落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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亜空間回廊の修復2

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ロキに強引に転移させられたリリス。

そのリリスの目の前に真っ白な空間が広がっている。

その空間に幾つもの赤と青の太いロープが絡まり、まるで蛇のように蠢いていた。

「これは亜空間回廊を可視化したものだ。絡まり合っている箇所が幾つもあるのだが、その箇所には大なり小なり時空の歪が生じている。」

「まあ、これでもかなり修復してきたのだよ。以前は全く手が付けられない状態だったからな。」

そう言いながら青白い龍がその周囲を飛び回り、放つ魔力で絡まっている箇所を隔離していく。

少し絡まっている箇所は容易に引き離された。
だが強く絡んでいる箇所はあまり変化が見られない。

ロープの長さは10m以上あるだろう。
龍が修復している部分と反対の方向に目を向けると、赤いロープの端が幾つにも分岐し、青いロープと複雑に絡んでいた。

「その分岐した部分がダンジョン深層部と繋がっていたんだ。その分岐の中でも一番太いものがレームのダンジョンに繋がっていたのだが、今はその連結が偶然にも一時的に外れておる。」

龍の言葉を聞き、リリスはその太い分岐に近付いた。

だが次の瞬間、分岐していた赤いロープの端が突然伸びて、リリスの身体を取り巻いてしまった。

えっ!
何なの?

瞬時にカッと広い光が放たれ、リリスは思わず目を瞑った。

「拙い!」

龍の言葉がリリスの耳に届いたが、既にリリスはその場に居なかった。







リリスが目を開くと、そこは草原の中だった。

仰向けに寝ている態勢のリリスの頬を、爽やかな風が通り過ぎていく。

空は何処までも青く、僅かに白い雲が漂っている。

「あらっ! 目が覚めたのね。」

甲高い女性の声が聞こえて来た。
その方向に顔を向けると、レザーアーマーを着た白衣の女性がこちらに近付いてくる。
その女性に群がるように、数人の男性が集まって来た。

メタルアーマーを着たマッチョな男性がリリスの顔を覗く。

「それにしても、どうしてこんなところで倒れていたんだ?」

リリスには何の事だか分からない。
ロキに転送された白い空間から、どこか別の場所に転送されてしまったのだろうか?

「ここは・・・・・何処ですか?」

「私、転送されてしまったのかしら?」

リリスの言葉に男性はう~んと唸ってリリスの顔を直視した。

「転送って何処から?」

「それが私にも分からないんです。真っ白い空間だった事は覚えているんですけど・・・」

リリスの言葉は不審人物と思われるようなものだった。
それはリリスにも自覚がある。
だがそれ以上説明の仕様も無い。

困り顔のリリスの様子を見て白衣の女性が男性に話し掛けた。

「どうやら嘘のようにも思えないわ。記憶を一部失っているのかもね。」

そう言いながら白衣の女性はリリスに問い掛けた。

「自分の名前は分かるの?」

「はい。リリスです。」

リリスの返答に白衣の女性はうんうんと頷き、周囲に居た男性と共に自己紹介を始めた。

彼等はパーティを組む冒険者だった。
メタルアーマーを着た男性がリーダーで盾役のトニー、白衣の女性は回復役のリズ、その他に剣士のポールと魔法使いのダニエルとの四人組だ。

「それでここは・・・」

リリスの問い掛けにリズはう~んと唸った。

「本当にここが何処か分かっていないようね。ここはレームのダンジョンの24階層よ。待機所の様な階層で魔物が出て来ないのが、リリスにとって救いだったわね。他の階層なら今頃魔物の餌になっちゃっているわよ。」

リズの言葉にリリスはうっと唸って言葉を失った。

レームのダンジョン?
そんなはずは無いわ。
レームのダンジョンは500年前に最下層まで攻略され、コアが破壊されたって・・・・・。

リリスの脳裏に一つの答えが浮かび上がる。

レームのダンジョンが攻略される前の時代に飛ばされちゃったの?
そんな事って・・・・。

焦る思いでリリスは解析スキルを発動させようとした。
だが、解析スキルが発動されない。

これは・・・違う時空に飛ばされているからなの?

