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王族からの接近
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その日、リリスとサラは王都の繁華街の片隅にある喫茶店で紅茶を飲んでいた。
何故王都に居るのかと言うと、この日は年に一度、魔法学院の全生徒が王都に出向き、王城で王族達に拝謁する行事があったからだ。午前中に拝謁の行事は終了し、その後は自由行動となり、夕方には王都の南へ向かう馬車の待機場に集合する事になっている。翌日は魔法学院は休日なので、王都に留まる事も可能で、王都の近隣に実家のある生徒はそのまま自宅へ帰る事も出来る。勿論その際には明日中に自力で魔法学院の学生寮まで返ってくることになるのだが。
拝謁の行事はリリス達にとっては退屈なものだった。地方貴族の子女にとって、王族への拝謁にはそれほどの思い入れも無い。だが王族と繋がりがある貴族の子女や、これから王族との繋がりを持ちたいと切望している貴族の子女にとっては、それなりに大切な行事であり、親子で王都に留まってアプローチを試みるケースもあるそうだ。
「結局私達にはあまり関係ないわよね。」
そう言いながらサラが紅茶を飲み、ふっと窓越しに外を眺めた。白を基調にした清楚な内装の店内には20ほどのテーブルがあり、その半数が客で埋まっていた。お昼の時間を少し過ぎているのでランチ客はあまりいない。食後にゆっくりとお茶を楽しむ客が大半のようだ。装飾された出窓から見える王都の街路は石畳できれいに整備されていて、道行く人の姿も洗練されているように見える。繁華街と言ってもそれほどに賑やかな看板なども無く、至って落ち着いた街並みだ。建物は石造りで高級そうな石材を使って建てられたものもちらほらと見える。
行政機関の集まった区画や商人達の集まる区画とは違った落ち着きのある街並みに、リリスも心が穏やかになるのを感じていた。
「近くに公園があるそうだから、行ってみようよ。」
サラに誘われてリリスもその気になった。
「集合時間は夕方だったわよね? 4時間ほど自由時間があるのかしら?」
リリスの問い掛けにサラはうんうんとうなづいた。
二人で会計を済ませて店のドアを開き、一歩外に出た途端にリリス達を呼ぶ声がした。思わず振り向くとニーナが駆け寄ってくるのが見える。
「あらっ? どうしたのかしら?」
立ち止まるリリスの傍にハアハアと息を切らして駆け付けたニーナは、そのままリリスの身体にぶつかる様に駆け込んできた。
「エレンとガイにまかれちゃったよお~」
如何にも情けなさそうな表情でニーナが嘆いた。どうやらあの二人に邪魔者扱いされてしまったようだ。
「まあ! 酷い人達ね。二人の時間を楽しみたかったのかしら。」
そう言いながらサラがニーナの肩をポンポンと軽く叩き、
「ニーナも一緒に公園に散策に行こうよ。広大な公園で見どころも沢山あるそうよ。」
サラの言葉にニーナもうなづき、額の汗を拭くと、その表情も明るくなった。ニーナの愛くるしい笑顔にリリスも頬が緩む。
「後で私からも文句を言ってあげるわよ。いくら王都の治安が良いと言っても、単独行動は避けるように言われていたからね。ニーナに単独行動を強いるなんて・・・」
そう言いながらリリスはふと疑問を持った。
「ニーナ。私達がこの喫茶店に居るって良く分かったわね。
「それは行き場に困ってスキルを全開にして・・・・・」
そうだ。この子は特殊なスキルの持ち主だったわ。探知や千里眼まで駆使したのでしょうね。そこまで読んで、エレン達はニーナを放置したのかしら?
