダンジョンから離れてくれ。出来れば他の街にでも行ってくれた方が安心出来る。」

それって随分酷い言い草じゃないの!

「ゲールさん。私が何かしたの?」

「君の存在そのものがダンジョンコアを執拗に刺激しているんだよ。君は伝説級のダンジョンメイトに成れそうだね。」

なりたくないわよ、そんなもの。

「リリス。そのリッチは君の知り合いなのか?」

まだ警戒を解かずにいる王子の怪訝そうな言葉にリリスは無言でうなづいた。

「そうだね。自己紹介をしておこう。私の名はゲール。ケフラのダンジョンのダンジョンマスターだ。後ろにいる魔人はアーク。このダンジョンのダンジョンマスターだよ。」

ええっと驚く王子の反応も無理はない。そもそもダンジョンマスターの存在自体が伝承の域を超えていないのだから。

「でもどうしてゲールさんが此処に居るの?」

「それは非常事態でね。後ろにいるアークに頼まれて手伝いに来たんだよ。」

「何があったんですか?」

リリスの問い掛けにゲールはふっとため息をついた。

「ダンジョンコアの暴走だよ。ようやく落ち着いてきたところに君がやってきて・・・・・」

そんなに迷惑だったのかしら!
憤慨するリリスの肩を王子がポンポンと軽く叩いた。同情してくれているようだ。

「暴走の原因や経過を聞いても良いですか?」

王子の問い掛けにゲールは説明を始めた。

「ギースのダンジョンが破壊されたのが原因だ。ダンジョンマスターが倒され、ダンジョンコアが持ち出されてしまった。」

「それがどうしてこのダンジョンのコアの暴走に繋がるのですか?」

「それは・・・」

ゲールは一息置いて話を続けた。

「このドメルのダンジョンのコアとギースのダンジョンのコアは、元々一つだったものが分岐してこの世界に出現したのだよ。それ故に意志の通じ合う余地があるとアークは言っているんだ。」

「それはつまり自分の肉親の惨状を知って暴走してしまったと言う事ですか?」

「簡単に言えばそう言う事だね。」

ゲールと王子の会話を聞きながらも、リリスの心には疑念が芽生えていた。

ダンジョンコアを持ち出したって・・・・・まさかねえ。
でもドルキアの地下神殿でユリアが呟いた言葉が耳に残る。
ダンジョンコアはどうするのって聞いた時に、そんなものは何とかするって・・・・・。

考えただけで心が沈んでしまうリリスだが、その時ゴゴゴゴゴッと地面が地震のように揺れ始めた。

「拙いな。またダンジョンコアが異常活動を始めたようだ。ようやく収まりかけていたのに・・・・・」

ゲールが心配して周囲を見回す仕草をしている間に、後ろから魔人のアークが近付いてきた。

「お前達。早くここから出て行ってくれ。このダンジョンはしばらくの間閉鎖だ。」

赤く光る眼が疲労で血走っているように見えるのは気のせいか?

今すぐに動こうとしない様子のリリスを見て、アークはふっとため息をつき、懐から丸い球を取り出してポイっとリリスに投げ渡した。

反射的に手を出して受け取ったのは、淡いブルーの半透明の宝玉だった。その中心部に小さな黒い点があるが、封じられた魔物ではないようだ。

「それをやるから、とにかく早く出て行ってくれ。」

あらまあ。
帰りの駄賃を貰っちゃったわ。

「まあ、そう言う事だから、悪く思わないでくれ。」

ゲールの言葉が終わるや否や霧が晴れて、ゲールとアークの姿も消えてしまった。

「疲れちゃったね。帰ろうか?」

王子の言葉にリリスはうんうんとうなづくと、二人で駆けるように速足で地上に戻っていった。







保養地の屋敷に戻ったリリスはフィリップ王子とマリアナ王女と共に夕食を頂き、リビングホールでメイド達が給仕する紅茶を呑みながら寛いでいた。
ドメルのダンジョンでの出来事も話題に上ったが、リリスはおもむろにアークから貰った宝玉を取り出した。

「この宝玉って光に当てると紋章が浮き出てくるんですよ。」

そう言いながら宝玉をテーブルの上のキャンドルに近付けると、宝玉の中に何かの紋章が浮かび上がってきた。ドラゴンが剣に絡みつくような図柄でその周囲を花が取り囲んでいる。

「これって多分宝玉の中にある黒い点が光に反射して・・・・・」

そこまで言って、リリスは言葉を留めた。
フィリップ王子とマリアナ王女の目が点になっている。

言葉も無くフィリップ王子はリリスの背後の壁を指差した。リリスが振り向くとそこには豪華なタペストリーが掛けられていたのだが、そこに描かれていたのは宝玉の紋章と同じものだった。

「それは・・・・・ドルキア帝国時代から継承してきた王家の紋章だよ。」

ええっと驚くリリスの手からマリアナ王女が宝玉を奪うように取り上げた。

「兄上。これってまさか・・・帝国時代の王位継承の証しとなる宝玉ではありませんか? 帝国の崩壊と共に散逸していたと聞きますが。」

ちょっと待ってよ!
アークさんってば。そんな大事な物を子供に駄賃をあげるように私に手渡したの?

「これってリリスさんが貰ったのよねえ。あなた、ドルキアの王位に就くの?」

「冗談じゃないですよ。あげますよ、そんなもの。」

そんなものって言っちゃった。
でもどう考えても私には猫に小判よねえ。

リリスの思いを読み取って王子は姿勢を正した。

「頂けるのなら、これ程にありがたい事は無い。リリス。君は妹と危ない目に遭った要因を聞いたかい?」

「それは・・・・・ドルキア王国内の権力争いですか?」

こんな事を当事者に聞いて良いものかとリリスは躊躇ったが、話の流れで言葉にしてしまった。だが王子はそれを謙虚に受け止めたようだ。

「そうなんだよ。他国の君に話すのも恥だが、現王家の支配に異論を唱える勢力があるのも事実だ。現王家はドルキア帝国からの王族の直系だが、反勢力は帝国時代の王族の傍系の末裔達なんだよ。」

「彼等は自分達の一族こそが帝国時代の王族の生き残りだと主張している。彼等を黙らせるためには、どんなものでも良いから王位継承を正当化する証しが欲しい。そう思っていた矢先に目にしたのがこの宝玉だ。」

そう言いながら王子は王女から宝玉を受け取り、それを手に取って大事そうに布で拭き始めた。

「伝承ではこの宝玉は爽やかな魔力を放ち、仄かに光っていたと記されている。神殿で祭祀を行い、水を司る亜神に息吹を吹き込んで貰う事で、その魔力と光を100年以上放ち続けていたそうだ。」

水を司る亜神の息吹・・・・・。

思わずマリアナ王女とリリスは目を見合ってしまった。

それってユリアの事?
いや、ユリアの本体の事かしら?

ユリアが強く関わっているように思える。

「リリスさん。リースの地下神殿に行ってみる?」

それってユリアに交渉しろって事?
マリアナ王女の言葉に若干狼狽えるリリスだが、フィリップ王子は二人の様子を見て少し考え込んでいた。

「リリス。水の亜神との接点があるのなら協力してくれ。上手くいけばこの国の内紛を鎮静化出来る可能性が高い。」

「でも今日帰らないと明日の授業が・・・」

「明日は君も妹も欠席だ。ドルキア王家の名で魔法学院には通達しておくよ。」

そこまでするのね。
こうなったらとことん付き合ってあげるわよと心を固めるリリスだった。








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