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リリアの迷走1
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ギースのダンジョンを探索してから一か月が過ぎた頃。
リリアの様子がまたおかしくなったとウィンディが呟くようになった。
そう言えば最近、リリアの顔を見ないわね。
心配になってウィンディにリリアの様子を聞くと、授業中もボーっとしていて、物思いに耽っている様子だと言う。
「少し拗らせちゃっているんですよね。」
「拗らせるって・・・風邪?」
リリスの問い掛けにウィンディはぷっと吹き出した。
「違いますよ。風邪じゃなくって恋ですよ。」
ウィンディの意外な返答に、リリスはう~んと唸って考え込んでしまった。
リリアってまだ子供じゃないの。
どちらかと言えば恋に恋する年齢よね。
それに元々魔法の才能が無い故のコンプレックスで、コミュ障に近い生活をしてきたんだから、自分の気持ちを整理出来ないだろうなあ。
リリスの脳裏には色々な思いが過った。
神殿の祭司のマキから受けた魂魄浄化や胎内回帰によって、リリアの精神は根底から浄化された。
そのお陰で最近のリリアの表情から陰気は無くなっていた。
だが意外な要因でリリアの精神状態が不安定になっているのは心配だ。
だからと言って、他人の色恋沙汰に首を突っ込むのもどうかと思うのだが・・・・・。
「それで相手は誰なの?」
リリスの言葉にウィンディは神妙な表情を見せた。
「2年生のリトラス先輩です。」
「ええっ! リト君なの?」
思わず声をあげてしまったリリスにウィンディは黙って頷いた。
「う~ん。リト君かぁ。まあ、上級貴族同士だから身分的には問題ないけどねえ。」
「まあ、それだけなら問題は無いんですけどね。」
ウィンディはそう言うと苦笑いを見せた。
妙に含みのある言葉である。
リリスは気になって問い掛けた。
「それだけじゃないってどう言う意味なの?」
リリスの問い掛けにウィンディはう~んと唸って黙り込んだ。
だが少し間を置いて、ウィンディは口を開いた。
「私も心配になってリリアに何度も聞いてみたんですよ。それでようやくリリアが重い口を開いたんですけど・・・・・」
「リリアが休日に王都で、リトラス先輩が見知らぬ女の子とデートしているのを見ちゃったんです。小柄で白いワンピースを着た上品そうな美少女だったって言うんですけどねえ。」
うっ!
それってリンちゃんじゃないの?
リト君ったら、そんなところを見られちゃったのか。
でも拙いわねえ。
あの女の子は誰って聞かれても、安易に返答出来ないわよね。
リリスの思案顔を見て、ウィンディは首を傾げた。
「リリス先輩。その女の子が誰だか、知っているんですか?」
「えっ? ええ、まあね。遠く離れた小国の王族なのよ。」
そう言ってリリスは言葉を濁した。
真一文字に口を結んだリリスの様子を見て、ウィンディはそれ以上聞くのを躊躇ってしまった。
二人の間に沈黙が続く。
ウィンディは気持ちを切り替えてリリスに問い掛けた。
「リトラス先輩には、話した方が良いですか?」
「いや、リト君の立場で考えると、それは余計なお世話じゃないのかなあ。もう少し様子を見るのが良いと思うわよ。」
そう答えながらも、リリスは機会があればリトラスに話してみようと思っていた。
だがその10日後。
アンソニー経由でリトラスから話があるとの伝言を唐突に受け、リリスは昼休みに職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
ゲストルームに入るとリトラスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。突然呼び出しちゃって・・・」
「どうしたのよ? しかもこんな場所に呼び出すなんて。放課後に生徒会の部屋に来れば良いのに。」
リリスの言葉にリトラスは恐縮し、ソファの上で身を縮めるような姿勢を取った。
「生徒会の部屋に行くと、あの子が居るかも知れませんので・・・・・」
言葉尻を濁らせたリトラスの言葉にリリスは勘付いた。
これはリリア絡みの用件だと。
リリスはソファに座り直してリトラスに問い掛けた。
「もしかしてリリアの事?」
リリスの言葉にリトラスは黙って頷いた。
「実は休日に使い魔で付き纏われたんですよ。器用に気配を殺していましたけど、あれは明らかにリリアの使い魔でしたね。」
うっ!
