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姉妹校にて2
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オルトのダンジョンの第3階層。
広大な砂漠をしばらく歩くと、前方の小さな岩山からキラリと光る物体が2体飛び出してきた。
なんだろうと思ってよく見ると・・・・・それは魔剣を持ちメタルアーマーを装着したオーガファイターだった。
ドスドスと大地を踏みしめながらこちらに向かってくる。
先頭のルイの顔にも緊張が走る。ルイはこの時点でオーガファイターと交戦した事は無かった。
それでもリリス達の目の前で良い処を見せたいとの思いが突き上げてくる。
だが先に手を出したのはイライザだった。
緊張のあまりにファイヤーボールを放ってしまったと言うのが事実であるが、それでも火球が水平に滑空し、そのままオーガファイター達に直撃した。ドウンと言う鈍い轟音と共に爆炎が舞い上がる。
だが舞い上がった爆炎の中からオーガファイター達は再度現われた。
若干の足止めになったようだが、イライザの攻撃が効いていないのは明らかだ。
ええっ!と驚くイライザを横目に、ルイは少し遠方からソニックを放った。
だがその白く光る衝撃波はオーガファイターの装着しているメタルアーマーに跳ね飛ばされて、あっけなく消えてしまった。
ルイの表情にも焦りが見える。
こちらに迫ってくるオーガファイターは火魔法に耐性があるのだろう。それに加えてあのメタルアーマーも魔力の流れを感じるので、普通のメタルアーマーでは無さそうだ。
「ルイさん、どうするの? あいつらと剣を交えるの?」
リリスの問い掛けにルイは、
「いざとなれば・・・・・」
そう答えただけで魔剣を構え直した。
ルイさんの技量でアイツらを切り裂けるのかしらねえ?
スラッシュくらいは発動出来るんでしょうけど・・・。
だが案ずるリリスの横に居たエリスが、何時になく軽い口調でリリスに話し掛けて来た。
「オーガファイターってリリス先輩のカモじゃないですか。さっさと退治しましょうよ。」
わざとらしい笑顔を向けるエリスである。
煽ってるわね。
リリスもエリスの気持ちを少しは理解していた。ルイ達に魔法の技量が低そうだと思われていたのが癪だったのだろう。
それならエリスの言葉に合わせてみようとリリスは思った。
「じゃあ、やるわね。」
そう言ってルイの前に進み出たリリスは、魔力を集中させて両手に二本の二重構造のファイヤーボルトを出現させた。
杭のように太いファイヤーボルトにイライザの目が釘付けになっている。
投擲スキルを発動させながら放ったファイヤーボルトは、キーンと金切り音を立てながら斜め上空に舞い上がった。
それは上空で急に下方に向きを変え、オーガファイターの動きに合わせて左右にスライドしながら高速で向かっていく。
それぞれのファイヤーボルトは見事にオーガファイターの胸部に着弾した。
着弾と共に二重構造の外側の炎熱でメタルアーマーを貫通させ、内部に仕込まれたファイヤーボルトがオーガファイターの肉体を燃え上がらせる。
だが最近のリリスは覇竜の加護の影響などもあって、火魔法にも上方修正が大きく作用していた。
爆炎を上げて燃え上がるのみならず、その威力の故に燃えながら粉々に飛散してしまった。
リリスの前方にガラガラガラと音を立てて、四散したメタルアーマーの破片や魔剣が転がった。ぶすぶすと煙を上げている黒焦げの魔剣に近付いたリリスは、それをツンツンとブーツで突いてみた。
ガサッと音を立て、その魔剣は消し炭と化してしまった。
「それって本当にファイヤーボルトなの?」
イライザの驚く声にルイも苦笑いを浮かべるしかなかった。
