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新たな加護3
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未知のスキルの発動に困惑するリリス。
解除しようとしても解除出来ない。
その上に、リリスの脳裏に次々と言葉が浮かび上がって来た。
『進捗率30%』
『産土神体現スキルの進捗を早める為、世界樹の加護が全てのスキルや加護を管理します。』
ちょっと待ってよ!
どうするつもりなの?
リリスの思いを気にも留めず、言葉が脳裏に浮かぶ。
『魔力吸引スキルを発動させます。』
その言葉と共に魔力吸引スキルが発動し、大地や大気から魔力を吸引し始めた。
その事によってリリスの周りに魔力の渦が発生し、激しい流れとなってリリスの身体に流れ込んでくる。
流れ込んできた魔力によって更に魔力の触手が発生し、周囲に伸びて行った。
5mほどの高さに押し上げられたリリスの身体を中心に、大量の魔力の触手が生い茂り、まるで巨大な樹木の様な様相になって来た。
その触手の末端が全て仄かに光り始め、何かを探すように蠢き始めた。
細く長い魔力の触手の先端から何かが流れ込んでくる。
始めはそれが何だか分からなかった。
だがリリスの脳内に流れ込んできたものが、何かの情報だと言う事に気付くのにそれほどの時間は掛からなかった。
流れ込んできたのは人の生体情報だった。
健康面の状態と共に遺伝子レベルでの問題点が流れ込んでくる。
その情報を元にリリスの脳内で、その個体に対する進化促進の方向性が瞬時に浮かび上がり、その個体に対する是正の波動が細胞励起の放つ波動に重ねられて打ち出された。
しかも細胞励起のレベルがマックスになっている。
それによって強制的に進化の促進を図ろうとしているのだろうか?
細い魔力の触手の一本一本がそれぞれの個体に連結されている事を理解して、リリスは驚愕の声をあげた。
自分の脳内に大量の人型生命体の情報が流れ込み、瞬時に個別の分析と進化促進のための処理が展開されていく。
こうなるとリリスの脳内もパニックである。
どれだけの人に対応しているのよ!
『半径5kmの圏内で5000体の人型生命体を掌握中。』
『脳内の処理が追いつきません。覇竜の加護による脳内リミッターを解除し、未使用あるいは休眠中の脳細胞を全て活用します。』
ええっ!
そんな事までするの!
リリスの思いをスルーするように、脳内に別領域が切り開かれ、リリスの意識が幾つにも分割された様な感覚を得た。
それと同時に高速で大量の処理が展開される。
それによって魔力を更に費やし、それを補うべく魔力吸引スキルが頻繁に発動された。
もはや思考の余地もほとんどない状態のリリスの脳である。
リリスの身体から伸びている大量の細い魔力の触手から、マックスレベルの細胞励起の波動が激しく放たれていく。
それはまるで巨木の姿の巨大な発信機の様なものだ。
そしてその処理はまだ止まらない。
『効果圏内の人型生命体は全て掌握しました。続いてそれ以外の生命体の掌握を始めます。』
えっと驚くリリスだが、産土神体現スキルは淡々と作業を続けていく。
リリスの脳裏に今度は大量の小動物や小型の魔物の生体情報が流れ込んできた。
それによって更にリリスの脳内の作業がヒートアップしてくる。
もはやリリス自身ではそれらを個別に把握出来ない状態だ。
処理能力がかなり高く引き上げられているのだろう。
リリスの脳や身体がじんじんと熱くなっていく。
あまりの脳内作業に加熱してしまっているようだ。
意識が朦朧とし始めたリリスに追い打ちを掛けるように、脳内に言葉が浮かび上がった。
『処理能力に限界があるようです。スキルのバージョンアップを始めます。』
えっ!