後で聞いてみよう。
若干腑に落ちない気持ちのまま、ニーナに笑顔を向け、リリスはサラと共に公園に向かった。
石畳の街路は綺麗に掃除されていて、ごみもほとんど見当たらない。そうかと言って人通りが少ないわけでもない。何かしらの工夫がされているのだろうと思うのだが、それを探知するほどの事でもないので、王家の治世が行き届いていると思う事にして歩く事10分。3人の目の前に公園の入り口の大きな石柱が見えてきた。高さ10mほどの2本の石柱は立派な装飾を施され、青空に向かって立っている。その石柱間の距離は20mもあるだろうか。その石柱を通り過ぎると両脇にベンチの並ぶ広い通路があり、その先には色とりどりの花が咲き乱れる区画が見えている。
通路のところどころに大理石の立像が配置され、如何にも整備された公園と言う印象だ。
だが通路を30mほど歩いた時、ニーナがリリスの傍に擦り寄ってきた。
「リリス。何者かにつけられているわよ。」
えっと思って思わず振り向くが何の気配も感じられない。
「元々小さな気配で、しかも巧妙に隠蔽しているから、人間じゃないと思う。」
人間じゃないって・・・・魔物?
「多分、使い魔の類かと思う。」
そう言いながら表情を強張らせるニーナを落ち着かせ、リリスは周囲を探知してみた。
通常の探知では特に気に成る物は無い。
念のために非表示で魔装を発動させ、魔力の流れを探知してみると、わずかながら不自然な魔力の淀みを探知出来た。斜め後方約20m。意外に近い場所だが樹木の陰に隠れていてよく見えない。
その場所に向けて魔力の触手を伸ばし、その先端から圧縮した魔力を放つと、ウッと呻く声をあげて小さな塊が転がり落ちてきた。
あれは何だろうかと思ってよく見ると、見覚えのある小人が起き上がろうとして蠢いていた。
殿下だ!
でもどうして此処に居るの?
身構えるサラとニーナを制して、リリスは小人に駆け寄った。だが何時もと様子が違う。小人の両肩に突起物が見える。小さな芋虫のような2体の突起物が両肩で左右に蠢いているのだが、その先端には目玉が付いていて、駆け寄ってきたリリスを凝視しているのが分かった。
その違和感に思わず立ち止まったリリスの目の前で、小人は身体を摩りながら呟いた。
「だから隠し切れないって言ったんだよ。この子には見抜かれてしまうんだから。」
誰に話し掛けているんだろう。
リリスの疑問を他所に、思わぬ方向から声が聞こえてきた。
「でも巧妙に隠蔽していた筈だよ。」
「この子って余程探知能力が高いのね。それにあの距離で魔力を弾丸のように命中させるなんて、何をしたのよ。」
若い男女の声が小人の両肩から聞こえてきた。声の主はあの芋虫のような突起物だ。
「殿下。どうしてここに居るのですか? しかも隠れて追跡するなんて。」
「それはこいつらの仕業だよ。僕は操られているだけだからね。」
そう言いながら小人は両肩の突起物を指差した。どうやらこれも使い魔のようだが実態が良く分からない。
「とりあえずご紹介していただけますか?」
静かに怒りをこらえてリリスは問い掛けた。
「ああ、ハイハイ。僕はレオナルドです。」
「私はメリンダよ。メルって呼んで良いわ。」
そう言われても素性が良く分からない。
「どちら様ですか?」
そう聞き返したリリスに小人が近付いて小声で呟いた。
「レオナルドもメルも、君は今日の午前中に見かけた筈だよ。」
えっと驚くリリスに小人は言葉を続けた。
「二人共、君の国の王族だよ。」
小人の言葉に2体の突起物がへらへらと笑っている。
「それが事実だとして、どうして殿下の使い魔の肩にくっついているんですか?」
「憑依されているんだ。これってメルの得意技なんだよ。だから僕の意志では使い魔を自由に動かせないんだ。」
行動が制限されているのね。
「それで御用件は何ですか?」
「この二人が君に興味を持ったんだってさ。」
吐き捨てるように呟いた小人を不意に電撃が襲う。バリバリッと音を立てて小人の身体が硬直した。
「フィリップお兄様にはお仕置きが必要なようね。」
「やめなさい、メル。いくら使い魔だと言ってもやり過ぎだよ。」
小人を心配するリリスに向けて芋虫が語り掛けた。
「リリス君だね。君に話があってフィリップに案内して貰ったんだ。」
案内ってレベルじゃないわよね。憑依して操って来たんでしょうに。
「大事な話なので少し付き合って欲しい。君の友達は安全な場所に案内するからね。」
その言葉と同時にリリスの周囲が真っ暗な闇に包まれた。身体の感覚から何処かに転送されているのが分かる。
これってもしかして闇魔法?