リリアったらかなり拗らせちゃっているわね。
使い魔でストーカー行為をするなんて・・・。
「リト君はリリアの事を何処まで知っているの?」
「まあ、知らない間柄じゃないですよ。お互いに上級貴族の子女ですからね。それにリリアの両親と僕の両親も、王家に仕える立場で多少なりとも交流がありましたから、小さい頃から顔を見ていた事もありました。」
「それなら・・・最近のリリアの気持ちを何となく感じ取っているのね?」
リリスの言葉にリトラスは神妙な表情を見せた。
「僕に好意を持ってくれている事は感じました。でも最近は少し違ってきているんですよね。」
「言葉は悪いですが・・・何となく邪気を孕んでいるような感覚を受けてしまって、どうしたら良いものかと。」
リトラスは言葉を詰まらせた。
「それって嫉妬かなあ。」
「嫉妬?」
「うん。嫉妬なのかもね。」
リリスはそう言うと、王都でリトラスがリンとデートしているところをリリアが見てしまった事を伝えた。
リトラスはそれを聞き、う~んと唸ってしばらく黙り込んでしまった。
数分後。
リトラスはその重い口を開いた。
「あの日はリンちゃんから会いたいと言って来たんです。最近ストレスが多くて、気晴らしが必要なのでと言っていました。それで王都を二人でぶらぶらしていたんですよ。」
「久し振りに会ったリンちゃんは、見た目は変わらないんですが、中身はかなり大人っぽくなっていて、少し戸惑っちゃいました。彼女に聞いた話では、一族のリーダーとしての判断を求められる事が増えて来たそうです。何時までも子供で居られない状況になりつつあるんだって言いながら、苦笑いしていましたね。」
「でもそれをリリアに見られていたとは思いませんでした。リリアにはリンちゃんの事は話したんですか?」
リトラスの言葉にリリスは手を横に振った。
「そんな事、話せるはずが無いわよ。人化した竜だなんて言えないわ。」
「そうですよねえ。」
そう言いながらリトラスは少し考え込んだ。
「リンちゃんはどこかの小国の王族だと言う事にしましょうか。僕とはどうしても結ばれない間柄なんだって言えば良いですよ。まあ、結ばれない間柄なのは事実ですから・・・」
自嘲気味なリトラスの言葉にリリスも苦笑いを浮かべてしまった。
リトラスの初恋の相手とは言え、リンは人化した覇竜であり、全く違う世界に生きている存在だと言っても良いからだ。
「そうねえ。その設定で一度リリアに話してみようかしら。」
「そうして貰えれば助かります。僕も使い魔で付き纏われるのは気味が悪いので・・・」
リトラスの言葉にリリスは少し心を痛めた。恋愛感情を拗らせてしまったリリアが不憫でならない。
「まあ、リリアも自分の気持ちをコントロール出来ていないのよ。自虐的に成らざるを得ないような家族関係で育ってきた子だから・・・」
「それは僕も両親から聞いていますよ。魔法が上手く出来なくて、家門の恥だとか言われていたそうですね。でも僕も同じような過去を通過してきたんですけどねえ。」
リトラスの言葉にリリスは、過去のリトラス絡みの出来事をあれこれと思い出した。
リトラスの場合は呪詛によって意図的に成長を阻害されていたのだった。その呪詛はリリスの尽力によって除去されたが、その後のリトラスの聖剣との出会いや剣聖との出会いは、全て彼の持つ強運に拠るものだ。
リリアに会って話をしてみよう。
リリスはそう決断してゲストルームを後にした。
リトラスと会った翌日。
リリスは早速リリアと話をする機会を得た。
ウィンディの手引きで生徒会の部屋に来たリリアを隣の父兄用のゲストルームに案内し、リリスはリリアの対面のソファに座った。
ウィンディは部屋の片隅に椅子を用意して待機している状態だ。
リリアは神妙な表情で俯いている。
尋問されるとでも思っているのだろうか?
