落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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獣人の国 再訪2

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再び訪れたアブリル王国。

マキは緊張気味だがリリスは二度目の事なので、油断はしていないが緊張もしていない。
だが同行している兵士達の緊張がひしひしと感じられる。しかも寡黙だ。無駄口を叩かないように訓練されているのかと思っていたが、兵士同士のコミュニケーションも全くない。

もしかして、初めての実戦なの?

そう考えたリリスだが、それは有り得ないだろう。それに新兵と言っても魔物と闘った経験が無い筈はない。
魔法を使った戦闘も経験している筈だ。

そう考えるとこの違和感は何だろうか?

リリスの心に一抹の不安が過る。

兵士達の中に一人だけ若い女性が居た。マリエルと言う名の小柄で色白の女性兵士は水魔法も扱うヒーラーで、この部隊の看護兵の役目を任されているらしい。
リリスはワームホールの出現する山裾に向かう途中、タイミングを見計らってマリエルに近付いた。

「ねえ、マリエルさん。皆さん、凄く緊張しているように見えるんですけど・・・」

小声で話し掛けたリリスに驚いたマリエルは、リリスの耳元に口を近づけた。

「実はこの人達は魔法があまり得意じゃないんですよ。」

「でも剣や弓を使いこなせるのなら・・・・・」

「それもねえ・・・・・」

ううっ!
それってダメじゃん。

「私だけだと治療の手が足りなさそうなので・・・・・」

そう言いながらマリエルはマキの顔をちらっと見た。

そうか。
そう言う事なのね。

リリスは先頭で部隊を率いるジークを忌々しそうな目で見つめた。

「確かにマキちゃんが居れば、治療の手は充分よね。充分過ぎるくらいだわ。」

リリスはマリエルに軽く礼を言ってマキの傍に戻った。




山裾に近付くと、既にワームホールが出現していた。黒い空洞が生き物のように蠢いている。程なくその中から10匹ほどの黒い獣が飛び出してきた。どうやらブラックウルフのようだ。砂煙を上げてこちらに疾走してくるのが見えた。

兵士達にも緊張が高まる。ジークの指示で兵士達は魔物達に向かって走り出した。その途中で各自がシールドを張ったので、全員魔道具を支給されていたようだ。
更に、兵士達全員が身体強化の魔法を掛け、各々の武器でブラックウルフの掃討に取り掛かったのだが、それは決して安心して見ていられるような状況ではなかった。

各自が1匹の敵と対峙しようとするのだが、ブラックウルフは基本的に役割分担を意識した集団行動をする。それ故に隙を見せると思わぬところから別の個体に攻撃される事となってしまう。
リリスのような魔法攻撃に特化した者であれば、接近戦に持ち込まれる前に手を打つのが常道だ。勿論兵士達の中には属性魔法を使える者もいるのだが、放たれたファイヤーボールやウォーターカッターは余裕でかわされている。

ブラックウルフは動きが素早いからねえ。

そう思ってジークの顔を見ると、口角が若干上がっている。どうやらこの状況でニヤけているようだ。
兵士達の苦戦振りを面白がっているのだろうか?
ジークの態度には呆れるばかりだが、兵士達が本当に窮地に追い込まれれば、手助けをするつもりなのだろう。

それでも・・・兵士達は苦戦しながらも連携しあってブラックウルフを何とか退治した。

傷を負った兵士が数名居たのでマキとマリエルが治療に向かったその時、ワームホールがまた動き始め、その内部からまたブラックウルフが群れで飛び出してきた。前回よりも数が多い。ざっと見て20匹は居るだろう。

「拙いな。マキ殿! エリアヒールをお願い出来るか?」

ジークの呼び掛けにマキは振り返ってハイと大きく返事をした。

ジーク先生ったら、マキちゃんのスキルを把握しているのね。

リリスがそう思ったのと同時にマキが魔力を集中させ、エリアヒールを発動させた。マキの前方、直径200mほどの範囲の大地が仄かに青白く光り始めた。それと共に大地から聖魔法の魔力が沸き立ち、その範囲内に居たすべての兵士達の傷が癒えていく。

「ほう! これほどまでに広範囲なエリアヒールは初めて見たぞ。しかも・・・魔力量まで回復しているように感じられる。」

ジークの感心を他所に、マキは更に魔力を投入した。

それと共に兵士達が元気良く立ち上がった。

「身体が軽いぞ!」

「魔力も回復したぞ!」

兵士達は驚きの声を上げながらも、再び魔物に向かっていった。
だがそれでもブラックウルフの数は先ほどの倍だ。ジークの指示もあってリリスは数発のファイヤーボルトを斜め上空に放ち、投擲スキルを駆使してブラックウルフに誘導した。放物線を描きながら上空から飛来したファイヤーボルトが数匹のブラックウルフの身体を貫き、ゴウッと激しい音を上げて燃やし尽くした。これで兵士達の戦闘も少しは楽になるだろう。

