落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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古代竜との出会い1

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闇の化け物の処理の為、ギグルの元を訪れた翌日。

リリスは昼休みに職員室の隣のゲストルームに呼び出された。

呼び出したのはメリンダ王女である。

ゲストルームの中に入ると、何時ものように単眼の芋虫を肩に生やした小人が座っていた。
メリンダ王女とフィリップ王子の使い魔の合体した形状だ。

挨拶もほどほどに、小人は持参した布袋をリリスに手渡した。
その中を開けると、例のチョーカーが入っていた。

「災難だったわね、メル。」

気の毒そうなリリスの表情に、芋虫は身体を前後に動かした。
リリスの言葉に激しく同意している様子だ。

「本当に災難だったわよ。まさかチョーカーに首を絞められるなんて、思ってもみなかったわ。」

「それに使い魔の召喚を強制的に解除された衝撃で、半日以上頭痛に悩まされたんだからね。」

芋虫の言葉に小人が口を挟んだ。

「そんな目に遭ったのに、このチョーカーを捨てないのかい?」

「そう言う訳にもいかないわよ、お兄様。」

芋虫はそう言うとリリスの手元に目を向けた。

「このチョーカーは開祖の時代の王族のものだと分かったから、無下に扱う訳にもいかないのよ。」

芋虫がリリスの目をじっと見つめる。

「リリス。あんたに預けるから異常が無いか調べてよ。後で見つけた伝承では、魔族の存在を探知して警告する機能が付与されていたって書かれていたわ。でもあんなに過激な警告って酷いわよね。」

芋虫の言葉にリリスはうんうんと頷いた。

「過剰反応をした原因は分からないけど、二度と異常な反応を起こさないように手を加える必要はあるわね。」

過剰反応した原因は分かっているんだけどね。
それを今のメルにそのまま話すわけにも行かないわよね。

リリスはそう思いながら、チョーカーを手のひらの上に乗せ、精査するような仕草をした。

「おそらく、魔金属の合金を創り上げる際に混入させた魔力誘導体の劣化が原因だと思うわよ。ユリアス様に精査して貰うわね。」

「うん。お願い。そのチョーカーは大事にしたいのよ。」

どうやらメリンダ王女は気に入っているようだ。
それなら要望に応えてあげようとリリスは思った。

しばらく談笑した後、小人と芋虫はその場から消え去り、リリスもゲストルームを後にした。


午後の授業の為に教室に向かう途中、リリスは何気なく解析スキルを発動させた。

このチョーカーって持ち主の首を絞めるような機能があるの?

『それは考えられませんね。とりあえず組成を分析してみましょう。』

少し間を置いて解析スキルの念が脳裏に浮かんだ。

『このチョーカーはオリハルコンと魔銀の合金で出来ていますが、魔力の誘導体が特殊ですね。どうやら竜の鱗を砕いてペースト状にしたもののようです。』

『でもこの魔力誘導体の成分がかなり劣化していますね。それも最近になって急激に劣化したような痕跡があります。』

ああ、それってこの前のアブリル王国の魔物駆除の時に、闇魔法の強化スキルが暴走した影響でダメージを受けたのね。
修復は出来るの?

『材料があれば可能です。魔族に対する警告反応は簡易な呪詛の様なものですが、それはそのままコピーして保管出来ますので、材料となる竜の鱗さえあれば元の状態に戻せます。』

まあ、その修復作業をするのは私なんだけどね。
それにしても・・・竜の鱗ねえ。
リンちゃんに頼めば融通してくれると思うけど、まずユリアス様に聞いてみるわ。
レミア族の遺した膨大な遺物の中に含まれているかも知れないからね。

『そうですね。ご健闘を祈ります。』

うん。ありがとう。

リリスはそう返答すると、解析スキルを解除し、まもなく午後の授業の始まる教室に戻った。



その日の夕方。

生徒会の作業を早々と切り上げ、リリスは足早に自室に戻った。
サラがまだ戻っていない事を確かめた上で、リリスは連絡用の魔道具を発動させ、ユリアスを呼び出した。

程なく全身が紫色のガーゴイルが目の前に現れた。

「どうした? 何か急用なのか?」

「ええ、メリンダ王女からの要請がありまして・・・・・」

リリスはそう言うと、チョーカーの修復を頼まれた事、その修復の為には魔力の誘導体の修復の材料となる竜の鱗が必要である事をユリアスに説明した。
それを聞きながら紫色のガーゴイルは興味深そうに頷いていた。