リリアの気持ちをほぐす為に、ウィンディはあらかじめ用意していた紅茶を二人分運び、テーブルの上にセットした。
その紅茶をリリスがリリアに勧め、二人は同時にそれをゆっくりと口に運んだ。
馥郁とした上質の茶葉の香りが鼻をくすぐる。
少し落ち着いたようで、リリアの表情もほころんできた。
その頃合いを見て、リリスは話を始めた。
「リリア。私は昨日、リトラス君と会ったのよ。あなたの使い魔の事で相談されてね。」
単刀直入過ぎるかと思いながら、リリスは最初から本題に入った。
リリアはうっと唸って下を向いてしまったが、直ぐにその顔を上げた。
「やっぱり迷惑ですよね。」
「でも自分の気持ちに突き動かされちゃって・・・・・」
リリアの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「リトラス君とは小さい頃から何度も会っているんでしょ?」
「はい。同じ上級貴族の立場で家同士の交流がありましたからね。リトラス先輩は病弱で魔法学院にも入れないって聞いていたんです。それが久し振りに会ったら背も伸びてたくましくなってて・・・・・。直ぐに憧れの対象になっちゃいました。」
忌憚なく話してくれるリリアにリリスも少し安心感を持った。
この状況であれこれと隠されると話が進まないからだ。
「でも、王都で偶然にリトラス先輩を見かけた時、その傍に小柄な美少女が手をつないで歩いていたのを見て驚きました。ショックでしたね。そして、やっぱりそうよねとも思いました。既に付き合っている彼女が居ても不思議じゃないですよね。」
そう話したリリアの表情は少し寂しそうだった。
「でもそこからどうして使い魔で付き纏う様になっちゃったの?」
「それは・・・・・」
リリアは少しの間黙り込んでしまった。
スッと紅茶に手を伸ばし、一口飲んでカップをテーブルに置くその動作が妙に長く感じられる。
数分後、リリアは意を決したように再び口を開いた。
「諦めようと思ったんです。それでリトラス先輩の彼女の顔をもう一度見ておこうと思って、物陰から覗き込んだんです。その時その女の子と偶然目が合ってしまって、それで・・・・・」
リリアは言葉を選ぶように少し間を置いた。
「身体中に電気が走ったようなショックを受けたんです。あの子に会いたい、あの子の傍に居たい、あの子に会わなければと言う思いがどんどん湧き溢れて来ちゃって、自分でも抑え切れずに・・・・・」
ええっ?
これってどう言う展開なのよ。
「ちょっと待ってね、リリア。あなたが使い魔を使ってリトラス君に付き纏っていたのは、嫉妬が原因じゃ無かったって事なの?」
リリスの言葉にリリアは首を傾げた。
「嫉妬って言われても・・・。私はリトラス先輩の事は既に諦めちゃってますよ。」
淡々と答えたリリアの言葉にリリスは唖然とした。
「それじゃあ・・・それじゃあリンちゃんに会いたい一心で、リトラス君に付き纏っていたの?」
このリリスの言葉にリリアは目を見開いてソファから身を乗り出した。
「リンちゃんって言うんですか? リリス先輩はあの子の事を知っているんですね!」
「それなら是非合わせてください!」
予想外の展開にリリスはう~んと唸って後ろに仰け反った。
これってどうしろと言うの?
目をキラキラさせながらリリスに懇願するリリアの対面で、リリスは困り果ててしばらく黙り込んでしまったのだった。
リリアの様子がまたおかしくなったとウィンディが呟くようになった。
そう言えば最近、リリアの顔を見ないわね。
心配になってウィンディにリリアの様子を聞くと、授業中もボーっとしていて、物思いに耽っている様子だと言う。
「少し拗らせちゃっているんですよね。」
「拗らせるって・・・風邪?」
リリスの問い掛けにウィンディはぷっと吹き出した。
「違いますよ。風邪じゃなくって恋ですよ。」
ウィンディの意外な返答に、リリスはう~んと唸って考え込んでしまった。
リリアってまだ子供じゃないの。
どちらかと言えば恋に恋する年齢よね。
それに元々魔法の才能が無い故のコンプレックスで、コミュ障に近い生活をしてきたんだから、自分の気持ちを整理出来ないだろうなあ。
リリスの脳裏には色々な思いが過った。
神殿の祭司のマキから受けた魂魄浄化や胎内回帰によって、リリアの精神は根底から浄化された。
そのお陰で最近のリリアの表情から陰気は無くなっていた。
だが意外な要因でリリアの精神状態が不安定になっているのは心配だ。
だからと言って、他人の色恋沙汰に首を突っ込むのもどうかと思うのだが・・・・・。
「それで相手は誰なの?」
リリスの言葉にウィンディは神妙な表情を見せた。
「2年生のリトラス先輩です。」
「ええっ! リト君なの?」
思わず声をあげてしまったリリスにウィンディは黙って頷いた。
「う~ん。リト君かぁ。まあ、上級貴族同士だから身分的には問題ないけどねえ。」
「まあ、それだけなら問題は無いんですけどね。」
ウィンディはそう言うと苦笑いを見せた。
妙に含みのある言葉である。
リリスは気になって問い掛けた。
「それだけじゃないってどう言う意味なの?」
リリスの問い掛けにウィンディはう~んと唸って黙り込んだ。
だが少し間を置いて、ウィンディは口を開いた。
「私も心配になってリリアに何度も聞いてみたんですよ。それでようやくリリアが重い口を開いたんですけど・・・・・」
「リリアが休日に王都で、リトラス先輩が見知らぬ女の子とデートしているのを見ちゃったんです。小柄で白いワンピースを着た上品そうな美少女だったって言うんですけどねえ。」
うっ!