「それにしても困ったな。リリスをどうやって地上に連れて行けば良いんだ?」

ダニエルの言葉にトニーが頷き、リリスの顔を覗き込んだ。

「リリス。次の25階層はこのダンジョンの中間点だ。50体ほどの魔物が出て来る階層で、ここをクリアすれば地上に戻るポータルが出て来るそうだ。」

「だから我々に同行するしかないのだが、君はどうする? 覚悟の上で付いてくるか?」

トニーの問い掛けにリリスはうんうんと頷いた。
そのリリスにダニエルが近付き、口を開いた。

「リリスは魔法を使えるのかい?」

「はい。火魔法と土魔法が使えます。」

リリスの返答にダニエルはふうっとため息をついた。

「土魔法は役に立たんだろうな。火魔法が使えるのは、まあ・・・・・無いよりはマシかなあ。」

失礼な言われ方だが、リリスとしては今のところ、彼等に付いて行くしかない。

「よろしくお願いします。」

不満を顔に出す事も無く、リリスは4人に頭を下げた。






レームの第25階層。

そこに降りると、広い草原が広がっていて、その周囲には低い山並みが続いている。

ダンジョン内でありながら、何処かで見たような風景だ。

そんな風に思いを巡らすリリスの脳裏に、ある場所が思い浮かんだ。

これは・・・アブリル王国の魔物駆除の場所だわ!
まさかと思うけど、ワームホールが出現するの?

リリスの脳裏に嫌な予感が浮かび上がる。

この風景に違和感を覚えていたのは、トニー達も同様であった。

「おい! 聞いていた風景と違うぞ! 朽ちた石造りの神殿内部の筈なんだが・・・・・」

トニーの言葉にリズも続く。

「そうよね。大量だけど動きの鈍いスケルトンが出て来るって聞いていたわよ。」

その言葉が終わらないうちに地面がゴゴゴゴゴッと音を立てて揺れ出した。
トニー達の斜め前方の比較的近い山裾に、黒い大きな闇が出現した。

うっ!
あれはワームホールだ!

既視感のある光景に、リリスは気を引き締めた。
大量の魔物が出現してくるに違いない。

そう思っていると黒い闇が大きな穴となって実体化し、その中からぞろぞろと魔物の集団が出て来るのが見えた。
光を反射してピカピカと光っている。
リリス達との距離はまだ500mほどありそうだ。

だがぞろぞろと出て来て縦横に広がっていく様は不気味だが壮観でもある。

「あれは・・・あれはオーガファイターの軍列だ! どいつもこいつもメタルアーマーを着ているぞ!」

ダニエルの言葉にトニー達も身構えた。
目に見える範囲で、既にオーガファイターは200体以上になりそうだ。
しかもまだまだワームホールから出てきている。

「こんなの、戦いにならないわよ!」

リズはそう叫んで後ろに逃げ出そうとした。
だが10mほど走ると、見えない壁に阻まれ、24階層に戻る扉さえ消えてしまっていた。

「戦うしかないのか。でもどうやって戦えと言うんだ!」

トニーの言葉に反応してダニエルが前に進み出た。

「俺の全力で手を出してみるよ。」

「そうね。ダニエルの広域魔法に頼るしかないわね。」

リズの言葉を受けて、ダニエルはうんと頷き、魔力を身体中に循環させ始めた。

両手を前方に突き出し、火魔法の魔力を全力で放つ。
放たれた魔力の塊は瞬時に幾つもの火の渦となり、ゴウッと音を立てて前方に進んでいった。

ファイヤートルネードだ!
ダニエルさんってそれなりにレベルの高い魔術師なのね。

火の渦は竜巻となってオーガファイターの軍団に襲い掛かり、数十体のオーガファイターを燃え上がらせ、その勢いで吹き飛ばした。

だが、吹き飛ばされたオーガファイターはその場で突っ伏していたが、1分もすると立ち上がり、再びこちらに向かって動き出した。

「何だって! あいつらは火魔法の耐性があるのか? それとも急速にダメージから回復出来るのか?」

ダニエルの言葉にトニー達も唖然とするばかりだ。

程なくオーガファイターの軍団からかなりの数の矢が放たれてきた。
弓持ちも居るようだ。

「拙い! ダニエル! シールドを張れ!」

「任せろ!」

ダニエルは瞬時にトニー達の前方に半円状にシールドを張り巡らせた。

そのシールドにカンカンと矢がぶつかり、その下に落ちていく。
その数は20ほどにもなるだろうか。

その様子を見ながら、リリスは土魔法の準備を急いだ。

誰だったかしら?
オーガファイターって私の好物だって言ったのは?
エリスだったかしら?