このスキルってバージョンアップ不可よね。
そう思った途端にパチンと大きな音がして、リリスの身体から伸び出ていた大量の魔力の触手が全て消え去ってしまった。
魔力の触手で持ち上げられていたリリスの身体は、はしごを外されたように地面に落下した。
だが足元がふっと軽くなり、その落下速度が軽減された。
リリスの足元に魔方陣が出現して、リリスの身体を支えてくれた様だ。
静かに地面に降り立ったリリス。
リリスの着地と共にその足元の魔方陣が消え、ほっと胸を撫で降ろすリリスの傍に小さな龍が近付いて来た。
赤に金の差し色が入った色合いで体長は30cmほどだ。それはゆっくりとリリスに近付き、呟くように言い放った。
「こんなスキルはこの世界では必要ないよなあ。」
その声には聞き覚えがあった。
ラダムの囚われていた未知の廃墟で出会った超越者ロキの声だ。
ロキに話し掛けようとしたリリスだが、疲労のあまり声が出ない。
ハアハアと荒い息遣いをしながら、額の脂汗を拭ったリリスは、魔力の流れを落ち着かせて自分の体調の回復を待った。
自分自身の状態を確認すると、全てのスキルが解除状態になっている。
「ロキ様・・・・・」
やっとの事で声を出せたリリスに、ロキは諭すような口調で口を開いた。
「リリス。変な物を取り込まないでくれよ。この産土神体現スキルはルール違反だ。」
「ルール違反って言われても・・・・・」
リリスは自分自身に軽くヒールを掛けて口を開いた。
「私の意志で取り込もうとしたんじゃないんですよ。それに実体じゃないのにコピースキルが発動しちゃったんですから。」
「その辺りが問題点だな。自分の意志でコピースキルを中断出来ないのか?」
ロキの言葉にリリスは首を横に振った。
「発動しちゃったら中断出来ません。」
「それはおかしいな。自分で取り込んだスキルじゃないか。自分の意志で中断出来ないはずはない。今は出来なくても、いずれ出来るようになりなさい。そうでないと君は要監視対象になってしまう。」
監視って・・・・・。
リリスはロキの言葉に黙り込んでしまった。その様子を見てロキも口調を和らげた。
「監視対象と言うと大袈裟だったかな。言葉の綾と言うか、それほど深い意味は無いから気にしないでくれ。」
それならそんな言い方をしないでよ。
リリスは少し悲しい気持ちになってロキを見つめた。
その心情がロキに伝わるとも思えないのだが。
ロキはリリスの気持ちを理解したのか否か分からないが、ふうっと大きくため息をついた。
少しの間、沈黙が続く。
気持ちが落ち着いたリリスはロキに尋ねた。
「私があの若木を通して世界樹から取り込んだスキルは全て使用禁止ですか?」
ロキはその龍の身体をくねらせて否定の意志を示した。
「全てが使用禁止ではない。細胞励起は規制しないよ。だが産土神体現スキルは駄目だな。体験版程度の機能で、その上に時間制限まで掛けてもアレだからなあ。」
「産土神体現スキルは管理者の持つ権能に抵触するんだよ。」
そう言ってロキは再びため息をついた。
「そもそも細胞励起は高レベルの精霊が持つスキルだし、産土神体現スキルにおいてはこの世界で具現化出来ないスキルなのだがねえ。」
そう言われてもねえ。
リリスはどう反応して良いのか分からない。
「でも既に具現化しちゃってますよ。」
「そうなのだよ。君の身体の中にはその無理な仕事を、何としてでもこなそうとする厄介な奴が居るんだ。」
「それって何ですか?」
リリスの問い掛けにロキは大きく目を見開いた。
「それは最適化スキルだよ。こいつは有能過ぎるんだよな。こいつが無ければ君も魔物から、獣性スキルなどと言うカテゴリーのスキルを手に入れる事も出来なかったはずだ。」
まあ、魔物だけじゃなくて書物や仏像からも手に入れちゃったわよ。
リリスの表情を見ながらロキは語り掛けた。
「リリス。君には今後の為に、産土神体現スキルが巻き起こした影響を見せておいた方が良いだろうね。」
「それってどう言う意味ですか? 10分程度の時間で影響なんて・・・・・」
リリスの言葉にロキはうんうんと頷いた。
「実際に見てみれば分かるよ。」
ロキはそう言うと、リリスの身体の周囲を高速で回転し始めた。
リリスの身体の周囲が霧で包まれ、その視界が暗転していく。
ハッと気が付くと、リリスは魔法学院の学舎の傍に立っていた。
転送されたのかしら?
