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リリスの帰省6
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突然リリス達の前に現れた男性。
何処から現れたのだろうかとドナルドも警戒したが、リリスはその男性の纏う魔力の波動で、それがユリアスであると分かった。
「ユリアス様ですね。その姿は偽装ですか?」
リリスの問い掛けにユリアスはうんうんとうなづいた。
「そうだよ。元の姿で出歩いていたら、魔物と間違えられるからな。」
そりゃあ、そうだわ。
でも口調まで変わっているわね。
見た目を若造りしているので、口調まで少し若返ったのかしら。
警戒して身構えていた私兵達に知人だと伝えて警戒を解かせると、リリスはユリアスにおもむろに問い掛けた。
「これがユリアス様の言っていた神殿ですか?」
「そう。これは儂がこの土地で見つけ出したものだ。」
そう言って神殿の方を振り向き、少し間を置いてユリアスは説明を始めた。
「これは2万年ほど前の遺跡だ。リリス、君はレミア族を知っているかい?」
「ええ、魔法学院の敷地内にレミア族の遺跡が残されています。耕作地の跡ですが。」
「そのようなものだろうね。」
そう言いながらユリアスは遠くを見つめるような目を見せた。
「一般的なレミア族の評価は土魔法で畑を耕し、部族国家を作って暮らしていたと言うものだ。だが彼等の能力はそれを遥かに凌駕するものだと儂は考え、伝承を基にこの神殿を発掘したのだ。」
「この建物だけを見ても、彼等は立派な都市国家を造り上げていた事が推測出来る。」
ユリアスの言葉にリリスもうなづいた。父親のドナルドは・・・あまり関心が無さそうだが。
「私もそう思います。この建物も高度な土魔法の所産でしょうね。」
本当はもっといろいろな事を知っているんだけどね。
この目で見たし・・・。
そう思いながら、リリスは再度確認してみた。
「それでこの建物は神殿で間違いないのですね?」
「ふむ。それを確かめたいのなら、内部に入ってみれば良い。さあ、案内しよう。」
そう言ってユリアスは先導し、リリス達を建物の内部に誘導した。
高さ5mほどの三角形の入り口を入ると、広いエントランスがあり、その奥に丸いテーブルのような台座がある。建物の内部は灯りが無く、壁面全体が仄かに光っている。これは魔道具を使っているのだろう。
でも、そのエネルギー源は何なの?
2万年の歳月を経ていて今なお動作しているなんて・・・。
驚くリリス達をユリアスは台座の前に誘った。
「儂の研究でここが神殿だと分かったのはこの台座の存在だ。」
「この台座ですか? 何の変哲もない只の石の台座の様ですが・・・・」
ドナルドが台座をコンコンと叩きながら口を開いた。
その言葉にユリアスはニヤッとして、
「この台座に寄進をすれば分かるよ。ちなみにこの神殿の供物は魔力だ。」
「魔力を寄進するの? それってつまり台座に魔力を流せば良いのね?」
リリスはそう言いながら、ユリアスの指示に従って、台座に魔力を流してみた。
その途端に白い台座が仄かに光り、ブーンと鈍い起動音が伝わってきた。
建物全体から魔法の波動が外に広がっていくのが感じられる。これは土魔法の波動だ。
リリスはその波動を感じ取って分析する。
「これって土壌改良の土魔法だわ。」
「ほう。良く分かったね。リリスは土魔法に長けているようだね。」
ユリアスの言葉にドナルドが横から割り込み、
「そうですよ。リリスは元々土魔法だけが取り柄でしたからね。」
