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リリスの秘密
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突然現れたゴスロリの衣装の少女。
リリスの背後に立ったウィンディは瞬時に移動し、赤い衣装のピクシーを背後から抱きしめた。
うっと唸るタミアの声が耳に残る。
「久しぶりねえ、タミア。元気がなさそうだから、元気をつけてあげるわよ。」
そう言ってウィンディは赤い衣装のピクシーの身体にスッと両手を食い込ませた。そのまま身体の中を弄り回すような仕草をしている。
「や、やめなさい!」
タミアの悲鳴が部屋中に響き渡ると同時に、ウィンディはニヤリと笑い、
「こんな姿でいても面白くないわね。こっちにいらっしゃいよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーを振り回した。その直後、ポンッと言う音と共に、赤い衣装のピクシーがそのままタミアになってしまった。
「ちょっと、無理矢理呼び出さないでよ!」
そう言いながらウィンディの手から逃れようとするタミアだが、ウィンディは容赦せずにタミアの身体の中を弄り回すような仕草を続けた。
「ほらっ! 何時ものタミアらしく大暴れしなさいよ。」
「やめろって言ってるでしょ! ダメだわ、火を噴き出しそう・・・」
そう言いながらタミアの身体が赤くなり、口の中にメラメラと炎が現れて来た。
突然タミアが現れてしまった事でリリスも言葉を失い見ているだけだったが、さすがにタミアが本当に火を噴き出しそうになってきたのを見て、焦って叫んだ。
「こんなところで火を噴出さないでよ! 学生寮が吹き飛んじゃう!」
リリスの叫び声と同時にブルーの衣装のピクシーがパチンと指を鳴らすと、ウィンディとタミアの姿が突然消えてしまった。ユリアが二人をどこかに転送したようだ。
「もう大丈夫よ。遠くの海の上に転送してやったわ。」
ブルーの衣装のピクシーの言葉にノームも失笑した。
「相変わらず無茶する奴やな。」
ノームはリリスに解説を加えた。
「ウィンディは風でタミアは火やからね。いつもあんな風に、火は風に煽られるんや。」
う~ん。
そう言う事なのね。
それにしても大事故にならなくて良かったわ。
「リリス。ウィンディには気を付けるのよ。あいつは気まぐれだから傍にいると厄介事が多いのよ。」
それはあんた達も同じじゃないの。
心の中でリリスはそう突っ込んだ。だがブルーの衣装のピクシーとノームはリリスの思いなど理解もしていない。
「私達は帰るわね。」
そう言うとピクシーとノームはフッと消えてしまった。
結局何をしに来たのだろうか?
リリスは使い魔達が居なくなったソファの上を軽く掃除し、眠っているサラに視線を送った。あと1時間ほどで亜空間シールドは消滅するはずだ。その際には様子を見て、一度声を掛けてあげよう。
そう思いながら自分のベッドに向かって歩き始めた時、ふと背後に人の気配を感じた。その直後自分の身体の中に魔力の触手が入り込んできたのを感じた。
うっ!
唸り声をあげて振り返ると、そこにはウィンディがにやりと笑って立っていた。
「どうしてここに・・・」
言葉が上手く出てこない。気味が悪くて青ざめるリリスに背後から近付き、ウィンディはえへへと笑いながらリリスの背中にへばりついた。
「何をするつもりなのよ!」
身体の自由が効かない。かろうじてリリスはウィンディに問い掛けた。
「怖がらなくても良いわよ。私はあんたの中に居る奴に用事があるんだから。」
うん?
意味が分からない。
困惑するリリスの身体の中をウィンディの魔力の触手が動き回る。その気味の悪さに吐きそうになるリリスだが、ウィンディはその動きを止めないでしばらく続けた。
ほどなくリリスの身体から黄色く光る小さな光の玉が飛び出し、リリスの頭の上に留まった。
「う~ん。まだ実体化出来ていない様子ね。もう少し時間が掛かるかなあ。」
そう言ってウィンディがリリスの身体から魔力の触手を引き抜くと、黄色い光の玉はリリスの頭の中にスッと入り込んでしまった。
「今のは・・・・・何なの?」
訳が分からない状況で、リリスは困惑するばかりだった。
「特に気にしなくても良いわよ。あんたに害があるわけじゃないし、むしろ、守ってくれているようなものだからね。」
「でも気になるなら直接本人から教えてもらう事ね。」
気になるに決まってるでしょ!
