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亜空間回廊の修復4
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レイチェルによって転送させられたリリス。
目の前には白い空間が広がっていた。
ここって、ロキ様に最初に連れて来られた場所だわ。
驚くリリスの傍に青白い龍とメイド服姿のレイチェルが近付いて来た。
「リリス。すまなかったね。突然亜空間回廊の分岐部分が暴れ出したので、時空の歪に巻き込まれてしまったようだ。」
「直ぐに救出に向かおうとしたのだが、こちらの修復で直ぐに対応出来なかったのだよ。それでお前の救出をレイチェルに依頼したわけだ。」
龍の言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
「私は風の亜神だから空間魔法は得意技なのよね。それでもリリスの存在する座標の特定には手間取ったけどねえ。」
そう言いながら笑顔を向けるレイチェル。
メイド服のままだが、そのコスチュームが気に入ったのだろうか。
確かに清楚なメイドには見えるのだが。
「それで、亜空間回廊の修復は済んだのですか?」
リリスの言葉に龍はふうっと大きく息を吐いた。
「まだ完全ではない。だがそれでもレームのダンジョンに繋がっていた分岐部分は消えた。分岐部分の消滅もあと一息だ。これさえ出来ればあとは短期間で何とかなる。」
そうなのね。
リリスは自分の疑問を龍に問い掛けた。
「ロキ様。私の行動って時空に歪を生み出していませんか? 例えばタイムパラドックスとか・・・・・」
リリスの言葉に龍はうんうんと頷いた。
「それなら心配は要らん。エイヴィスからも聞いたと思うが、時空の本流から分岐したとしても、それが僅かなものであれば、時間の経過と共に元の本流に戻ってくる。その際に戻ってきた時点で過去の事物が上書きされてしまえば、パラドックスとは言えなくなる。」
「言い換えれば世界全体での過去の記憶を書き換えれば良いだけだ。」
そんな事って出来るの?
あっけにとられたリリスの表情を見て、龍はふと呟いた。
「それが管理者の権能なのだよ。勿論上書きするたびに時空の歪は生じるのだが、その程度が些細なものであれば意に介さない。それがこの世界に設定された特性でもある。」
「だがお前が過去のレームのダンジョンに足跡を残した事は決して無駄ではない。お前の魔力をレームのダンジョンコアが記憶しているからだ。それはダンジョンコアの修復に非常に有益なのだよ。」
そうなの?
そう言えば25階層で魔力のマーキングをしちゃったわよね。
「戻ってきて早速だがリリス、レームのダンジョンの修復に向かうぞ。」
そう言いながら龍はリリスの頭上をぐるぐると回り始めた。
またもやリリスの視界が暗転する。
リリスはレイチェルと共に再び、何処かに転送されてしまった。
次にリリスの目の前に広がったのは、薄暗い古びた神殿の内部の様な光景だった。
天井の高いホールがあり、その中央の台座の上に、触手を伸ばしたウニの様な塊がある。
その表面は紫でつるつるとした光沢があり、数十本の長い触手をうねうねと動かしていた。
その触手の先端は魔力を帯びていて、時折色々な光を発している。
「あれが・・・あれがレームのダンジョンのコアですか?」
リリスの問い掛けに龍はそうだと答えた。
「現状ではコアの本体の大きさは直径1mほどだが、本来は直径3mほどもあったのだよ。まあ、これでもかなり復元してきたのだがな。」
龍の言葉を聞きながら、リリスはコアに少し近付いた。
その途端にコアの中から小さな光の球が飛び出し、リリスの目の前で停止すると、そのまま変形し始めた。
光の球は人のような形に成っていく。
程なく出現したのは性別の分からない小さな子供の姿だった。
それはリリスの方に駆け出し、リリスの身体に纏わりついた。
だが不思議にも嫌悪感は感じられない。
「これってもしかして・・・・・ダンジョンコアの疑似人格ですか?」
リリスの言葉にレイチェルはふうんと感嘆の言葉を漏らした。
「そんなものがあるのね。でもリリスに懐いているんじゃないの?」
そう言いながらレイチェルは、コアの疑似人格の人型に手を伸ばして触れようとした。
だが疑似人格はその手を避けるようにリリスの背に回り込み、顔を半分ほど出して様子を見ている。
その仕草はまるで人間の子供のようだ。
その様子に龍もハハハと笑った。
「まあ、リリスに懐いているのも無理も無い。リリスの魔力をしっかりと記憶しているのだろう。」
「そんな事ってあるんですか? 時間で考えれば数百年前の事ですよね?」
リリスの疑問にレイチェルは即座に答えた。
「それだけリリスの魔力が強烈な印象を与えたって事よ。今まで味わった事の無い魔力だったでしょうからね。」
そうなのかなあ?