「お父様。そんな言い方って無いと思うわよ。」
土魔法も・・・取り柄だって言って欲しいわね。
余計な事を言うんだから。
若干憤慨するリリスにドナルドはごめんごめんと謝った。その様子を気にも留めずユリアスの説明は続く。
「この神殿は寄進された魔力に応じて少しの間、土壌改良の土魔法を広域に放つ。だがそれだけではない。」
そう言ってユリアスは台座の上に小さな金属の護符を置いた。フィルムのように薄く金属を伸ばしたものだ。
「この神殿に魔力を3日連続で寄進すると、台座からこの護符が現われる。寄進する者の魔力の波動を判別して、同一人物が3日連続で寄進した事を確認出来るシステムのようだ。」
ドナルドは不思議そうにその護符を手に取った。
「これって何か効能があるんですか?」
「うむ。その護符は衣類、特に下着類に縫い着けて使用するんだ。効能としては生物の生殖能力を10%ほど高めてくれる。つまり・・・・・」
ユリアスはニヤッと笑い、
「子宝を授かる護符と言う事だ。」
「但し、性欲を高めるのではないぞ。精力剤ではないからな。子作りはあくまでも計画的にと言う事だ。」
うんうん。
それって大事な事よね。
うなづくリリスにドナルドは怪訝そうな視線を送ってきた。
お前にはまだ早い話だと言わんばかりね。
確かにいくらこの世界でも、14歳の娘が子作りや計画出産に理解を示すのも不自然よね。
少し気拙く成ったのでリリスはユリアスに話を振った。
「ユリアス様。この神殿の存在をこのクレメンス領全体に伝えた方が良いでしょうね。神殿の周りも整備して、参道を造るのも良いかと。」
「ふむ。よく気が回る娘だな。時間が経つと共に評判が伝わり、参詣者が増えるのは確実だ。子宝に恵まれない者が国中から殺到すると思うぞ。」
うんうん。
不謹慎かもしれないけど、これは一大産業になるわね。
参道にお店を出す権利はクレメンス家のものよ。
宿泊施設も必要よね。
あれこれと妄想に走るリリスであった。
その後、ユリアスはその場に残って神殿の調査を続行したいと言うので、ユリアスと分かれ、リリス達は屋敷に戻った。
その後の3日間はリリスにとってそれなりに充実した日程だった。
フィナにカマをかけてケインとの交際の状況を聞き出し、仲を取り持つ行動にも取り組んだ。
近くの村を久しぶりに尋ねて、幼い頃から交流していた子供達とも再会した。
家族と共にピクニックにも出かけた。
驚いたのはその3日間に、神殿の噂が領地の端まで広がっていた事である。
元々田舎で住民のほとんどが農家なので、あまり娯楽も無い。それ故に御利益のある神殿が現われたとなれば、一度行ってみようと言う事になる。
娯楽のつもりで出掛けると、神殿の御利益がそこに至る道沿いに張り出され、3日間の魔力の寄進で得られる護符の見本まで神殿入り口に用意されている。
これらは全てユリアスによる広報活動だ。否、布教活動と言うべきか。
しかもユリアスが神殿に白い法衣を着て、まるで神官のように常駐していて、訪れる者からの質問に丁寧に答えてくれる。
あっという間に評判が広まってしまった。
そのユリアスをねぎらうために、ドナルドは彼を屋敷での夕食会に誘った。
だがユリアスの正体はリッチである故に、食事を必要としない。
その代わりと言う事で、ユリアスの希望したのは神殿に至る道の整備だった。
ドナルドはユリアスの要請に応じて私兵を派遣し、急遽道の整備を行った。その際にリリスが土魔法で協力したのは言うまでもない。