多分そうだろうと思って周囲を見ると、学舎の傍の公園スペースや学舎の入り口に見慣れない物が置かれていた。
繭だ。
大きな繭があちらこちらに転がっている。
何だろうと思って近づいてみると、繭の中から人の気配が伝わって来た。
この気配はニーナだ!
学舎の入り口の傍に転がっている繭に走り寄って探知すると、ケイト先生の気配が伝わってくる。
驚くリリスの頭上にロキが現われた。
「見ての通りだよ、リリス。君の居た場所から半径5kmの圏内にいた人型の生命体に、君が進化の方向性を強制的に植え付け、その具現化の為に体細胞を組み替え始めているんだよ。」
「そんな事って・・・・・」
リリスは言葉を失ってその場に膝から崩れ落ちた。
こんな事になるなんて・・・・・。
リリスの打ちひしがれている様子を見て、ロキは宥める様に話し掛けた。
「少し荒治療になるが、時空の流れを30分程度若干巻き戻そう。」
「そんな事が出来るんですか?」
「まあ、短時間ならね。その事で生じる時空の歪は特例として、管理者が収拾してくれる事になっているから安心したまえ。」
そう言うとロキは上空に飛び立ち、その魔力を大きく放出した。
その激しい魔力の波動でリリスの身体が震え、視界が暗転していく。
視界が元に戻ると、リリスは学舎の傍の公園スペースのベンチに座っていた。
周りには数名の学生が歩いている。
あの繭は全く見えない。
時間を確かめるとリリスが薬草園に向かっていた時刻だ。
ほぼ30分、時空が巻き戻されたのだろう。
ふと気になって自分のステータスを開いてみると、産土神体現スキルは発動不可になっていた。
細胞励起は発動可能だが、発動レベルは中程度のレベルで固定されてしまっている。
色々と制限が掛けられたようだ。
だがその事がむしろリリスに安心感を与えた。
余計な事で気を揉む必要が無いのは有り難いわね。
そう思って若木を見ると、何故か申し訳なさそうな波動が伝わって来た。
リリスはベンチから立ち上がり、若木の傍に立ってその細い幹を撫でた。
あんたが気にする事は無いのよ。
意識のレベルで私を世界樹に繋げてくれた事は、余計な事じゃないからね。
そんな思いを若木に魔力と共に流すと、若木はブルっと震えて感謝の波動を伝えて来た。
その波動は若木ではなく世界樹からのものだとリリスは直感した。
リリスは思わず二の腕の三つの小さな黒点を若木のコブの黒点に合わせた。
その途端に意識がふっと飛び、気が付くとリリスは世界樹の樹上に居た。
勿論これは実体ではない。
リリスの意識だけが呼び出されたのだ。
生い茂る世界樹の葉がハンモックのように形造られ、リリスはそこに身を委ねていた。
世界樹からの癒しの波動が全身に伝わってくる。
居心地が良いわねえ。
リリスは5分ほどくつろぎ、世界樹の元を離れた。
意識のレベルでたまに此処を訪れる程度なら、誰からも文句を言われないわよね。
そう思いながらリリスの意識は上空に舞い上がった。
それと共に意識が朦朧とし、気が付くと元の世界の肉体に戻っていた。
時刻を確かめると、昼休みはあと30分ほど残っている。
リリスは気持ちを切り替え、午後の授業の為に学舎に速足で戻っていったのだった。
解除しようとしても解除出来ない。
その上に、リリスの脳裏に次々と言葉が浮かび上がって来た。
『進捗率30%』
『産土神体現スキルの進捗を早める為、世界樹の加護が全てのスキルや加護を管理します。』
ちょっと待ってよ!
