落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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姉妹校にて3

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オルトのダンジョンの第3階層。

その最奥部の壁にその階段は姿を現わした。

ある筈のない階段・・・。

「・・・・・第4階層があるのか?」

ゴーグが躊躇いながらに口を開いた。

「未知の階層って危険ですよ。ここで終わりにしましょう。」

ルイが緊張感満載の表情でゴーグに話し掛けた。
ゴーグも無言で頷いたので、その場で帰途に就こうとしたのだが、即座に後方に居たイライザの叫び声が聞こえて来た。

「帰り路が失くなっているわよ!」

ええっ!と驚いてゴーグが後ろに走ると、そこには分厚い半透明な壁が立ちはだかっていた。

「いつの間にこんなものが・・・・・」

半透明の壁はどれほどの厚みがあるのかも分からない。その壁は後方一面を地面から天井まで覆い尽くしている。
魔力を帯びていて簡単には破れそうにないので、ゴーグは諦めて懐から大きな魔石を取り出した。

転移の魔石を発動させようとしたのだが、魔石は何の反応も無いままだ。
ゴーグの表情に焦りが見える。
何度魔力を流しても魔石は反応しない。

「・・・・・閉じ込められてしまったようだな。」

ジークがポツリと呟き、階段の奥を覗き込んだ。

「下層に進めと言う事だ。」

ジークは振り返りながらリリスの顔を見つめ、

「リリス君が居るから何とかなるだろうけどね。」

そう言いながら苦笑いするジークに対してリリスは首を横に振った。

「何が待ち受けているか分からないんですよ。それでも行くんですか?」

「僕も引き返した方が良いと思うのだが、あの様子じゃねえ・・・・」

ジークの視線の先には未だに魔石に魔力を流しているゴーグの姿があった。
それは若干滑稽にも見える状況なのだが。

その場にいた誰もが前に進むか否か躊躇っていたその時、階段の傍に突然黒い人影が出現した。
アッと叫んで警戒するリリス達の目の前で、その人影は姿を徐々に変え、真っ黒な身体でその顔には白い眼だけが浮き出た姿になった。

「心配しなくても良い。この下層にはお前達に見て貰いたい物があるのだ。」

機械的な声がその場に響く。

この声のトーンって・・・・・どこかで聞いた事があるわね。

リリスは自身の記憶を巡らせる。

そうだ!
シトのダンジョンコアの仮想人格だ!
もしかしてこれも同じような・・・・。

そう思ったリリスの疑問は次の瞬間に確信に変わる。

「私が何者か、すでに見当がついている者も居るようだ。」

「私はお前達のような、稀有なスキルを持つ者がここに来ることを待っていたのだ。是非、下層に降りてくれ。危険な目に遭う事は無いだろう。」

「そこでの判断は全てお前達に任せる。」

そう言うと、人影はフッと消えてしまった。

しばらく沈黙が続く。

その沈黙を破ったのはジークだった。

「降りてみるしかなさそうだね。」

その言葉に全員黙って頷いた。





30段ほどの長い螺旋階段を降りていくと、目の前に広がってきたのは石造りの建物の中だった。

薄暗い石造りの壁のところどころに松明が掛けられていて、仄かに明るい通路が延々と続いている。
普通ならこのどこかで魔物が出現するようなシチュエーションだが、その類のものはなにも出現しない。
コツンコツンとブーツの足音が通路に響く。

恐る恐る歩くルイやイライザと異なり、リリスは何故か心が落ち着いていた。

ダンジョンコアの疑似人格は私達に、何を見せようとしているのかしら?