大まかな道の整備はリリスが受け持ち、土魔法で幅3mほどの道を造って硬化させる。その後を私兵達が手作業で整えていく。私兵達の作業は道の両側の整備だ。必要に応じて木の柵や手すりを造り、ところどころに休憩用のベンチなども準備した。馬車で来る者の為に馬を繋ぐ場所も必要だ。更に雨天の際に雨宿り出来る休憩所の建設も私兵達が受け持った。
それなりの形が整ったのはリリスが王都に帰る前日だった。
私兵達と屋敷に戻る際に、少しの間リリスはユリアスと話をする時間を持てた。
すでに日が傾きつつある時刻、神殿の傍に造り上げた休憩所でリリスとユリアスが長椅子に座っている。
「リリス。今日はご苦労様だったな。お前の土魔法のお陰で私兵達もかなり仕事量が軽減されただろう。」
ユリアスのねぎらいの言葉にリリスもうんうんとうなづいた。リリスにとってもこの日は、久しぶりの地道な土魔法による作業であった。
「それにしてもお前の魔法量は底無しだな。土魔法もレベル以上の結果を出しているようにも思える。特殊なスキルを幾つも持っているようだが、儂にも鑑定出来ん。そもそも破邪の剣を引き抜き活用させた時点で、魔力誘導や精神攻撃に対する耐性等、様々なスキルを持っている事は明白なのだが・・・本当に謎の多い娘だね。」
ユリアスの言葉にリリスはえへへと照れ笑いをしながら、
「女の子には秘密が多いものですよ、ユリアス様。」
「何を言っておるか。リッチすらたぶらかしおって。」
速攻で突っ込みを入れたユリアスの言葉にリリスは苦笑いを浮かべた。
「だが特殊なスキルを秘匿しておくのは賢明な選択だ。特にリリスはまだ少女なのだからな。大人の事情や国の事情に振り回されるにはまだ早い。」
う~ん。
大人の事情や国の事情にはすでに振り回されつつあるわね。
そう自戒の念を強くしたリリスである。
「それでこれからの事ですが・・・」
リリスはユリアスの偽装した顔を見つめて話を切り出した。
「私は明日、王都の魔法学院に戻ります。ユリアス様が関心をお持ちであれば、学院の敷地内のレミア族の遺跡をご案内しますよ。使い魔の形で来ていただければ、明後日の午前中には可能です。私はその日まで休暇なので。」
このリリスの言葉にユリアスは怪訝そうな表情を見せた。
「耕作地の跡か? 確かにレミア族は儂の研究課題の一つだが、そのようなものならあまり興味は無いのだよ。」
リリスはニヤッと笑った。周りに人が居ないのに小声で、
「実は私しか入れない地下の施設があるんですよ。レミア族の賢者の疑似人格を植え付けられた人工知能が今も稼働させているんです。」
「何!」
大声を出してユリアスはその場に立ち上がった。
「それは、それは本当なのか?」
ユリアスの言葉にリリスは笑顔でうなづいた。
ユリアスの闇魔法で転移は出来ると言うので、ユリアスに転移の位置座標を伝える魔道具を預かり、魔法学院の学生寮の外に設置する段取りだ。
日時を打ち合わせ、使い魔で来る様に念を押した。実体で連れて行って、レミア族の研究施設で魔物として認識されても困るからだ。
二人は再度打ち合わせを済ませてその場で別れた。
リリスがそのような配慮をユリアスにしようとするのは、ユリアスの人柄に好感を抱いていたからだ。
開祖の手助けに奔走していたと言う話も、開祖の棺の傍に封じられていた事から納得出来る。同じ墓に入っても構わない程の開祖の信頼があったのだろう。
その開祖の子孫の繁栄の手助けもしたいとユリアスは口にしていた。開祖と従弟同士だとは言え、7代も経てば血筋は相当遠くなっているだろう。それでもクレメンス家の当代の者を自分の子孫だと言って大切にしてくれる気持ちがありがたい。
私欲が無いのはリッチだからだろうか?
