落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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解呪の依頼1

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ある日の放課後、リリスが学生寮の自室に戻ると小人と芋虫がソファで寛いでいた。

「お帰り、リリス。待っていたよ。」

小人が笑顔で振り向いた。

相変わらず神出鬼没の王族達ね。

少しうんざりして部屋を見回すとサラがいない。サラのカバンも無いのでここにはまだ戻ってきていないようだ。
リリスはカバンをデスクの上に置き、部屋の片隅に設置されたクローゼットのハンガーに制服の上着を掛ると、使い魔達の対面に座った。

「それで今日はどうしたんですか?」

「ああ、リリスにお願いがあってね・・・・・」

また厄介事でなければ良いんだけどと思いながら、リリスは小人の話に耳を傾けた。

「まあ、大したことじゃないんだけどね。」

どうも歯切れが悪い。話に躊躇いがありそうな様子だ。

「リリスはリゾルタと言う国を知っているかい?」

「ええ、南方の小国ですよね。商業が盛んな都市国家連合だと聞きましたが。」

リリスの返答に小人と芋虫はうんうんとうなづいた。

「その国に10年ほど前、メルの姉上であるアイリス王女が嫁いだんだ。メルとは異母姉に当たる女性だが、気さくでメルや僕にも何かと気を遣ってくれた優しい女性だよ。」

リリスもアイリス王女の名前だけは知っていた。リリスが物心がつく頃にはすでに他国に嫁いでいたので、王都での謁見の際にも顔を見た事は無かったのだが、恐らくは政略結婚で嫁いだのだろうと思っていた。

「それでね、リリス。そのアイリスお姉様がクレメンス領の豊穣の神殿の噂を聞いて、明後日にそちらに行くって伝令が来たのよ。」

そう言いながら芋虫が身を乗り出してきた。

「気の毒にお姉様ったら子宝を授かれなくてね。もうすぐ28歳になっちゃうのよ。」

28歳ならまだ若いじゃないの。

一瞬そう思ったリリスだが、この世界は男女ともに早熟だ。ましてや他国の王家に嫁いだからには後継ぎが欲しい。子供がいないままだと、側室を用意されてしまうのが定番だとも言える世界である。

「ユリアス様に話を通して、そのアイリス王妃を歓待すれば良いのね。」

リリスの言葉に小人が首を横に振った。

「それがそう簡単な事では無さそうなんだよ。」

ええっ?
それってどういう意味なの?

不思議そうに眼を見開くリリスに小人は訥々と話し始めた。

「実は昨年、別な用事があって僕はリゾルタに行ったんだ。勿論アイリス王妃にもお会いした。相変わらず美しい方だったが体調が悪いと言っていた。確かに血色も悪く、長く話も出来ない状態だったんだよ。王家に仕える薬師やヒーラーにも診て貰ったが原因不明で、診るたびに違う臓器に異常が出ていて、彼等も困惑しているそうだ。それでね・・・」

小人は急に小声になった。

「何か悪い呪いでも掛けられたんじゃないかって聞いたんだよ。」

う~ん。
そう言う方向に考えざるを得ないわねえ。

「でも呪いなど掛けられていないって言うんだよ。実際、王家に仕える高位の呪術師にも内密で見て貰ったそうだから、間違いないと言っていた。」

「でもね・・・」

小人が身を乗り出してきた。肩に生えている芋虫がリリスの目の前に接近している。

「ある時アイリス王妃の身体から呪いの痕跡をふと感じたんだよ。でも直ぐに消えてしまった。でもその翌日にまたふと感じた事があって、すぐにまた消えてしまった。」

「気のせいかと思ったんだけど、どうしても気に成るんだ。僕もこう言う体験は初めてなんだが、時折発動しては巧妙に痕跡を消すような呪いってあるのかなと思ってね。」

それって私に聞かれてもねえ。

リリスの表情を読み取って小人は話を続けた。

「君に聞いても分からないだろうと思うんだが、ユリアスさんは何か知らないかな? 我々と違う時代に生きていたから何かヒントになるような知識を持っていないかと思ってね。」

ああ、そう言う事なのね。

「ユリアス様に聞けば良いのですね。」

「そうだね。もし可能なら直接精査して貰っても良いと思うんだけど、王妃の周りには警護や侍女達も居るから無理にとは言わないが・・・」

「う~ん。ユリアス様はその方面の専門家ではないと思いますから、その場で精査するのは無理でしょうね。でも知識は持っているかも。」

リリスの言葉に小人と芋虫は強くうなづいた。

「うん。それで良いよ。何かヒントになる知識でもあれば、手の打ちようもあるからね。」

小人と芋虫は安堵した様子でソファに深くもたれ掛かった。
だが、雲をつかむような話だ。ダメもとでユリアスに聞いてみよう。そう思ってリリスは実家に使い魔を送り、ユリアスと連絡を取る事を約束して小人達との話を終えた。