「リリスちゃん。あの距離でどうして素早い敵に命中出来るの?」

リリスの傍に戻ってきたマキが不思議そうにリリスに尋ねた。

「内緒よ、内緒。」

そう言いながらジークの顔を見ると、怪訝そうな表情をしている。リリスの口からその理由が漏れるかもと思っていたのかも知れない。

そう簡単には教えないわよ。

察しはついているかも知れないが、あえて明言するつもりもない。それはリリスの何時ものスタンスである。

兵士達の踏ん張りでブラックウルフは徐々に数を減らしている。だがリリスの心にわだかまりが生じた。
今回のブラックウルフは属性魔法を持っていない。だが魔法攻撃を放つ魔物が相手となると、この兵士達では駆除出来ないだろう。

新兵さん達には修業を積んでもらうしかないわねえ。

そう思って兵士達の戦闘の様子を見ていると、リリスは背後に異様な気配を感じた。振り返ると何もない空間に突如ワームホールが出現して、今にも魔物を吐き出しそうな気配を見せている。

「どうしてこんなところに・・・」

唖然とするジークだが直ぐに気持ちを切り返し、リリスに向かって指示を出した。

「リリス君! 背後のワームホールから魔物が出てくると、我々は挟み撃ちになってしまう。そうなる前に対処してくれ!」

対処しろと言われてもねえ。

そう思ったものの、リリスの行動は素早い。背後のワームホールに向かって即座に駆けだした。

「リリスちゃん! 一人で向かうつもりなの?」

心配そうな表情で声を掛けたマキに笑顔を返し、リリスはワームホールの手前10mほどのところまで接近した。直径5mほどのワームホールが高さ10mほどの中空に浮かんでいる。なんとも不気味な情景だ。

リリスは魔力を集中させて土魔法を発動させた。ワームホールの両側に高さ5mほどの土壁を出現させ、ワームホールの手前に幅20m奥行き10mほどの泥沼を出現させると、麻痺毒を生成してその泥沼に散布した。更に念のため、泥沼の手前に高さ3mほどの土壁を入れ子状態に出現させ、その手前の大地を2mほど隆起させてリリスの待ち位置を造り上げた。
ここまでの作業時間は約2分。
あっという間に大地の様相が変わり、マキは驚きのあまり目を見張っていた。

「これって・・・土魔法?」

マキがそう呟くのも無理もない。属性魔法として土魔法を持つ者の数自体が少ない上に、リリスほどに特化した者はまず居ないからだ。

だがリリスがそこまでの作業を終えた瞬間に、ワームホールから魔物が咆哮を上げ大挙して飛び出してきた。
馬の躯体に人間の頭部が見える。

ケンタウロスだ!

予想もしなかった魔物の出現に、リリスの心にも緊張が走る。
ドドドドドッと疾走しながら飛び出してきたケンタウロスは20体。剣や弓を持ち鬼のような形相でこちらに向かってくる。

だがケンタウロス達は土壁に誘導されて泥沼に突入した。急遽造り上げた泥沼なので深さは1mほどしかない。だがリリスが散布した麻痺毒が、泥沼に入ったケンタウロス達の動きを止めてしまった。
数体のケンタウロスが泡を吹きながら泥沼に沈み込んでいく。それでもケンタウロス達の勢いは止まらない。
泥沼に半身を沈めた仲間を踏み台にして、大きくジャンプするケンタウロスもいる。

だがそれはリリスの想定内だ。
それを見越して泥沼の手前に入れ子状に土壁を造り上げたので、飛び越えるにしても回り込むにしてもリリスの火矢の餌食になる。

敵の動きを少しでも良く把握するために隆起させた大地の上から、リリスは無心にファイヤーボルトを放った。
それでも、ファイヤーボルトを撃ち込まれて悲鳴を上げるケンタウロスの姿を見るたびに、罪悪感を感じてしまうリリスである。

頭部が人間のものだから、まるで人を殺しているみたいじゃないの。
ダンジョンから出て来た魔物だから、知能や人格はないと思うけど・・・・・やっぱり嫌だわ。

後ろめたい思いを堪えながら、リリスはファイヤーボルトを放ち続けた。土壁を乗り越えようとするケンタウロスの胴部を撃ち抜き、回り込むケンタウロスが土壁から出て来たタイミングを計って頭部を撃ち抜く。そのたびに断末魔の叫びを上げる姿を目にするのは辛い。

泥沼に撃ち込んだファイヤーボルトが業火と共に麻痺毒を周囲に拡散させ、最後尾でまだ泥沼にも達していないケンタウロスまで動きが鈍ってきたようだ。畳み掛ける様にファイヤーボルトを放ち、すべてのケンタウロスを倒したリリスは泥沼の傍まで移動した。
土壁を消滅させ、泥沼の範囲を拡大させる事で、ケンタウロスの遺骸を全て泥沼の中に沈めると、リリスは再度魔力を集中させて泥沼の深さを2mまで延伸させた。こうする事でケンタウロスの遺骸は全て泥沼の中に沈んでしまった。