今一つ釈然としないリリスに龍はおもむろに指示を出した。
「さあ、リリス。ダンジョンコアに魔力を注いでやってくれ。お前の魔力で完全復活への道程が加速されるはずだ。」
龍の言葉を受けてリリスはダンジョンコアに魔力を注ぎ始めた。
それに応じて疑似人格がコアに吸い込まれるように消え去った。
ダンジョンコアは激しく触手を動かし、紫の光を発しながらリリスの魔力に大きく反応している。
リリスが自身の魔力量の20%ほどもコアに投入した時点で、龍はリリスを制止した。
コアは既に直径2m程になっている。
「うむ。もう充分だろう。リリスの魔力のお陰で、ダンジョンコアの自律性も保たれているようだ。この後の成長はコアの自律性に任せよう。」
龍の言葉を聞きながら、リリスは額に滲む汗を拭った。
そのリリスの肩をレイチェルがポンと軽く叩いた。
「リリス、お疲れ様。これでレームのダンジョンも良い方向に向かうわよ。」
レイチェルの言葉にリリスも肩の荷が下りたような気持になった。
「これでアブリル王国のワームホールも無くなるんですよね。」
「いや、完全ではない。まだ若干の亜空間回廊の残滓を潰せていないのだ。頻度はかなり少なくなるが、ワームホールの出現する余地はまだ残っているのだよ。」
そうなのね。
リリスは頷きながらダンジョンコアをじっと見つめた。
そのリリスの視線を感じているかのように、ダンジョンコアは紫の光を点滅させた。
「とりあえずここまで作業を進める事が出来たのはありがたい事だ。リリス。感謝するぞ。」
「お前を元の時空に戻してやろう。学生寮の自室だったな。」
そう言うと龍はリリスの頭上をくるくると回り始めた。
それに連れてリリスの視界が暗転していく。
リリスの視界が変わると、そこは確かに学生寮の自室の中だった。
だがリリスの目の前に、驚いた表情のサラが居た。
「リリス! 何処から部屋に入ってくるのよ!」
「あっ! ごめんね、サラ。ちょっと急用で呼び出されていたのよ。」
「呼び出されていたって、誰に?」
「う~ん。それは・・・・・内緒なのよね。」
リリスの言葉にサラは勘繰るような目を注いだ。
「どうせまた王族からの無理難題じゃないの?」
「まあ、そんなところよ。」
そう言いながらリリスはへへへと笑い、サラの目を掻い潜って明日の授業の準備をし始めた。
サラは腑に落ちない様子だったが直ぐに気持ちを切り替えた。
「夕食に行く? 学生食堂の夜のメニューは肉の香草煮込みだってさ。」
うっ!
これって時空を超えたデジャブだわ。
リリスは苦笑いをしながらサラと共に夕食に出向いた。
その日の夜。
ベッドに入ったリリスは解析スキルを発動させた。
リリスが過去のレームのダンジョンに転送されてしまった際に、解析スキルの発動が出来なかったからだ。
私ってまたこの世界から消えていたの?
『そうですね。こちらの世界から約30分間消えていましたね。』
うっ!
それで自室でサラに出くわしたのね。
『何処に居たのですか?』
数百年前のレームのダンジョンの中よ。
『それはまた・・・・・稀有な場所に転移されましたね。』
そうなのよ。
また時空に歪に巻き込まれちゃって。
私って巻き込まれやすい体質なのかしら?
『それは体質ではなく性格に依ると思いますよ。頼まれると嫌と言えず、何でも引き受けちゃうタイプですから。』
う~ん。
耳が痛いわ。
ああ、それでね。
時空の歪に巻き込まれた事で気になる事があるんだけど、私ってまた・・・・・肉体だけが時間軸を進んでしまっていないかしら?」
『その件でしたら残念ながらその通りですね。』
ギクッ!
それで何歳老けちゃったの?
『自分から老けたなんて言いますかね? まあ、誤差範囲内と言って良いと思いますが、半年です。』
半年?