どうするつもりなの?
リリスの思いを気にも留めず、言葉が脳裏に浮かぶ。
『魔力吸引スキルを発動させます。』
その言葉と共に魔力吸引スキルが発動し、大地や大気から魔力を吸引し始めた。
その事によってリリスの周りに魔力の渦が発生し、激しい流れとなってリリスの身体に流れ込んでくる。
流れ込んできた魔力によって更に魔力の触手が発生し、周囲に伸びて行った。
5mほどの高さに押し上げられたリリスの身体を中心に、大量の魔力の触手が生い茂り、まるで巨大な樹木の様な様相になって来た。
その触手の末端が全て仄かに光り始め、何かを探すように蠢き始めた。
細く長い魔力の触手の先端から何かが流れ込んでくる。
始めはそれが何だか分からなかった。
だがリリスの脳内に流れ込んできたものが、何かの情報だと言う事に気付くのにそれほどの時間は掛からなかった。
流れ込んできたのは人の生体情報だった。
健康面の状態と共に遺伝子レベルでの問題点が流れ込んでくる。
その情報を元にリリスの脳内で、その個体に対する進化促進の方向性が瞬時に浮かび上がり、その個体に対する是正の波動が細胞励起の放つ波動に重ねられて打ち出された。
しかも細胞励起のレベルがマックスになっている。
それによって強制的に進化の促進を図ろうとしているのだろうか?
細い魔力の触手の一本一本がそれぞれの個体に連結されている事を理解して、リリスは驚愕の声をあげた。
自分の脳内に大量の人型生命体の情報が流れ込み、瞬時に個別の分析と進化促進のための処理が展開されていく。
こうなるとリリスの脳内もパニックである。
どれだけの人に対応しているのよ!
『半径5kmの圏内で5000体の人型生命体を掌握中。』
『脳内の処理が追いつきません。覇竜の加護による脳内リミッターを解除し、未使用あるいは休眠中の脳細胞を全て活用します。』
ええっ!
そんな事までするの!
リリスの思いをスルーするように、脳内に別領域が切り開かれ、リリスの意識が幾つにも分割された様な感覚を得た。
それと同時に高速で大量の処理が展開される。
それによって魔力を更に費やし、それを補うべく魔力吸引スキルが頻繁に発動された。
もはや思考の余地もほとんどない状態のリリスの脳である。
リリスの身体から伸びている大量の細い魔力の触手から、マックスレベルの細胞励起の波動が激しく放たれていく。
それはまるで巨木の姿の巨大な発信機の様なものだ。
そしてその処理はまだ止まらない。
『効果圏内の人型生命体は全て掌握しました。続いてそれ以外の生命体の掌握を始めます。』
えっと驚くリリスだが、産土神体現スキルは淡々と作業を続けていく。
リリスの脳裏に今度は大量の小動物や小型の魔物の生体情報が流れ込んできた。
それによって更にリリスの脳内の作業がヒートアップしてくる。
もはやリリス自身ではそれらを個別に把握出来ない状態だ。
処理能力がかなり高く引き上げられているのだろう。
リリスの脳や身体がじんじんと熱くなっていく。
あまりの脳内作業に加熱してしまっているようだ。
意識が朦朧とし始めたリリスに追い打ちを掛けるように、脳内に言葉が浮かび上がった。
『処理能力に限界があるようです。スキルのバージョンアップを始めます。』
えっ!