その後方で『見るたびに火力が増加しているようだな』と言うジークの呟きが聞こえてくる。
「やっぱりオーガファイターって先輩のカモでしたね。」
そう言いながらエリスは前に歩き出した。そんな事は無いわよと謙遜しつつリリスは手を横に振り、エリスの横に並んで一緒に歩き始めた。
エリスの顔にも余裕が見える。
ルイとイライザが前に進むことを若干躊躇っていたので、自然にリリスとエリスが先頭に立つ事になってしまった。
暑い日差しの中を再び歩く。
程なく前方に二つの砂煙が立ち、それがこちらに向かってくるのが見えた。
目を凝らして良く見ると、巨大な二体のサソリだ。
体長は5mほどもありそうなサソリがこちらに向かってくる。
それを見た瞬間にルイとイライザは顔が青ざめてしまった。
「サソリだから強烈な毒を持っていそうね。」
リリスはそう言いながら、速度重視の細めのファイヤーボルトを数発出現させ、向かってくるサソリに向けて斜め上空に放った。
キーンと言う金切り音を立てて、数発のファイヤーボルトが弧を描いてサソリに向かい、リリスの誘導もあって全弾着弾した。
ドドーンと言う爆音と爆炎が立ち上がったのだが、その爆炎の中からサソリが現われ、ブルブルと身を震わせながらこちらに再度向かってくる。
火魔法に耐性を持っているのは明らかだ。
50mほど離れた位置から二体のサソリが同時に尻尾を振り上げ、緑色の毒液をこちらに放ってきた。
まだ距離があるので届かないが、これは攻撃力を誇示しているのだろう。
リリス達の前方10mほどの地面に落ちた毒液はブツブツと泡を吹き、その臭気を周りに放ち始めた。
あんなものを浴びせられたら大変だ。
さっさと始末しようとも思ったのだが、ここでリリスの心に若干の悪戯心が沸き上がって来た。
隣に居るエリスに向かって、
「エリスのブリザードを見てみたいなあ。」
そう言いながらリリスは悪戯っぽい目つきでエリスを見つめた。
それに対してエリスは困ったような仕草を見せた。
「こんな砂漠でブリザードですかあ。無茶振りですよねえ。」
そうは言いながらもエリスの表情はまんざらでもないと言った表情だ。
「それなら先輩の土魔法であのサソリを土壁に閉じ込めてくださいよ。」
あらっ!
やる気満々じゃないの。
リリスは分かったわと答えて魔力を集中させ、土魔法で迫りくるサソリの足元に深さ3mほどの泥沼を出現させた。
サソリはその泥沼にはまり込んで、一瞬その動きが鈍くなった。
そのまま加圧で抑え込みながら、サソリの周囲に高さ3mほどの土壁を出現させる。これをサソリの四方に造り上げてサソリを閉じ込める。
勿論、閉じ込めたと言っても上は開いたままなので、サソリも逃げ出そうとするのだが、加圧を掛け続けているのでその動きは鈍い。
突然の泥沼や土壁の出現に、ルイとイライザは呆然としている。
手際良いリリスの土魔法に唖然とするばかりだ。
「リリス先輩。それで充分ですよ。」
エリスはそう言うと魔力を集中させ、両手から次々とアイスボルトを放ち始めた。
長さ30cmほどの氷の短槍が大量に放たれ、弧を描いて土壁で区切った区画の中に撃ち込まれていく。
アイスボルトの氷結効果で土壁の内外に霜が付き、そこから這い出ようとしていたサソリの身体も氷結し始めた。
だがそれは致命傷になるほどではない。
あくまでも足止めだ。
頃合いを見計らってエリスは魔力を放ち、土壁で区切った二つの区画のそれぞれの上に直径2mほどの魔方陣を出現させた。
「この環境でブリザードを放つのは非効率的なので、局所的に術を掛けますね。」
そう言ってエリスはぐっとこぶしを握り、魔力を集中させて両手を突き出した。
その表情は今までリリスも見た事が無いほどに、緊張感に満ちたものだった。