暗闇の中、不安に駆られるリリスであった。
何故王都に居るのかと言うと、この日は年に一度、魔法学院の全生徒が王都に出向き、王城で王族達に拝謁する行事があったからだ。午前中に拝謁の行事は終了し、その後は自由行動となり、夕方には王都の南へ向かう馬車の待機場に集合する事になっている。翌日は魔法学院は休日なので、王都に留まる事も可能で、王都の近隣に実家のある生徒はそのまま自宅へ帰る事も出来る。勿論その際には明日中に自力で魔法学院の学生寮まで返ってくることになるのだが。
拝謁の行事はリリス達にとっては退屈なものだった。地方貴族の子女にとって、王族への拝謁にはそれほどの思い入れも無い。だが王族と繋がりがある貴族の子女や、これから王族との繋がりを持ちたいと切望している貴族の子女にとっては、それなりに大切な行事であり、親子で王都に留まってアプローチを試みるケースもあるそうだ。
「結局私達にはあまり関係ないわよね。」
そう言いながらサラが紅茶を飲み、ふっと窓越しに外を眺めた。白を基調にした清楚な内装の店内には20ほどのテーブルがあり、その半数が客で埋まっていた。お昼の時間を少し過ぎているのでランチ客はあまりいない。食後にゆっくりとお茶を楽しむ客が大半のようだ。装飾された出窓から見える王都の街路は石畳できれいに整備されていて、道行く人の姿も洗練されているように見える。繁華街と言ってもそれほどに賑やかな看板なども無く、至って落ち着いた街並みだ。建物は石造りで高級そうな石材を使って建てられたものもちらほらと見える。
行政機関の集まった区画や商人達の集まる区画とは違った落ち着きのある街並みに、リリスも心が穏やかになるのを感じていた。
「近くに公園があるそうだから、行ってみようよ。」
サラに誘われてリリスもその気になった。
「集合時間は夕方だったわよね? 4時間ほど自由時間があるのかしら?」
リリスの問い掛けにサラはうんうんとうなづいた。
二人で会計を済ませて店のドアを開き、一歩外に出た途端にリリス達を呼ぶ声がした。思わず振り向くとニーナが駆け寄ってくるのが見える。
「あらっ? どうしたのかしら?」
立ち止まるリリスの傍にハアハアと息を切らして駆け付けたニーナは、そのままリリスの身体にぶつかる様に駆け込んできた。
「エレンとガイにまかれちゃったよお~」
如何にも情けなさそうな表情でニーナが嘆いた。どうやらあの二人に邪魔者扱いされてしまったようだ。
「まあ! 酷い人達ね。二人の時間を楽しみたかったのかしら。」
そう言いながらサラがニーナの肩をポンポンと軽く叩き、
「ニーナも一緒に公園に散策に行こうよ。広大な公園で見どころも沢山あるそうよ。」
サラの言葉にニーナもうなづき、額の汗を拭くと、その表情も明るくなった。ニーナの愛くるしい笑顔にリリスも頬が緩む。
「後で私からも文句を言ってあげるわよ。いくら王都の治安が良いと言っても、単独行動は避けるように言われていたからね。ニーナに単独行動を強いるなんて・・・」
そう言いながらリリスはふと疑問を持った。
「ニーナ。私達がこの喫茶店に居るって良く分かったわね。
「それは行き場に困ってスキルを全開にして・・・・・」
そうだ。この子は特殊なスキルの持ち主だったわ。探知や千里眼まで駆使したのでしょうね。そこまで読んで、エレン達はニーナを放置したのかしら?
