落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リゾルタへの再訪6

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デルフィの新しい研究施設のゲストルーム。

リリスはべリアの話に胸騒ぎを覚えていた。

二人の間に少しの間、沈黙が続いた。
リリスはべリアに気を遣い、おずおずと尋ねてみた。

「その叔母のスーラと言う女性が・・・怪しいの?」

リリスの言葉にべリアは黙って頷いた。

「今回の件で、叔母が関わっていると言う確固たる証拠は有りません。でも・・・・・」

「叔母は元来勝気な女性でして、イスファがドラゴニュートの国に近い事もあって、その交易権を拡大させようと長年画策してきたのです。その申し入れを現王家が度々却下してきた経緯もあり、現王家に対する不満がかなりあるんですよね。」

う~ん。
増々怪しいわね。

「でも親族にそんな方が居ると、べリアさんまで疑われかねないわね。」

「そうなんです。叔母は事あるごとに私や私の実家の両親に対して、行動を共にしないかと誘ってくるのです。勿論私も両親も、他の親族も相手にはしていませんが・・・・・」

そこまで話してべリアはふうっと大きくため息をついた。
その心労が伝わってくるようだ。

「その叔母の行動が最近、特に怪しいんです。闇魔法の更なる強化の為に、闇の神殿の遺跡に眠っていると言う闇魔法のオーブを発掘しようとして、幾度も兵士を送って探索させているとの情報が上がってきているのです。」

「闇の神殿? そんなものがあるの?」

リリスは驚きのあまり立ち上がりそうになった。

闇の神殿って何を祀っているの?
闇の亜神?
まるで悪魔の巣窟みたいな印象を受けるわね。

リリスの驚きにデルフィも理解を示すように頷いた。

「じつはこのアゴラの郊外にその遺跡があるのだよ。かなり古い遺跡で、既に500年前には放棄されてしまっていたようだ。」

「その神殿はダークエルフが建てたと言われている。闇魔法の化身であるガーゴイルの巨大な像を崇めていたのだが、その像の中央に闇魔法のオーブが設置され、多くの術者達が闇魔法の研鑽に励んでいたと聞く。」

「その神殿が放棄されてから、闇魔法のオーブは行方不明なのだが、神殿地下の宝物庫に隠されていると言う伝承が伝わっているのだよ。」

デルフィの話にチラが捕捉する。

「闇の神殿の監視は、デルフィ様の研究施設の移転先がこのアゴラになった要因の一つなのです。」

チラの話にデルフィはうんうんと頷いた。

「まあ、交換条件と言う事だ。ここに移転したからには、闇の神殿の遺跡の監視も頼むと言う事だと儂は捉えておるよ。」

デルフィはそう言うとニヤッと笑って紅茶を啜った。
そのタイミングでべリアは再び話を始めた。

「叔母は遺跡の探索にも盛んに私の協力を要請しているのです。叔母の言うには、私が宝物庫の鍵を持っていると・・・・」

「そんなものを持っているの?」

反射的なリリスの問い掛けにべリアは首を横に振った。

「私も私の実家にもそんなものは有りません。ただ、それが実体のものでないとすれば、少し思い当たる事があるのですが・・・・・」

べリアの言葉の歯切れが悪い。
何か隠し事でもしているような口調だ。

「私が幼かった頃、叔母が私を見るたびに、私の中に鍵があると言っていたんです。」

「最初は何のことか分からなかったのですが、魔法を操れるようになり、自分のステータスを見るようになって、何となくこれなのかと・・・」

うっ!
ステータスってまさか・・・。

べリアはおもむろにリリスを、少し窘めるような目で見つめた。

「リリス様。先日私のステータスを覗き見しましたね? 隠しても駄目ですよ。」

ううっ!
バレてる・・・。
普通は気付かれないはずなのに。

リリスは言葉も無くうんうんと頷いた。
その様子を見てべリアはニヤッと笑った。

「普通の人なら気付かないのでしょうが、私は誤魔化せませんよ。それで私のステータスに秘匿領域があるのをご存じですね?」

リリスは頷くだけだ。

「その秘匿領域ですが、実は私にも何が隠されているのか分からないんです。それで・・・リリス様なら何が隠されているのか分かるのではないかと思うのですが、リリス様の鑑定ではどんな風に記されていましたか?」

うっ!
そのまま答えて良いのかしら?

