落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
124 / 369

獣人の国へ1

しおりを挟む
リンディと話をしたその日の放課後。

日が傾きかけているがまだ空は明るい。リリスは一人で薬草園の中に入ってきた。

周りにはもちろん誰もいない。薬学のケイト先生から管理を依頼されているのはリリスだけだ。それに広大な薬草園に足を運ぶような、もの好きな生徒は魔法学院にはいない。

一応周囲を見回した上で、リリスはカバンから小さな宝玉を取り出した。
リンディを介してエイヴィスから貰った小さな赤い宝玉は、リリスの手のひらの上で仄かに光り始めた。リリスの魔力に反応しているのだろうか?

リリスはリンディから教えられた通り、自分の魔力をスッと宝玉に流してみた。その途端に宝玉が大きく光り、赤い光の流れがリリスの額にズズッと流れ込んできた。それはまるでリリスの額にコピースキルの入り口があるのを知っているかのように。
少し驚きながらもリリスは、宝玉からの光の流れをそのまま受け入れた。
感覚としてはコピースキルの発動中と同じだ。

光の流れが収まると、宝玉はパリンと音を立てて壊れてしまった。そのかけらが砂のように崩れ、跡形もなく消えていく。
これはどんな仕組みになっているのだろうか?

首を傾げつつリリスは解析スキルを発動させた。

上手く取り込めたかしら?

『取り込めましたが、その詳細は不明です。特殊なスキルだと言う事は分かるのですが、最適化されてステータス上に現れるまでには、しばらく時間が掛かりますね。』

そうなの?
変なものを取り込んだんじゃないでしょうね。

『変なスキルと言う事はなさそうです。現時点で分かっているのは風属性の上位魔法のスキルのようです。』

風属性?
私は風属性は持っていないわよ。

『そうですね。それ故に発動しても、かなり制限の掛かるスキルになると思います。』

『それに、風属性を持っていても発動に制限が掛かるだろうと思われます。それだけ特殊なスキルなのでしょう。』

そう。
それなら楽しみにして待っているわね。

ところで、この猫の形のブローチは何だか分析出来る?

『それは説明を受けた通り、獣人に仮装するための魔道具ですね。でもかなり複雑な動作をしそうなので、カスタマイズの選択肢が豊富にあるのかも知れません。』

そうなの?
それなら試しに作動させてみるわね。

リリスは猫の形のブローチに自分の魔力を流した。

ブローチは白く光り、リリスの目の前に3面の半透明のモニターが現れた。そのモニターがリリスを取り巻くように位置を変え、リリスの全身を写し出している。その姿はすでに猫耳の獣人だ。

ほどなくリリスの手元にこれも半透明の操作盤が出現した。その操作盤には多数のボタンスイッチがあり、それを操作するたびに顔の各部分から手足の形状まで事細かく変更可能になっている。

まるで、RPGのキャラメイクだわ。それもかなり細かく設定可能のようね。

リリスが操作を続けると、肌の色や質感まで変更出来ることが分かった。

ここまで細かく仮装出来るなら、確かに獣人の国に潜入しても怪しまれないわよね。その必要があるのか否かは分からないけど・・・。

操作盤のリセットボタンを押してブローチの起動を解除すると、モニターも消え、すべてが元に戻った。

う~ん。
用途を考えると微妙だわねえ。

リリスは訝しげに見つめながら、そのブローチをカバンに仕舞い込み、気を取り直して薬草園を後にした。



翌日の早朝。

リリスはベッドの中で解析スキルに起こされた。

『スキルの最適化が終了しました。ステータスを開いて確認してください。』

まだ起床時間まで30分もあるのに・・・。

リリスは不満を抱きつつも、寝たままステータスを開いてみた。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル22

年齢:14

体力:1300
魔力:3800

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル5+++

   ファイヤーボルト  レベル7+++

   アースウォール   レベル7

   加圧        レベル5+

   アースランス    レベル3

   硬化        レベル3



(秘匿領域)

属性:水・聖・闇(制限付き)

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

   液状化       レベル15 (制限付き)  

   黒炎        レベル2  (制限付き)

   黒炎錬成      レベル2  (制限付き)

 
スキル:鑑定 レベル3

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル3

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    火力増幅(加護と連携可能)

    火力凝縮(加護と連携可能)

    亜空間シールド(P・A)(加護と連携可能)

    減圧(重力操作)レベル5+

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    魔金属錬成 レベル1++(高度補正有り)

    属性付与  レベル1++(高度補正有り)

    スキル特性付与 レベル1++(高度補正有り)

    呪詛構築 (データ制限有り)

   →瞬間移動(発動に制限有り)

    覇竜の遺志を継ぐ者

    解析 

    最適化

**************



えっ?
瞬間移動?

『そうです。瞬間移動です。ですが・・・かなり制限があります。』

『移動距離は50m。発動は瞬時ですが、連続使用は出来ません。次回の発動まで10分間が必要になります。』

そうなの?
それって風属性を持たないからなの?

『その通りです。それ故に最適化には相当手間取りましたよ。』

まあ、お疲れ様。

『瞬間移動は風属性の上位魔法にあたる空間魔法に分類されます。』

『その特殊性もあってステータスでは魔法に表示されず、スキルとして表示されています。繰り返し使える魔道具を身体に埋め込んだようなものだと理解してください。』

繰り返しって言っても10分に一度って事よね。
そんなに役に立つの?

