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兄と妹のダンジョン探索4
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ギースのダンジョンの第5階層。
目の前に広がる砂漠の奥から、砂塵を巻き上げながら黒い塊りがこちらに向かって来る。
10体のサソリが隊列を組んで接近しているのだ。
あの固い甲殻はリリアのファイヤーニードルを跳ね返すだろう。
そう考えてリリスは自分達の手前に、土魔法で泥沼と土壁を出現させた。
「リリア! サソリが土壁をよじ登ってきたら、その腹部を狙うのよ。」
リリスの意図を理解し、リリアはハイと大きく返事をした。
即座にリリアは両手にファイヤーニードルを出現させ、泥沼の手前で待機した。
更にその両側にリリスとマーティンが待機して、サソリの迎撃態勢を整えている。
程なくキシャーッと言う奇声を上げながらサソリの群れが土壁に到達した。
だが直ぐに土壁を登ろうとはしない。
警戒しているのだろうか?
数体のサソリが尻尾を振り上げて、緑色の毒液をこちらに向けて放った。
それらはジークが張ったシールドに跳ね返され、泥沼の中に落ちてジュッと音を立て、瘴気を撒き散らしている。
これは牽制だったようだ。
毒液を放っても効果が無いと理解したようで、数体のサソリが土壁をよじ登って来た。
その際に甲殻に覆われていない腹部をこちらに向ける事になる。
そこがリリアの狙い目だ。
リリアはうっと気合を入れてファイヤーニードルを次々に放った。
10本のファイヤーニードルがキーンと金切り音を立てて滑空し、土壁を乗り越えようとしているサソリの腹部に命中した。
ボスッボスッと着弾音が響くと共に、数匹のサソリの身体が火に包まれ、内部から焼かれて黒焦げになっていく。
だが残りのサソリは土壁を乗り越える際の危険に気付いたようで、土壁の両側からこちらに回り込もうとしていた。
ここはリリスとマーティンの狙い目だ。
リリスは土壁の右側に回り込んできたサソリに向けて、数発の二重構造のファイヤーボルトを放った。
太めのファイヤーボルトが高速で滑空していく。
それらは2体のサソリの背中に見事に着弾した。
着弾と同時にサソリの甲殻を焼いて穴を開け、その中に更にファイヤーボルトが突入し、サソリの体内で一気に炎を上げた。
ゴウッと言う音を伴ってサソリの身体が燃え上がり、エビを焼いた様な臭いが周囲に拡散されていく。
いつもながら美味しそうな匂いね。
でも実際に食材にした人は居ないだろうな。
この世界でも海辺の街でなら、海鮮の直火焼の料理があるとは聞いた事があるんだけど・・・。
リリスはそう思ってニヤッと笑ってしまった。
一方、マーティンは土壁の左側に回り込んできた2体のサソリに向けて、両手から数発の小振りなファイヤーボールを放った。
それらは直径が10cmほどの大きさだが、青白く光っているのでかなりの高温なのだろう。
ファイヤーボールは高速で滑空してサソリに着弾し、その高熱でサソリの甲殻を突き破った。ドンッドンッと言う衝撃音と共に爆炎が上がり、サソリは火達磨になって燃え上がった。
火力で圧倒したマーティンは、何事も無かったように平然としている。
まだまだ余裕がありそうだ。
ここでリリスは探知を掛けたが、周辺に魔物の気配は一切無い。
全てのサソリが駆逐されたのを確認して、リリスは土壁と泥沼を元の地面に戻した。
ふとリリアを見ると、それなりに疲れているようで、魔力をかなり消耗したようだ。
リリアはマーティンからマナポーションを受け取ると、グイッと一気に飲み干した。
それはまるで男子の様な飲みっぷりだ。
ポーションのお陰でリリアは、表情にも少し余裕を感じるようになってきた。
「うんうん。上出来だね。3人共、ご苦労様。」
ジークはそう言いながら、上機嫌で探索マニュアルを取り出した。
「探索マニュアルによると、この階層の後半には大きな毒蛇が出現するようだ。サソリと同じ要領で駆逐出来るだろうね。」
ジークの言葉が軽く感じられる。
探索マニュアルを過信しているようだ。
そんなに思い通りにいかないわよ。
リリスは心の中でそう呟いた。
実際、この後にはヒックスが用意したサラマンダーが待ち受けている。
だがジークにとってはそれを知る由も無い。
さあ、どう対処する?
