落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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竜達との交流3

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デルフィの視線が黒い人影に突き刺さる。

どうしたら良いのよ!

『お世話になっている賢者の人工知能だとでも言って下さい。』

解析スキルの入れ知恵の通りにリリスはデルフィに説明した。

「これは私の実家の先祖、賢者ユリアスの遺してくれた人工知能です。様々な状況を解析してくれるのです。」

「ほうっ!」

デルフィは今度は興味深そうな視線を向けてきた。当然そう言う反応をするだろう。

「この状況を解析しますので、少し待ってください。」

リリスはそう言いながら黒い人影を見つめた。


それでこれってどう言う状況なの?

『この仮想空間の存在は全て実体のコピーのようなものです。それで先程の竜の男性と額が触れた時に、コピースキルが発動してしまったのでしょう。』

でも額が離れていたわよ。何故発動し続けたの?

『それはこの仮想空間の特性ですね。』

『一旦コピースキルが発動すれば、その対象がこの仮想空間にある限り、取り込んでしまうようです。』

それじゃあ、一瞬でも額をくっつけたらアウトじゃないの。

『そう言う事です。コピーの対象を完全にマーキングしたようなものですね。』

『しかもコピースキルがこの仮想空間で更に特化してしまったようです。』

『勿論この空間だけの現象だとは思いますが・・・』

えっ?

『コピー対象のアバターに刻まれた生命力のデータまで取り込んでしまったようです。』

データなの? それじゃあ、実体に影響はない筈だけど。

『何故かアバターと実体の繋がりを辿ってしまったのでしょうね。』

そんなに冷静に判断している場合じゃないのよ。元に戻せないの?

『戻せますよ。最適化スキルを緊急停止させましたので、取り込んだ状況のままです。』

『ただし、生命力を含めた混成体になっていますので、元の姿に錬成する必要があります。』

元の姿に戻せるの?

『取り込んだ際のアバターのデータがありますから、それに従って錬成すれば大丈夫です。』

それなら直ぐに取り出してよ。

そう解析スキルに伝えると、リリスの手先に真っ赤な光が現われた。何かが抽出されている感覚だ。

「デルフィ様。取り込んだヌディアのアバターを取り出せそうです。」

そう言いながらリリスはリングの中央に両手を向けた。

デルフィは何を言われているのか良く分からず、リリスの様子を見つめているだけだ。

リリスの両手の先から赤い光が放出され、リングの中央にドロドロとした塊が生み出された。
それは時折赤い光を点滅させ、空中に浮かぶ直径1mほどの球体だ。

それで錬成ってどうするの?

『魔金属の錬成と同じ要領です。取り込んだアバターのデータを両手に送りますから、それを意識しながら錬成を始めて下さい。』

解析スキルに言われるまま、リリスは錬成スキルを発動させた。
それと同時に元のヌディアのアバターのデータが頭の中に浮かび上がる。それを意識しながら魔力を操作し錬成スキルで組み上げていく。
地道な操作だがアバターなのでそれほどに手間は掛からない。

赤い光を放つ塊は次第に形を変え、ヌディアの姿に戻って行った。どうやら上手く行きそうだ。

10分ほどの作業の間、デルフィもリンもハドルも言葉も無くリリスを見守っていた。

ヌディアの姿が元に戻ると、その途端にヌディアの身体が大きく光り、そのままその場に倒れ込んだ。デルフィが即座に駆け寄りその状態を確認する。
そのデルフィの顔に笑顔が戻った。

「大丈夫だ。生命反応が元に戻っている。魔力の反応もしっかりしている。昏睡しているが呼吸も平常だ。時間が経てば目が覚めるだろう。」

その言葉にリリスはほっと安堵のため息をついた。リンやハドルにも笑顔が戻った。だがヌディアの実体の方は本当に大丈夫なのだろうか?

程なく若い竜の男性がハドルの元に駆け付けて来て、ヌディアの実体の状態を伝えた。
意識は失ったままだが生命反応が復活したと言う。

実体とアバターの間の生命力の繋がりがリリスには到底理解出来ない。それはこの仮想空間特有の現象だと解析スキルは言うのだが・・・。

倒れているヌディアのアバターの顔を覗き込むと、デルフィは訝し気にリリスを見つめた。

「リリス。君はどれだけ特殊なスキルを持っているのかね? 特にそいつは複数のスキルを自由自在に統括しているような気配がするのだが・・・・」

デルフィの視線はリリスの傍に立つ黒い人影に向かっていた。その視線は興味を越えて畏怖に近いものだ。

拙いわね。消えちゃってよ。

『つれない言い方ですねえ。』

だってこれ以上、あれこれと詮索されたくないのよ。

『分かりました。竜の実体も回復したようなので、このまま消えますね。』

その言葉と共に黒い人影は消えて行った。

残されたリリスはいたたまれない気持ちで一杯だ。

私もここから消えてしまいたいわ!