「デルフィ様になら分かるのでは?」

リリスは反射的にデルフィに話を振った。
だがデルフィは首を横に振った。

「実は・・・儂にも秘匿領域の存在は分かるのだが、その中身が分からないのだ。儂も鑑定スキルはそれなりのレベルだと自負している。それ故にどうすればそんな風に秘匿出来るのか分からんのだよ。」

「だがリリス。お前はその中身を把握しているのだろう? 是非教えてくれ!」

デルフィとべリア、チラの熱い視線がリリスに注がれる。
ここは正直に話すしかないようだ。

「私の鑑定では『闇の門番』と明示してありました。ですがそれがスキルなのか否かは分かりません。」

「「「 闇の門番!」」」

3人が一斉に声をあげた。

「どうやらべリアの予想が当たったようだな。」

デルフィの言葉にべリアは黙って頷いた。

「だがスキルだとしても、べリア自身が認識出来なければ、発動も出来ないだろうなあ。」

そう言いながらデルフィはリリスの顔をジッと見つめた。
その視線にリリスは反射的に目を逸らしてしまった。

嫌な予感がする。

リリスの思いを気にもせず、デルフィは話を切り出した。

「リリス。お前は闇魔法の監獄空間で、チラの闇魔法を魔力循環で増幅して活路を見出したのだろう? それが出来るならべリアとも魔力循環で闇魔法の魔力を増幅した上で、お前の意識からべリアの隠されたスキルを発動出来るのではないか?」

「それって危険では無いですか?」

リリスは当然ながら躊躇った。
未知のスキルを無闇に発動させるのもどうかと思ったからだ。

「お前の気持ちも分かる。だが闇魔法のオーブを我々の側で先に確保しておきたいのも事実だ。その隠されている宝物庫の鍵をべリアが持っているのなら、それを確かめておきたいのだよ。」

それって本当に大丈夫なのかなあ?

あまり乗り気でないリリスの両手をべリアはがっしりと掴んだ。
逃がさないぞと言う意思表示なのか?

「リリス様。私にとってもこの件はどうしても確認したい事なのです。自分の中に何が組み込まれているのか、分からないままに過ごしているのも不気味なものですから。」

まあ、その気持ちも分かるんだけどね。

リリスは止む無くべリアと魔力を循環させる事にした。
二人はゲストルームの片隅に立ち、お互いに少しづつ魔力を流し始めた。
リリスの魔力がべリアの身体の中に循環し始めると、べリアはう~んと唸って顔をしかめた。

「どうしてこんなに魔力が濃厚なんですか? 眩暈がして頭がくらくらしてきましたよ。」

べリアの顔が紅潮し息が荒くなってきた。
かなりの量の魔力を循環させ、べリアと知覚や認識を共有させる。
更に闇魔法の魔力を増幅させたところで、リリスはべリアに話し掛けた。

「べリアさん。自分のステータスを開いてみて。」

べリアは少し朦朧としながら自分のステータスを開いてみた。

「ああっ! 秘匿領域に『闇の門番』が現われました。」

「それならそれを発動させてみて。」

リリスの言葉に従って、べリアはそのスキルを発動させようと試みた。
だが何の変化も現れない。

「私の力ではまだ発動出来ないのでしょうか?」

べリアの言葉が弱々しい。

「それなら私が試してみるわね。」

リリスはそう言うと、鑑定スキルを発動させた。
べリアのステータスを開き、秘匿領域にあるスキルを発動させるように、イメージを伴った魔力を送った。
その同じステータスをべリアも同時に見ている。