リリスの思いなど気にもせず、ウィンディはスッと消えてしまった。
用事は済んだと言う事なのだろうか。
あまりに突然の事にリリスは身体の力が抜け、ソファに再び座り込んでしまった。
さっきの黄色い光の玉は何だったのだろうか?
害は無いとウィンディは言っていたのだが。
色々と考えても解答など出てこない。
リリスは解析スキルを発動させた。
いま私の身体から出て来た黄色い光の玉は何?
『判別不能です。魔力の中に消えてしまいました。』
魔力の中?
と言う事は・・・私の魔力に隠れているの?
『いえ、魔力そのもののようですが、何故形をとったのか、その原因が分かりません。』
『もしかすると、光の玉が出て来た様に見せただけなのかも知れません。』
それってトリックって事?
全てはウィンディの演技だったって言うの?
『そのような可能性もあると言う話です。実際のところは分かりません。』
う~ん。
良く分からないわね。
でもウィンディの演技だったようには思えないわ。
そう思って思案していると、サラが寝返りを打ち、寝惚け眼で上体をベッドから起こした。
いつの間にか亜空間シールドが消え、サラも起きてしまったようだ。
「ああ・・・リリス。帰っていたのね。」
そう言いながらサラは起き上がり、洗面所に向かった。直後にシャカシャカと歯磨きの音が聞こえて来た。
本格的に寝る準備をしているようだ。
サラの様子を案じながら明日の授業の準備をしているうちに、リリスは黄色い光の玉の事などすっかり忘れてしまった。
その日の夜。
夢の中でリリスは、シューサックやキングドレイクから座長と呼ばれていた老人と対面していた。白いテーブルを挟んで、その老人は深々と椅子に座っているのだが、その顔が時折ぶれて見える。その都度老人は顔を横にブルブルと振り、正面を向き直した。
「ええい、ウィンディめ。激しく揺さぶりおって。そのせいで存在が若干不安定になっておるわい。」
そう言って頬をパンパンと軽く叩き、老人はリリスをじっと見つめた。その視線は柔らかでそこはかとなく温かい。
「あなたは誰なの? キングドレイクさん達が座長と呼んでいたけれど・・・」
「まあそう言う事にしておったのだが、お前に頼み事をしなければならなくなった。それで姿を現したのだよ。」
老人の口調はどこまでも緩やかだ。如何にも好々爺と言う印象で、リリスも好感を持った。
「日頃はお前の魔力の中に混在しておるのだが、改めて名乗っておこう。儂の名はロスティアと言う。儂の本体は光の亜神だ。」
「ええっ! 光の亜神って・・・聞いた事も無いけど・・・」
困惑するリリスにロスティアはふふふと笑った。
「まあ、無理もない。10万年に一度しか降臨せんからな。他の亜神達とは降臨のサイクルが異なっているのだ。」
そう言われてもリリスには想像もつかない。その存在の意味すら理解不能だ。
「それで・・・私の魔力の中に居るの?」
「うむ。混在する形で依り代にしておる。このまま10年ほど経てば実体化くらいは出来るように成るだろうな。」
遠大な話を聞きながらも、リリスは自分の出自との関りが気になった。
「もしかして・・・ロスティアさんが私にコピースキルを与えてくれたの?」
「うむ。その通りだ。」
そう言いながらロスティアはそのあご髭を軽く撫でた。
「そこのところは最初から説明する必要がありそうだな。」
ロスティアの表情に若干の苦悩が見えた。
「この大陸の南方にビストリア公国と言う小国がある。」
「そんな国、ありましたっけ?」
「お前が知らないのも無理もない。ミラ王国とは国交も無いからな。だがこの国はアストレア神聖王国とは親密な関係にある。聖魔法を中心にした国なので、アストレア王国とは大祭司や神官が交流しておるのだ。」
「そのビストリア公国では数十年に一度、聖魔法の奥義を司る聖女を召喚する習わしがある。かつて他国で勇者の召喚が行われたように、勇者に匹敵する能力を持つ聖女の召喚もまたあるのだよ。」
「その聖女の召喚が行われたのが今から14年前。つまりはお前が召喚された時期だ。」
