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復活したダンジョン1
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復活したギースのダンジョンの第1階層。
リリス達が入り口から階段を降りて中に入ると、そこはところどころに低木の藪がある広い草原だった。
藪の影から魔物が出てきそうなシチュエーションである。
「探索マニュアルによると、先に進むにつれて霧が出てくるそうだ。」
「視界が効かなくなる上に、魔力が拡散されて探知もし辛くなるようだから、慎重に進んだ方が良い。」
ジークの言葉にリリス達も気を引き締めた。
ダンジョンの中は明るく、閉塞感は無い。
高い天井に空が写し出されていて、時折爽やかな風も吹く。
丁寧に造り上げたのかしら?
ダンジョンコアに思いを馳せると、リリスの左手首の小さな黒点が反応して、軽く振動し始めた。
それはリリスとギースのダンジョンコアとの連結点だ。
軽く指でその黒点を撫でると、リリスの脳内に第1階層の俯瞰図が浮かび上がって来た。
まあ、親切ね。
ガイドをしてくれるつもりなのかしら?
思わずニヤッと笑みをこぼしたリリスである。
一行が草を踏みしめながら順路を進むと、マニュアルに記された通り霧が発生してきた。
それは徐々に濃くなってきて、しばらくすると3mほど先でも見えなくなってしまった。
「油断しちゃ駄目よ。」
リリスがそう口走った途端に、ニーナが叫んだ。
「エリス! 左前方から来るよ!」
ハッと驚いて構えたエリスの左前方から矢が飛んできた。ジークが張ったシールドに阻まれ、カンカンと音を立てて地面に矢が落ちた。
それと同時にエリスは左前方に向けてウォーターカッターを大量に放った。
「エリス。敵の位置を把握してる?」
ニーナの問い掛けにエリスはう~んと唸って、
「まあ、大体のところはねえ。」
そう言いながらアイスボルトを数本放った。
その数秒後、霧の向こうでウグッと言う悲鳴が聞こえて来た。
エリスの目の前にドサッと音がして、黒い人影が倒れている。
軽装備であるが、どうやらゴブリンのようだ。
だがその様相にリリス達は違和感を感じた。
「これってゴブリンなの? 随分体格が良いわよ。背も高いし・・・・・」
エリスの呟きにリンディが口を開いた。
「ゴブリンファイター・・・・・じゃないかな?」
「そんなの居るの?」
「だってここに居るじゃないの。」
女子の会話が途切れない。
背後からジークが呆れて声を掛けて来た。
「ほらほら、油断してないでね。それと探知を怠らないようにね。」
「ちなみにそこに倒れているのは確かにファイタークラスのゴブリンだよ。マニュアルでは数匹出てくると記されている。」
まだ居るのね。
リリスは探知の範囲を広げるために、魔装を非表示で発動させた。
途端に索敵範囲がグンと広がり、うっすらと魔物の居場所が感じられる。
だがそれでも探知し辛いのはこの霧の持つ特性なのだろう。
左手首の黒点を撫でると、リリスの脳内にこの階層の俯瞰図が浮かび上がり、所々に特殊な構造物の存在が把握出来た。
この構造物は何だろうか?
魔物の位置情報は把握出来ている。
だがエリス達は把握しているだろうか?
リリスは改めてニーナに問い掛けた。
「ニーナ。あなたは魔物の位置情報を正確に探知出来ているの?」
ニーナはリリスの言葉にうんと頷き、懐からスローイングダガーを取り出した。
「魔物じゃないけど、気になる物があるんだよね。」
ニーナはそう言うとスローイングダガーを斜め上空にブンッと投げた。それは放物線を描いて霧の向こうに消えていく。
数秒後、霧の向こうからガツンと言う音が聞こえて来た。
「うっ! 邪魔されちゃったわ。」
リリスが探知すると、ニーナのスローイングダガーが向かった先にあの構造物がある。その前にゴブリンらしき存在が感じられるので、それがスローイングダガーを叩き落としたのだろう。
それにしてもゴブリンが守っているこの構造物は何だろうか?
疑問に感じたリリスにジークが背後から声を掛けた。
「霧を発生している石像があるんだよ。それを破壊すれば霧は消えてなくなるんだ。」
そんな事は先に言ってよね!