「あっ! 発動出来そうです!」

ステータス上で秘匿領域全体が赤く点滅し、べリアの身体もガタガタと震え出した。

あと一息ね。

リリスはスキルの発動を強くイメージして魔力を一気に流した。

その途端にパチンと言う音が何処からともなく聞こえた。

べリアの身体から二つの小さな球体が飛び出し、二人の頭上に浮かんでそのまま停止した。
二つの球体は徐々に形を変えていく。
その片方は鍵の形に成り、もう一つの球体は鍵穴の形に変わってしまった。

「何だ? 何が起きているのだ?」

怪訝そうに呟くデルフィの目の前で、光の鍵が光の鍵穴にゆっくりと嵌っていく。

完全に入った状態で鍵がゆっくりと半回転し、カチッと小さな音を立てた。
その途端にべリアの身体が仄かに光り始め、その下半身から徐々に半透明になって来た。

「べリア!」

チラが叫ぶがべリアの身体は既に半分以上消え掛かっている。

「どこかに転送される! チラ! 空間魔法で亜空間に隔離して!」

べリアの叫びに応じてチラは瞬時に魔力を放ち、べリアの身体を隔離しようとした。
だが空間魔法が思う様に発動出来ず、チラは焦りの表情を見せた。

「駄目だわ! 空間魔法が上手く発動出来ない! 未知の力で転移されかかっているわ!」

チラの言葉にべリアは瞬時に反応した。

「それならマーキングをして転移先を追って!」

チラはべリアの叫びに応じて魔力を放ち、もはや大半が消えかかっているべリアの頭部にマーキングを施した。
その直後にべリアの身体は全て消え去ってしまった。

「チラ! べリアの居所が分かるか?」

「今直ぐに確かめます!」

緊張感の高まる中、チラは空間魔法を駆使して、べリアに施した魔力のマーキングの探索を始めた。
デルフィとリリスの見守る中、チラは目を瞑り何度も頭を揺らしながら探索を続けた。

数分後。

チラはうん!と唸って目を見開いた。

「分かりました。闇の神殿の遺跡の地下に居ます。」

チラの言葉にデルフィは顎髭を軽く撫で、う~んと唸った。

「やはりな。先ほど現われた光の鍵と鍵穴は神殿の地下に隠されている宝物庫のものだったのだろう。」

デルフィはそう言うとチラに問い掛けた。

「チラ! べリアの生命反応は健常か?」

「はい。生命反応は異常ありません。試しに念話を送ってみます。」

チラは目を瞑り、しばらく無言で念話を送り続けた。

数分後。

チラが目を見開き、べリアの状況を話し始めた。

「微かながら念話が通じました。当面生命の危険は無さそうです。ただべリアの行動が制限されているそうです。」

「制限だと? それはどう言う事だ?」

「分かりません。それ以上は伝わってきませんので・・・・・」

チラの言葉にデルフィはふうっと大きくため息をついた。

「まあ、べリアの身が安全なら焦る事もなさそうだな。今日はもう遅い。明日の早朝から我々で探索する事にしよう。」

「リリス。お前も同行してくれ。お前が同行してくれれば心強い。」

何だかおかしなことになって来たわね。
かといってべリアさんを見捨てるわけにもいかないわねえ。

リリスは意を決してデルフィに尋ねた。

「その闇の神殿の遺跡にはどうやって行くのですか?」

「ああ、それなら直ぐに行けるさ。遺跡の前にビーコンを設置してあるから、どのような形の転送でも可能だ。」

位置座標は確認済って事ね。

「リリスには不要かも知れんが、念のために幾つかの属性魔法に耐性を持つレザーアーマーとブーツを用意してあげよう。チラは自分の持ち物で大丈夫か?」

話を振られたチラはハイと答え、瞬時に黒光りのするレザーアーマーを取り出した。
準備万端のようだ。

「今夜の王都の騒動で、他国からの招待客達も急遽帰国する事になるだろう。リリスは一旦宿舎に戻ってメリンダ王女達に事情を説明する必要があるな。儂が同行して儂から説明してあげよう。」

それは有り難いわね。
私から説明するだけだと勝手に動いているように思われかねないし、そもそも話の信憑性が無いものね。

リリスが頷くのを見て、デルフィは転移の魔石を取り出し、リリスと共に王都の宿舎の傍に転移したのだった。







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