ロスティアの話を聞きながら、リリスの心には動揺と困惑が積み重なっていた。
「その時って・・・私は召喚に巻き込まれたって聞いたけど・・・」
リリスの困惑を宥める様にロスティアは優しく頷き、
「そうなのだよ。聖女の資質を持つ女性の至近距離にたまたまお前が居たのだ。あまりの偶然なのだが、お前にはこの世界と通じ合える様々な資質が備わっていたのだよ。それ故に召喚の儀式で神官達が、最終段階でターゲットを絞り切れずに召喚してしまい、時空を巻き込んだ事故が起きてしまったのだ。」
「その事故は凄惨なものだった。召喚の儀式に携わった10名の神官は全てその場で死んでしまったのだ。」
「更に時間軸に変調を招き、召喚された聖女は幼女の姿で召喚され、お前は逆に肉体が一気に老化してしまった。普通ならそのまま死んでしまっていたのだろうな。だがお前の持つ資質はこの世界に召喚された時点で急激に濃縮され、儂の依り代として最適なものになっていた。それ故にそのまま見捨てるには惜しいと思って、儂はお前の魂と魔力を宿す事の出来る肉体を探したのだよ。」
そうだったのね。
それにしても私って理不尽な目に遭ったのね。
「それで探し出したのが、リリスと言う名の赤ん坊だったって訳なのね。」
「うむ。その通りだ。本来のリリスは熱病で亡くなっていたのだよ。亡くなった直後に間髪を入れず、お前の魂が入れ替わったと言う事だ。これも奇跡的なタイミングだったと思うぞ。」
う~ん。
私ってツイているのか、ツイていないのか、良く分からないわね。
「そこまでは分かりました。それで私に頼み事って何なの?」
「それなのだが・・・」
ロスティアは少し表情を曇らせた。
「召喚した聖女の生命も弱々しい状態だった。それでその生命を維持させる為に、儂の魔力をその聖女に分け与えたのだ。」
「その幼女も成長して、ようやく儂の魔力を回収できる状態にまで漕ぎ着けた。それで儂の魔力を回収して欲しいのだ。そうすれば儂の実体化までの時間も短縮出来る。」
そこまで聞いてリリスの脳裏に疑問が浮かんだ。
「魔力の回収なんてロスティアさんの意思で出来ないの?」
「うむ。それがそうもいかんのだ。」
ロスティアはそう言うと一息入れた。
「特殊な聖女の資質を持つ女性故に、魔力の親和性があまりにも高いのだ。簡単には抜き出せないのだよ。」
「それならどうするの?」
「そこで有効なのがお前の持つコピースキルなのだよ。普通に魔力を吸引しても、彼女との親和性の高さ故に儂の魔力は吸引出来ない。だがコピースキルは相手の持つあらゆる情報を全て引き抜いてしまう。そこでコピースキルで彼女のスキルの情報を全て取り入れる際に、儂の魔力の回収を同時に行なうと言う筋書きだ。もちろんその際にはお前の魔力を通して儂が直接的に関与するのだがな。」
そこまで聞いてリリスは、これは無理だと思った。ハードルが高すぎるからだ。
「これって無理じゃないですか。その聖女と出会う事も簡単じゃなさそうだし、おまけにコピースキルを発動させるなんて・・・」
「それがそうでもないのだよ。その聖女はマルタと言うのだが、もうすでに役目を終えたのだ。それでアストレア神聖王国の古都の神殿に大祭司として赴任する事になっている。」
「役目を終えた? まだ実年齢は若いんじゃないの?」
「そうだな。幼女の状態で召喚されたので肉体の年齢は20歳前後だろう。だがその役目と言うのが過酷なのだよ。聖魔法の秘儀や奥義を執り行う為、生命力を削る事も少なくない。例えば魂魄浄化などの奥義がそれにあたるのだがな。」
ロスティアの言葉にリリスは愕然とした。
要するに使い捨ての勇者と同じだ。肉体がボロボロになるまで酷使され、用が済んだら捨てられる。これもまた理不尽な話だ。
リリスの悲痛な表情にロスティアも心を痛めた様子を見せた。
「聖女や勇者の召喚と言うものは理不尽なものだ。だがこの世界ではそれが時折行われる。」
「それでもマルタと言う女性はまだましな方だ。お払い箱とは言いながら、聖女であるが故に余生を送る住処を与えられたのだからな。」
ロスティアの表情を見て、リリスも少し落ち着いた。
