落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
57 / 369

リリスの困惑

しおりを挟む
リリスの自室。

意味ありげで穏やかな表情のマリアの追及がリリスに迫る。

「ユリアって何者?」

「・・・・・水の亜神の本体の一部です。」

「タミアって誰?」

「・・・・・火の亜神の本体の一部です。」

「チャーリーって誰?」

「・・・・・土の亜神の本体の一部です。」

マリアはそれを聞いて唖然としてしまった。

「どうしてそんなものと関りを持ったの?」

「それは・・・偶然が重なったとしか言いようが無いのよ、お母様。それにあの連中は人族の事情なんて気にもしていないので、興味がなくなれば何処かへ行ってしまいますよ。」

う~んと唸ってマリアは考え込んでしまった。その状況を見て、フィリップ王子の使い魔の小人は空気を読み、静かに部屋を出て行こうとした。
だがその時、ドアをノックして別の使い魔が入ってきた。

「リリス、お邪魔するわね。兄がこちらに来ていないかしら?」

マリアナ王女の使い魔だ。あまりのタイミングの悪さに、リリスは頭の中が真っ白になってしまった。

「あら、今度は誰の使い魔かしら?」

訝し気に尋ねるマリアに使い魔は元気に返答した。

「この寮の最上階に住んでいる最上級生のマリアナと言います。あなたは?」

「私はマリア。リリスの母親です。」

そう聞いて使い魔は嬉しそうに、

「まあ、丁度良かったわ。ご領地はミラ王国南部のクレメンス領でしたよね。私の父上の意向で、そちらにリリスが王位継承の宝玉を見つけて下さった褒賞を送る予定です。荷馬車1台分の金塊になると思いますが、物騒なのでミラ王国の軍に運んでいただくように交渉中です。最終的には私の父上からミラ王国の国王様にお話を通せば済む事なので、遠からず決定される筈ですから、そのつもりでしばらくお待ちくださいね。」

ああ。
この人は何を淀みなく話しているんだろう。
マリアナ様って自分ではしっかりしていると思っているのだろうけど・・・・・やっぱり天然だわ。

マリアは茫然自失の状態だ。
空気を読んで退出しようとしていた小人は、あちゃーと言いながら部屋の片隅で頭を抱えている。

「あら、そんなところに居たのね、お兄様。」

マリアナ王女の使い魔が小人の傍に近付いた。

「父上が怒っていましたよ。王族なんだからドルキアの祝祭にたまには参加して、王城から観衆に応える儀礼に出なさいって。」

「そんな事をここで言うんじゃないよ。空気を読めってば。」

小人の言葉にうん?と呟き、王女の使い魔は首を傾げた。

「リリス。この使い魔達の召喚主を紹介していただけるかしら?」

マリアの声に抑揚が無い。もはや何も深く考えたくないと言う波動すら伝わってくる。

「マリアナ様はドルキアの王女様で、フィリップ殿下はドルキアの王子様です。」

リリスは極力簡単に伝えた。マリアはふっとため息をつき頭を抱えている。頭の中を整理できない様子だ。

「お母様。大丈夫?」

リリスの呼びかけにハッとして、マリアはリリスの顔を見つめた。

「リリス。あなたって中身の濃い学生生活を送っているわねえ。」

そう言いながらマリアはソファの上に2体の使い魔を招き入れた。

「王族の方を立たせておくことは出来ないわよね。」

「あら、良いんですよ、リリスのお母様。所詮使い魔ですからね。」

そう答えたマリアナ王女の使い魔を見つめて、マリアは苦笑いをして尋ねた。

「どうしてこの田舎貴族の娘の部屋に隣国の王族が出入りされて居るのですか?」

その言葉を聞き即座に答えようとしたマリアナ王女の使い魔を制して、小人が話を始めた。マリアナ王女に話させると拙いと思ったのだろう。

マリアが心配するのでリリスが王女と共に危ない目に遭ったと言う事は伏せておき、王女と仲良くなったリリスをドルキアに招待した際に、行方が分からなくなっていた王位継承の宝玉をリースの地下神殿でリリスが探し出したと説明した。

上手く取り纏めてくれたので、マリアもうんうんとうなづいて納得しているように見えた。だがマリアはふと何かに気が付いたような仕草を見せた。

リリスに向かって、

「そう言えばサイクロプスってどうしたの?」

嫌だわ覚えていたのね、お母様。

リリスは困惑して必死に言葉を探した。だがマリアの瞳が徐々に生気を取り戻してきた事にリリスは気が付いていなかった。

「リリス。一度私とダンジョンに潜ってみない? あなたの戦い方を見たいわ。」

いやいや。そんな動機で私をダンジョンに誘わないでよ。

「お母様。ダンジョンは危険ですよ。」

「あらっ。何を言っているのよ。私はケフラのダンジョンの40階層まで踏破した事があるのよ。」

自慢げな表情のマリアを見て、リリスはうんざりしてしまった。

拙いわねえ。
その気にさせてはならない人をその気にさせてしまったわ。

「でもねえ。そうは言っても私ってケフラのダンジョンには出入り禁止になっているのよね。」

それってどう言う意味?

「お母様。何をやったの?」

リリスの素朴な問い掛けにマリアは頭を掻いて、

「探索途中で面倒になっちゃったのよ。それで35階層から40階層まで、爆炎でフロアごと吹き飛ばしちゃったのよ。そうしたら潜入していた他の冒険者達に怪我を負わせちゃってね。」

あれまあ。何をしているんだか・・・。

「でもそれで出入り禁止と言っても私が生まれる以前の話でしょ? 誰に出入り禁止って言われたの?」

「それがねえ。40階層で不気味なリッチが現われて、お前は出入り禁止だって言われたのよ。それでそのまま無理矢理地上に転送されちゃってね。」

それってゲールさんだわ。
私達って母娘でゲールさんに迷惑掛けちゃっているのね。

リリスの思いを他所に、このタイミングで小人が話に加わってきた。

「それならリースのダンジョンにご招待しますよ。」

殿下!
余計な事を言わないでよ!

そう思って止めようとしたがすでにマリアの表情が一変してしまった。

「よろしいのですか? リースと言えばドルキアの領内ですよね。一般の冒険者ならともかく、他国の貴族が来るとなると問題になりませんか?」

「ああ。構いませんよ。僕から入国許可を出しておきますから。それでリースのダンジョンですが・・・・・」

そう言いながら小人はリースのダンジョンの様子を事細かく説明し始めた。
その話にマリアは生き生きとした表情で聞き入っていた。

拙いわねえ。
お母様の目が輝いちゃっているじゃないの。
これでは止めようも無いわ。

リリスは諦めて、リースのダンジョンに潜る覚悟を決めていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...