そう思った途端にリリスの意識が一瞬消えてしまった。ふと気が付くとリリスは自室のベッドの中に居た。

夢でも見ていたのかしら?

そう思ったがリリスの胸元にはリンが居る。
どうやら仮想空間から退出してしまったようだ。
リンはその身体をう~んと言って伸ばしながら、リリスの顔を不思議そうに見つめた。

(リリスお姉様ったら、自力で仮想空間から抜け出してしまいましたね。)

(ああ、ごめんなさいね。あの場に居るのがいたたまれなくて、このまま消えちゃいたいって思ったらそのまま・・・)

リリスの念話にリンはうんうんとうなづいた。

(お姉様の念が相当強かったのでしょうね。)

(でも・・・ゲストは普通は招待者の権限が無いと退出出来ないんですよ。)

そう言いながらリンは急に誰かと話すような仕草をした。

(今、デルフィ様から連絡がありました。リリスお姉様は・・・あの・・・その・・・)

何か言い難そうなリンである。リリスはリンの頭を軽く撫でながら、

(どうしたの?)

優しく語り掛けるリリスにリンは申し訳なさそうな波動を送ってきた。

(リリスお姉様はしばらく、仮想空間には出入り禁止ですって。)

(まあ! 失礼な話よね。)

厄介者のように思われたのが若干腹立たしいリリスであったが、コピースキルの暴走とも言える現象を思い返すと、無理も無い事だと思わざるを得ない。
だがそれでも騒動に巻き込まれたのは自分の方だ。それを考えるとまた腹が立つ。

堂々巡りになってしまうのでリリスは深く考えるのを辞めた。

(リリスお姉様。ごめんなさい。)

(リンちゃんが謝る事は無いわよ。もう良いから今日は寝ましょうね。)

そう言ってリリスはリンの頭を撫でながら目を閉じた。仮想空間での出来事が思いのほか疲れを蓄積していたようで、リリスはそのまま深い眠りに落ちてしまった。







その夜、リリスは夢を見た。

真っ白な部屋の中、自分の身体が浮かんでいてその部屋の天井の片隅に居る。部屋の中を俯瞰する形だ。

その部屋は会議室の様で、大きな白い円卓の周りに10脚ほどの白い椅子が並んでいる。部屋の扉が開き、数名の人物が入ってきた。
全員が白衣白髪の老人達だが、よく見ると見覚えのある賢者様の顔が幾つかある。
その老人達が各々の椅子に座ると、その中の一人が立ち上がって口を開いた。どうやらこの人物がこの会議の座長のようだ。

「それでは定例会議を始めよう。それで今回の議題だが、スキルが増えて来て整理が付きにくくなっているので、少し調整を試みたいのだ。」

その言葉に応じて賢者ドルネアが挙手をして発言した。レミア族の遺跡に居たあのホログラムの顔だ。

「あくまでもメインは土魔法でよろしいのだな?」

その言葉に末席に居た背の高い大柄な老人が声を上げた。それがキングドレイクであることをリリスは直感で分かった。

「火魔法がメインでしょう。せっかく儂の加護を人族にあげたのだから。」

「そうは言うが、奴は他の属性魔法も持っておるぞ。」

脇から口を挟んだのはシューサックだ。キングドレイクは怪訝そうな表情を浮かべ、

「他に何の属性魔法を持っているのだ?」

その質問に座長は指を折りながら、

「火と土、水と聖、闇もあったな。」

「そんなに持っておるのか! とても人族とは思えん。」

呆れるキングドレイクにシューサックは座長を指差し、

「座長がコピースキルを与えたのがすべての始まりじゃよ。」

指差された座長は少し狼狽えながら、

「仕方が無かったのだ。今のところ、奴は儂の依り代だからな。それなりにしぶとく生きて貰わなければ困るのだ。」

「その過程でコピースキルを与えたのは儂だが、それをとんでもない方向に進化させたのは奴だ。魔物のスキルをコピーし、仮面や書物や宝玉や仏像からもスキルをコピーしてしまったからな。」

「こんなのは全くの想定外じゃよ。しかも複数の亜神の端末とまで干渉してしまった。お陰でスキルの上昇の制限がなくなってしまったよ。」

座長の言葉を聞き、その傍にいた賢者ユリアスが問い掛けた。

「それにしてもどうして人族以外のスキルがコピー出来るんだ?」

その言葉に座長はふっとため息をつき、

「最適化スキルじゃよ。コピースキルの進化の過程で派生したスキルではありながら、このスキルはあまりにも有能だ。否、有能と言うより万能と言った方が良いかも知れん。このスキルがある故に人族以外のスキルでも奴のスキルに組み替えられてしまうからなあ。」