あのアゾレスを思い浮かべると、そうとも思えないし、ユリアスはアゾレスに比べれば常識人だと言える。
両者の差はリッチになる前の人格の違いなのだろうとリリスは思った。
翌日の午後、家族やメイド達や私兵達に見送られて、リリスは馬車で王都に戻った。まだサラは実家から戻っておらず、学生寮の自室で荷物を整理し終えると、リリスは寮の外に出てユリアスから預かってきた小さな魔道具を寮の近くに埋めた。
これは闇魔法の転移の為のビーコンのようなものである。
遺跡内部でのユリアスの驚く顔を思い浮かべながら、リリスは自室で眠りに就いた。
何処から現れたのだろうかとドナルドも警戒したが、リリスはその男性の纏う魔力の波動で、それがユリアスであると分かった。
「ユリアス様ですね。その姿は偽装ですか?」
リリスの問い掛けにユリアスはうんうんとうなづいた。
「そうだよ。元の姿で出歩いていたら、魔物と間違えられるからな。」
そりゃあ、そうだわ。
でも口調まで変わっているわね。
見た目を若造りしているので、口調まで少し若返ったのかしら。
警戒して身構えていた私兵達に知人だと伝えて警戒を解かせると、リリスはユリアスにおもむろに問い掛けた。
「これがユリアス様の言っていた神殿ですか?」
「そう。これは儂がこの土地で見つけ出したものだ。」
そう言って神殿の方を振り向き、少し間を置いてユリアスは説明を始めた。
「これは2万年ほど前の遺跡だ。リリス、君はレミア族を知っているかい?」
「ええ、魔法学院の敷地内にレミア族の遺跡が残されています。耕作地の跡ですが。」
「そのようなものだろうね。」
そう言いながらユリアスは遠くを見つめるような目を見せた。
「一般的なレミア族の評価は土魔法で畑を耕し、部族国家を作って暮らしていたと言うものだ。だが彼等の能力はそれを遥かに凌駕するものだと儂は考え、伝承を基にこの神殿を発掘したのだ。」
「この建物だけを見ても、彼等は立派な都市国家を造り上げていた事が推測出来る。」
ユリアスの言葉にリリスもうなづいた。父親のドナルドは・・・あまり関心が無さそうだが。
「私もそう思います。この建物も高度な土魔法の所産でしょうね。」
本当はもっといろいろな事を知っているんだけどね。
この目で見たし・・・。
そう思いながら、リリスは再度確認してみた。
「それでこの建物は神殿で間違いないのですね?」
「ふむ。それを確かめたいのなら、内部に入ってみれば良い。さあ、案内しよう。」
そう言ってユリアスは先導し、リリス達を建物の内部に誘導した。
高さ5mほどの三角形の入り口を入ると、広いエントランスがあり、その奥に丸いテーブルのような台座がある。建物の内部は灯りが無く、壁面全体が仄かに光っている。これは魔道具を使っているのだろう。
でも、そのエネルギー源は何なの?
2万年の歳月を経ていて今なお動作しているなんて・・・。
驚くリリス達をユリアスは台座の前に誘った。
「儂の研究でここが神殿だと分かったのはこの台座の存在だ。」
「この台座ですか? 何の変哲もない只の石の台座の様ですが・・・・」
ドナルドが台座をコンコンと叩きながら口を開いた。
その言葉にユリアスはニヤッとして、
「この台座に寄進をすれば分かるよ。ちなみにこの神殿の供物は魔力だ。」
「魔力を寄進するの? それってつまり台座に魔力を流せば良いのね?」
リリスはそう言いながら、ユリアスの指示に従って、台座に魔力を流してみた。
その途端に白い台座が仄かに光り、ブーンと鈍い起動音が伝わってきた。
建物全体から魔法の波動が外に広がっていくのが感じられる。これは土魔法の波動だ。
リリスはその波動を感じ取って分析する。
「これって土壌改良の土魔法だわ。」
「ほう。良く分かったね。リリスは土魔法に長けているようだね。」
ユリアスの言葉にドナルドが横から割り込み、
「そうですよ。リリスは元々土魔法だけが取り柄でしたからね。」