『緊急で敵の必殺技の直撃を回避するのには有効だと思いますよ。』

ああ、なるほどね。
緊急回避用の隠しスキルって事ね。それなら有難いわ。
今日のお昼休みに薬草園で試してみるわね。

リリスは解析スキルに礼を伝えながら、ベッドの中で再び眠りに就いた。





その日の放課後、リリスは担任のケイト先生に呼び出されて職員室に足を運んだ。
何の用事だろうかと思いながらケイト先生のデスクに向かうと、そこには非常勤講師のジークがケイト先生の横に座り、和やかに談笑していた。
相変わらずチャラい雰囲気の男だ。まるでケイト先生をナンパしているかのような雰囲気にも見える。

うっ!
ジークが居る。
嫌な予感しかしないわね。

心の中の動揺を顔に出さぬように意識しながら、リリスは二人に会釈した。

「やあ、リリス君。急に呼び出して悪かったね。」

悪かったなんて思ってもいないくせに・・・。

そう思いながらリリスは笑顔で傍にあった椅子に座った。

「リリスさん、急に呼び出してごめんなさいね。ジーク先生の今回の特別補講でリリスさんに白羽の矢が立ったのよ。」

それって毒矢じゃないの?

心の中で悪びれつつもリリスは特別補講が気になった。またどこかのダンジョンに選抜メンバーで潜るのだろうか?

「今回はどんな補講ですか?」

リリスの問い掛けにジークは白いジャケットの襟を正しながら、意外な言葉を伝えた。

「今回はミラ王国の同盟国内で森林地帯に多発する魔物の駆除だよ。一応日当も出るからいいアルバイトだと思うよ。」

「日当が出るんですか?」

「一応ね。金貨もしくは魔石での現物支給と言う事になっている。軍でたまにやる作業なんだよ。」

ジークはそう言いながらリリスの反応を確かめた。その目つきが嫌らしい。

「君はアブリル王国を知っているかい?」

「聞いたことはあります。獣人が支配する小国だったと記憶しています。でもそれ以上の事は良く知りません。」

リリスの返答にジークはうんうんと頷いた。

「貧しい小国だよ。でもミラ王国とは同盟関係にある。どちらかと言えばミラ王国の属国のようなものだけどね。」

「そのアブリル王国の森林地帯に、定期的に魔物が集団で発生するワームホールがあるんだ。その近くには住民達の村落もいくつかあるので、放置しておく事は出来ない。それで定期的な駆除を我が軍に依頼されているんだよ。」

ワームホールと言う言葉を聞いて、リリスは少なからぬ不安を感じた。エイヴィスとの絡みでとんでもない戦闘を強いられたのもワームホールだったからだ。

「魔物の集団ってどの程度の規模なんですか?」

リリスの問い掛けにジークの目がぎろっと光った。光ったように見えただけなのだが。

「数百匹と言いたいところだが、実際には多くて50匹程度だ。それでも手間なので軍の連中が嫌がるんだよね。」

なによ。
軍の嫌がるような事を私にやれって言うの?

そう感じたリリスの表情を見透かして、ジークはわざとらしく小声で呟いた。

「特別補講だから勿論、成績への評価点は大きいよ。それにアブリル王国から日当もいただける。君の戦闘能力で考えれば、それほどの苦労もしないだろう。悪い話じゃないと思うよ。」

う~ん。
なんとなく胡散臭い気がするんだけど・・・。

「それで同行するメンバーは誰ですか?」

「今回は1年生のエリスとリンディだよ。アブリル王国はリンディの母方の祖国になるんだ。」

これってエリスとリンディの訓練がメインなのかしら?
私はその為の保険ってところね。
でもエリスやリンディの戦闘も見てみたいわ。

そう考えるとリリスは気持ちが前向きになった。

「分かりました。それで出発は何時ですか?」

リリスの承諾にジークは嬉しそうな笑みを見せた。

「次の休日だ。学舎の地下の訓練場から転移して移動するからね。」

リリスはハイと答えてその場を離れようとした。だが席を立ったリリスに背後からケイト先生の声が掛かった。

「リリスさん、頑張ってね。それと、珍しい薬草があったら採取しておいてね。」

う~ん。
やはりケイト先生って天然だわ。
遊びに行くわけじゃないのにねえ。
空気が読めないと言うか・・・。

リリスはケイト先生に愛想笑いを返して職員室から出て行った。




そして迎えた休日の朝。

身支度を整えて学舎の地下に向かったリリスはエリスとリンディに合流した。

3人共にレザーアーマーにガントレットを着用し、エリスとリンディは短剣を所持している。リリスの護身用の武器は勿論、魔金属製のスローイングダガーだ。リンディの姿がやけに様になっている。やはり獣人はレザーアーマーにガントレットが良く似合う。その可愛らしい表情と相まってまるで人気沸騰中のコスプレイヤーのようだ。

「リンディ。良く似合っているわよ。」

リリスは思わず声を掛けた。

「ありがとうございます、先輩。どうですか? 学院の制服よりも似合っているでしょ?」

どうやら本人も自覚があるようだ。

エリスも加わりしばらく談笑しながら待っていると、ジークも3人と同様にレザーアーマーを着て現れた。
森林地帯での戦闘になるので、動きやすい防具を選んだのだろう。そのチャラい容貌にレザーアーマーは似合わない。
リリスは一瞬噴き出しそうになってしまった。それをこらえてジークと挨拶を交わすと、ジークは懐から大きな魔石を取り出した。
転移の魔石のようだ。

「3人共、用意は出来ているかい?」

ハイと言う3人の返事を確認し、ジークは転移の魔石を起動させた。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...