その興味がリリスの足取りを強く前に進ませる。それはエリスも同じであった。

しばらく通路を進むと灯が見えて来た。そこに入るとそれは、高いドーム状の天井のあるホールのような広い部屋だった。
その中央に台座があり、その上に大きな円形の枠がある。
その円形の枠の中は空間が歪み、色々な光彩が煌めいているのだが、これは何だろうか?
恐る恐るその台座に近付くと、その傍らに白い人影が浮かび上がった。
その人影はホログラムのようで、特に敵意は無さそうだ。

白い人影から聞こえて来たのは消えてしまいそうなか細い声だった。

「あなた達はダンジョンコアによって選ばれた方達ですね。どうか私達に力を貸して下さい。」

選ばれた?
リリスの心に少なからず違和感が生じた。

「選ばれたって・・・私達が?」

「そうです。そうでなければこの場所に来れませんから。」

人影はそう言うと台座の上に来るように手招きをした。

「これって何かの罠じゃないんですか?」

エリスの言葉にリリスも頷いた。だが人影が語った言葉は驚くべきものだった。

「私達は戦乱を逃れて500年前に退避したのですが、ここに戻ってくる手段を失ってしまったのです。ですがあなた達ならそれを取り戻せるはずです。是非ともこの転移門をくぐって私達の元に来てください。あなた達に危害は及ばないと確約しますので。」

人影はそう言うと、深々と頭を下げた。

リリスはジークの方を振り返り、

「どうします?」

そう尋ねて反応を見る。
ジークはう~んと唸って考え込んだ。
だがゴーグは興味深そうな表情で口を開いた。

「面白そうじゃないか。行ってみようか?」

その言葉に釣られてルイとイライザも無言で頷いた。

「どのみち退路は無いんだ。行ってみようじゃないか。」

ゴーグに促されてジークも渋々了承した。

「まあ、いざとなったらリリス君に頼る事にするよ。」

「私に過度に期待しないで下さいね。」

そう返答したリリスだが、本音としてはジークに奮闘して貰いたいところである。

ジーク先生ったら、いつもシールドを張るだけで、後ろで高みの見物をしているのよね。

リリスの思いはエリスにも伝わったようで、エリスは苦笑いをしながらリリスの顔を見つめた。



意を決してゴーグを先頭に、全員が台座の上の転移門をくぐった。

リリス達の目の前に広がったのは青い空と緑溢れる草原だった。
その草原の向こう側に広大な畑が見える。そのところどころに石造りの人家も見えているが人の気配は無い。

「ここは何処なんだろうか?」

ゴーグの言葉に、ジークは無言で上空を指さした。

青い空に太陽が二つ並んでいた。

ここってどこなのよ?
もしかして異星なの?

自分達の居た大陸ではない事は確かだ。
その二つの太陽をじっと見つめていると、どこからともなく声が聞こえて来た。

『さあ、私達の村に来てください。』

あの白い人影の声が聞こえてきたのだが、人影の姿そのものはどこにも見えない。

「とりあえず、あの村に行けば良いようだな。」

そう話すゴーグに対して、リリス達も無言で頷き、村に向かって歩き出した。





しばらく歩いてその村に辿り着くと、その中央に大きな集会所らしき建物が目に入った。

『あの建物の中に入ってください。』

声に導かれるままに建物の中に入ると、そこはやはり広い集会所で、その奥に椅子に座った白い人影が見えた。
その人影はすっと立ち上がり、振り向いてこちらに近付いてくる。
カラフルな衣装を身に纏った女性のようだが、離れている上に顔が白くて表情が良く分からない。

だが近付いてくるに従って、抜けるように白い肌と薄い金髪、モスグリーンの瞳が目を引いた。まるで妖精だ。
とても実体とは思えない。だが金髪の陰から尖った耳が見える。

ハイエルフだ!

人目に付く事の滅多に無い種族だけに、リリスも思わずじっと見つめてしまった。

「良く来てくれましたね。」

甲高い声が集会所に響いた。

「私の名はリーフ。我が種族の長を務めています。」

リーフはそう言うとリリス達を集会所の端にあるソファに案内した。
簡素な造りのソファに座るとリーフは集会所の奥から仲間を呼び寄せ、リリス達にお茶を用意するように指示をした。
集会所の奥に別の部屋があるようだ。

それぞれの名を名乗り挨拶を交わすとその都度、リーフの目がソファに座るリリス達の心を射抜くように突き刺さる。
だがそれは直ぐに柔和な目つきに変わった。
初対面なので警戒しているのだろう。