座長の言葉にキングドレイクもうんうんとうなづいた。

「そうなのだな。そのスキル故に儂の加護も奴の都合の良いように組み替えられたし、あれだけ竜の血液を輸血されても生体的な変化が現われなかったと言う事だ。」

「竜の血液は巫女の生体をフィルターにして、人族に適合させたのではなかったのか?」

そう問い掛けたのは賢者ユーフィリアスだ。魔力を纏った本から出てきたホログラムの顔のままである。
キングドレイクはうむとうなづき、

「確かにそう言う措置は施したようだが、あれだけの分量の竜の血液だ。いくらフィルターを掛けても肉体的な変化は出る筈だ。だが奴は皮膚の一部が角質化してうろこ状になる事さえ回避しておる。特殊なスキルでもなければ有り得んのだ。」

賢者ユーフィリアスはふんふんとうなづきつつ、話を座長に振った。

「ところで毒関連のスキルは必要なのか? 疑似毒腺まで造り上げたようじゃが、ここは調整が必要ではないのか?」

座長は少し戸惑いながら、

「毒を持っていても邪魔にはなるまい。護身用じゃよ、護身用。」

座長の言葉に意見が飛び交う。

「護身用のレベルではないと思うぞ。」

「そうじゃ。すでに魔物の体組織を溶かしてしまうほどの強毒を持っておるのに、これ以上レベルを上げてどうする?」

「レベルの上限を設定して、その分を火魔法に回してくれ。」

「否、土魔法のレベルの上限を上げた方が良いのでは?」

「土魔法はもう充分だろう。土の亜神の影響も受けておるし・・・」

「そうは言うが奴は真剣に溶岩流を完成させようとしとるぞ。」

誰が何を言っているのか分からなくなってきた。会議の場が紛糾してしまい収拾がつかない状態だ。

呆れた口調で座長は円卓をドンと叩き、

「とりあえず今調整すべき別の課題がある。」

その一言に全員が静まった。座長はやれやれと呟きながら、

「奴が使おうともしない勇者の加護だ。」

座長の言葉に賢者ドルネアが声を上げた。

「そう言えばそんなものがあったなあ。あれって時間の制約付きの身体強化だったっけな。」

「そうなのだよ。」

座長はキングドレイクの顔を見つめ、

「使わないのならこの際、覇竜の加護に統合しても良いのではないか?」

話を振られたキングドレイクはうんうんとうなづいた。

「身体強化の加護なら儂は構わんぞ。どっちにしても中途半端な加護だろうからな。しかも発動させるのに妙な仕草を伴うのは失笑ものだ。」

「あの勇者は奴の知人で、シューサックとも同郷だったな。シューサックの変人振りも理解出来るわい。」

キングドレイクの揶揄にシューサックは、チッチッチッと舌打ちしながら人差し指を横に振り、

「ガキの遊びと一緒にするな。そんな事を言っていると、奴を説得してお主を加護ごと別物に錬成させるぞ。ヌディアのアバターのように。」

「いや、それは止めてくれ。あれはやばい。あの錬成は明らかに反則技だ。」

話がまた横道にずれてしまったので、座長はシューサックとキングドレイクを窘め、

「そこまでにしておくが良い。話がまとまらん。・・・・・それで先程の勇者の加護の件は全員了承と言う事で良いか?」

座長の提言に参加者は全員異議なしと声を上げた。

「よろしい。それでは今回の定例会議はこれで終わりとしよう。解散!」

座長の解散の言葉を合図に、参加者は全員席を立ち部屋を出て行った。



これって夢よね。
どう考えても夢よね。
それにしても私って、何を見せられているの?

そんな疑問を抱きながらも、リリスの意識は次第に薄れ、深い闇の中に落ち込んでいった。




翌日の早朝。まだ夜明け前だがリリスは目が覚めてしまった。リンを外に放ってやらなければならないからだ。

だが、ベッドで目覚めたリリスの脳内に解析スキルの言葉が浮かび上がった。

『突然ですが、勇者の加護が覇竜の加護に組み込まれました。』

あっ、そう。

『反応が悪いですね。ステータスで確認しますか?』

確認しなくて良いわよ。
突然と言っても、その過程を全部見せられたような気がするし・・・・・。

『うん? 意味不明ですね。』

良いのよ。
さあ!
今日も元気に学院に行くわよ!

解析スキルのう~んと言う唸り声のようなものを脳内に感じつつ、リリスは元気にベッドから起き上がったのだった。





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