そう感じたのはリリスだけではないようだ。
チッと舌打ちをしながらエリスはニーナに話し掛けた。
「ニーナ先輩。石像の位置情報を共有させてください。」
そう言うとエリスはニーナと手をつないで魔力をやり取りし始めた。
数秒後、うん!と気合を入れてエリスはアイスボルトを時間差を付けて数本放った。
それはスローイングダガーと同じ軌道を描き、霧の向こうに消えていく。
更に数秒後、パリンと言う音を立てて何かが崩れ落ちる気配がした。
それと同時に霧が晴れていく。
「最初のアイスボルトで石像を凍結させたから、後のアイスボルトの着弾の衝撃で粉々になっちゃったようね。」
確かに石像の存在が脳内の俯瞰図から消えている。
だが、いつの間にエリスとニーナは、魔力のやり取りで探知情報を共有出来るようになったのだろうか?
不定期的な補講の際にロイドが随伴し、二人でシトのダンジョンに潜っているとは聞いていた。
それにしてもこの二人の連携には磨きが掛かっているようだ。
「ほらっ! 油断しちゃ駄目よ。」
リンディが声をあげて指さす方向には、こちらに向かって走ってくる二体のゴブリンファイターの姿があった。
その走る速度も到底ゴブリンとは思えない。
素早く走り寄り、剣を振り上げて襲い掛かって来た。
その様子を見て反射的にリリスはファイヤーボルトを数発放った。
速度重視の軽量なファイヤーボルトだ。
火矢は弧を描いて斜め上空からゴブリンファイターの身体を撃ち抜き、その背後に突き抜けて地面に火炎を上げた。
火に包まれてドサッと倒れたゴブリンファイターの手から剣が離れ、ニーナの足元にコロコロと転がってくる。
ニーナはそれを足でガシッと踏みつけて固定し、まじまじとそれを見つめた。
「これって魔剣だよ。第1階層からこんなものが出てくるの?」
ニーナの言葉にジークが頷き、
「魔力の通りを良くするように手を加えた魔剣だね。ゴブリンファイターの身体強化に合わせて反応するようになっているんだよ。」
そう言ってゴブリンファイターの遺骸を睨みつけた。
「男子達も剣だけで対応すると、こいつには結構苦戦していたんだよね。」
う~ん。
最初から難易度が高いわね。
やはり接近戦は避けた方が良さそうだわ。
リリスはそう思いながら左手の黒点を撫でた。
脳内に浮かび上がった俯瞰図では、この階層の奥にも石像と魔物の存在が確認出来る。
さあ行こうと声を掛けて、リリスはエリス達を促し、第1階層の奥へと進んだ。
草原を進むにつれて、所々にリリスが薬草図鑑で見た植物の群生が見える。
どうやら薬草の採取もここで出来る仕様になっているようだ。
親切な仕様だが薬草採取を生業にしている冒険者にしてみれば、戦闘を乗り越えなければ採取に取り組めない。
余程薬草の品質が良くなければメリットは無いだろう。
そんな事を思いながら歩く事10分。
リリス達の周辺に再び霧が発生してきた。
ニーナが探知してエリスにその情報を共有させ、エリスがアイスボルトで石像を破壊する。
パターン化したその動きであっけなく霧は晴れた。
だが霧が晴れて前方から駆けつけて来たゴブリンファイターの様子が変だ。
3体のゴブリンファイターの身体が、光を浴びてキラキラと輝いている。
更には大きな盾も見えた。
「メタルアーマーでフル装備しているわよ!」
ドドドドドッと疾走してくるゴブリンファイターに反応して、エリスは大量のウォーターカッターを放った。だがメタルアーマーに跳ね返されてあまり効果が見られない。
足止めした方が良いわね。
リリスは土魔法を発動させ、ゴブリンファイターの向かってくる前方に高さ2m幅5mほどの土壁を出現させた。
左右に分かれて回り込んでくる2体のゴブリンファイターは、リリスのファイヤーボルトとエリスのアイスボルトで始末した。
だがもう1体のゴブリンファイターが現われない。
不思議に思っていると、ドサッと言う音がして壁の端からゴブリンファイターの身体が崩れ落ちて来た。
その背後から顔を出したのは・・・・・ダガーを手にしたニーナだった。
ええっ!
何時の間に背後に回ったの?
ニヤッと不敵な笑顔を見せ、ニーナはダガーの血糊を洗浄魔法で落とした。
う~ん。
暗殺者の本領発揮ね。
ニーナの潜在能力にリリスは驚き、声も出ない。
背後でパチパチと拍手しながら、ジークがニーナにお見事!と声を掛けた。
「最近、ニーナ先輩ってアレをやるんですよ。見事と言うか・・・背筋が凍っちゃいますよね。」
「確かにね。ジーク先生が悪知恵を入れなければ良いけど・・・」
そう言ってリリスはジークの顔を見つめた。
ジークはニーナの顔を見てニヤリと笑っている。
ニーナをそそのかして、本物の暗殺者に仕立てようとしたら赦さないわよ!