次の瞬間に魔方陣から激しい凍結の冷気が嵐のように吐き出され、土壁で区切った区画を冷気で包み込み、溢れ出る冷気がキラキラと光りながら蒸発していく。
見た目は奇麗だけどねえ。
感心しつつも土壁の内部の様子を想像すると身の毛がよだつリリスである。
リリスは元の世界で高校生の頃に、テレビで見た科学の実験を思い出した。
金属の容器に液体窒素を流し込んで、中に置かれた物体を凍結させる実験だ。
エリスの放った局所的なブリザードはその実験を思い起こさせる。
それにしても機転の利く子ね。
『砂漠でブリザードを放て』なんて無茶振りを、上手くこなしているわ。
感心しているリリスの目の前で、エリスは魔力を放つのを止めた。
「リリス先輩。もう充分だと思いますから、土壁を取り除いてください。」
エリスの言葉を聞いて、リリスはうんと頷き土壁を元の土に戻した。
後に残されたものは、土壁にへばり付く形で直立したまま凍結した2体のサソリである。
だが土壁がなくなったのでバランスを崩して、2体共に徐々に傾き、そのまま地面に倒れてしまった。
既に生命反応は無い。
パリンと言う音と共に、真っ白に凍結したサソリの身体は粉々に砕け散ってしまった。
その粉々になった破片からシューッと蒸気が立ち上っている。
「完全に凍結しちゃったわね。」
呆れるばかりのリリスの言葉に、エリスはえへへと照れ笑いを見せた。
一方、後方に居たルイとイライザはその様子をじっと見つめていた。
「僕達はとんでもないものを見せられているんだろうね。」
そう呟いたルイにイライザは黙って頷くだけだった。
「このダンジョンはこの階層で終わりなので、もう少し歩くと行き止まりになっている。天井まで届く大きな壁があるから、そこに辿り着き、壁に印をつけて戻るのが慣例なんだ。」
後方から近付いて来たゴーグはそう言いながら、地面に転がるサソリの破片をブーツで踏みつぶした。
「土魔法と水魔法のコンビネーションと言うのも面白いものだね。属性魔法の可能性を広げてくれる試みは大歓迎だよ。」
ゴーグの言葉に学究肌の波動を感じて、リリスは何気に親近感を持った。
ジークよりは話が合いそうだ。
そう思ってジークの方を振り返ると、ジークは前に進めと目で合図をしている。
リリスとエリスの魔法の技量やスキルにあえて触れないようにしているのだろう。
気を取り直してリリスは前に進み始めた。
そのまましばらく歩くと前方に高い壁が見えて来た。
壁の横幅は10mほどで、その壁に合わせるように両側の空間が狭く収束しているのが分かる。
だがその手前の地面から突然何かが盛り上がって来た。
黒く細長い物体。
良く見るとそれは巨大なムカデだった。
体長は10mを越えている。
ラスボスの登場なのだろうか?
キシャーッと気味の悪い鳴き声を上げ、ムカデは緑色の液体をこちらに向かって吹きかけて来た。
地面に撒かれたその液体が刺激性の臭気を振り撒き、瘴気がこちらにも漂ってきた。
こいつも毒持ちなのね。
ムカデとの距離は50mほどだ。
だが地面を滑るようにムカデはこちらに向かってくる。
その速度が意外に早いので、リリスは足止めの為にムカデの前方に土壁を出現させた。
高さ3m幅は10mほどの土壁だ。
ムカデはそれを乗り越えようとして伸び上がってくる。
その際に見える腹部に向けて、リリスは高速のファイヤーボルトを数発放った。
キーンと言う金切り音を立てて滑空するファイヤーボルトは、ムカデの手前で一旦下降し、腹部に向けて上昇して着弾した。
ドウンと言う衝撃音と共に爆炎が舞い上がる。
だがムカデは何事も無かったかのように、その爆炎から再び姿を現わした。
こいつも火魔法に耐性を持っているのね。
リリスは即座に戦法を変え、解析スキルを発動させた。
浸透性と粘着性を持つ強毒を用意して!