そんな事を思い出しながら、リリスは魔力を巡らせ、トニー達の前方に走り出した。

「リリス! 何をするつもりだ?」

トニーの言葉にリリスは振り返り、

「時間稼ぎの障害物です。」

そう言って一気に土魔法の魔力を放った。

トニー達の前方に幅50mほどの泥沼が出現し、その向こう側に入れ子状に頑丈な土壁が幾つも出現していく。
更に泥沼の両側には土塁を造り上げ、回り込まれないように工夫をした。
その様を見てトニー達も唖然とするばかりだ。

「これって土魔法なのか?」

幅50m奥行き10mほどの泥沼を目にして、ダニエルはそう呟くのが精一杯だった。

この時点でオーガファイター達との距離は500mほどだ。

敵の数が多いので少しでも減らしておきたい。

リリスは火魔法の魔力を身体中に巡らせ、両手から10本の二重構造のファイヤーボルトを放った。

太いファイヤーボルトがキーンと金切り音を立てて滑空し、弧を描いて先頭付近のオーガファイターを直撃した。
着弾と共に外側のファイヤーボルトがメタルアーマーを突き破り、僅かな時間差で内部のファイヤーボルトが敵の体内を焼き尽くす。

爆音と共に幾つもの火柱が立ち、オーガファイターがその場で燃え上がった。

過去にダンジョンなどでオーガファイターと対峙した頃に比べて、リリスの火魔法は格段にレベルアップしている。
様々な加護の複合的な作用もあって、ステータス上に表示されるレベルにも相当な高度補正が加えられているからだ。

火魔法に耐性を持っているオーガファイターを火力で圧倒している。

その様子に敏感に反応したのは、同じ火魔法を扱うダニエルだ。

「火魔法に耐性のある相手を火力で押し切っているのか!」

ダニエルの言葉にトニーも頷いた。

「とんでもない奴だな。だが嬉しい誤算だ。俺達はむしろリリスのフォローに回った方が良さそうだな。」

トニーは即座に仲間に指示を出した。

「リズ! リリスの魔力の補充に専念しろ!」

「ダニエル! ファイヤートルネードで敵を混乱させるんだ。ダメージは無くても時間が稼げる。リリスの背後からシールドを重ね張りするのも忘れるな!」

「ポール! 俺と一緒に泥沼の両側に待機だ! 回り込んできた奴は直ちに駆逐するんだ!」

状況に合わせて瞬時に役割を分担出来るのは、高レベルのパーティならではの所作だ。

流石だと思いながら、リリスはファイヤーボルトを放ち続けた。

「リリス! 魔力ならいくらでも補充してあげるわよ!」

背後からリズが魔力を流してくれるので、後先を考えずに火矢を放つ事が出来るのがありがたい。
焼き尽くされるオーガファイターの爆炎が視界一杯に広がっていく。

だがそれでも敵の数は一向に減らない。
一体どれだけの数の敵がワームホールから出てきているのだろうか?

リリスの攻撃で燃え上がるオーガファイターの躯体を踏み越え、敵の軍団は徐々にこちらに近付いてくる。
彼等の手に持つ魔剣や魔弓の禍々しい妖気がこちらまで漂ってくるようだ。

かなりの距離まで近付いたオーガファイターに向けて、ダニエルがファイヤートルネードを放つ。
火の渦によって後方に吹き飛ばされた敵は、それでもまた立ち上がり、こちらに向かって来る。

時間稼ぎにはなるが埒が明かない。

腐食性の毒を上手く生成出来れば良いのだが、その生成過程を解析スキルに任せていたので、今のリリスでは上手く発動出来ない状況だ。
解析スキルさえ発動出来れば・・・・・。

そう思ったものの、現状ではどうしようもない。

やはり泥沼に集結させて溶岩流で殲滅するしかないのか?

ファイヤーボルトを放ちながら、リリスの脳内は錯綜していたのだった。








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