落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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召喚者の痕跡5

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エイヴィスから貰った小さな鍵。

それは転移の魔道具だったのかも知れない。

ルームメイトのサラを巻き込み、リリス達は未知の場所に転移されてしまったようだ。

暗転した視界が元に戻ると、そこは廃墟と化した神殿の様な場所だった。
空気が淀んでいて居心地が悪い。
苔生した石畳の床が続き、壁には至る所にレリーフが施されている。
その所々が崩れていて、如何にも廃墟の様な雰囲気だ。
リリス達の目の前には幅5mほどの通路が延々と続いているのだが、その奥は仄かに明るくなっているのが見えた。

「リリス~。これって・・・どう言う事なの?」

不安に満ちた表情でサラが呟いた。
リリスにも何が何だか分からない。
あの小さな鍵によって転移させられたようではあるが・・・。

「ごめんね、サラ。私にもこの状況が分からないのよ。この小さな鍵が原因なのかも・・・・・」

そう言いながらリリスは小さな鍵を取り出した。

「でもこの鍵って、私の魔力を流せば発動するかもって聞いていたんだけど、実際にはサラが触れた途端に発動したみたいよね。」

リリスの言葉にサラは静かに頷いた。

「確かにそうだったわよね。そう言えばあの時、私の名前を呼ばれた様な気がするのよ。サラ・・・・・ってね。」

「そうなの? でもどうして?」

増々疑問が増えてしまったリリスである。
制服の懐にユリアスとの連絡用の魔道具を持っていた事を思い出して、リリスはそれを取り出して作動させた。
だが反応がない。
ユリアスと連絡が取れれば、闇魔法の転移でここから抜け出せるのだが・・・・・。

魔道具を仕舞い込んで、通路の床をふと見ると、矢印がホログラムのように浮かび上がってきた。

「この矢印に従って行けって事? 罠じゃないでしょうね。」

リリスの言葉にサラはう~んと唸って考え込んだ。

「でもそのまま進むしかないんじゃないの?」

サラの言葉に反応したように、矢印のホログラムが前に向けて数度動き、前進を促している様な動作をした。

「前に進むしかなさそうね。」

リリスはそう言って歩き出した。その後ろにサラが続く。
二人共授業を終えて学生寮に戻って来たばかりだったので、リリスもサラも学生服のままである。
壁に嵌め込まれた小さな灯の魔道具で、通路は仄かに明るいのだが、それでも不気味な雰囲気が漂う。
まるでダンジョンだとリリスは感じたのだが、その思いは間違いだとは言えなかったようだ。

通路の先に魔物の気配が突然生じた。

「魔物が来るわよ!」

リリスは魔力を両手に集中させて身構えた。
精査すると魔物の反応は約20。
その移動速度も速いので、恐らくは狼などの獣だろう。
リリスは魔装を非表示で発動させた。

「サラ! 身を守るものはあるの?」

「大丈夫よ。今日の補講で使ったシールドの魔道具を持っているわ。」

随分用意周到ねえ。
でもそれなら安心だわ。

リリスは魔物に集中し、前方の石畳を土魔法で高さ1mほどの壁にして待機した。程なくその壁にドンドンッと火柱が立った。
どうやら相手は火属性のブラックウルフのようだ。

お返しとばかりにリリスはファイヤーボルトを10本放ち、続けざまにもう10本のファイヤーボルトを放った。
火矢はキーンと金切り音を立て、斜め上方に飛び立った。それらはリリスが出現させた壁を越えて弧を描き、近付く魔物に向けて襲い掛かった。

ドドドドドッと火柱と衝撃音が立ち、薄暗い通路の奥が明るく見えた。
通路の大きさの制限があるので、ブラックウルフも火矢を回避する余裕がない。
ブラックウルフは一匹残らず火矢の餌食になってしまった。

「ここってやっぱりダンジョンなの?」

サラの言葉にリリスは分からないわと答えながら前に進み、土壁を元の状態に戻した。
そのリリスの目の前に再び矢印のホログラムが現われ、リリス達の前進を促している。

それに釣られる様にリリスとサラは前に進んだ。
勿論足取りは慎重だ。
周囲を探知する事も怠らない。

矢印に従って5分ほど歩くと、少し広めのホールに出た。
直径20mほどの円形のホールで天井はドーム状になっている。
高さは10mほどだろうか。

そこから前方にまた通路が続いているのだが、その通路の奥から再び魔物が近付く気配がした。

「う~ん。休む間もないわね。」

リリスはそう言いながら探知を掛けた。だがその途端に嫌な気配が感じられた。発動させている魔装にもビリビリと精神波の攻撃が届いている。

これってアンデッドじゃないの?

そう思っていると通路の奥からギエエエエエッと言う、狂気に満ちた悲鳴が聞こえて来た。

レイスだ!