う~ん。
微妙な年月だわね。
サラの様子を見ても、今回は目に付く様な変化は無さそうだけど。
でも半年かあ。気になると言えば気になるし・・・・・。
まあ良いわ。
気にしなければ気にならないんだから。
ありがとう。
リリスは解析スキルに感謝の念を伝えて発動を解除した。
今更あなたに何があっても驚きませんよと言う解析スキルの念が脳裏に一瞬浮かんだ。
だが疲れもあってリリスはそれを気にもせず、そのまま深い眠りに就いた。
その後一か月程経ったある日の昼休み。
リリスは昼食後に学舎の傍の公園スペースで休憩していた。
ベンチに座り、午後の授業や生徒会の作業を思い浮かべていると、背後から突然声を掛けられた。
「リリス先輩。ここに居たんですね。」
背後から回り込んできたのは下級生のリンディだった。
相変わらず小動物のように愛くるしい笑顔である。
リンディはリリスの横に座って少し周りを見回した。
明らかに人目を避けるような仕草だ。
内緒の話でもあるのかしら?
そのリリスの思いを察したようにリンディは小声で話し始めた。
「以前にリリス先輩が図書館で話していたレームのダンジョンの事なんですけど・・・・・。ダンジョンとして完全に復活しちゃいましたよ。」
「既にダンジョンを取り巻く街も広範囲に広がっていて、各地から冒険者が集まってきているそうです。」
「ええっ! そうなの?」
随分復活が早いわね。
想定外だわ。
驚くリリスにリンディはそっと呟いた。
「今度の休日に姉上と一緒にレームの街を訪れる予定なんです。リリス先輩も来ませんか?」
「えっ! リンディのお姉様ってアイリス先輩よね?」
リリスの問い掛けにリンディはうんうんと頷いた。
リリスの脳裏に雌豹の様な獣人の先輩の姿が浮かび上がる。
在学時には黒猫ちゃんと呼ばれていたセクシーな先輩だった。
リンディとは性格も容貌も真反対と言って良い。
「アイリス先輩って、今、何をしているの?」
貴族の子女だから基本的には王国の為に働く事になっているけど・・・・・。
リリスの疑問にリンディは即座に答えた。
「姉上は王国の文官の下で、他国との折衝をしています。」
「そんな重要な仕事をしているの?」
リリスの驚きも無理はない。
だがリンディの返答はそれなりに納得のいくものだった。
「折衝と言ってもお手伝い程度ですよ。それにミラ王国には獣人の国との折衝に長けた方が少ないそうです。」
なるほど、獣人の国との折衝のようだ。
「アイリス先輩ってそう言う地道な仕事をこなせるのね。」
若干失礼な言い方だが、リンディの姉と言う事もあり、リリス自身面識があるので、多少の事は気にせず口に出した。
リンディはそれに対してアハハと笑い、
「リリス先輩の言いたい事は分かりますよ。姉上はあの強気な性格と派手な見た目ですからね。でもそれって獣人にはウケが良いんですよ。」
そう言ってポリポリと頭を掻いた。
「そうなのね。要するに適材適所って事なの?」
リリスの言葉にリンディは強く頷いた。
「今回、レームのダンジョンと周囲の街も復活してきたので、その視察を願い出て、即座に上司の許可を得たそうです。」
「ちなみにあの地域は現在、ドーム公国と言う獣人の小国が管理しています。ミラ王国と国交は有りませんが、獣人の文官の訪問ならば構わないと言う事で、意外にも快く受け入れてくれたそうですよ。」
う~ん。
やはり獣人の事は獣人に任せるのが良いのね。
リリスとしてもレームのダンジョンのコアの事が気になる。
「うん。喜んで付いて行くわね。楽しみだわ。」
「先輩。今回はダンジョンに潜入するとは限りませんからね。過度の期待はしないで下さいよ。」
そう言いながら悪戯っぽく笑うリンディに、リリスは苦笑いをした。
「分かっているわよ。見知らぬ国で暴れたりはしないからね。アイリス先輩にもよろしく伝えて。」
「はい。了解しました。詳細は明日中にお伝えしますね。」
リンディはそう言うとリリスにぺこりと頭を下げてその場から離れ、学舎の中に足早に戻って行った。
レームのダンジョンねえ。
過去の時空で訪れたレームの街並みを思い起こし、リリスは期待を抱きつつ学舎に戻ったのだった。
目の前には白い空間が広がっていた。
ここって、ロキ様に最初に連れて来られた場所だわ。
驚くリリスの傍に青白い龍とメイド服姿のレイチェルが近付いて来た。
