落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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魔剣の返却1

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夢とも現実とも区別のつかない真っ白な空間。

リリスの目の前にはキングドレイクとシューサックが座っている。
二人は少し申し訳なさそうな表情でリリスに話し掛けた。

「リリス、すまないね。こんな時間に呼び出してしまって・・・」

シューサックの言葉にリリスはため息をついた。
そのリリスの様子をシューサックは気にもせず話し始めた。

「魔剣エクリプスの修復は上手くいったようだね。儂の後継者として活躍してくれるのは儂としても嬉しい限りだよ。」

何時私が後継者になったのよ?

リリスは疑問を感じながらも、シューサックの話をスルーした。そこに話を振ると余計に長くなりそうだと感じたのだろう。

「それにしても良く二人で出現しますね。」

「ああ、それはだな・・・」

シューサックが話を続けようとしてキングドレイクの顔をちらっと見た。
キングドレイクは話を振られたと感じ、シューサックに目配せをして口を開いた。

「覇竜の加護の力でこやつは出現出来ておる。まあ、儂の話し相手として呼び出す事も多いのだがな。」

要するに気の合う者同士って事ね。

「それで今日は何の用件ですか?」

リリスは眠い目を擦りながらシューサックに話し掛けた。
シューサックは身を乗り出して、

「リリス。お前に頼み事があるんだ。生前儂が使っていた魔金属などの資材の倉庫があるのだが・・・・・」

うっ!
それって剣聖の言っていた宝物庫の事?

夕方の出来事と繋がる用件にリリスは違和感を覚えた。

「それを探せって言うんですか?」

「まあ、結果的にはそうなるのだが、場所は特定出来ている。魔法学院の敷地の地下だよ。」

ええっ!

リリスは驚きを隠せず、大声で叫んでしまった。

「お前が薬草を育てている場所の地下、約300mの場所にあると分かっている。頑丈に作ったので壊れてはいないようだ。位置を特定するためのビーコンは儂が造った釈迦三尊像の台座に収納してあるから、それを地面に置いて魔力を流せば作動する。倉庫の封印は儂の魔力の波動に合わせて調整してあるが、お前の魔力の波動でも解除出来るようにしてやろう。」

そう言ってシューサックはキングドレイクに目配せをした。その意を汲みキングドレイクがリリスに向けて手をかざすと、リリスの身体が若干熱を帯び、身体の一部にシューサックの魔力が僅かに宿るのを感じた。
突然の事に驚いたリリスは身体のあちらこちらを軽く撫でながら、

「随分急な話ですね。それでその倉庫にある魔金属類をどうしろと言うんですか? 売り払っても良いなら売り払いますけど・・・」

少し投げやりな口調のリリスである。
それを感じてシューサックは語調を柔らかくした。

「まあ、売り払っても構わんのだが、それとは別に用件があるのだよ。」

シューサックは少し間を置いた。

「その倉庫の奥に儂が生前、最後に修復を行なった魔剣アクアスフレアが残っておる。それを依頼主に返して欲しいのだ。」

ああ、仕事をやり残していたって事なのね。

「でも500年も前の事じゃないですか。依頼主ももうこの世には居ないでしょうし・・・」

リリスの言葉にシューサックはくいッと眉尻を上げた。

「依頼主ならまだ生きておるぞ。」

うっ!
嫌な予感がするわね。
それって人族じゃないって事よね。

躊躇うリリスにシューサックは追い打ちを掛ける。

「依頼主はドラゴニュートの王族じゃよ。」

ドラゴニュートと言う言葉を聞いた途端に、リリスの脳裏に数々の苦い思い出が蘇ってくる。

あの連中と関わるとろくな事が無いのよね。

うんざりした表情でうなだれるリリス。その様子をシューサックはスルーして話を続けた。

「儂としてもせっかく修復が完了した魔剣を、長く返さぬままにしているのが申し訳ないのだよ。」

随分律儀な話ね。
でもあのドラゴニュート達とはこれ以上関わりたくないんだけどねえ。

「何じゃ? 気乗りがせんのか? 倉庫の中に入りさえすれば、そこでの案内はホムンクルスがやってくれるので心配いらんぞ。儂の生前の友人だった賢者ユーフィリアスが造ってくれたのだ。」