リリスがそう念じると、解析スキルの返答が脳裏に浮かび上がった。
『久しぶりの毒攻撃ですね。疑似毒腺をフル活動させましょう。』
何故そんなに張り切っているのよ。
そこまでしなくても良いわよ。
相手は大きい敵だけど1体だけだからね。
『そうですか。それなら仕方が無いですね。』
残念がる気持ちが分からないわね。
リリスは気持ちを切り替え、解析スキルが送り込んできたイメージに合わせ、毒生成スキルを発動させた。
瞬時に生成された強毒を二重構造のファイヤーボルトの内部に仕込む。
そのイメージに合わせて出現させたファイヤーボルトを、リリスはムカデに向かって2発放った。
太い杭のようなファイヤーボルトがムカデに向かい、弧を描いて襲い掛かる。
ファイヤーボルトの本体が若干緑色に見えるのは、その内部に格納された強毒の影響だ。
相手が巨大なので狙いが逸れる恐れはない。
2発のファイヤーボルトは見事にムカデに着弾した。
着弾と共に爆炎が上がるのだが、その火炎による損傷は、火魔法に強耐性を持つムカデには生じない。
だがそれでも爆発と共に、その甲殻に若干の傷を負わせる事は出来た。
二重構造のファイヤーボルトの内部に格納された強毒はその傷に浸透していく。
この強毒は生き物のように動き回り、傷を探して潜り込んでいくのだ。
しかも粘着性があるのでムカデの動きに振り落される事も無い。
爆炎を擦り抜けてこちらに向かってきたムカデの動きが突然止まった。
そのままドサッと地面に突っ伏したムカデの身体のあちらこちらから、緑色の蒸気が立ち上り始めた。
強毒がムカデの体組織を溶かしているのだろう。
その強烈な臭気がこちらにまで漂ってきて、リリス達の目や鼻を刺激する。
ジークやゴーグも顔をしかめて目を擦り始めた。
更にルイとイライザはその場にしゃがみ込んでしまった。
ルイとイライザは毒や瘴気に耐性を持っていないのかも知れない。
エリスは顔をしかめているが大丈夫のようだ。
程なくムカデの身体はその甲殻を残したまま溶け出してしまった。
ドロドロに溶け出した緑色の液体が泡を吹き、瘴気が撒き散らされている。実にグロテスクな状況だ。
「リリス君。あの巨大な魔物を倒したのは上出来だが、後始末をしてくれないか? このままでは壁のところにまで行けないからね。」
「燃やすなり、土に埋めるなりしてくれ。」
ゴーグの言葉にリリスはハイと答えて土魔法を発動させ、ムカデの周囲を泥沼にした。加圧を掛けて泥の中に沈み込ませ、その表面を硬化させて元の地面に戻す。リリスにとってはお決まりの所作だ。
硬化された地面を恐る恐る歩きながら、一行は壁の傍まで辿り着いた。
だがその壁を見てルイやイライザやゴーグはえっ!と驚き目を見張った。
「何故ここに・・・・・下に向かう階段があるんだ?」
壁の岩肌に溶け込むように、そこには下層に向かう階段が出現していたのだった。
ある筈のない階段が・・・・・・。
広大な砂漠をしばらく歩くと、前方の小さな岩山からキラリと光る物体が2体飛び出してきた。
なんだろうと思ってよく見ると・・・・・それは魔剣を持ちメタルアーマーを装着したオーガファイターだった。
ドスドスと大地を踏みしめながらこちらに向かってくる。
先頭のルイの顔にも緊張が走る。ルイはこの時点でオーガファイターと交戦した事は無かった。
それでもリリス達の目の前で良い処を見せたいとの思いが突き上げてくる。
だが先に手を出したのはイライザだった。
緊張のあまりにファイヤーボールを放ってしまったと言うのが事実であるが、それでも火球が水平に滑空し、そのままオーガファイター達に直撃した。ドウンと言う鈍い轟音と共に爆炎が舞い上がる。
だが舞い上がった爆炎の中からオーガファイター達は再度現われた。
若干の足止めになったようだが、イライザの攻撃が効いていないのは明らかだ。
ええっ!と驚くイライザを横目に、ルイは少し遠方からソニックを放った。
だがその白く光る衝撃波はオーガファイターの装着しているメタルアーマーに跳ね飛ばされて、あっけなく消えてしまった。
ルイの表情にも焦りが見える。
こちらに迫ってくるオーガファイターは火魔法に耐性があるのだろう。それに加えてあのメタルアーマーも魔力の流れを感じるので、普通のメタルアーマーでは無さそうだ。
「ルイさん、どうするの? あいつらと剣を交えるの?」
リリスの問い掛けにルイは、
「いざとなれば・・・・・」
そう答えただけで魔剣を構え直した。
ルイさんの技量でアイツらを切り裂けるのかしらねえ?