自分にそう問い掛けながら、リリスは先頭に立って砂漠の中の小径を進んだ。
第5階層の中間地点に差し掛かったところで、リリスは地面が揺れているのを感じた。
小さな地震の様な感覚だ。
それが徐々に大きくなってドドドドドッと地鳴りが響いて来た。
リリアも不安そうな表情をしている。
「これは何の気配だ?」
立ち止まってマーティンが睨みつける目線の先に、地面から砂が噴き出しているのが見えた。
前方約500mほどの砂丘の真ん中だ。
その噴き出す砂と共に、巨大な赤い蛇が飛び出してきた。
全長は20mほどもありそうだ。
蛇のように見えたが、あれがヒックスの用意したサラマンダーなのだろう。
登場の際の演出が際立っているわね。
まるで怪獣映画の登場シーンじゃないの。
サラマンダーは上空まで舞い上がり、緩やかに落下しながら態勢を整え、滑るようにこちらに向かってきた。
移動速度はそれほどに早くないが、徐々にこちらに向かっているのは確かだ。
「サラマンダーだ! あんなものは探索マニュアルには載っていないぞ!」
ジークの声が少し上ずっている。それは無理も無い事だ。
だが不安そうな声をあげながらも、リリスの顔をちらっと見たのは何故だろうか?
私が呼び寄せたとでも言いたいの?
今回はリリアが呼び寄せたようなものよ。
そう思ってリリアの顔を見ると、リリアは緊張で表情が固まっていた。
小さな拳を強く握りしめ、ガタガタと腕を振るわせているのが見て取れる。
拙いわね。
過度に緊張しているようだけど・・・。
リリスの脳裏に嫌な予感が湧きあがってくる。
サラマンダーは前方に向けて幾つもの火球を放った。その火球がリリス達の前方の地面に着弾し、ゴウッと爆炎を上げて地面を抉った。
ヒックスの話では人族のファイヤーボール程度の威力だと聞いているが、それにしては爆炎の大きさが目に付く。
本当にヒックスの言っていたように見掛け倒しなのか?
リリスの疑問を他所に、マーティンは青白く輝く高温のファイヤーボールを数発放った。
轟音を上げて滑空するファイヤーボールは、前方400mほどの距離に居るサラマンダーに着弾し、激しい爆炎でサラマンダーを包み込んだ。
だが爆炎が収まった時、サラマンダーは空中に停止したままだったが、何事も無かったかのように再び動き始めた。
「火魔法には高度の耐性を持っているようだ。これは拙いな・・・・・」
マーティンの呟く声が聞こえて来た。
その近くでリリアがより一層強張っている。
どうやらヒックスが見掛け倒しだと言っていたのは、このサラマンダーの攻撃力だけの話だったようだ。
防御力は火の化身とも言われるサラマンダーそのものだ。
体長20mにもなる相手には、足止めとしてのリリスの加圧も効かないだろう。
とりあえず頑丈なトーチカを造り上げて、守りを固めようかと思っていると、リリアが急に前に進みだした。
そのリリアの後姿を見て、リリスはうっと唸り声をあげた。
リリアの身体から幾つもの触手が出てきている。
リリアの異変に気付いたマーティンが声を掛けようとした矢先、リリアの身体はスッと空中に舞い上がった。
「リリア!」
マーティンの呼び止める声に振り返ったリリアの目は赤く光っていた。
その形相にうっと呻いてマーティンは立ち止まってしまった。
拙い!
闇に呑まれそうになっている!