そこが問題じゃないのよ。

「気乗りしないのは・・・相手がドラゴニュートだからです。また厄介事に巻き込まれそうで嫌なんですよ。あの連中ったら何かと難癖をつけて喧嘩を吹っかけてくるんだから・・・・・」

リリスの言葉にそれまで背後で様子を見ていたキングドレイクが、グッと身を乗り出してきた。

「そんな事なら簡単だ。リンを同伴させれば良いだろう。リンには儂の方から伝えておいてやるぞ。」

伝えておくって・・・・・どうするのよ。そんな事が出来るの?
リリスの疑問にキングドレイクは反応して、

「奴の夢の中にでも現われて、伝えておけば良いのだろう? 一晩なら忘れるかも知れんが、一週間も続ければ覚えておるはずだ。」

それってリンちゃんにしてみれば迷惑よねえ。
うなされるようなものだわ。

「お手柔らかに。」

そうとしか返答出来ないリリスである。

「おう! 儂に任せておけ!」

キングドレイクの鼻息が荒い。
そんな事に使命感を持たなくても良いのにと、リリスは半ば呆れながらも席を立った。

「分かりました。私に出来る事はやります。だから・・・もう寝かせてください。明日も忙しいので。」

「おお、そうじゃったな。お前は今や生徒会会長代理だから、忙しいのも無理もない。」

どうしてシューサックさんがそんな事を知っているのよ。
しかも生徒会会長代理って・・・。

「それにしてもあのロナルドと言う坊主は気に食わん。剣を扱う者の心得を逸しておる。」

「そうだな。儂もそう思うぞ。当分病床に臥して反省しておれば良い。」

二人の老人は口々に怒声を上げた。

「そうは言ってもロナルド先輩には、早く回復して貰わないと私が困るんです。それに私だって今の状態じゃあ忙しすぎて、シューサックさんの魔剣の件にも取り組めませんよ。」

「そうなのか? それは困る。」

シューサックはそう言うとキングドレイクの方に顔を向けた。

「キングドレイクよ。今のリリスの言葉を聞いたか?」

「うむ。聞いたとも。そうであるならばもう少し手加減した方が良かったかも知れんな。」

うん?
何か引っ掛かるものの言い方ね。

「キングドレイクさん。手加減ってどう言う意味なの?」

リリスの問い掛けにキングドレイクは自慢げな表情を見せた。

「大した事ではない。お前が魔剣エクリプスを修復した際に、儂の念を秘かに込めておいただけだ。」

余計な事をするわね。

「それって呪い?」

「いや、呪いではない。覇竜の息吹を僅かに込める事で、あの坊主が魔力を上手く制御出来なくなっているだけだ。」

う~ん。
それは余計だったわね。
覇竜の息吹って普通の人族には強すぎて、毒に近い効果があるって言うわよね。

「それにしてもそんな独自的な行為が出来るんですか?」

リリスの言葉にキングドレイクは更に自慢げな表情を見せた。

「出来るようになったのだよ。自由自在と言うわけではないのだがな。」

そんなの自由自在にやられたら、堪ったものじゃないわ。

「あまり余計な事をしないで下さいね。私が困る事もあるんですから。」

「そうだな。すこし自重しよう。」

そう言ってキングドレイクは苦笑した。

そうよね。
自重してよね。
他人に害を及ぼす加護なんて聞いた事が無いわ。
それにしても覇竜の加護ってそんなに自由性があるのかしら?
時々チェックしないといけないわね。

「それじゃあこれで失礼しますね。普通にベッドに戻してくださ・・・」

そこまで言った途端にリリスの足元に大きな穴が開き、そこに落とされるようにリリスは落下していった。
暗黒の中に急速度で落下していくリリス。落下の勢いで髪の毛が逆立ち、絶望感が心の中に過る。