「でもマルタさんってそんなに身体がボロボロになっているの?」
「うむ。髪も真っ白になり、内蔵機能も著しく低下している。そのまま放置していれば余命1年と言う状態だ。」
ロスティアの言葉にリリスは再び衝撃を受けた。そこまで酷使されたなんて・・・。
「そんな状態でロスティアさんの魔力を回収したら・・・死んじゃうんじゃないの?」
「普通ならね。そこでだが、一旦儂の魔力を全て彼女の中に取り込ませるんだ。そうすれば瞬時に回復させる事も出来る。儂は聖魔法のすべてをも司っているからな。その上ですべての魔力をもう一度お前の魔力の中に戻すと言う段取りだ。」
「ロスティアさんって聖魔法も司っているの?」
「うむ。儂の本体は光魔法を司る亜神だ。聖魔法の上位にあたるのが光魔法だよ。人間でそれを扱えるのは限界を突破した高位のクレリックなどだが、一般人がそう言う稀有な位置の術者に会う事はまず無いだろうな。」
ロスティアの説明にそれなりにリリスは納得した。だが現実問題として、そのマルタと言う女性を相手に、コピースキルを発動させるチャンスがあるのだろうか?
リリスの思いを察してロスティアは優しく語り掛けた。
「案ずるな、リリス。マルタと言うのはこの世界での名前だ。お前と同じ場所から召喚されたのだから、マルタにも元の世界の記憶がある。召喚された境遇も同じだよ。元の世界の話をすれば直ぐに通じるはずだ。」
「それに案外、お前の知る人物かも知れんぞ。」
「一応アストレア神聖王国に向かう手筈は用意した。その際にはよろしく頼むぞ。」
ロスティアはそう言うとフッと姿を消した。それと同時にリリスも深い眠りに引き込まれていったのだった。
リリスの背後に立ったウィンディは瞬時に移動し、赤い衣装のピクシーを背後から抱きしめた。
うっと唸るタミアの声が耳に残る。
「久しぶりねえ、タミア。元気がなさそうだから、元気をつけてあげるわよ。」
そう言ってウィンディは赤い衣装のピクシーの身体にスッと両手を食い込ませた。そのまま身体の中を弄り回すような仕草をしている。
「や、やめなさい!」
タミアの悲鳴が部屋中に響き渡ると同時に、ウィンディはニヤリと笑い、
「こんな姿でいても面白くないわね。こっちにいらっしゃいよ。」
そう言いながら赤い衣装のピクシーを振り回した。その直後、ポンッと言う音と共に、赤い衣装のピクシーがそのままタミアになってしまった。
「ちょっと、無理矢理呼び出さないでよ!」
そう言いながらウィンディの手から逃れようとするタミアだが、ウィンディは容赦せずにタミアの身体の中を弄り回すような仕草を続けた。
「ほらっ! 何時ものタミアらしく大暴れしなさいよ。」
「やめろって言ってるでしょ! ダメだわ、火を噴き出しそう・・・」
そう言いながらタミアの身体が赤くなり、口の中にメラメラと炎が現れて来た。
突然タミアが現れてしまった事でリリスも言葉を失い見ているだけだったが、さすがにタミアが本当に火を噴き出しそうになってきたのを見て、焦って叫んだ。
「こんなところで火を噴出さないでよ! 学生寮が吹き飛んじゃう!」
リリスの叫び声と同時にブルーの衣装のピクシーがパチンと指を鳴らすと、ウィンディとタミアの姿が突然消えてしまった。ユリアが二人をどこかに転送したようだ。
「もう大丈夫よ。遠くの海の上に転送してやったわ。」
ブルーの衣装のピクシーの言葉にノームも失笑した。
「相変わらず無茶する奴やな。」
ノームはリリスに解説を加えた。
「ウィンディは風でタミアは火やからね。いつもあんな風に、火は風に煽られるんや。」
う~ん。
そう言う事なのね。
それにしても大事故にならなくて良かったわ。
「リリス。ウィンディには気を付けるのよ。あいつは気まぐれだから傍にいると厄介事が多いのよ。」
それはあんた達も同じじゃないの。
心の中でリリスはそう突っ込んだ。だがブルーの衣装のピクシーとノームはリリスの思いなど理解もしていない。
「私達は帰るわね。」
そう言うとピクシーとノームはフッと消えてしまった。
結局何をしに来たのだろうか?