リリスの気迫を感じ取ったのか、ジークはリリスの視線をふいっと避けた。
まあ、普通に考えればニーナは商人の娘なので、軍の諜報機関に駆り出される事は有り得ない。
だがジークの考える事だ。
ニーナの卒業後に関して姑息な画策を始めるかも知れない。
そんな不安がついリリスの心に過ってしまう。
若干もやもやした思いを持ちながら、リリスは階層の奥に見つけた階段を降り、エリス達と共に第2階層に向かった。
次の第2階層は第1階層と全く同じ仕様であった。
これはジークの持つ探索マニュアルにも、その様に記されていた。
だが続く第3階層は少し様相が変わる。
出現する魔物は雷撃性のジャイアントエイプの群れだ。
時によって変わるが30体前後で出現すると言う。
更に第3階層への階段を降りると、この階層の入口の手前に冒険者の待機所があるのも違う点だ。
ここは装備を整えると共に、第3階層で戦闘不能になった者達の救出の為の場所でもある。
その広さはテニスコート2面ほどで、既に男性3人組の冒険者がドリンクを片手に談笑していた。
一人は剣を持ち、もう一人はハルバートを傍らに置いている。
残る一人は魔法攻撃に長けた術者なのだろう。
手のひらの上に小さな火球を3個出現させ、それをお手玉のように操って遊んでいた。
だがその風貌は決して善良そうなものではない。
隙を見せれば色々と、悪しきを画策してきそうな雰囲気すら感じる。
剣を持つリーダーらしき男が笑顔でリリス達に話し掛けて来た。
「お嬢ちゃん達、ここまで無事に辿り着いたんだね。この先は結構ハードだから、装備の点検をしておいた方が良いぞ。」
長身でマッチョなこの男はグルカンと言う名で、戦闘不能に陥った冒険者の救出を生業としているそうだ。
「他のダンジョンと違って、ここは第3階層でもかなりハードだ。何かあったら俺達が助けに駆けつけてやるよ。」
そう言いながら他の2人の仲間に目配せをしているその様子に、リリスはどうしても違和感を感じた。
そのリリスの思いを察したように、ジークが小声でリリスに語り掛けた。
「全面的には信用しない方が良さそうだね。ここは色々な冒険者が出入りしているから、善人を装う者も居ると思うよ。」
ジークは更に小声でリリスの耳元に呟いた。
「救出の振りをして、倒れている冒険者の身ぐるみをはがす連中かも知れないからね。」
ジークの言葉にリリスは小さく頷いた。
その時はよろしくねとリリスは愛想良くグルカンに語り掛け、待機所の奥の扉に向かった。
扉と言っても半透明のエアカーテンのようなもので、人は何の問題も無く出入り出来るが、魔物はそこを通過出来ないと言う。
恐らく空間魔法によって構築されたものなのだろう。
リリス達がその扉を通過すると、そこには低木の森が広がっていた。
その森の藪のあちらこちらからキキキキキッという甲高い獣の声が聞こえてくる。
どうやらジャイアントエイプ同士で連絡を取り合っているようだ。
しばらく森の中の小径を歩くと、一行は少し開けた草むらに出て来た。
奥行きは100mほどで周囲を藪に取り囲まれている。
何となく不穏な気配が辺り一面に漂っていて、嫌な予感がその場を包み込んだ。
そろそろ出てきそうね。
そう思っていると近くの藪がガサガサと揺れ動き、そこから飛び出るように1体のジャイアントエイプが出現した。
一言で言えば手足の長い猿だ。
そしてこの個体は恐らく斥候なのだろう。
だが灰白色の毛に覆われたその姿は異様であった。
明らかに身体が大きい。
身長は2m以上ありそうだ。
その長い両腕の手首にはバチバチと音を立てて稲妻が纏わりついている。
「でかいわねえ!」
「こいつって本当にジャイアントエイプなの?」
ジャイアントエイプはエリス達の驚きの声に反応してこちらの様子を窺いながら、ギギッと叫んでふっと背後の藪に姿を消した。
その直後にキイーッと言う声を合図にして、あちらこちらの茂みからジャイアントエイプが湧き出るように飛び出してきた。
既に取り囲まれているようだ。
その数は既に20体を超えている。
にじり寄ってくるジャイアントエイプを睨みつけ、リリス達はその迎撃の準備を始めたのだった。
リリス達が入り口から階段を降りて中に入ると、そこはところどころに低木の藪がある広い草原だった。
藪の影から魔物が出てきそうなシチュエーションである。
「探索マニュアルによると、先に進むにつれて霧が出てくるそうだ。」
「視界が効かなくなる上に、魔力が拡散されて探知もし辛くなるようだから、慎重に進んだ方が良い。」
ジークの言葉にリリス達も気を引き締めた。
ダンジョンの中は明るく、閉塞感は無い。
高い天井に空が写し出されていて、時折爽やかな風も吹く。
丁寧に造り上げたのかしら?