「リリス。すまなかったね。突然亜空間回廊の分岐部分が暴れ出したので、時空の歪に巻き込まれてしまったようだ。」
「直ぐに救出に向かおうとしたのだが、こちらの修復で直ぐに対応出来なかったのだよ。それでお前の救出をレイチェルに依頼したわけだ。」
龍の言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。
「私は風の亜神だから空間魔法は得意技なのよね。それでもリリスの存在する座標の特定には手間取ったけどねえ。」
そう言いながら笑顔を向けるレイチェル。
メイド服のままだが、そのコスチュームが気に入ったのだろうか。
確かに清楚なメイドには見えるのだが。
「それで、亜空間回廊の修復は済んだのですか?」
リリスの言葉に龍はふうっと大きく息を吐いた。
「まだ完全ではない。だがそれでもレームのダンジョンに繋がっていた分岐部分は消えた。分岐部分の消滅もあと一息だ。これさえ出来ればあとは短期間で何とかなる。」
そうなのね。
リリスは自分の疑問を龍に問い掛けた。
「ロキ様。私の行動って時空に歪を生み出していませんか? 例えばタイムパラドックスとか・・・・・」
リリスの言葉に龍はうんうんと頷いた。
「それなら心配は要らん。エイヴィスからも聞いたと思うが、時空の本流から分岐したとしても、それが僅かなものであれば、時間の経過と共に元の本流に戻ってくる。その際に戻ってきた時点で過去の事物が上書きされてしまえば、パラドックスとは言えなくなる。」
「言い換えれば世界全体での過去の記憶を書き換えれば良いだけだ。」
そんな事って出来るの?
あっけにとられたリリスの表情を見て、龍はふと呟いた。
「それが管理者の権能なのだよ。勿論上書きするたびに時空の歪は生じるのだが、その程度が些細なものであれば意に介さない。それがこの世界に設定された特性でもある。」
「だがお前が過去のレームのダンジョンに足跡を残した事は決して無駄ではない。お前の魔力をレームのダンジョンコアが記憶しているからだ。それはダンジョンコアの修復に非常に有益なのだよ。」
そうなの?
そう言えば25階層で魔力のマーキングをしちゃったわよね。
「戻ってきて早速だがリリス、レームのダンジョンの修復に向かうぞ。」
そう言いながら龍はリリスの頭上をぐるぐると回り始めた。
またもやリリスの視界が暗転する。
リリスはレイチェルと共に再び、何処かに転送されてしまった。
次にリリスの目の前に広がったのは、薄暗い古びた神殿の内部の様な光景だった。
天井の高いホールがあり、その中央の台座の上に、触手を伸ばしたウニの様な塊がある。
その表面は紫でつるつるとした光沢があり、数十本の長い触手をうねうねと動かしていた。
その触手の先端は魔力を帯びていて、時折色々な光を発している。
「あれが・・・あれがレームのダンジョンのコアですか?」
リリスの問い掛けに龍はそうだと答えた。
「現状ではコアの本体の大きさは直径1mほどだが、本来は直径3mほどもあったのだよ。まあ、これでもかなり復元してきたのだがな。」
龍の言葉を聞きながら、リリスはコアに少し近付いた。
その途端にコアの中から小さな光の球が飛び出し、リリスの目の前で停止すると、そのまま変形し始めた。
光の球は人のような形に成っていく。
程なく出現したのは性別の分からない小さな子供の姿だった。
それはリリスの方に駆け出し、リリスの身体に纏わりついた。
だが不思議にも嫌悪感は感じられない。
「これってもしかして・・・・・ダンジョンコアの疑似人格ですか?」
リリスの言葉にレイチェルはふうんと感嘆の言葉を漏らした。
「そんなものがあるのね。でもリリスに懐いているんじゃないの?」
そう言いながらレイチェルは、コアの疑似人格の人型に手を伸ばして触れようとした。
だが疑似人格はその手を避けるようにリリスの背に回り込み、顔を半分ほど出して様子を見ている。
その仕草はまるで人間の子供のようだ。
その様子に龍もハハハと笑った。
「まあ、リリスに懐いているのも無理も無い。リリスの魔力をしっかりと記憶しているのだろう。」
「そんな事ってあるんですか? 時間で考えれば数百年前の事ですよね?」
リリスの疑問にレイチェルは即座に答えた。
「それだけリリスの魔力が強烈な印象を与えたって事よ。今まで味わった事の無い魔力だったでしょうからね。」
そうなのかなあ?