「この村に来て、魔力の流れが不自然だと思いませんでしたか?」

突然のリーフの問い掛けにゴーグが頷いて、

「確かにそれを感じていますよ。急に流れが大きくなったかと思うと直ぐに小さくなってしまう。その変化がまるでリズムを刻んでいるようにも思えるのですが・・・」

ゴーグの返答にリーフは金髪を掻き上げながら深く頷いた。
その仕草は優雅にも見える。

「ここは元々魔力の存在しない世界なのです。そこに無理に魔力を投入したのですが、この世界はそれを拒絶しませんでした。徐々に魔力の存在を取り込もうとしているようなのです。」

「それは悪い事ではありませんね。むしろ良い傾向かと思いますが。」

ゴーグの言葉にリーフはふっと笑った。だがその表情が直ぐに真顔に戻る。

「およそ500年前に戦乱を逃れてここに来た当初は、私達もそれを良い事だと思ったのです。ですが100年ほど経過した頃に、大きな問題が発生したのです。」

「それは・・・・・」

リーフはその当時の話を説明し始めた。

要約すると彼女たちは戦乱を逃れてこの世界にやって来たと言う。
この世界への転移門を設置したのはオルトのダンジョンのダンジョンマスターで、ヒックスと名乗る高位の魔族だった。魔族と言っても人族や獣人たちに敵意を持たない種族だったらしい。
転移門を維持し、この世界に魔力を流すために、ヒックスはオルトのダンジョンのダンジョンコアの持つパワーを流用した。
この世界には魔力が存在しないので、そのままではリーフ達の生活にも大きな支障をきたしてしまう。

「私達は魔力が無くては生命を維持する事も困難なのです。」

そう言ってリーフはフッとため息をついた。

この世界が魔力を受け入れる様子を見せたので、リーフ達も安心してここに移住してきたらしい。彼女達の総数は移住当初は500人だったが、現在では200人程度だと言う。

転移門を通して流した魔力がある時を境に大地に吸い込まれ始めた。それは転移門の起動装置を設置した祠の周りに蓄積され、その一帯の生態系を崩壊させてしまった。更にその余波で大量の特殊な魔物を産み出してしまったと言う。

「特殊な魔物って何ですか?」

ジークの言葉にリーフはその額に皺を寄せた。

「属性魔法に強固な耐性を持つロックゴーレムです。個々は体長2mほどで、それほど大きくないのですが、100体以上居るので何かと厄介なのです。しかも祠を占拠していて魔量の流れの大半を奪われ、私達は生存に必要な魔力の確保にも四苦八苦している状態なのですよ。」

「勿論ロックゴーレムの討伐も試みましたが、属性魔法に対する彼らの耐性は強固で歯が立ちませんでした。」

「それで元の世界に戻ろうと言う事になったのですが、魔力の流れが希薄になってしまって、元の世界への帰路が開通出来ないのです。それを開通させるためには、ロックゴーレムを掃討した上で、祠の中にある転移門の起動装置を再起動させなければなりません。」

ここまでの話を聞いてリリスは愕然とした。
自分達も今の現状では元の世界に戻れないと言う事だ。

結局そのロックゴーレム達を掃討するしかないのね。

リリスはそう思い、う~んと唸って俯いてしまった。
リリスの傍に居たエリスも同じように唸っている。
リーフの言葉から判断して、ロックゴーレム掃討にハイエルフの加勢を望むのは無理だろう。
自分達だけでやるしかない。
そう思うと暗鬱な気持ちになってしまう。

その沈黙を破ったのはゴーグだった。

「結局僕らがやるしかないのだよな。」

その言葉にジークも頷き、

「そうだな。とりあえずその祠に向かってみよう。」

そう言うとジークはリリス達の表情をじっと見つめた。
リリス達も黙って頷くだけだ。

よろしくお願いしますと言うリーフの言葉に送り出されるように、リリス達はソファから立ち上がった。

リーフによると村のはずれの小高い丘の上に祠があるそうだ。

その祠を目指してリリス達は集会所を後にした。




集会所の南方に小高い丘が見える。そこまで辿り着く道中、村の中には人の気配がない。
だが微かに生命反応は感じられるので、住居の中にハイエルフが居る事は間違いないのだろう。
リーフの言葉の通り、生命を維持するのに精一杯と言う事なのか?
ハイエルフは魔力吸引スキルを持っていないのだろうか?