ダンジョンコアに思いを馳せると、リリスの左手首の小さな黒点が反応して、軽く振動し始めた。
それはリリスとギースのダンジョンコアとの連結点だ。
軽く指でその黒点を撫でると、リリスの脳内に第1階層の俯瞰図が浮かび上がって来た。
まあ、親切ね。
ガイドをしてくれるつもりなのかしら?
思わずニヤッと笑みをこぼしたリリスである。
一行が草を踏みしめながら順路を進むと、マニュアルに記された通り霧が発生してきた。
それは徐々に濃くなってきて、しばらくすると3mほど先でも見えなくなってしまった。
「油断しちゃ駄目よ。」
リリスがそう口走った途端に、ニーナが叫んだ。
「エリス! 左前方から来るよ!」
ハッと驚いて構えたエリスの左前方から矢が飛んできた。ジークが張ったシールドに阻まれ、カンカンと音を立てて地面に矢が落ちた。
それと同時にエリスは左前方に向けてウォーターカッターを大量に放った。
「エリス。敵の位置を把握してる?」
ニーナの問い掛けにエリスはう~んと唸って、
「まあ、大体のところはねえ。」
そう言いながらアイスボルトを数本放った。
その数秒後、霧の向こうでウグッと言う悲鳴が聞こえて来た。
エリスの目の前にドサッと音がして、黒い人影が倒れている。
軽装備であるが、どうやらゴブリンのようだ。
だがその様相にリリス達は違和感を感じた。
「これってゴブリンなの? 随分体格が良いわよ。背も高いし・・・・・」
エリスの呟きにリンディが口を開いた。
「ゴブリンファイター・・・・・じゃないかな?」
「そんなの居るの?」
「だってここに居るじゃないの。」
女子の会話が途切れない。
背後からジークが呆れて声を掛けて来た。
「ほらほら、油断してないでね。それと探知を怠らないようにね。」
「ちなみにそこに倒れているのは確かにファイタークラスのゴブリンだよ。マニュアルでは数匹出てくると記されている。」
まだ居るのね。
リリスは探知の範囲を広げるために、魔装を非表示で発動させた。
途端に索敵範囲がグンと広がり、うっすらと魔物の居場所が感じられる。
だがそれでも探知し辛いのはこの霧の持つ特性なのだろう。
左手首の黒点を撫でると、リリスの脳内にこの階層の俯瞰図が浮かび上がり、所々に特殊な構造物の存在が把握出来た。
この構造物は何だろうか?
魔物の位置情報は把握出来ている。
だがエリス達は把握しているだろうか?
リリスは改めてニーナに問い掛けた。
「ニーナ。あなたは魔物の位置情報を正確に探知出来ているの?」
ニーナはリリスの言葉にうんと頷き、懐からスローイングダガーを取り出した。
「魔物じゃないけど、気になる物があるんだよね。」
ニーナはそう言うとスローイングダガーを斜め上空にブンッと投げた。それは放物線を描いて霧の向こうに消えていく。
数秒後、霧の向こうからガツンと言う音が聞こえて来た。
「うっ! 邪魔されちゃったわ。」
リリスが探知すると、ニーナのスローイングダガーが向かった先にあの構造物がある。その前にゴブリンらしき存在が感じられるので、それがスローイングダガーを叩き落としたのだろう。
それにしてもゴブリンが守っているこの構造物は何だろうか?
疑問に感じたリリスにジークが背後から声を掛けた。
「霧を発生している石像があるんだよ。それを破壊すれば霧は消えてなくなるんだ。」
そんな事は先に言ってよね!