今一つ釈然としないリリスに龍はおもむろに指示を出した。
「さあ、リリス。ダンジョンコアに魔力を注いでやってくれ。お前の魔力で完全復活への道程が加速されるはずだ。」
龍の言葉を受けてリリスはダンジョンコアに魔力を注ぎ始めた。
それに応じて疑似人格がコアに吸い込まれるように消え去った。
ダンジョンコアは激しく触手を動かし、紫の光を発しながらリリスの魔力に大きく反応している。
リリスが自身の魔力量の20%ほどもコアに投入した時点で、龍はリリスを制止した。
コアは既に直径2m程になっている。
「うむ。もう充分だろう。リリスの魔力のお陰で、ダンジョンコアの自律性も保たれているようだ。この後の成長はコアの自律性に任せよう。」
龍の言葉を聞きながら、リリスは額に滲む汗を拭った。
そのリリスの肩をレイチェルがポンと軽く叩いた。
「リリス、お疲れ様。これでレームのダンジョンも良い方向に向かうわよ。」
レイチェルの言葉にリリスも肩の荷が下りたような気持になった。
「これでアブリル王国のワームホールも無くなるんですよね。」
「いや、完全ではない。まだ若干の亜空間回廊の残滓を潰せていないのだ。頻度はかなり少なくなるが、ワームホールの出現する余地はまだ残っているのだよ。」
そうなのね。
リリスは頷きながらダンジョンコアをじっと見つめた。
そのリリスの視線を感じているかのように、ダンジョンコアは紫の光を点滅させた。
「とりあえずここまで作業を進める事が出来たのはありがたい事だ。リリス。感謝するぞ。」
「お前を元の時空に戻してやろう。学生寮の自室だったな。」
そう言うと龍はリリスの頭上をくるくると回り始めた。
それに連れてリリスの視界が暗転していく。
リリスの視界が変わると、そこは確かに学生寮の自室の中だった。
だがリリスの目の前に、驚いた表情のサラが居た。
「リリス! 何処から部屋に入ってくるのよ!」
「あっ! ごめんね、サラ。ちょっと急用で呼び出されていたのよ。」
「呼び出されていたって、誰に?」
「う~ん。それは・・・・・内緒なのよね。」
リリスの言葉にサラは勘繰るような目を注いだ。
「どうせまた王族からの無理難題じゃないの?」
「まあ、そんなところよ。」
そう言いながらリリスはへへへと笑い、サラの目を掻い潜って明日の授業の準備をし始めた。
サラは腑に落ちない様子だったが直ぐに気持ちを切り替えた。
「夕食に行く? 学生食堂の夜のメニューは肉の香草煮込みだってさ。」
うっ!
これって時空を超えたデジャブだわ。
リリスは苦笑いをしながらサラと共に夕食に出向いた。
その日の夜。
ベッドに入ったリリスは解析スキルを発動させた。
リリスが過去のレームのダンジョンに転送されてしまった際に、解析スキルの発動が出来なかったからだ。
私ってまたこの世界から消えていたの?
『そうですね。こちらの世界から約30分間消えていましたね。』
うっ!
それで自室でサラに出くわしたのね。
『何処に居たのですか?』
数百年前のレームのダンジョンの中よ。
『それはまた・・・・・稀有な場所に転移されましたね。』
そうなのよ。
また時空に歪に巻き込まれちゃって。
私って巻き込まれやすい体質なのかしら?
『それは体質ではなく性格に依ると思いますよ。頼まれると嫌と言えず、何でも引き受けちゃうタイプですから。』
う~ん。
耳が痛いわ。
ああ、それでね。
時空の歪に巻き込まれた事で気になる事があるんだけど、私ってまた・・・・・肉体だけが時間軸を進んでしまっていないかしら?」
『その件でしたら残念ながらその通りですね。』
ギクッ!
それで何歳老けちゃったの?
『自分から老けたなんて言いますかね? まあ、誤差範囲内と言って良いと思いますが、半年です。』
半年?