リリアの身体は更に上空に上がり、身体中のあちらこちらから触手が伸びて来た。
その数は30本ほどにもなるだろうか。
でもリリアの魔力量と火魔法のレベルでは、あの加護は満足に発動出来ないはず・・・・・。
そう考えた途端に、リリアの身体から周囲に強力な魔力吸引のスキルが発動された。
それは予期せぬ一瞬の事だったので、背後に居たジークの魔力の大半を奪い、マーティンとリリスの魔力も半量が奪われてしまった。
更に地面や大気からも魔力を吸い上げ、膨大な魔力が渦を巻いてリリアの身体に吸い込まれていく。
濃密な魔力の塊がリリアの身体を包み込む様に集結し、リリアの身体を縦横無尽に出入りしている様子が分かった。
魔装を発動していたにもかかわらず、魔力を吸い上げられたリリスは眩暈がしてその場に膝をついた。
マーティンもその場で立ち上がれず、座り込んで頭をパンパンと叩いている。
リリアの身体から出現した30本ほどの触手は全てが5mほどに伸長し、その全ての先端に直径50cmほどのファイヤーボールを出現させた。
その触手が幾つも絡まり合い、火球を練り上げるように動いている。
絡み合う触手が前方に向かい、網目の筒のような形状になった。
その中に創り上げられたのは、直径50cm長さ5mほどにもなるミサイル状の火の塊だ。
ミサイル状の火の塊はその先端部分が青白く輝き、その温度の高さを嫌でも感じさせている。
リリアがゆっくりと両手を前に突き出した。
次の瞬間、ミサイル状の火の塊が静かに放たれた。それは前方5mほどの位置で突如加速し、キーンと金切り音を立ててサラマンダーに向かって行った。
それはまさに高速で飛ぶ巡航ミサイルだ。
200mほどの距離にまで近付いていたサラマンダーに着弾するまで、数秒も掛からなかった。
ドウンッと衝撃音が立ち、爆炎と閃光で目の前が全く見えなくなってしまった。
更に僅かな時間差で爆音と爆風がリリス達を襲う。
強烈な爆風でリリスはその場から立ち上がることも出来ず、手で顔を覆ってその場に突っ伏した。
そのリリスの頭の上を更に爆風が駆け抜けていく。
それと同時に熱波が伝わって来たが、これは何とか凌げる程度で済んだ。
10秒ほど経過してリリスが顔を上げると、サラマンダーは跡形もなく消え去っていた。
リリアはどうしたの?
そう思って上空を見ると、リリアは空中で不気味にニヤニヤと笑っていた。
だが直ぐに気を失い、その身体は力が抜けたような状態で徐々に地上に降り始めた。
それと共に伸びていた触手がクッションのようにリリアの身体に纏わりつき、リリアの身体を着地の衝撃から守ってくれたのは驚きだ。
着地の後、リリアの身体を包み込んでいた触手は、その使命を終えたように徐々に消えていく。
周囲を見るとマーティンは、リリスと同じように地に臥して、リリアの様子を驚愕の表情で見ていた。
ちなみにジークは気を失って倒れたままだ。
怪我は無いようなのだが大丈夫なのだろうか?
マーティンは直ぐに立ち上がり、倒れているリリアに駆け寄った。
その小さな身体を抱き起すと、リリアは朦朧としていて視線が定まらない。
魔力切れを起こしているような状態だ。
「リリア! しっかりしろ!」
マーティンがリリアに魔力を注ぐと、リリアはう~んと唸って、再び意識を失った。
即座にリリアの身体を精査したが、その身体に異常は見られない。
疲労困憊したような状態なのだろうか。
「リリス。君は何か知っているのか? リリアに身に何が起きたんだ?」
真剣に問い掛けるマーティンにリリスは言葉も無く近付いた。
リリスの頭の中を様々な思いが駆け巡る。
どの様に説明して良いのか分からない。
何か言おうとして身を屈め、目線を同じ高さにしようとしたその時、マーティンの傍に黒い人影が突然現れた。
禍々しい妖気が漂って来る。
「何者だ!」
身構えるマーティンに黒い人影はゆっくりと近付いて来たのだった。
目の前に広がる砂漠の奥から、砂塵を巻き上げながら黒い塊りがこちらに向かって来る。
10体のサソリが隊列を組んで接近しているのだ。
あの固い甲殻はリリアのファイヤーニードルを跳ね返すだろう。
そう考えてリリスは自分達の手前に、土魔法で泥沼と土壁を出現させた。
「リリア! サソリが土壁をよじ登ってきたら、その腹部を狙うのよ。」
リリスの意図を理解し、リリアはハイと大きく返事をした。
即座にリリアは両手にファイヤーニードルを出現させ、泥沼の手前で待機した。
更にその両側にリリスとマーティンが待機して、サソリの迎撃態勢を整えている。
程なくキシャーッと言う奇声を上げながらサソリの群れが土壁に到達した。
だが直ぐに土壁を登ろうとはしない。
警戒しているのだろうか?