それってリンちゃんじゃないの?
リト君ったら、そんなところを見られちゃったのか。
でも拙いわねえ。
あの女の子は誰って聞かれても、安易に返答出来ないわよね。
リリスの思案顔を見て、ウィンディは首を傾げた。
「リリス先輩。その女の子が誰だか、知っているんですか?」
「えっ? ええ、まあね。遠く離れた小国の王族なのよ。」
そう言ってリリスは言葉を濁した。
真一文字に口を結んだリリスの様子を見て、ウィンディはそれ以上聞くのを躊躇ってしまった。
二人の間に沈黙が続く。
ウィンディは気持ちを切り替えてリリスに問い掛けた。
「リトラス先輩には、話した方が良いですか?」
「いや、リト君の立場で考えると、それは余計なお世話じゃないのかなあ。もう少し様子を見るのが良いと思うわよ。」
そう答えながらも、リリスは機会があればリトラスに話してみようと思っていた。
だがその10日後。
アンソニー経由でリトラスから話があるとの伝言を唐突に受け、リリスは昼休みに職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
ゲストルームに入るとリトラスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。突然呼び出しちゃって・・・」
「どうしたのよ? しかもこんな場所に呼び出すなんて。放課後に生徒会の部屋に来れば良いのに。」
リリスの言葉にリトラスは恐縮し、ソファの上で身を縮めるような姿勢を取った。
「生徒会の部屋に行くと、あの子が居るかも知れませんので・・・・・」
言葉尻を濁らせたリトラスの言葉にリリスは勘付いた。
これはリリア絡みの用件だと。
リリスはソファに座り直してリトラスに問い掛けた。
「もしかしてリリアの事?」
リリスの言葉にリトラスは黙って頷いた。
「実は休日に使い魔で付き纏われたんですよ。器用に気配を殺していましたけど、あれは明らかにリリアの使い魔でしたね。」
うっ!
リリアったらかなり拗らせちゃっているわね。
使い魔でストーカー行為をするなんて・・・。
「リト君はリリアの事を何処まで知っているの?」
「まあ、知らない間柄じゃないですよ。お互いに上級貴族の子女ですからね。それにリリアの両親と僕の両親も、王家に仕える立場で多少なりとも交流がありましたから、小さい頃から顔を見ていた事もありました。」
「それなら・・・最近のリリアの気持ちを何となく感じ取っているのね?」
リリスの言葉にリトラスは神妙な表情を見せた。
「僕に好意を持ってくれている事は感じました。でも最近は少し違ってきているんですよね。」
「言葉は悪いですが・・・何となく邪気を孕んでいるような感覚を受けてしまって、どうしたら良いものかと。」
リトラスは言葉を詰まらせた。
「それって嫉妬かなあ。」
「嫉妬?」
「うん。嫉妬なのかもね。」
リリスはそう言うと、王都でリトラスがリンとデートしているところをリリアが見てしまった事を伝えた。
リトラスはそれを聞き、う~んと唸ってしばらく黙り込んでしまった。
数分後。
リトラスはその重い口を開いた。
「あの日はリンちゃんから会いたいと言って来たんです。最近ストレスが多くて、気晴らしが必要なのでと言っていました。それで王都を二人でぶらぶらしていたんですよ。」
「久し振りに会ったリンちゃんは、見た目は変わらないんですが、中身はかなり大人っぽくなっていて、少し戸惑っちゃいました。彼女に聞いた話では、一族のリーダーとしての判断を求められる事が増えて来たそうです。何時までも子供で居られない状況になりつつあるんだって言いながら、苦笑いしていましたね。」
「でもそれをリリアに見られていたとは思いませんでした。リリアにはリンちゃんの事は話したんですか?」
リトラスの言葉にリリスは手を横に振った。
「そんな事、話せるはずが無いわよ。人化した竜だなんて言えないわ。」
「そうですよねえ。」
そう言いながらリトラスは少し考え込んだ。
「リンちゃんはどこかの小国の王族だと言う事にしましょうか。僕とはどうしても結ばれない間柄なんだって言えば良いですよ。まあ、結ばれない間柄なのは事実ですから・・・」
自嘲気味なリトラスの言葉にリリスも苦笑いを浮かべてしまった。
リトラスの初恋の相手とは言え、リンは人化した覇竜であり、全く違う世界に生きている存在だと言っても良いからだ。
「そうねえ。その設定で一度リリアに話してみようかしら。」
「そうして貰えれば助かります。僕も使い魔で付き纏われるのは気味が悪いので・・・」
リトラスの言葉にリリスは少し心を痛めた。恋愛感情を拗らせてしまったリリアが不憫でならない。
「まあ、リリアも自分の気持ちをコントロール出来ていないのよ。自虐的に成らざるを得ないような家族関係で育ってきた子だから・・・」
「それは僕も両親から聞いていますよ。魔法が上手く出来なくて、家門の恥だとか言われていたそうですね。でも僕も同じような過去を通過してきたんですけどねえ。」
リトラスの言葉にリリスは、過去のリトラス絡みの出来事をあれこれと思い出した。
リトラスの場合は呪詛によって意図的に成長を阻害されていたのだった。その呪詛はリリスの尽力によって除去されたが、その後のリトラスの聖剣との出会いや剣聖との出会いは、全て彼の持つ強運に拠るものだ。
リリアに会って話をしてみよう。
リリスはそう決断してゲストルームを後にした。
リトラスと会った翌日。
リリスは早速リリアと話をする機会を得た。
ウィンディの手引きで生徒会の部屋に来たリリアを隣の父兄用のゲストルームに案内し、リリスはリリアの対面のソファに座った。
ウィンディは部屋の片隅に椅子を用意して待機している状態だ。
リリアは神妙な表情で俯いている。
尋問されるとでも思っているのだろうか?