リリスは使い魔達が居なくなったソファの上を軽く掃除し、眠っているサラに視線を送った。あと1時間ほどで亜空間シールドは消滅するはずだ。その際には様子を見て、一度声を掛けてあげよう。
そう思いながら自分のベッドに向かって歩き始めた時、ふと背後に人の気配を感じた。その直後自分の身体の中に魔力の触手が入り込んできたのを感じた。
うっ!
唸り声をあげて振り返ると、そこにはウィンディがにやりと笑って立っていた。
「どうしてここに・・・」
言葉が上手く出てこない。気味が悪くて青ざめるリリスに背後から近付き、ウィンディはえへへと笑いながらリリスの背中にへばりついた。
「何をするつもりなのよ!」
身体の自由が効かない。かろうじてリリスはウィンディに問い掛けた。
「怖がらなくても良いわよ。私はあんたの中に居る奴に用事があるんだから。」
うん?
意味が分からない。
困惑するリリスの身体の中をウィンディの魔力の触手が動き回る。その気味の悪さに吐きそうになるリリスだが、ウィンディはその動きを止めないでしばらく続けた。
ほどなくリリスの身体から黄色く光る小さな光の玉が飛び出し、リリスの頭の上に留まった。
「う~ん。まだ実体化出来ていない様子ね。もう少し時間が掛かるかなあ。」
そう言ってウィンディがリリスの身体から魔力の触手を引き抜くと、黄色い光の玉はリリスの頭の中にスッと入り込んでしまった。
「今のは・・・・・何なの?」
訳が分からない状況で、リリスは困惑するばかりだった。
「特に気にしなくても良いわよ。あんたに害があるわけじゃないし、むしろ、守ってくれているようなものだからね。」
「でも気になるなら直接本人から教えてもらう事ね。」
気になるに決まってるでしょ!
リリスの思いなど気にもせず、ウィンディはスッと消えてしまった。
用事は済んだと言う事なのだろうか。
あまりに突然の事にリリスは身体の力が抜け、ソファに再び座り込んでしまった。
さっきの黄色い光の玉は何だったのだろうか?
害は無いとウィンディは言っていたのだが。
色々と考えても解答など出てこない。
リリスは解析スキルを発動させた。
いま私の身体から出て来た黄色い光の玉は何?
『判別不能です。魔力の中に消えてしまいました。』
魔力の中?
と言う事は・・・私の魔力に隠れているの?
『いえ、魔力そのもののようですが、何故形をとったのか、その原因が分かりません。』
『もしかすると、光の玉が出て来た様に見せただけなのかも知れません。』
それってトリックって事?
全てはウィンディの演技だったって言うの?