スラッシュくらいは発動出来るんでしょうけど・・・。
だが案ずるリリスの横に居たエリスが、何時になく軽い口調でリリスに話し掛けて来た。
「オーガファイターってリリス先輩のカモじゃないですか。さっさと退治しましょうよ。」
わざとらしい笑顔を向けるエリスである。
煽ってるわね。
リリスもエリスの気持ちを少しは理解していた。ルイ達に魔法の技量が低そうだと思われていたのが癪だったのだろう。
それならエリスの言葉に合わせてみようとリリスは思った。
「じゃあ、やるわね。」
そう言ってルイの前に進み出たリリスは、魔力を集中させて両手に二本の二重構造のファイヤーボルトを出現させた。
杭のように太いファイヤーボルトにイライザの目が釘付けになっている。
投擲スキルを発動させながら放ったファイヤーボルトは、キーンと金切り音を立てながら斜め上空に舞い上がった。
それは上空で急に下方に向きを変え、オーガファイターの動きに合わせて左右にスライドしながら高速で向かっていく。
それぞれのファイヤーボルトは見事にオーガファイターの胸部に着弾した。
着弾と共に二重構造の外側の炎熱でメタルアーマーを貫通させ、内部に仕込まれたファイヤーボルトがオーガファイターの肉体を燃え上がらせる。
だが最近のリリスは覇竜の加護の影響などもあって、火魔法にも上方修正が大きく作用していた。
爆炎を上げて燃え上がるのみならず、その威力の故に燃えながら粉々に飛散してしまった。
リリスの前方にガラガラガラと音を立てて、四散したメタルアーマーの破片や魔剣が転がった。ぶすぶすと煙を上げている黒焦げの魔剣に近付いたリリスは、それをツンツンとブーツで突いてみた。
ガサッと音を立て、その魔剣は消し炭と化してしまった。
「それって本当にファイヤーボルトなの?」
イライザの驚く声にルイも苦笑いを浮かべるしかなかった。
その後方で『見るたびに火力が増加しているようだな』と言うジークの呟きが聞こえてくる。
「やっぱりオーガファイターって先輩のカモでしたね。」
そう言いながらエリスは前に歩き出した。そんな事は無いわよと謙遜しつつリリスは手を横に振り、エリスの横に並んで一緒に歩き始めた。
エリスの顔にも余裕が見える。
ルイとイライザが前に進むことを若干躊躇っていたので、自然にリリスとエリスが先頭に立つ事になってしまった。
暑い日差しの中を再び歩く。
程なく前方に二つの砂煙が立ち、それがこちらに向かってくるのが見えた。
目を凝らして良く見ると、巨大な二体のサソリだ。
体長は5mほどもありそうなサソリがこちらに向かってくる。
それを見た瞬間にルイとイライザは顔が青ざめてしまった。
「サソリだから強烈な毒を持っていそうね。」
リリスはそう言いながら、速度重視の細めのファイヤーボルトを数発出現させ、向かってくるサソリに向けて斜め上空に放った。
キーンと言う金切り音を立てて、数発のファイヤーボルトが弧を描いてサソリに向かい、リリスの誘導もあって全弾着弾した。
ドドーンと言う爆音と爆炎が立ち上がったのだが、その爆炎の中からサソリが現われ、ブルブルと身を震わせながらこちらに再度向かってくる。
火魔法に耐性を持っているのは明らかだ。
50mほど離れた位置から二体のサソリが同時に尻尾を振り上げ、緑色の毒液をこちらに放ってきた。
まだ距離があるので届かないが、これは攻撃力を誇示しているのだろう。
リリス達の前方10mほどの地面に落ちた毒液はブツブツと泡を吹き、その臭気を周りに放ち始めた。
あんなものを浴びせられたら大変だ。
さっさと始末しようとも思ったのだが、ここでリリスの心に若干の悪戯心が沸き上がって来た。
隣に居るエリスに向かって、
「エリスのブリザードを見てみたいなあ。」
そう言いながらリリスは悪戯っぽい目つきでエリスを見つめた。
それに対してエリスは困ったような仕草を見せた。
「こんな砂漠でブリザードですかあ。無茶振りですよねえ。」
そうは言いながらもエリスの表情はまんざらでもないと言った表情だ。
「それなら先輩の土魔法であのサソリを土壁に閉じ込めてくださいよ。」
あらっ!