数体のサソリが尻尾を振り上げて、緑色の毒液をこちらに向けて放った。
それらはジークが張ったシールドに跳ね返され、泥沼の中に落ちてジュッと音を立て、瘴気を撒き散らしている。
これは牽制だったようだ。
毒液を放っても効果が無いと理解したようで、数体のサソリが土壁をよじ登って来た。
その際に甲殻に覆われていない腹部をこちらに向ける事になる。
そこがリリアの狙い目だ。
リリアはうっと気合を入れてファイヤーニードルを次々に放った。
10本のファイヤーニードルがキーンと金切り音を立てて滑空し、土壁を乗り越えようとしているサソリの腹部に命中した。
ボスッボスッと着弾音が響くと共に、数匹のサソリの身体が火に包まれ、内部から焼かれて黒焦げになっていく。
だが残りのサソリは土壁を乗り越える際の危険に気付いたようで、土壁の両側からこちらに回り込もうとしていた。
ここはリリスとマーティンの狙い目だ。
リリスは土壁の右側に回り込んできたサソリに向けて、数発の二重構造のファイヤーボルトを放った。
太めのファイヤーボルトが高速で滑空していく。
それらは2体のサソリの背中に見事に着弾した。
着弾と同時にサソリの甲殻を焼いて穴を開け、その中に更にファイヤーボルトが突入し、サソリの体内で一気に炎を上げた。
ゴウッと言う音を伴ってサソリの身体が燃え上がり、エビを焼いた様な臭いが周囲に拡散されていく。
いつもながら美味しそうな匂いね。
でも実際に食材にした人は居ないだろうな。
この世界でも海辺の街でなら、海鮮の直火焼の料理があるとは聞いた事があるんだけど・・・。
リリスはそう思ってニヤッと笑ってしまった。
一方、マーティンは土壁の左側に回り込んできた2体のサソリに向けて、両手から数発の小振りなファイヤーボールを放った。
それらは直径が10cmほどの大きさだが、青白く光っているのでかなりの高温なのだろう。
ファイヤーボールは高速で滑空してサソリに着弾し、その高熱でサソリの甲殻を突き破った。ドンッドンッと言う衝撃音と共に爆炎が上がり、サソリは火達磨になって燃え上がった。
火力で圧倒したマーティンは、何事も無かったように平然としている。
まだまだ余裕がありそうだ。
ここでリリスは探知を掛けたが、周辺に魔物の気配は一切無い。
全てのサソリが駆逐されたのを確認して、リリスは土壁と泥沼を元の地面に戻した。
ふとリリアを見ると、それなりに疲れているようで、魔力をかなり消耗したようだ。
リリアはマーティンからマナポーションを受け取ると、グイッと一気に飲み干した。
それはまるで男子の様な飲みっぷりだ。
ポーションのお陰でリリアは、表情にも少し余裕を感じるようになってきた。
「うんうん。上出来だね。3人共、ご苦労様。」
ジークはそう言いながら、上機嫌で探索マニュアルを取り出した。
「探索マニュアルによると、この階層の後半には大きな毒蛇が出現するようだ。サソリと同じ要領で駆逐出来るだろうね。」
ジークの言葉が軽く感じられる。
探索マニュアルを過信しているようだ。
そんなに思い通りにいかないわよ。
リリスは心の中でそう呟いた。
実際、この後にはヒックスが用意したサラマンダーが待ち受けている。
だがジークにとってはそれを知る由も無い。
さあ、どう対処する?