このスキルってバージョンアップ不可よね。
そう思った途端にパチンと大きな音がして、リリスの身体から伸び出ていた大量の魔力の触手が全て消え去ってしまった。
魔力の触手で持ち上げられていたリリスの身体は、はしごを外されたように地面に落下した。
だが足元がふっと軽くなり、その落下速度が軽減された。
リリスの足元に魔方陣が出現して、リリスの身体を支えてくれた様だ。
静かに地面に降り立ったリリス。
リリスの着地と共にその足元の魔方陣が消え、ほっと胸を撫で降ろすリリスの傍に小さな龍が近付いて来た。
赤に金の差し色が入った色合いで体長は30cmほどだ。それはゆっくりとリリスに近付き、呟くように言い放った。
「こんなスキルはこの世界では必要ないよなあ。」
その声には聞き覚えがあった。
ラダムの囚われていた未知の廃墟で出会った超越者ロキの声だ。
ロキに話し掛けようとしたリリスだが、疲労のあまり声が出ない。
ハアハアと荒い息遣いをしながら、額の脂汗を拭ったリリスは、魔力の流れを落ち着かせて自分の体調の回復を待った。
自分自身の状態を確認すると、全てのスキルが解除状態になっている。
「ロキ様・・・・・」
やっとの事で声を出せたリリスに、ロキは諭すような口調で口を開いた。
「リリス。変な物を取り込まないでくれよ。この産土神体現スキルはルール違反だ。」
「ルール違反って言われても・・・・・」
リリスは自分自身に軽くヒールを掛けて口を開いた。
「私の意志で取り込もうとしたんじゃないんですよ。それに実体じゃないのにコピースキルが発動しちゃったんですから。」
「その辺りが問題点だな。自分の意志でコピースキルを中断出来ないのか?」
ロキの言葉にリリスは首を横に振った。
「発動しちゃったら中断出来ません。」
「それはおかしいな。自分で取り込んだスキルじゃないか。自分の意志で中断出来ないはずはない。今は出来なくても、いずれ出来るようになりなさい。そうでないと君は要監視対象になってしまう。」
監視って・・・・・。
リリスはロキの言葉に黙り込んでしまった。その様子を見てロキも口調を和らげた。
「監視対象と言うと大袈裟だったかな。言葉の綾と言うか、それほど深い意味は無いから気にしないでくれ。」
それならそんな言い方をしないでよ。
リリスは少し悲しい気持ちになってロキを見つめた。
その心情がロキに伝わるとも思えないのだが。
ロキはリリスの気持ちを理解したのか否か分からないが、ふうっと大きくため息をついた。
少しの間、沈黙が続く。
気持ちが落ち着いたリリスはロキに尋ねた。
「私があの若木を通して世界樹から取り込んだスキルは全て使用禁止ですか?」
ロキはその龍の身体をくねらせて否定の意志を示した。
「全てが使用禁止ではない。細胞励起は規制しないよ。だが産土神体現スキルは駄目だな。体験版程度の機能で、その上に時間制限まで掛けてもアレだからなあ。」
「産土神体現スキルは管理者の持つ権能に抵触するんだよ。」
そう言ってロキは再びため息をついた。
「そもそも細胞励起は高レベルの精霊が持つスキルだし、産土神体現スキルにおいてはこの世界で具現化出来ないスキルなのだがねえ。」
そう言われてもねえ。
リリスはどう反応して良いのか分からない。
「でも既に具現化しちゃってますよ。」
「そうなのだよ。君の身体の中にはその無理な仕事を、何としてでもこなそうとする厄介な奴が居るんだ。」
「それって何ですか?」
リリスの問い掛けにロキは大きく目を見開いた。
「それは最適化スキルだよ。こいつは有能過ぎるんだよな。こいつが無ければ君も魔物から、獣性スキルなどと言うカテゴリーのスキルを手に入れる事も出来なかったはずだ。」
まあ、魔物だけじゃなくて書物や仏像からも手に入れちゃったわよ。
リリスの表情を見ながらロキは語り掛けた。
「リリス。君には今後の為に、産土神体現スキルが巻き起こした影響を見せておいた方が良いだろうね。」
「それってどう言う意味ですか? 10分程度の時間で影響なんて・・・・・」
リリスの言葉にロキはうんうんと頷いた。
「実際に見てみれば分かるよ。」
ロキはそう言うと、リリスの身体の周囲を高速で回転し始めた。
リリスの身体の周囲が霧で包まれ、その視界が暗転していく。
ハッと気が付くと、リリスは魔法学院の学舎の傍に立っていた。
転送されたのかしら?