やる気満々じゃないの。
リリスは分かったわと答えて魔力を集中させ、土魔法で迫りくるサソリの足元に深さ3mほどの泥沼を出現させた。
サソリはその泥沼にはまり込んで、一瞬その動きが鈍くなった。
そのまま加圧で抑え込みながら、サソリの周囲に高さ3mほどの土壁を出現させる。これをサソリの四方に造り上げてサソリを閉じ込める。
勿論、閉じ込めたと言っても上は開いたままなので、サソリも逃げ出そうとするのだが、加圧を掛け続けているのでその動きは鈍い。
突然の泥沼や土壁の出現に、ルイとイライザは呆然としている。
手際良いリリスの土魔法に唖然とするばかりだ。
「リリス先輩。それで充分ですよ。」
エリスはそう言うと魔力を集中させ、両手から次々とアイスボルトを放ち始めた。
長さ30cmほどの氷の短槍が大量に放たれ、弧を描いて土壁で区切った区画の中に撃ち込まれていく。
アイスボルトの氷結効果で土壁の内外に霜が付き、そこから這い出ようとしていたサソリの身体も氷結し始めた。
だがそれは致命傷になるほどではない。
あくまでも足止めだ。
頃合いを見計らってエリスは魔力を放ち、土壁で区切った二つの区画のそれぞれの上に直径2mほどの魔方陣を出現させた。
「この環境でブリザードを放つのは非効率的なので、局所的に術を掛けますね。」
そう言ってエリスはぐっとこぶしを握り、魔力を集中させて両手を突き出した。
その表情は今までリリスも見た事が無いほどに、緊張感に満ちたものだった。
次の瞬間に魔方陣から激しい凍結の冷気が嵐のように吐き出され、土壁で区切った区画を冷気で包み込み、溢れ出る冷気がキラキラと光りながら蒸発していく。
見た目は奇麗だけどねえ。
感心しつつも土壁の内部の様子を想像すると身の毛がよだつリリスである。
リリスは元の世界で高校生の頃に、テレビで見た科学の実験を思い出した。
金属の容器に液体窒素を流し込んで、中に置かれた物体を凍結させる実験だ。
エリスの放った局所的なブリザードはその実験を思い起こさせる。
それにしても機転の利く子ね。
『砂漠でブリザードを放て』なんて無茶振りを、上手くこなしているわ。
感心しているリリスの目の前で、エリスは魔力を放つのを止めた。
「リリス先輩。もう充分だと思いますから、土壁を取り除いてください。」
エリスの言葉を聞いて、リリスはうんと頷き土壁を元の土に戻した。
後に残されたものは、土壁にへばり付く形で直立したまま凍結した2体のサソリである。
だが土壁がなくなったのでバランスを崩して、2体共に徐々に傾き、そのまま地面に倒れてしまった。
既に生命反応は無い。
パリンと言う音と共に、真っ白に凍結したサソリの身体は粉々に砕け散ってしまった。
その粉々になった破片からシューッと蒸気が立ち上っている。
「完全に凍結しちゃったわね。」
呆れるばかりのリリスの言葉に、エリスはえへへと照れ笑いを見せた。
一方、後方に居たルイとイライザはその様子をじっと見つめていた。
「僕達はとんでもないものを見せられているんだろうね。」
そう呟いたルイにイライザは黙って頷くだけだった。
「このダンジョンはこの階層で終わりなので、もう少し歩くと行き止まりになっている。天井まで届く大きな壁があるから、そこに辿り着き、壁に印をつけて戻るのが慣例なんだ。」
後方から近付いて来たゴーグはそう言いながら、地面に転がるサソリの破片をブーツで踏みつぶした。
「土魔法と水魔法のコンビネーションと言うのも面白いものだね。属性魔法の可能性を広げてくれる試みは大歓迎だよ。」
ゴーグの言葉に学究肌の波動を感じて、リリスは何気に親近感を持った。
ジークよりは話が合いそうだ。
そう思ってジークの方を振り返ると、ジークは前に進めと目で合図をしている。
リリスとエリスの魔法の技量やスキルにあえて触れないようにしているのだろう。
気を取り直してリリスは前に進み始めた。
そのまましばらく歩くと前方に高い壁が見えて来た。
壁の横幅は10mほどで、その壁に合わせるように両側の空間が狭く収束しているのが分かる。
だがその手前の地面から突然何かが盛り上がって来た。
黒く細長い物体。
良く見るとそれは巨大なムカデだった。
体長は10mを越えている。
ラスボスの登場なのだろうか?