自分にそう問い掛けながら、リリスは先頭に立って砂漠の中の小径を進んだ。
第5階層の中間地点に差し掛かったところで、リリスは地面が揺れているのを感じた。
小さな地震の様な感覚だ。
それが徐々に大きくなってドドドドドッと地鳴りが響いて来た。
リリアも不安そうな表情をしている。
「これは何の気配だ?」
立ち止まってマーティンが睨みつける目線の先に、地面から砂が噴き出しているのが見えた。
前方約500mほどの砂丘の真ん中だ。
その噴き出す砂と共に、巨大な赤い蛇が飛び出してきた。
全長は20mほどもありそうだ。
蛇のように見えたが、あれがヒックスの用意したサラマンダーなのだろう。
登場の際の演出が際立っているわね。
まるで怪獣映画の登場シーンじゃないの。
サラマンダーは上空まで舞い上がり、緩やかに落下しながら態勢を整え、滑るようにこちらに向かってきた。
移動速度はそれほどに早くないが、徐々にこちらに向かっているのは確かだ。
「サラマンダーだ! あんなものは探索マニュアルには載っていないぞ!」
ジークの声が少し上ずっている。それは無理も無い事だ。
だが不安そうな声をあげながらも、リリスの顔をちらっと見たのは何故だろうか?
私が呼び寄せたとでも言いたいの?
今回はリリアが呼び寄せたようなものよ。
そう思ってリリアの顔を見ると、リリアは緊張で表情が固まっていた。
小さな拳を強く握りしめ、ガタガタと腕を振るわせているのが見て取れる。
拙いわね。
過度に緊張しているようだけど・・・。
リリスの脳裏に嫌な予感が湧きあがってくる。
サラマンダーは前方に向けて幾つもの火球を放った。その火球がリリス達の前方の地面に着弾し、ゴウッと爆炎を上げて地面を抉った。
ヒックスの話では人族のファイヤーボール程度の威力だと聞いているが、それにしては爆炎の大きさが目に付く。
本当にヒックスの言っていたように見掛け倒しなのか?
リリスの疑問を他所に、マーティンは青白く輝く高温のファイヤーボールを数発放った。
轟音を上げて滑空するファイヤーボールは、前方400mほどの距離に居るサラマンダーに着弾し、激しい爆炎でサラマンダーを包み込んだ。
だが爆炎が収まった時、サラマンダーは空中に停止したままだったが、何事も無かったかのように再び動き始めた。
「火魔法には高度の耐性を持っているようだ。これは拙いな・・・・・」
マーティンの呟く声が聞こえて来た。
その近くでリリアがより一層強張っている。
どうやらヒックスが見掛け倒しだと言っていたのは、このサラマンダーの攻撃力だけの話だったようだ。
防御力は火の化身とも言われるサラマンダーそのものだ。
体長20mにもなる相手には、足止めとしてのリリスの加圧も効かないだろう。
とりあえず頑丈なトーチカを造り上げて、守りを固めようかと思っていると、リリアが急に前に進みだした。
そのリリアの後姿を見て、リリスはうっと唸り声をあげた。
リリアの身体から幾つもの触手が出てきている。
リリアの異変に気付いたマーティンが声を掛けようとした矢先、リリアの身体はスッと空中に舞い上がった。
「リリア!」
マーティンの呼び止める声に振り返ったリリアの目は赤く光っていた。
その形相にうっと呻いてマーティンは立ち止まってしまった。
拙い!
闇に呑まれそうになっている!