『そのような可能性もあると言う話です。実際のところは分かりません。』
う~ん。
良く分からないわね。
でもウィンディの演技だったようには思えないわ。
そう思って思案していると、サラが寝返りを打ち、寝惚け眼で上体をベッドから起こした。
いつの間にか亜空間シールドが消え、サラも起きてしまったようだ。
「ああ・・・リリス。帰っていたのね。」
そう言いながらサラは起き上がり、洗面所に向かった。直後にシャカシャカと歯磨きの音が聞こえて来た。
本格的に寝る準備をしているようだ。
サラの様子を案じながら明日の授業の準備をしているうちに、リリスは黄色い光の玉の事などすっかり忘れてしまった。
その日の夜。
夢の中でリリスは、シューサックやキングドレイクから座長と呼ばれていた老人と対面していた。白いテーブルを挟んで、その老人は深々と椅子に座っているのだが、その顔が時折ぶれて見える。その都度老人は顔を横にブルブルと振り、正面を向き直した。
「ええい、ウィンディめ。激しく揺さぶりおって。そのせいで存在が若干不安定になっておるわい。」
そう言って頬をパンパンと軽く叩き、老人はリリスをじっと見つめた。その視線は柔らかでそこはかとなく温かい。
「あなたは誰なの? キングドレイクさん達が座長と呼んでいたけれど・・・」
「まあそう言う事にしておったのだが、お前に頼み事をしなければならなくなった。それで姿を現したのだよ。」
老人の口調はどこまでも緩やかだ。如何にも好々爺と言う印象で、リリスも好感を持った。
「日頃はお前の魔力の中に混在しておるのだが、改めて名乗っておこう。儂の名はロスティアと言う。儂の本体は光の亜神だ。」
「ええっ! 光の亜神って・・・聞いた事も無いけど・・・」
困惑するリリスにロスティアはふふふと笑った。
「まあ、無理もない。10万年に一度しか降臨せんからな。他の亜神達とは降臨のサイクルが異なっているのだ。」
そう言われてもリリスには想像もつかない。その存在の意味すら理解不能だ。
「それで・・・私の魔力の中に居るの?」
「うむ。混在する形で依り代にしておる。このまま10年ほど経てば実体化くらいは出来るように成るだろうな。」
遠大な話を聞きながらも、リリスは自分の出自との関りが気になった。
「もしかして・・・ロスティアさんが私にコピースキルを与えてくれたの?」
「うむ。その通りだ。」
そう言いながらロスティアはそのあご髭を軽く撫でた。
「そこのところは最初から説明する必要がありそうだな。」
ロスティアの表情に若干の苦悩が見えた。
「この大陸の南方にビストリア公国と言う小国がある。」
「そんな国、ありましたっけ?」
「お前が知らないのも無理もない。ミラ王国とは国交も無いからな。だがこの国はアストレア神聖王国とは親密な関係にある。聖魔法を中心にした国なので、アストレア王国とは大祭司や神官が交流しておるのだ。」
「そのビストリア公国では数十年に一度、聖魔法の奥義を司る聖女を召喚する習わしがある。かつて他国で勇者の召喚が行われたように、勇者に匹敵する能力を持つ聖女の召喚もまたあるのだよ。」
「その聖女の召喚が行われたのが今から14年前。つまりはお前が召喚された時期だ。」
ロスティアの話を聞きながら、リリスの心には動揺と困惑が積み重なっていた。
「その時って・・・私は召喚に巻き込まれたって聞いたけど・・・」
リリスの困惑を宥める様にロスティアは優しく頷き、
「そうなのだよ。聖女の資質を持つ女性の至近距離にたまたまお前が居たのだ。あまりの偶然なのだが、お前にはこの世界と通じ合える様々な資質が備わっていたのだよ。それ故に召喚の儀式で神官達が、最終段階でターゲットを絞り切れずに召喚してしまい、時空を巻き込んだ事故が起きてしまったのだ。」
「その事故は凄惨なものだった。召喚の儀式に携わった10名の神官は全てその場で死んでしまったのだ。」
「更に時間軸に変調を招き、召喚された聖女は幼女の姿で召喚され、お前は逆に肉体が一気に老化してしまった。普通ならそのまま死んでしまっていたのだろうな。だがお前の持つ資質はこの世界に召喚された時点で急激に濃縮され、儂の依り代として最適なものになっていた。それ故にそのまま見捨てるには惜しいと思って、儂はお前の魂と魔力を宿す事の出来る肉体を探したのだよ。」
そうだったのね。
それにしても私って理不尽な目に遭ったのね。
「それで探し出したのが、リリスと言う名の赤ん坊だったって訳なのね。」
「うむ。その通りだ。本来のリリスは熱病で亡くなっていたのだよ。亡くなった直後に間髪を入れず、お前の魂が入れ替わったと言う事だ。これも奇跡的なタイミングだったと思うぞ。」
う~ん。
私ってツイているのか、ツイていないのか、良く分からないわね。
「そこまでは分かりました。それで私に頼み事って何なの?」
「それなのだが・・・」