リリアの気持ちをほぐす為に、ウィンディはあらかじめ用意していた紅茶を二人分運び、テーブルの上にセットした。
その紅茶をリリスがリリアに勧め、二人は同時にそれをゆっくりと口に運んだ。
馥郁とした上質の茶葉の香りが鼻をくすぐる。
少し落ち着いたようで、リリアの表情もほころんできた。
その頃合いを見て、リリスは話を始めた。
「リリア。私は昨日、リトラス君と会ったのよ。あなたの使い魔の事で相談されてね。」
単刀直入過ぎるかと思いながら、リリスは最初から本題に入った。
リリアはうっと唸って下を向いてしまったが、直ぐにその顔を上げた。
「やっぱり迷惑ですよね。」
「でも自分の気持ちに突き動かされちゃって・・・・・」
リリアの言葉にリリスはうんうんと頷いた。
「リトラス君とは小さい頃から何度も会っているんでしょ?」
「はい。同じ上級貴族の立場で家同士の交流がありましたからね。リトラス先輩は病弱で魔法学院にも入れないって聞いていたんです。それが久し振りに会ったら背も伸びてたくましくなってて・・・・・。直ぐに憧れの対象になっちゃいました。」
忌憚なく話してくれるリリアにリリスも少し安心感を持った。
この状況であれこれと隠されると話が進まないからだ。
「でも、王都で偶然にリトラス先輩を見かけた時、その傍に小柄な美少女が手をつないで歩いていたのを見て驚きました。ショックでしたね。そして、やっぱりそうよねとも思いました。既に付き合っている彼女が居ても不思議じゃないですよね。」
そう話したリリアの表情は少し寂しそうだった。
「でもそこからどうして使い魔で付き纏う様になっちゃったの?」
「それは・・・・・」
リリアは少しの間黙り込んでしまった。
スッと紅茶に手を伸ばし、一口飲んでカップをテーブルに置くその動作が妙に長く感じられる。
数分後、リリアは意を決したように再び口を開いた。
「諦めようと思ったんです。それでリトラス先輩の彼女の顔をもう一度見ておこうと思って、物陰から覗き込んだんです。その時その女の子と偶然目が合ってしまって、それで・・・・・」
リリアは言葉を選ぶように少し間を置いた。
「身体中に電気が走ったようなショックを受けたんです。あの子に会いたい、あの子の傍に居たい、あの子に会わなければと言う思いがどんどん湧き溢れて来ちゃって、自分でも抑え切れずに・・・・・」
ええっ?
これってどう言う展開なのよ。
「ちょっと待ってね、リリア。あなたが使い魔を使ってリトラス君に付き纏っていたのは、嫉妬が原因じゃ無かったって事なの?」
リリスの言葉にリリアは首を傾げた。
「嫉妬って言われても・・・。私はリトラス先輩の事は既に諦めちゃってますよ。」
淡々と答えたリリアの言葉にリリスは唖然とした。
「それじゃあ・・・それじゃあリンちゃんに会いたい一心で、リトラス君に付き纏っていたの?」
このリリスの言葉にリリアは目を見開いてソファから身を乗り出した。
「リンちゃんって言うんですか? リリス先輩はあの子の事を知っているんですね!」
「それなら是非合わせてください!」
予想外の展開にリリスはう~んと唸って後ろに仰け反った。
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