成仏してね。

心の中で手を合わせながら、リリスは泥沼全体を硬化させた。土葬をしているつもりなのだろう。

リリスの傍にマキが駆け寄ってきた。

「リリスちゃんって、やっぱりチートだわ。そもそもどうして地面がそんなに自由自在に変わるのよ。」

だから、土魔法だってば。

「チートと言っても、私の戦術は姑息だからね。」

「でもジークさんがリリスちゃんを頼れって言った理由が良く分かったわ。あの数の魔物を一人で倒しちゃうなんて・・・。それに比べてあちらはまだ苦戦しているわよ。」

マキがそう言いながら視線を向けたのは、まだブラックウルフと格闘中の兵士達だった。だがそれでもそろそろ駆除が済みそうな状況だ。
リリスの背後から誰かが近付いて来た。誰だろうと思って振り返るとマリエルだった。

「私ってあまり役に立っていませんね。」

自虐的な言葉を言い放ちながらも、苦笑いを浮かべているので、半分は冗談なのだろう。

「それにしてもマキさんのエリアヒールは凄いですね。でもそのエリアの中の人間だけが治癒されるのって不思議ですねえ。魔物は影響を受けないのかしら?」

マリエルの言葉にマキはふふふと笑った。

「基本的には意識なのよ。ヒールを掛ける対象を意識しながら発動するの。」

「それなら敵味方を区別すれば戦場でも活用できますね。」

マリエルの何気ない言葉にリリスとマキはギョッとした。

「マリエルさん。滅多なことは言わないでね。マキちゃんは祭司なんだから、戦争には駆り出させないわよ。」

リリスの真剣な表情に気圧され、マリエルはハイハイと答えて苦笑いを見せた。
そのやり取りに聞き耳を立てていたのはジークである。

そう言う使い方もあるな。

ジークがそう思った事をリリスは知る由も無かった。







ブラックウルフの駆除が済み、しばらく休憩時間となった。
マキとマリエルが個別に兵士達に治癒を施し、兵士達から感謝されているのを見るとリリスも心が和む。

だがこのままで済むのだろうか?

一瞬リリスの脳裏に過った不安が現実のものになるのに5分も掛からなかった。

山裾に再びワームホールが出現し、激しく収縮し始めたのだ。
しかもワームホールの周辺に黒い靄のようなものが立ち込め、時折稲光が走っている。

嫌な雰囲気ねえ。

そう思って見つめていると、ワームホールの中から黒い塊りが飛び出してきた。それは地上に降り立つと徐々に形を変え、人型になっていく。

ジークと兵士達は即座に身構え、未知の敵に対応しようとしている。マキも不安そうな表情でマリエルの手を握って見つめていた。


黒い人型は次第に実体化してきた。赤い目と尖った耳。背中には黒い翼が生えている。

魔人だ!

それにしてもどうしてここは魔人が多発するの?

リリスはそう思いながら魔力を集中させた。だがその時、肩に生えた芋虫が突然光を放つと同時に、リリスの脳内に何者かが侵入してくる感覚を覚えた。これは多分メリンダ王女だ。憑依状態を深くさせたのだろう。

「リリス! 魔人が出て来たのね。私も加勢するわよ!」

芋虫が言葉を掛けて来た。メリンダ王女が使い魔と五感を同調させたからだ。

「メル、ありがとう。闇魔法が必要になりそうね。」

「相手が魔人だから属性魔法には耐性があるでしょうね。でも闇魔法なら使い道は色々とあるからね。」

芋虫がそう言うや否や、魔人がファイヤーボールを放ってきた。ジークが張っていたシールドを直撃し、ドウンと大きな衝撃音を放って火炎が広がった。威力はかなりありそうだ。

兵士達が魔道具でシールドを張り、魔法攻撃の出来る者はファイヤーボールやウォーターカッターを放った。魔人はその場を動こうとはせず、避けられるはずの魔法攻撃を全て受け止めた。

ドドーンと爆炎が上がり、それが収まると魔人が平然と立っている。

やはり属性魔法に耐性を持っているようだ。

ウハハハハと高笑いをする魔人だが、その輪郭が時折ぶれて見える。

あれは亜空間シールドなの?

解析スキルを発動してリリスは問い掛けた。

『いいえ、シールドは張っていませんね。そもそも半分は実体化していないようです。』

それってどう言う事?

『おそらくダンジョンが生み出した魔人だと思われます。だがその構成要素の半分は残留思念や怨念ですね。』

うっ!
死霊のようなものなの?

『そうですね。アンデッド化していると言うべきでしょう。それ故に属性魔法での攻撃はほとんど効果がなさそうです。』

厄介なものが出て来たものだ。
リリスは対処の仕方を考えながら、ゆっくりと近付いてくる魔人を見つめていた。










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