あれこれと考えながら、リリスはゴーグとジークの後に付き従って、畑の中の小径を歩き続けた。



小高い丘に辿り着き、緩やかな坂道を登っていくと前方に祠が見えて来た。祠と言っても集会所よりも格段に大きい。
その周囲に魔力が渦巻き、異様な気配が漂っている。

これはロックゴーレムの気配なのだろうか?

ゴーグの表情にも緊張が走る。
ゴーグの指示でジークが全員に多重にシールドを張り巡らせた。それに合わせてリリスは念のため、魔装を非表示で発動させた。
傍に居たエリスも魔力で身体を覆う様に包み込んだ。それは恐らく初歩の身体強化のスキルなのだろう。
向上心に富むエリスは、自力で身体強化を学び習得している途上のようだ。

祠に近付くと正面に大きな開口部が見えて来た。

「中に入るぞ!」

ゴーグはそう言いながら、祠の内部を探知してため息をついた。

「おいおい。マジかよ。本当に100体以上居そうだぞ。」

それはリリスにも感じられた。改めて探知すると小さな魔物の反応が無数にあって、祠内部の剥き出しの地面から出たり入ったりしている。
地面の上に50体、地下に50体がのロックゴーレムが、目まぐるしく出没を繰り返しているのが何とも不気味だ。

だがゴーグが祠の中に一歩足を踏み入れた途端にその様相が一変した。

地面の上に居たロックゴーレム達の無機質な顔がこちらに向いたと思うと、ゴゴゴゴゴッと大きな音を立てて、大量の岩石がリリス達に襲い掛かって来た。

「危ない!」

慌ててジークが前方にシールドを張り、岩石はシールドにぶつかって砕け散った。どうやら30体ほどのロックゴーレムが一斉にロックブラストを放ったようだ。
1体のロックゴーレムの放つロックブラストはその威力も知れているが、30体以上で一斉に放たれると流石にその威力も凄まじい。

「油断ならない奴らだ。リリス君、エリス君。それぞれの魔法で攻撃してくれ! 僕も雷球を放つのでね。」

そう言うとゴーグは一気に魔力を集中させ、前方に突き出した両手から次々と大きな雷球を放ち始めた。直径2mにもなる雷球が20発以上も放たれ、祠の中で互いに干渉し合って雷撃の嵐を巻き起こした。バリバリバリッと轟音を立て、その稲光で目の前が真っ白になった。
その祠の中にランダムにリリスがファイヤーボルトを次々に放ち、エリスはウォーターカッターを次々に放っていく。

目の前で何が起きているのか分からない状態だ。それでも探知するとロックゴーレムの気配は消えていない。

雷球の稲光とファイヤーボルトの爆炎が収まると、地面に臥していたロックゴーレムが一斉に動き出し、再びロックブラストを放ち始めた。
それはジークの張ったシールドを突き破り、その衝撃音と共にリリス達の傍を駆け抜けていった。

「拙いな。効いていないぞ。」

ゴーグの焦る声と同時にジークがシールドを張り直す。
ゴーグは即座にエリスに声を掛けた。

「ここなら、この閉鎖空間ならブリザードも効くんじゃないのか?」

「そうですね。直ぐに取り掛かります!」

エリスは素早く魔力を集中させ、それを一気に前方に放った。
エリスの前方に横一列に7個の魔方陣が出現し、その向きを横に変え、祠の中に一斉に冷気を放ち始めた。
更にエリスがグッと力を入れて魔力を注ぐと、魔方陣から放たれる冷気がその激しさを増し、目の前が真っ白に凍結していく。
相当な魔力を費やしているのだろう。エリスの表情が険しくなり、肩で息をするように身体を震わせた。

だがそれでもロックゴーレムの気配は消えていない。

凍結の冷気が収まった祠の中で、あちらこちらに蠢くロックゴーレムの姿が見えた。その動きは流石に緩慢になっているようだが、殲滅するほどに効いてはいないようだ。

「う~ん。元は岩石だからなあ。」

ため息にも似たゴーグの声が虚しく響く。

戦略を変える必要がありそうね。

リリスは意を決し、魔力吸引スキルを発動させながら、祠の中に足を踏み入れていったのだった。




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