リリアの身体は更に上空に上がり、身体中のあちらこちらから触手が伸びて来た。
その数は30本ほどにもなるだろうか。
でもリリアの魔力量と火魔法のレベルでは、あの加護は満足に発動出来ないはず・・・・・。
そう考えた途端に、リリアの身体から周囲に強力な魔力吸引のスキルが発動された。
それは予期せぬ一瞬の事だったので、背後に居たジークの魔力の大半を奪い、マーティンとリリスの魔力も半量が奪われてしまった。
更に地面や大気からも魔力を吸い上げ、膨大な魔力が渦を巻いてリリアの身体に吸い込まれていく。
濃密な魔力の塊がリリアの身体を包み込む様に集結し、リリアの身体を縦横無尽に出入りしている様子が分かった。
魔装を発動していたにもかかわらず、魔力を吸い上げられたリリスは眩暈がしてその場に膝をついた。
マーティンもその場で立ち上がれず、座り込んで頭をパンパンと叩いている。
リリアの身体から出現した30本ほどの触手は全てが5mほどに伸長し、その全ての先端に直径50cmほどのファイヤーボールを出現させた。
その触手が幾つも絡まり合い、火球を練り上げるように動いている。
絡み合う触手が前方に向かい、網目の筒のような形状になった。
その中に創り上げられたのは、直径50cm長さ5mほどにもなるミサイル状の火の塊だ。
ミサイル状の火の塊はその先端部分が青白く輝き、その温度の高さを嫌でも感じさせている。
リリアがゆっくりと両手を前に突き出した。
次の瞬間、ミサイル状の火の塊が静かに放たれた。それは前方5mほどの位置で突如加速し、キーンと金切り音を立ててサラマンダーに向かって行った。
それはまさに高速で飛ぶ巡航ミサイルだ。
200mほどの距離にまで近付いていたサラマンダーに着弾するまで、数秒も掛からなかった。
ドウンッと衝撃音が立ち、爆炎と閃光で目の前が全く見えなくなってしまった。
更に僅かな時間差で爆音と爆風がリリス達を襲う。
強烈な爆風でリリスはその場から立ち上がることも出来ず、手で顔を覆ってその場に突っ伏した。
そのリリスの頭の上を更に爆風が駆け抜けていく。
それと同時に熱波が伝わって来たが、これは何とか凌げる程度で済んだ。
10秒ほど経過してリリスが顔を上げると、サラマンダーは跡形もなく消え去っていた。
リリアはどうしたの?
そう思って上空を見ると、リリアは空中で不気味にニヤニヤと笑っていた。
だが直ぐに気を失い、その身体は力が抜けたような状態で徐々に地上に降り始めた。
それと共に伸びていた触手がクッションのようにリリアの身体に纏わりつき、リリアの身体を着地の衝撃から守ってくれたのは驚きだ。
着地の後、リリアの身体を包み込んでいた触手は、その使命を終えたように徐々に消えていく。
周囲を見るとマーティンは、リリスと同じように地に臥して、リリアの様子を驚愕の表情で見ていた。
ちなみにジークは気を失って倒れたままだ。
怪我は無いようなのだが大丈夫なのだろうか?
マーティンは直ぐに立ち上がり、倒れているリリアに駆け寄った。
その小さな身体を抱き起すと、リリアは朦朧としていて視線が定まらない。
魔力切れを起こしているような状態だ。
「リリア! しっかりしろ!」
マーティンがリリアに魔力を注ぐと、リリアはう~んと唸って、再び意識を失った。
即座にリリアの身体を精査したが、その身体に異常は見られない。
疲労困憊したような状態なのだろうか。
「リリス。君は何か知っているのか? リリアに身に何が起きたんだ?」
真剣に問い掛けるマーティンにリリスは言葉も無く近付いた。
リリスの頭の中を様々な思いが駆け巡る。
どの様に説明して良いのか分からない。
何か言おうとして身を屈め、目線を同じ高さにしようとしたその時、マーティンの傍に黒い人影が突然現れた。
禍々しい妖気が漂って来る。
「何者だ!」
身構えるマーティンに黒い人影はゆっくりと近付いて来たのだった。
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