拙いわね。
こんな時にマキちゃんが居れば・・・・・。

そう思いながらもリリスなりに対処は怠らない。
魔力の剣を出現させ、聖魔法の魔力を纏わらせた。
だがこれはあくまでも間に合わせの武器だ。
リリスは聖魔法にあまり習熟していないので、生活魔法程度の聖魔法しか使えない。
纏わらせた聖魔法の魔力が、どの程度レイスの駆除に有効なのか、やってみないと分からないのだ。

ふとサラを見ると、サラはマジックバッグから魔道具を取り出して発動させていた。
精神攻撃に対する防御の魔道具のようだ。

「リリス! 来るわよ!」

サラの声にビクッとして前を見ると、既に至近距離にレイスの群れが飛び交っていた。
その中の1体がリリスの襲い掛かって来た。
咄嗟にリリスは魔力の剣を振り回したのだが、レイスはその剣に触れて弾き飛ばされるだけで、消滅するほどの威力ではなかった。
次々と襲い掛かってくるレイスは20体以上居るようだ。
だがそれを魔力の剣で退けるだけで、それ以上のダメージを与えられない。
レイスのかぎ爪を避けるのが精一杯だ。

困ったわね。
どうしたら良いの?

少し焦ったリリスは思わずサラに向かって叫んだ。

「サラ! あんた、召喚術士でしょ? 何か役立つ召喚獣って持っていないの?」

リリスの言葉にサラはう~んと唸って少し考え込んだ。

「役に立つか否かは分からないけど、同類の召喚獣は持っているわよ。」

同類って何よ?

「何でも良いから出して!」

リリスの叫びにサラはうんと頷いて、召喚用の魔方陣を出現させた。
間断なくサラが魔力をグッと集中させる。
すると魔方陣の中央に紫の光の球が出現し、それはそのままレイスの群れの中央に飛び、その場で実体化し始めた。

程なくリリスの耳に、ハハハハハと言う高笑いが聞こえて来た。

うっ!
これって既視感があるわね。
もしかして・・・・・。

リリスの予感は的中した。
レイスの群れの中央に出現したのは馬にまたがる騎士。その首は本来の場所には無く、騎士の片手に掴まれている。
もう一方に手には禍々しい魔力を放つ魔剣が握られていた。

デュラハンだ!

どうしてこんなものを召喚したのよ。
そう思いながらサラを見ると、サラはバツが悪そうな表情をしている。

「まあ、この際何でも良いわよ。手が足りないんだから。」

リリスの言葉にサラは頷き、デュラハンにレイスの駆除を命じた。

「ワハハハハハッ! 吾輩に任されよ!」

そう叫びながらデュラハンはその魔剣を振り回し、片っ端からレイスを斬りつけた。
ギヤアアアッと叫ぶレイスの悲鳴がホールに木霊する。
デュラハンの魔剣で斬りつけられたレイスは寸断され、そのまま消滅していった。

だがその背後から再びレイスの群れが現われた。
その数は探知出来るだけでも100体以上居るようだ。

これってどうするのよ?

「デュラハンだけでは手が足りないわ。他に居ないの?」

「まあ、居ない事はないけど・・・・・」

サラの言葉の歯切れが悪い。

「とにかく何でも良いから!」

リリスに促されて、サラは再び召喚用の魔方陣を出現させた。
その中央に再び紫の光の球が現われ、レイスの群れの中央に飛び、それはそのまま実体化を始めた。

巨大な鎌が見える。
それと同時に禍々しい妖気が漂い、瘴気までも漂ってきた。
フードの付いた黒い装束の男が立っている。

あれって・・・死神?
アンデッドにあんなのって居るの?

サラの命を受けて死神はフフフフフと笑いながら、その巨大な鎌を振り回した。
一閃するたびに数体のレイスが悲鳴を上げて消えていく。
ホールの中にレイスの放つ悲鳴が何重にもなって響き渡った。
それは狂気に満ちていて、魔装をしていなければ正気を失いそうなほどだ。

デュラハンと死神が無双している。

リリスは目の前に展開している状況を、唖然として見つめていた。

程なくレイスの大群は消滅し、役目を終えたデュラハンと死神は消えていった。
召喚を解いたサラの顔を見ると、冷汗を流し、肩でハアハアと息をしている。
かなり魔力を費やしたのだろう。

「サラ。お疲れ様。あんたの召喚獣のお陰で助かったわよ。」

そう言いながらリリスはサラの身体に手を置き、自分の魔力をサラに分け与えた。
サラはう~んと唸って目を瞑り、その表情を和らげた。

「でもあれって召喚獣と言って良いものなの?」

リリスの問い掛けにサラはえへへと笑って目を逸らした。

「最近あんなのばかり召喚しちゃうのよね。」

うつむきながらサラは呟いた。

「最近って・・・もしかして召喚術の補講の事?」

「うん。そうなのよ。アイツらを召喚した時に、そのまま解除しようとしたら、バルザック先生に止められてね。」

サラはそう言ってふうっと深呼吸をした。

「折角召喚したんだから、私の眷属にすれば良いって。」

眷属?