「普通に戻してよぉ!」

絶叫と共にリリスは深い眠りに落ちて行った。





窓から差し込む朝日に目が覚めたリリスは、びっしょりと汗を掻いていた。

「リリス、大丈夫? 昨日の夜、随分うなされていたわよ。」

サラの言葉に大丈夫と答え、リリスは重い頭を軽く叩きながら顔を洗いに洗面所に向かった。




その日の昼休みの時間から、リリスの作業が始まった。

シューサックの指示通り、釈迦三尊像の台座に小さな三角錐のビーコンらしき物体が埋め込まれていた。
それを取り出し薬草園に向かったリリスは、ケイト先生から管理を任されていた未耕作地にそれを置き魔力を注ぎ込んだ。

ピンッと言う音を立ててビーコンが光を放ち、空中に浮かび上がると水平に移動し、未耕作地の100mほど奥の場所で留まりながら地面に強く光を放ち始めた。
そこが恐らくシューサックの倉庫の設置されている場所なのだろう。

ビーコンはしばらくすると魔力が切れたようで、光を放つのを止め、その場にポトリと落ちた。
それを拾い上げてマジックバッグに仕舞い込むと、リリスはおもむろにビーコンの指示していた場所に土魔法を発動させ、直径1mほどの穴を掘削し始めた。
10mほど掘削しその壁面を硬化させる。その作業の繰り返しだ。掘り起こした土砂は少し離れた場所に放置され、徐々に小山になっていく。
10回繰り返し、100mほど掘削した時点で、リリスの魔力量は半減していた。

これってかなりキツイわね。
午後の授業を考えるとこの程度で今日は止めておこう。

額に滲む冷汗を拭い、リリスはその穴の表面部分を硬化させた土の蓋で覆って偽装し、この日の作業を終えた。


この作業を三日間続けたリリスは、ついにシューサックの倉庫らしき物体に行き当たった。

そしてその翌日。

満を持してリリスは昼の休憩時間に薬草園に足を運んだ。
偽装の為の覆いを取り払い、地下300mまで続く縦穴の傍に立ち、リリスはおもむろに使い魔のピクシーを召喚した。
とりあえずは使い魔での探索だ。
そのピクシーと五感を共有させ、更にリリスの魔力を纏わらせる。これで使い魔はリリスの代身となる。リリスは薬草園の入り口にある作業小屋の椅子に座り、直ちに使い魔の操作を始めた。

使い魔のピクシーが縦穴の中に入っていく。リリスの目に映るのは真っ暗な空間だが、暗視することによって状況は把握出来ている。ゆっくりと降りていくと酸素が少なくなってきたように感じるのだが、使い魔の行動に影響はない。

程なく300mを降下して、ピクシーは倉庫の固い壁に到達した。使い魔を通して探知するとその壁は両開きの扉であることが分かる。
その扉の片隅に魔力の受容体らしきものが見つかった。

これに魔力を流せば良いのね。

リリスは使い魔を通してその受容体に自分の魔力を流した。その途端に両開きの扉が内側に少し開き、使い魔をその内部にスッと吸い込むと、即座にバタンと閉じてしまった。

真っ暗な縦穴から倉庫内部に吸い込まれたリリスの目の前に眩しい光が広がる。

目が慣れてくると、そこは確かに倉庫らしき空間だった。高さ10m幅5mほどの通路が目の前に真っ直ぐ続いている。壁や天井は全体が仄かに光りを放ち、その両側の壁には幾つもの扉があって、その扉の上に剣や資材の絵が描かれたパネルが張り付けられていた。

酸素はある。実体でここに入っても普通に呼吸は出来そうだ。

入り口の片隅には丸いデスクがあり、その向こう側に座っていた人影がスクッと立ち上がった。
少し驚いてその顔を見ると、それは明らかに人造的な顔立ちだ。

これがシューサックさんの言っていたホムンクルスなのね。
でもこのホムンクルスは500年間も稼働していたのかしら?

男性とも女性とも区別できない顔立ちのホムンクルスは、ゆっくりとした足取りでリリスに近付いて来た。








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