後で聞いてみよう。
若干腑に落ちない気持ちのまま、ニーナに笑顔を向け、リリスはサラと共に公園に向かった。
石畳の街路は綺麗に掃除されていて、ごみもほとんど見当たらない。そうかと言って人通りが少ないわけでもない。何かしらの工夫がされているのだろうと思うのだが、それを探知するほどの事でもないので、王家の治世が行き届いていると思う事にして歩く事10分。3人の目の前に公園の入り口の大きな石柱が見えてきた。高さ10mほどの2本の石柱は立派な装飾を施され、青空に向かって立っている。その石柱間の距離は20mもあるだろうか。その石柱を通り過ぎると両脇にベンチの並ぶ広い通路があり、その先には色とりどりの花が咲き乱れる区画が見えている。
通路のところどころに大理石の立像が配置され、如何にも整備された公園と言う印象だ。
だが通路を30mほど歩いた時、ニーナがリリスの傍に擦り寄ってきた。
「リリス。何者かにつけられているわよ。」
えっと思って思わず振り向くが何の気配も感じられない。
「元々小さな気配で、しかも巧妙に隠蔽しているから、人間じゃないと思う。」
人間じゃないって・・・・魔物?
「多分、使い魔の類かと思う。」
そう言いながら表情を強張らせるニーナを落ち着かせ、リリスは周囲を探知してみた。
通常の探知では特に気に成る物は無い。
念のために非表示で魔装を発動させ、魔力の流れを探知してみると、わずかながら不自然な魔力の淀みを探知出来た。斜め後方約20m。意外に近い場所だが樹木の陰に隠れていてよく見えない。
その場所に向けて魔力の触手を伸ばし、その先端から圧縮した魔力を放つと、ウッと呻く声をあげて小さな塊が転がり落ちてきた。
あれは何だろうかと思ってよく見ると、見覚えのある小人が起き上がろうとして蠢いていた。
殿下だ!
でもどうして此処に居るの?
身構えるサラとニーナを制して、リリスは小人に駆け寄った。だが何時もと様子が違う。小人の両肩に突起物が見える。小さな芋虫のような2体の突起物が両肩で左右に蠢いているのだが、その先端には目玉が付いていて、駆け寄ってきたリリスを凝視しているのが分かった。
その違和感に思わず立ち止まったリリスの目の前で、小人は身体を摩りながら呟いた。
「だから隠し切れないって言ったんだよ。この子には見抜かれてしまうんだから。」
誰に話し掛けているんだろう。
リリスの疑問を他所に、思わぬ方向から声が聞こえてきた。
「でも巧妙に隠蔽していた筈だよ。」
「この子って余程探知能力が高いのね。それにあの距離で魔力を弾丸のように命中させるなんて、何をしたのよ。」
若い男女の声が小人の両肩から聞こえてきた。声の主はあの芋虫のような突起物だ。
「殿下。どうしてここに居るのですか? しかも隠れて追跡するなんて。」
「それはこいつらの仕業だよ。僕は操られているだけだからね。」
そう言いながら小人は両肩の突起物を指差した。どうやらこれも使い魔のようだが実態が良く分からない。
「とりあえずご紹介していただけますか?」
静かに怒りをこらえてリリスは問い掛けた。
「ああ、ハイハイ。僕はレオナルドです。」
「私はメリンダよ。メルって呼んで良いわ。」
そう言われても素性が良く分からない。
「どちら様ですか?」
そう聞き返したリリスに小人が近付いて小声で呟いた。
「レオナルドもメルも、君は今日の午前中に見かけた筈だよ。」
えっと驚くリリスに小人は言葉を続けた。
「二人共、君の国の王族だよ。」
小人の言葉に2体の突起物がへらへらと笑っている。
「それが事実だとして、どうして殿下の使い魔の肩にくっついているんですか?」
「憑依されているんだ。これってメルの得意技なんだよ。だから僕の意志では使い魔を自由に動かせないんだ。」
行動が制限されているのね。
「それで御用件は何ですか?」
「この二人が君に興味を持ったんだってさ。」
吐き捨てるように呟いた小人を不意に電撃が襲う。バリバリッと音を立てて小人の身体が硬直した。
「フィリップお兄様にはお仕置きが必要なようね。」
「やめなさい、メル。いくら使い魔だと言ってもやり過ぎだよ。」
小人を心配するリリスに向けて芋虫が語り掛けた。
「リリス君だね。君に話があってフィリップに案内して貰ったんだ。」
案内ってレベルじゃないわよね。憑依して操って来たんでしょうに。
「大事な話なので少し付き合って欲しい。君の友達は安全な場所に案内するからね。」
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