「眷属の契約を結んだのね?」

「そうなのよ。だから正確には召喚獣とは言えないかもね。でもあいつらは他の召喚獣と違って、眷属化しないと召喚しても私の命令に従わないのよ。」

う~ん。
そう言うものなの?

リリスは召喚術には詳しくないので、その詳細については知識がない。
それにサラは召喚術に関しては特殊なスキルを持っている上に、代々受け継いできた召喚術師としての素養もある。
デュラハンや死神を従えていても不思議ではないのだが・・・・・。

「私が死神を従えているなんて、他人に話さないでね。」

「うん。分かっているわよ、サラ。死神の親玉だなんて言わないから。」

「それが嫌なんだってば!」

サラの困り顔にリリスはニヤッと笑った。

「言わないわよ。安心して。」

リリスはそう言うと、魔物が居なくなったホールの奥に繋がる通路を指差した。

「ほら。また矢印が現われたわよ。」

サラが目を向けると、通路の入り口にホログラムの矢印が現われ、点滅を繰り返している。
それはこちらに来いと促しているのだろうか?

「まあ、あちらに行くしかないわね。」

サラの言葉にリリスは頷き、サラに先立ってホールの奥の通路に向かった。

ほの暗い通路を慎重に進む事、約10分。
二人は再び広いホールに辿り着いた。
だがそのホールの中央に、直径10mほどの半円球のシールドが見える。

その中に何が居るのだろうか?

そう思いながらもその半球形のシールドに近付くと、微かにサラを呼ぶ声が聞こえて来た。

「呼んでいるわよ、サラ。」

「そんなに平然と言わないでよ。私の名前を呼ばれるだけでも気味が悪いのに・・・」

サラの苦言をスルーするかのように、リリスはその半球形のシールドに触れてみた。
魔力で探知すると、明らかに亜空間シールドだ。
しかもかなり複雑に構成されているようで、内部の様子は全く分からない。

でもそれならどうしてサラを呼ぶ声が聞こえてくるの?

リリスの疑問は深まるばかりだ。

リリスもサラも空間魔法は使えない。
なす術もなくその場に立っていると、制服の懐に仕舞い込んだ魔道具が反応し始めた。

慌てて魔道具を取り出し、ユリアスと連絡を取る事が出来たのだが、ユリアスの使い魔の紫のガーゴイルがなかなか現れない。
10分以上待って、ようやくガーゴイルが出現した。

「待たせたな、リリス。だがここは容易に辿り着ける場所ではないのだよ。周囲に幾重もの強固なバリアが張られているのだ。それを掻い潜ってここまで来るのに手間が掛かったよ。」

「それでお前達はどうしてこんなところに居るんだ?」

ユリアスの疑問も無理は無い。
リリスは一連の出来事を簡略に説明した。

「そうか。そう言う事なのだな。ここが普通の場所なら儂が闇魔法の転移で救い出してやるのだが、かなりの制限が掛かっていてそれが出来ん。それ故にここから抜け出す手段を探すしかあるまい。」

「ちなみに儂も実体でこちらには来れんのだ。使い魔のままで失礼するぞ、サラさん。」

話を振られたサラはハイと答えて笑顔を見せた。

「ユリアス様ってリリスのご先祖様なんですよね。人づてに聞いたんですけど・・・・・」

「そうじゃよ。そう言えばサラさんと話をするのは初めてだったな。リリスの部屋で強制的に眠らされていたのは何度か見た事があるが・・・」

うっ!
これは拙い!

「ユリアス様。それは何かの勘違いですよ。」

リリスは慌ててガーゴイルの口を塞いだ。
フガフガと口ごもるガーゴイルを見ながら、サラは首を傾げていた。

余計な事を言わないでよ!

言葉には出さないものの、リリスは目でそう訴えた。
ガーゴイルもそれが分かったようで、えへんと咳払いをして平然を装った。

「それでユリアス様。あの半球形のシールドの中から、サラを呼ぶ声が聞こえるんです。もしかすると、ここから抜け出すヒントがあの中にあるのかも知れませんよ。」

リリスの言葉にガーゴイルはうんと頷き、シールドの端に触れた。
そのまま魔力を放って精査し始めたガーゴイルは、ふむふむと頷きながら少し考え込んでいた。

5分ほど経って、ガーゴイルはその傍を離れた。

「特殊な空間魔法を重ね掛けしておるようだな。解除は出来んが抜け穴なら構築出来るぞ。」

「それじゃあお願いします。」

リリスの言葉にユリアスはうむと頷き、再びシールドの端に手を置き、グッと魔力を流した。
シールドの触れている部分がそれと同時に変質し、半透明のガラス状になって来た。
それは更に形を変え、開口部を造り上げていく。

程なくシールドの端に、人が一人出入り出来そうな開口部が出来上がった。

その向こうに赤い光の塊が見えている。
その中央部には人影も見えるのだが、あれがサラを呼ぶ者なのだろうか?

緊張しながらもリリスとサラはガーゴイルと共に、その開口部から内部に入っていったのだった。






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