翌日の昼休み。

リリスは学舎の傍の図書館に向かった。

呪術に関する予備知識を得ていた方が良いと思い、書物で調べてみようと考えたのだ。

何時も通り図書館の司書のケリー女史に話し掛けて受付を済ませ、リリスは受付のテーブルの片隅にある大きな水晶の前に立った。

<呪術>で検索するのはあまり適切だとは思えない。<呪詛><禁呪><秘匿>と絞り込んで念じながら、その水晶に魔力を注ぎ込んだ。水晶全体がボーッと青く光り、何かがリリスの脳内に投影されてくる。リリスの脳内に閃いたのは『学生向けには該当書物無し』と言う言葉だった。

それはそうでしょうね。
<禁呪>は外した方が良さそうだわ。

とりあえずリリスは<呪詛>で検索して該当する地下1階の書架に足を運び、並べられた書物の中からタイトルで気に成る書物を探し始めた。

暫く探して幾つかの書物をテーブルに置き、斜め読みで目を通してみるが、どれもこれも一般知識の類でしかない。
呪術は秘伝となっている要素が多く、書物として残せるようなものはあまり無いのだろう。
それでも概略である程度理解出来た事は、魔力の流れに乗って移動出来る呪詛があると言う事だ。
秘匿されている呪詛などはこの類だろう。
それは逆に考えれば魔力の操作で捕まえる事も出来ると言える。

また体組織に擬態する呪詛もあるとの記述もあった。固定化された呪いに時たまみられるようだが、これなども実に悪質だ。
呪いと言うものがこう言うものだと割り切って考えれば問題は無いのだが。

こんな本ばかり読んでいると頭が痛くなってくるわ。

そう思ってリリスは書物を書架に戻した。
まだ昼休みは30分以上残っている。
リリスは椅子に座り直して、おもむろに解析スキルを発動させた。

破邪の剣って本当に消滅しちゃったの?

『ええ、消滅しました。そう言う設定だったようです。』

あの剣ってユリアス様の封印を解くための剣だったけど、解呪の波動でも放っていたの?

『いえ、そうではなく、あの剣そのものが呪詛の塊だったのです。物質化していたのでしょうね。』

でも私の身体の中に入ってきたわよ。

『魔力の流れに沿って入り込んできたのですよ。害意は無いので拒絶しませんでしたが。』

あの剣ってコピー出来ないの?
私の身体に入ってきたって事はコピーしたようなものじゃないの?

『剣の形に物質化する事は現在のスキルでは不可能です。』

『でも呪詛の痕跡は残っていますよ。ですから魔力の触手の先端に纏わらせることは可能です。』

うん。それよ、それ!
それならいざとなれば呪いの解呪も出来そうね。

リリスは自分のステータスを確認してみた。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル21

年齢:14

体力:1100
魔力:2700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル3+

   ファイヤーボルト  レベル5+

   アースウォール   レベル7

   加圧        レベル5+

   アースランス    レベル3

   硬化        レベル3



(秘匿領域)

属性:水・聖・闇(制限付き)

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

   液状化       レベル15 (制限付き)  

   黒炎        レベル2  (制限付き)

   黒炎錬成      レベル2  (制限付き)

 
スキル:鑑定 レベル3

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル3

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)

    属性付与  レベル1++(高度補正有り)

    スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)

    呪詛構築 (データ制限有り)

    勇者の加護(下位互換)

    解析 

    最適化

**************



呪詛構築と言うスキルがあるの?

『いいえ。本来は有りません。疑似的なコピー操作から最適化されたものです。』

う~ん。
最適化スキルって優秀よねえ。
魔物の持つスキルすら人族用に造り上げてくれるんだから・・・。

それでこのデータ制限って何なの?

『それはつまり破邪の剣を構成していた呪詛のみ構築出来ると言う意味です。ですから一般的な呪詛よりはむしろ特殊な呪詛がほとんどです。』

『破邪の剣を造り上げた呪術師はよほど優秀な人物だったのでしょう。解呪の呪詛を含めて高度な呪詛が大量に読み込まれています。ですが・・・』

何?
その言い淀んでいる間は何なの?

『アンデッドに対する特性は失われてしまいました。』

まあ、それは仕方が無いわね。
面白いほどにレイスやグールを消し飛ばせたのは快感だったけどね。

解析スキルに感謝しつつ、リリスは図書館を出て学舎に戻って行った。






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