「お父様。そんな言い方って無いと思うわよ。」
土魔法も・・・取り柄だって言って欲しいわね。
余計な事を言うんだから。
若干憤慨するリリスにドナルドはごめんごめんと謝った。その様子を気にも留めずユリアスの説明は続く。
「この神殿は寄進された魔力に応じて少しの間、土壌改良の土魔法を広域に放つ。だがそれだけではない。」
そう言ってユリアスは台座の上に小さな金属の護符を置いた。フィルムのように薄く金属を伸ばしたものだ。
「この神殿に魔力を3日連続で寄進すると、台座からこの護符が現われる。寄進する者の魔力の波動を判別して、同一人物が3日連続で寄進した事を確認出来るシステムのようだ。」
ドナルドは不思議そうにその護符を手に取った。
「これって何か効能があるんですか?」
「うむ。その護符は衣類、特に下着類に縫い着けて使用するんだ。効能としては生物の生殖能力を10%ほど高めてくれる。つまり・・・・・」
ユリアスはニヤッと笑い、
「子宝を授かる護符と言う事だ。」
「但し、性欲を高めるのではないぞ。精力剤ではないからな。子作りはあくまでも計画的にと言う事だ。」
うんうん。
それって大事な事よね。
うなづくリリスにドナルドは怪訝そうな視線を送ってきた。
お前にはまだ早い話だと言わんばかりね。
確かにいくらこの世界でも、14歳の娘が子作りや計画出産に理解を示すのも不自然よね。
少し気拙く成ったのでリリスはユリアスに話を振った。
「ユリアス様。この神殿の存在をこのクレメンス領全体に伝えた方が良いでしょうね。神殿の周りも整備して、参道を造るのも良いかと。」
「ふむ。よく気が回る娘だな。時間が経つと共に評判が伝わり、参詣者が増えるのは確実だ。子宝に恵まれない者が国中から殺到すると思うぞ。」
うんうん。
不謹慎かもしれないけど、これは一大産業になるわね。
参道にお店を出す権利はクレメンス家のものよ。
宿泊施設も必要よね。
あれこれと妄想に走るリリスであった。
その後、ユリアスはその場に残って神殿の調査を続行したいと言うので、ユリアスと分かれ、リリス達は屋敷に戻った。
その後の3日間はリリスにとってそれなりに充実した日程だった。
フィナにカマをかけてケインとの交際の状況を聞き出し、仲を取り持つ行動にも取り組んだ。
近くの村を久しぶりに尋ねて、幼い頃から交流していた子供達とも再会した。
家族と共にピクニックにも出かけた。
驚いたのはその3日間に、神殿の噂が領地の端まで広がっていた事である。
元々田舎で住民のほとんどが農家なので、あまり娯楽も無い。それ故に御利益のある神殿が現われたとなれば、一度行ってみようと言う事になる。
娯楽のつもりで出掛けると、神殿の御利益がそこに至る道沿いに張り出され、3日間の魔力の寄進で得られる護符の見本まで神殿入り口に用意されている。
これらは全てユリアスによる広報活動だ。否、布教活動と言うべきか。
しかもユリアスが神殿に白い法衣を着て、まるで神官のように常駐していて、訪れる者からの質問に丁寧に答えてくれる。
あっという間に評判が広まってしまった。
そのユリアスをねぎらうために、ドナルドは彼を屋敷での夕食会に誘った。
だがユリアスの正体はリッチである故に、食事を必要としない。
その代わりと言う事で、ユリアスの希望したのは神殿に至る道の整備だった。
ドナルドはユリアスの要請に応じて私兵を派遣し、急遽道の整備を行った。その際にリリスが土魔法で協力したのは言うまでもない。
大まかな道の整備はリリスが受け持ち、土魔法で幅3mほどの道を造って硬化させる。その後を私兵達が手作業で整えていく。私兵達の作業は道の両側の整備だ。必要に応じて木の柵や手すりを造り、ところどころに休憩用のベンチなども準備した。馬車で来る者の為に馬を繋ぐ場所も必要だ。更に雨天の際に雨宿り出来る休憩所の建設も私兵達が受け持った。
それなりの形が整ったのはリリスが王都に帰る前日だった。