キシャーッと気味の悪い鳴き声を上げ、ムカデは緑色の液体をこちらに向かって吹きかけて来た。
地面に撒かれたその液体が刺激性の臭気を振り撒き、瘴気がこちらにも漂ってきた。
こいつも毒持ちなのね。
ムカデとの距離は50mほどだ。
だが地面を滑るようにムカデはこちらに向かってくる。
その速度が意外に早いので、リリスは足止めの為にムカデの前方に土壁を出現させた。
高さ3m幅は10mほどの土壁だ。
ムカデはそれを乗り越えようとして伸び上がってくる。
その際に見える腹部に向けて、リリスは高速のファイヤーボルトを数発放った。
キーンと言う金切り音を立てて滑空するファイヤーボルトは、ムカデの手前で一旦下降し、腹部に向けて上昇して着弾した。
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だがムカデは何事も無かったかのように、その爆炎から再び姿を現わした。
こいつも火魔法に耐性を持っているのね。
リリスは即座に戦法を変え、解析スキルを発動させた。
浸透性と粘着性を持つ強毒を用意して!
リリスがそう念じると、解析スキルの返答が脳裏に浮かび上がった。
『久しぶりの毒攻撃ですね。疑似毒腺をフル活動させましょう。』
何故そんなに張り切っているのよ。
そこまでしなくても良いわよ。
相手は大きい敵だけど1体だけだからね。
『そうですか。それなら仕方が無いですね。』
残念がる気持ちが分からないわね。
リリスは気持ちを切り替え、解析スキルが送り込んできたイメージに合わせ、毒生成スキルを発動させた。
瞬時に生成された強毒を二重構造のファイヤーボルトの内部に仕込む。
そのイメージに合わせて出現させたファイヤーボルトを、リリスはムカデに向かって2発放った。
太い杭のようなファイヤーボルトがムカデに向かい、弧を描いて襲い掛かる。
ファイヤーボルトの本体が若干緑色に見えるのは、その内部に格納された強毒の影響だ。
相手が巨大なので狙いが逸れる恐れはない。
2発のファイヤーボルトは見事にムカデに着弾した。
着弾と共に爆炎が上がるのだが、その火炎による損傷は、火魔法に強耐性を持つムカデには生じない。
だがそれでも爆発と共に、その甲殻に若干の傷を負わせる事は出来た。
二重構造のファイヤーボルトの内部に格納された強毒はその傷に浸透していく。
この強毒は生き物のように動き回り、傷を探して潜り込んでいくのだ。
しかも粘着性があるのでムカデの動きに振り落される事も無い。
爆炎を擦り抜けてこちらに向かってきたムカデの動きが突然止まった。
そのままドサッと地面に突っ伏したムカデの身体のあちらこちらから、緑色の蒸気が立ち上り始めた。
強毒がムカデの体組織を溶かしているのだろう。
その強烈な臭気がこちらにまで漂ってきて、リリス達の目や鼻を刺激する。
ジークやゴーグも顔をしかめて目を擦り始めた。
更にルイとイライザはその場にしゃがみ込んでしまった。
ルイとイライザは毒や瘴気に耐性を持っていないのかも知れない。
エリスは顔をしかめているが大丈夫のようだ。
程なくムカデの身体はその甲殻を残したまま溶け出してしまった。
ドロドロに溶け出した緑色の液体が泡を吹き、瘴気が撒き散らされている。実にグロテスクな状況だ。
「リリス君。あの巨大な魔物を倒したのは上出来だが、後始末をしてくれないか? このままでは壁のところにまで行けないからね。」
「燃やすなり、土に埋めるなりしてくれ。」
ゴーグの言葉にリリスはハイと答えて土魔法を発動させ、ムカデの周囲を泥沼にした。加圧を掛けて泥の中に沈み込ませ、その表面を硬化させて元の地面に戻す。リリスにとってはお決まりの所作だ。
硬化された地面を恐る恐る歩きながら、一行は壁の傍まで辿り着いた。
だがその壁を見てルイやイライザやゴーグはえっ!と驚き目を見張った。
「何故ここに・・・・・下に向かう階段があるんだ?」
壁の岩肌に溶け込むように、そこには下層に向かう階段が出現していたのだった。
ある筈のない階段が・・・・・・。
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彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
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