そう感じたのはリリスだけではないようだ。
チッと舌打ちをしながらエリスはニーナに話し掛けた。
「ニーナ先輩。石像の位置情報を共有させてください。」
そう言うとエリスはニーナと手をつないで魔力をやり取りし始めた。
数秒後、うん!と気合を入れてエリスはアイスボルトを時間差を付けて数本放った。
それはスローイングダガーと同じ軌道を描き、霧の向こうに消えていく。
更に数秒後、パリンと言う音を立てて何かが崩れ落ちる気配がした。
それと同時に霧が晴れていく。
「最初のアイスボルトで石像を凍結させたから、後のアイスボルトの着弾の衝撃で粉々になっちゃったようね。」
確かに石像の存在が脳内の俯瞰図から消えている。
だが、いつの間にエリスとニーナは、魔力のやり取りで探知情報を共有出来るようになったのだろうか?
不定期的な補講の際にロイドが随伴し、二人でシトのダンジョンに潜っているとは聞いていた。
それにしてもこの二人の連携には磨きが掛かっているようだ。
「ほらっ! 油断しちゃ駄目よ。」
リンディが声をあげて指さす方向には、こちらに向かって走ってくる二体のゴブリンファイターの姿があった。
その走る速度も到底ゴブリンとは思えない。
素早く走り寄り、剣を振り上げて襲い掛かって来た。
その様子を見て反射的にリリスはファイヤーボルトを数発放った。
速度重視の軽量なファイヤーボルトだ。
火矢は弧を描いて斜め上空からゴブリンファイターの身体を撃ち抜き、その背後に突き抜けて地面に火炎を上げた。
火に包まれてドサッと倒れたゴブリンファイターの手から剣が離れ、ニーナの足元にコロコロと転がってくる。
ニーナはそれを足でガシッと踏みつけて固定し、まじまじとそれを見つめた。
「これって魔剣だよ。第1階層からこんなものが出てくるの?」
ニーナの言葉にジークが頷き、
「魔力の通りを良くするように手を加えた魔剣だね。ゴブリンファイターの身体強化に合わせて反応するようになっているんだよ。」
そう言ってゴブリンファイターの遺骸を睨みつけた。
「男子達も剣だけで対応すると、こいつには結構苦戦していたんだよね。」
う~ん。
最初から難易度が高いわね。
やはり接近戦は避けた方が良さそうだわ。
リリスはそう思いながら左手の黒点を撫でた。
脳内に浮かび上がった俯瞰図では、この階層の奥にも石像と魔物の存在が確認出来る。
さあ行こうと声を掛けて、リリスはエリス達を促し、第1階層の奥へと進んだ。
草原を進むにつれて、所々にリリスが薬草図鑑で見た植物の群生が見える。
どうやら薬草の採取もここで出来る仕様になっているようだ。
親切な仕様だが薬草採取を生業にしている冒険者にしてみれば、戦闘を乗り越えなければ採取に取り組めない。
余程薬草の品質が良くなければメリットは無いだろう。
そんな事を思いながら歩く事10分。
リリス達の周辺に再び霧が発生してきた。
ニーナが探知してエリスにその情報を共有させ、エリスがアイスボルトで石像を破壊する。
パターン化したその動きであっけなく霧は晴れた。
だが霧が晴れて前方から駆けつけて来たゴブリンファイターの様子が変だ。
3体のゴブリンファイターの身体が、光を浴びてキラキラと輝いている。
更には大きな盾も見えた。
「メタルアーマーでフル装備しているわよ!」
ドドドドドッと疾走してくるゴブリンファイターに反応して、エリスは大量のウォーターカッターを放った。だがメタルアーマーに跳ね返されてあまり効果が見られない。
足止めした方が良いわね。
リリスは土魔法を発動させ、ゴブリンファイターの向かってくる前方に高さ2m幅5mほどの土壁を出現させた。
左右に分かれて回り込んでくる2体のゴブリンファイターは、リリスのファイヤーボルトとエリスのアイスボルトで始末した。
だがもう1体のゴブリンファイターが現われない。
不思議に思っていると、ドサッと言う音がして壁の端からゴブリンファイターの身体が崩れ落ちて来た。
その背後から顔を出したのは・・・・・ダガーを手にしたニーナだった。
ええっ!
何時の間に背後に回ったの?
ニヤッと不敵な笑顔を見せ、ニーナはダガーの血糊を洗浄魔法で落とした。
う~ん。
暗殺者の本領発揮ね。
ニーナの潜在能力にリリスは驚き、声も出ない。
背後でパチパチと拍手しながら、ジークがニーナにお見事!と声を掛けた。
「最近、ニーナ先輩ってアレをやるんですよ。見事と言うか・・・背筋が凍っちゃいますよね。」
「確かにね。ジーク先生が悪知恵を入れなければ良いけど・・・」
そう言ってリリスはジークの顔を見つめた。
ジークはニーナの顔を見てニヤリと笑っている。
ニーナをそそのかして、本物の暗殺者に仕立てようとしたら赦さないわよ!