私兵達と屋敷に戻る際に、少しの間リリスはユリアスと話をする時間を持てた。
すでに日が傾きつつある時刻、神殿の傍に造り上げた休憩所でリリスとユリアスが長椅子に座っている。
「リリス。今日はご苦労様だったな。お前の土魔法のお陰で私兵達もかなり仕事量が軽減されただろう。」
ユリアスのねぎらいの言葉にリリスもうんうんとうなづいた。リリスにとってもこの日は、久しぶりの地道な土魔法による作業であった。
「それにしてもお前の魔法量は底無しだな。土魔法もレベル以上の結果を出しているようにも思える。特殊なスキルを幾つも持っているようだが、儂にも鑑定出来ん。そもそも破邪の剣を引き抜き活用させた時点で、魔力誘導や精神攻撃に対する耐性等、様々なスキルを持っている事は明白なのだが・・・本当に謎の多い娘だね。」
ユリアスの言葉にリリスはえへへと照れ笑いをしながら、
「女の子には秘密が多いものですよ、ユリアス様。」
「何を言っておるか。リッチすらたぶらかしおって。」
速攻で突っ込みを入れたユリアスの言葉にリリスは苦笑いを浮かべた。
「だが特殊なスキルを秘匿しておくのは賢明な選択だ。特にリリスはまだ少女なのだからな。大人の事情や国の事情に振り回されるにはまだ早い。」
う~ん。
大人の事情や国の事情にはすでに振り回されつつあるわね。
そう自戒の念を強くしたリリスである。
「それでこれからの事ですが・・・」
リリスはユリアスの偽装した顔を見つめて話を切り出した。
「私は明日、王都の魔法学院に戻ります。ユリアス様が関心をお持ちであれば、学院の敷地内のレミア族の遺跡をご案内しますよ。使い魔の形で来ていただければ、明後日の午前中には可能です。私はその日まで休暇なので。」
このリリスの言葉にユリアスは怪訝そうな表情を見せた。
「耕作地の跡か? 確かにレミア族は儂の研究課題の一つだが、そのようなものならあまり興味は無いのだよ。」
リリスはニヤッと笑った。周りに人が居ないのに小声で、
「実は私しか入れない地下の施設があるんですよ。レミア族の賢者の疑似人格を植え付けられた人工知能が今も稼働させているんです。」
「何!」
大声を出してユリアスはその場に立ち上がった。
「それは、それは本当なのか?」
ユリアスの言葉にリリスは笑顔でうなづいた。
ユリアスの闇魔法で転移は出来ると言うので、ユリアスに転移の位置座標を伝える魔道具を預かり、魔法学院の学生寮の外に設置する段取りだ。
日時を打ち合わせ、使い魔で来る様に念を押した。実体で連れて行って、レミア族の研究施設で魔物として認識されても困るからだ。
二人は再度打ち合わせを済ませてその場で別れた。
リリスがそのような配慮をユリアスにしようとするのは、ユリアスの人柄に好感を抱いていたからだ。
開祖の手助けに奔走していたと言う話も、開祖の棺の傍に封じられていた事から納得出来る。同じ墓に入っても構わない程の開祖の信頼があったのだろう。
その開祖の子孫の繁栄の手助けもしたいとユリアスは口にしていた。開祖と従弟同士だとは言え、7代も経てば血筋は相当遠くなっているだろう。それでもクレメンス家の当代の者を自分の子孫だと言って大切にしてくれる気持ちがありがたい。
私欲が無いのはリッチだからだろうか?
あのアゾレスを思い浮かべると、そうとも思えないし、ユリアスはアゾレスに比べれば常識人だと言える。
両者の差はリッチになる前の人格の違いなのだろうとリリスは思った。
翌日の午後、家族やメイド達や私兵達に見送られて、リリスは馬車で王都に戻った。まだサラは実家から戻っておらず、学生寮の自室で荷物を整理し終えると、リリスは寮の外に出てユリアスから預かってきた小さな魔道具を寮の近くに埋めた。
これは闇魔法の転移の為のビーコンのようなものである。
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