多分そうだろうと思って周囲を見ると、学舎の傍の公園スペースや学舎の入り口に見慣れない物が置かれていた。
繭だ。
大きな繭があちらこちらに転がっている。
何だろうと思って近づいてみると、繭の中から人の気配が伝わって来た。
この気配はニーナだ!
学舎の入り口の傍に転がっている繭に走り寄って探知すると、ケイト先生の気配が伝わってくる。
驚くリリスの頭上にロキが現われた。
「見ての通りだよ、リリス。君の居た場所から半径5kmの圏内にいた人型の生命体に、君が進化の方向性を強制的に植え付け、その具現化の為に体細胞を組み替え始めているんだよ。」
「そんな事って・・・・・」
リリスは言葉を失ってその場に膝から崩れ落ちた。
こんな事になるなんて・・・・・。
リリスの打ちひしがれている様子を見て、ロキは宥める様に話し掛けた。
「少し荒治療になるが、時空の流れを30分程度若干巻き戻そう。」
「そんな事が出来るんですか?」
「まあ、短時間ならね。その事で生じる時空の歪は特例として、管理者が収拾してくれる事になっているから安心したまえ。」
そう言うとロキは上空に飛び立ち、その魔力を大きく放出した。
その激しい魔力の波動でリリスの身体が震え、視界が暗転していく。
視界が元に戻ると、リリスは学舎の傍の公園スペースのベンチに座っていた。
周りには数名の学生が歩いている。
あの繭は全く見えない。
時間を確かめるとリリスが薬草園に向かっていた時刻だ。
ほぼ30分、時空が巻き戻されたのだろう。
ふと気になって自分のステータスを開いてみると、産土神体現スキルは発動不可になっていた。
細胞励起は発動可能だが、発動レベルは中程度のレベルで固定されてしまっている。
色々と制限が掛けられたようだ。
だがその事がむしろリリスに安心感を与えた。
余計な事で気を揉む必要が無いのは有り難いわね。
そう思って若木を見ると、何故か申し訳なさそうな波動が伝わって来た。
リリスはベンチから立ち上がり、若木の傍に立ってその細い幹を撫でた。
あんたが気にする事は無いのよ。
意識のレベルで私を世界樹に繋げてくれた事は、余計な事じゃないからね。
そんな思いを若木に魔力と共に流すと、若木はブルっと震えて感謝の波動を伝えて来た。
その波動は若木ではなく世界樹からのものだとリリスは直感した。
リリスは思わず二の腕の三つの小さな黒点を若木のコブの黒点に合わせた。
その途端に意識がふっと飛び、気が付くとリリスは世界樹の樹上に居た。
勿論これは実体ではない。
リリスの意識だけが呼び出されたのだ。
生い茂る世界樹の葉がハンモックのように形造られ、リリスはそこに身を委ねていた。
世界樹からの癒しの波動が全身に伝わってくる。
居心地が良いわねえ。
リリスは5分ほどくつろぎ、世界樹の元を離れた。
意識のレベルでたまに此処を訪れる程度なら、誰からも文句を言われないわよね。
そう思いながらリリスの意識は上空に舞い上がった。
それと共に意識が朦朧とし、気が付くと元の世界の肉体に戻っていた。
時刻を確かめると、昼休みはあと30分ほど残っている。
リリスは気持ちを切り替え、午後の授業の為に学舎に速足で戻っていったのだった。
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