う~ん。
微妙な年月だわね。
サラの様子を見ても、今回は目に付く様な変化は無さそうだけど。
でも半年かあ。気になると言えば気になるし・・・・・。
まあ良いわ。
気にしなければ気にならないんだから。
ありがとう。
リリスは解析スキルに感謝の念を伝えて発動を解除した。
今更あなたに何があっても驚きませんよと言う解析スキルの念が脳裏に一瞬浮かんだ。
だが疲れもあってリリスはそれを気にもせず、そのまま深い眠りに就いた。
その後一か月程経ったある日の昼休み。
リリスは昼食後に学舎の傍の公園スペースで休憩していた。
ベンチに座り、午後の授業や生徒会の作業を思い浮かべていると、背後から突然声を掛けられた。
「リリス先輩。ここに居たんですね。」
背後から回り込んできたのは下級生のリンディだった。
相変わらず小動物のように愛くるしい笑顔である。
リンディはリリスの横に座って少し周りを見回した。
明らかに人目を避けるような仕草だ。
内緒の話でもあるのかしら?
そのリリスの思いを察したようにリンディは小声で話し始めた。
「以前にリリス先輩が図書館で話していたレームのダンジョンの事なんですけど・・・・・。ダンジョンとして完全に復活しちゃいましたよ。」
「既にダンジョンを取り巻く街も広範囲に広がっていて、各地から冒険者が集まってきているそうです。」
「ええっ! そうなの?」
随分復活が早いわね。
想定外だわ。
驚くリリスにリンディはそっと呟いた。
「今度の休日に姉上と一緒にレームの街を訪れる予定なんです。リリス先輩も来ませんか?」
「えっ! リンディのお姉様ってアイリス先輩よね?」
リリスの問い掛けにリンディはうんうんと頷いた。
リリスの脳裏に雌豹の様な獣人の先輩の姿が浮かび上がる。
在学時には黒猫ちゃんと呼ばれていたセクシーな先輩だった。
リンディとは性格も容貌も真反対と言って良い。
「アイリス先輩って、今、何をしているの?」
貴族の子女だから基本的には王国の為に働く事になっているけど・・・・・。
リリスの疑問にリンディは即座に答えた。
「姉上は王国の文官の下で、他国との折衝をしています。」
「そんな重要な仕事をしているの?」
リリスの驚きも無理はない。
だがリンディの返答はそれなりに納得のいくものだった。
「折衝と言ってもお手伝い程度ですよ。それにミラ王国には獣人の国との折衝に長けた方が少ないそうです。」
なるほど、獣人の国との折衝のようだ。
「アイリス先輩ってそう言う地道な仕事をこなせるのね。」
若干失礼な言い方だが、リンディの姉と言う事もあり、リリス自身面識があるので、多少の事は気にせず口に出した。
リンディはそれに対してアハハと笑い、
「リリス先輩の言いたい事は分かりますよ。姉上はあの強気な性格と派手な見た目ですからね。でもそれって獣人にはウケが良いんですよ。」
そう言ってポリポリと頭を掻いた。
「そうなのね。要するに適材適所って事なの?」
リリスの言葉にリンディは強く頷いた。
「今回、レームのダンジョンと周囲の街も復活してきたので、その視察を願い出て、即座に上司の許可を得たそうです。」
「ちなみにあの地域は現在、ドーム公国と言う獣人の小国が管理しています。ミラ王国と国交は有りませんが、獣人の文官の訪問ならば構わないと言う事で、意外にも快く受け入れてくれたそうですよ。」
う~ん。
やはり獣人の事は獣人に任せるのが良いのね。
リリスとしてもレームのダンジョンのコアの事が気になる。
「うん。喜んで付いて行くわね。楽しみだわ。」
「先輩。今回はダンジョンに潜入するとは限りませんからね。過度の期待はしないで下さいよ。」
そう言いながら悪戯っぽく笑うリンディに、リリスは苦笑いをした。
「分かっているわよ。見知らぬ国で暴れたりはしないからね。アイリス先輩にもよろしく伝えて。」
「はい。了解しました。詳細は明日中にお伝えしますね。」
リンディはそう言うとリリスにぺこりと頭を下げてその場から離れ、学舎の中に足早に戻って行った。
レームのダンジョンねえ。
過去の時空で訪れたレームの街並みを思い起こし、リリスは期待を抱きつつ学舎に戻ったのだった。
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ファンタジー
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それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
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