ロスティアは少し表情を曇らせた。
「召喚した聖女の生命も弱々しい状態だった。それでその生命を維持させる為に、儂の魔力をその聖女に分け与えたのだ。」
「その幼女も成長して、ようやく儂の魔力を回収できる状態にまで漕ぎ着けた。それで儂の魔力を回収して欲しいのだ。そうすれば儂の実体化までの時間も短縮出来る。」
そこまで聞いてリリスの脳裏に疑問が浮かんだ。
「魔力の回収なんてロスティアさんの意思で出来ないの?」
「うむ。それがそうもいかんのだ。」
ロスティアはそう言うと一息入れた。
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「それならどうするの?」
「そこで有効なのがお前の持つコピースキルなのだよ。普通に魔力を吸引しても、彼女との親和性の高さ故に儂の魔力は吸引出来ない。だがコピースキルは相手の持つあらゆる情報を全て引き抜いてしまう。そこでコピースキルで彼女のスキルの情報を全て取り入れる際に、儂の魔力の回収を同時に行なうと言う筋書きだ。もちろんその際にはお前の魔力を通して儂が直接的に関与するのだがな。」
そこまで聞いてリリスは、これは無理だと思った。ハードルが高すぎるからだ。
「これって無理じゃないですか。その聖女と出会う事も簡単じゃなさそうだし、おまけにコピースキルを発動させるなんて・・・」
「それがそうでもないのだよ。その聖女はマルタと言うのだが、もうすでに役目を終えたのだ。それでアストレア神聖王国の古都の神殿に大祭司として赴任する事になっている。」
「役目を終えた? まだ実年齢は若いんじゃないの?」
「そうだな。幼女の状態で召喚されたので肉体の年齢は20歳前後だろう。だがその役目と言うのが過酷なのだよ。聖魔法の秘儀や奥義を執り行う為、生命力を削る事も少なくない。例えば魂魄浄化などの奥義がそれにあたるのだがな。」
ロスティアの言葉にリリスは愕然とした。
要するに使い捨ての勇者と同じだ。肉体がボロボロになるまで酷使され、用が済んだら捨てられる。これもまた理不尽な話だ。
リリスの悲痛な表情にロスティアも心を痛めた様子を見せた。
「聖女や勇者の召喚と言うものは理不尽なものだ。だがこの世界ではそれが時折行われる。」
「それでもマルタと言う女性はまだましな方だ。お払い箱とは言いながら、聖女であるが故に余生を送る住処を与えられたのだからな。」
ロスティアの表情を見て、リリスも少し落ち着いた。
「でもマルタさんってそんなに身体がボロボロになっているの?」
「うむ。髪も真っ白になり、内蔵機能も著しく低下している。そのまま放置していれば余命1年と言う状態だ。」
ロスティアの言葉にリリスは再び衝撃を受けた。そこまで酷使されたなんて・・・。
「そんな状態でロスティアさんの魔力を回収したら・・・死んじゃうんじゃないの?」
「普通ならね。そこでだが、一旦儂の魔力を全て彼女の中に取り込ませるんだ。そうすれば瞬時に回復させる事も出来る。儂は聖魔法のすべてをも司っているからな。その上ですべての魔力をもう一度お前の魔力の中に戻すと言う段取りだ。」
「ロスティアさんって聖魔法も司っているの?」
「うむ。儂の本体は光魔法を司る亜神だ。聖魔法の上位にあたるのが光魔法だよ。人間でそれを扱えるのは限界を突破した高位のクレリックなどだが、一般人がそう言う稀有な位置の術者に会う事はまず無いだろうな。」
ロスティアの説明にそれなりにリリスは納得した。だが現実問題として、そのマルタと言う女性を相手に、コピースキルを発動させるチャンスがあるのだろうか?
リリスの思いを察してロスティアは優しく語り掛けた。
「案ずるな、リリス。マルタと言うのはこの世界での名前だ。お前と同じ場所から召喚されたのだから、マルタにも元の世界の記憶がある。召喚された境遇も同じだよ。元の世界の話をすれば直ぐに通じるはずだ。」
「それに案外、お前の知る人物かも知れんぞ。」
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異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
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火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
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生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
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