リリスの気迫を感じ取ったのか、ジークはリリスの視線をふいっと避けた。
まあ、普通に考えればニーナは商人の娘なので、軍の諜報機関に駆り出される事は有り得ない。
だがジークの考える事だ。
ニーナの卒業後に関して姑息な画策を始めるかも知れない。
そんな不安がついリリスの心に過ってしまう。
若干もやもやした思いを持ちながら、リリスは階層の奥に見つけた階段を降り、エリス達と共に第2階層に向かった。
次の第2階層は第1階層と全く同じ仕様であった。
これはジークの持つ探索マニュアルにも、その様に記されていた。
だが続く第3階層は少し様相が変わる。
出現する魔物は雷撃性のジャイアントエイプの群れだ。
時によって変わるが30体前後で出現すると言う。
更に第3階層への階段を降りると、この階層の入口の手前に冒険者の待機所があるのも違う点だ。
ここは装備を整えると共に、第3階層で戦闘不能になった者達の救出の為の場所でもある。
その広さはテニスコート2面ほどで、既に男性3人組の冒険者がドリンクを片手に談笑していた。
一人は剣を持ち、もう一人はハルバートを傍らに置いている。
残る一人は魔法攻撃に長けた術者なのだろう。
手のひらの上に小さな火球を3個出現させ、それをお手玉のように操って遊んでいた。
だがその風貌は決して善良そうなものではない。
隙を見せれば色々と、悪しきを画策してきそうな雰囲気すら感じる。
剣を持つリーダーらしき男が笑顔でリリス達に話し掛けて来た。
「お嬢ちゃん達、ここまで無事に辿り着いたんだね。この先は結構ハードだから、装備の点検をしておいた方が良いぞ。」
長身でマッチョなこの男はグルカンと言う名で、戦闘不能に陥った冒険者の救出を生業としているそうだ。
「他のダンジョンと違って、ここは第3階層でもかなりハードだ。何かあったら俺達が助けに駆けつけてやるよ。」
そう言いながら他の2人の仲間に目配せをしているその様子に、リリスはどうしても違和感を感じた。
そのリリスの思いを察したように、ジークが小声でリリスに語り掛けた。
「全面的には信用しない方が良さそうだね。ここは色々な冒険者が出入りしているから、善人を装う者も居ると思うよ。」
ジークは更に小声でリリスの耳元に呟いた。
「救出の振りをして、倒れている冒険者の身ぐるみをはがす連中かも知れないからね。」
ジークの言葉にリリスは小さく頷いた。
その時はよろしくねとリリスは愛想良くグルカンに語り掛け、待機所の奥の扉に向かった。
扉と言っても半透明のエアカーテンのようなもので、人は何の問題も無く出入り出来るが、魔物はそこを通過出来ないと言う。
恐らく空間魔法によって構築されたものなのだろう。
リリス達がその扉を通過すると、そこには低木の森が広がっていた。
その森の藪のあちらこちらからキキキキキッという甲高い獣の声が聞こえてくる。
どうやらジャイアントエイプ同士で連絡を取り合っているようだ。
しばらく森の中の小径を歩くと、一行は少し開けた草むらに出て来た。
奥行きは100mほどで周囲を藪に取り囲まれている。
何となく不穏な気配が辺り一面に漂っていて、嫌な予感がその場を包み込んだ。
そろそろ出てきそうね。
そう思っていると近くの藪がガサガサと揺れ動き、そこから飛び出るように1体のジャイアントエイプが出現した。
一言で言えば手足の長い猿だ。
そしてこの個体は恐らく斥候なのだろう。
だが灰白色の毛に覆われたその姿は異様であった。
明らかに身体が大きい。
身長は2m以上ありそうだ。
その長い両腕の手首にはバチバチと音を立てて稲妻が纏わりついている。
「でかいわねえ!」
「こいつって本当にジャイアントエイプなの?」
ジャイアントエイプはエリス達の驚きの声に反応してこちらの様子を窺いながら、ギギッと叫んでふっと背後の藪に姿を消した。
その直後にキイーッと言う声を合図にして、あちらこちらの茂みからジャイアントエイプが湧き出るように飛び出してきた。
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だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
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投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
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