「竜の鱗ならレミア族の施設の保管庫に少しだけあった筈だ。ラダム殿に聞いてみよう。」

「ラダム殿って・・・。ラダム様ってまだユリアス様の傍に居るんですか?」

リリスの言葉にガーゴイルはうんうんと頷いた。

「ああ、居るとも。ラダム殿はレミア族の遺した膨大な遺物を精査分類してくれているので、非常に助かっているのだよ。儂だけではとても手が足りないからな。」

「でも人工知能が管理しているのでは?」

「それがなあ。」

そう言うとガーゴイルは少しうなだれたような仕草を見せた。

「エネルギー回路の不具合で、人工知能が現在運営出来るのは施設の管理のみなのだよ。勿論バックアップがあって今までのデータは残っているのだが、それでもまだ手が加わっていない遺物が多数あるのだ。」

そうなのね。
まあ、2万年以上経過した施設だから、不具合も発生するわよね。
逆に、今でも稼働しているのが奇跡だわ。

紫色のガーゴイルはフッと姿を消すと、程なくまたリリスの目の前に現れた。

「丁度、ラダム殿が竜に纏わる遺物を整理しているところだったよ。儂と一緒に、今すぐ研究施設に転移しよう。」

「えっ! 今直ぐにですか?」

「ああ、今直ぐだ。そんなに時間は掛らんよ。」

そう言うとガーゴイルはリリスの肩に留まり、闇魔法の転移を発動させた。

リリスの視界が暗転し、気が付くとリリスはレミア族の施設の中央部に立っていた。
白い壁に囲まれたドーム状の広い空間で、その奥には人工知能の格納されたカプセルが見えている。

リリスの肩から離れたガーゴイルはそのまま消え去り、奥の扉から二人の老人が入って来た。
ユリアスとラダムだ。

「ラダム様。お久し振りです。」

リリスの挨拶にラダムはにこやかな笑顔を向けた。

「久し振りだな、リリス。ユリアス殿のお陰で、儂は充実した日々を送っているぞ。」

ラダムの言葉にユリアスも嬉しそうだ。

「ユリアス殿から話は聞いた。必要なのは竜の鱗だな。」

「とりあえず保管庫の方に来て貰おう。」

そう言うとラダムはリリスを手招きで案内した。
その後ろにユリアスも続く。

施設中央部から繋がる通路を歩くと、3人は赤いマークのついた扉の前に辿り着いた。
ラダムがその扉を開けると、内部は天井が高く広い部屋になっていた。
その中央部に大きな円形の台座があり、その上に巨大な魔物の骨格標本が設置されている。
体長は15mほどもあり、翼があるのでどうやら竜のようだ。

「これは古代竜の骨格標本だよ。まだ完成はしていないのだがね。」

ラダムはそう言うと台座の傍の円形のブースに足を踏み入れた。
台座の周囲には直径5mほどの円形のブースが同心円状に幾つも並んでいる。
そのそれぞれが他種のカテゴリーに分類されていて、大小の遺物をそこで整理しているそうだ。

「竜の鱗ならかなりの分量がある。質は保証出来んが、そこにある木箱の中から選べば良い。」

ラダムの指差す木箱に近付くと、微かに竜の魔力の波動が伝わって来た。
かなりの年月が経っているので、あまり魔力の波動を感じられない物も少なからず入っている。
竜の鱗は大小取り交ぜて100枚以上ありそうだ。
その中からリリスは良さげなものを数枚取り出した。

だがその時リリスはふと、何かに見られているような視線を感じた。

うん?
何だろう?

視線を感じた方向には古代竜の骨格標本がある。

まさかねえ。

そう思ったリリスだが、その表情と仕草を見てラダムが口を開いた。

「どうした? 古代竜の骨格標本が気になるのか?」

ラダムの言葉にリリスは無言で頷いた。
ラダムはその様子を見て、骨格標本の傍に近付いた。

「これはまだ未完成なのだよ。元々は化石化した骨が乱雑に梱包されていたのだ。それを台座の上に広げたのだが、全身骨格としては半分以上は欠損していた。その欠損部分を樹脂で造って組み上げたのがこれなのだよ。」

ラダムの言葉を聞き、後ろに居たユリアスが言葉を継ぎ足した。

「これはラダム殿の大作だよ。本当に良く出来ている。普通の者には本物の骨の部分と、樹脂による模造物との見分けが付かないと思うぞ。」

ユリアスの嬉々とした言葉にリリスも驚きの表情を見せた。

「ちなみに尻尾の部分は全て本物だ。触ってみて確かめてごらん。」

ラダムの言葉を聞き、リリスは興味津々で台座の傍に進み、尻尾の部分に触れてみた。
冷たくごつごつした触感がリリスの指に伝わってくる。
化石化しているにもかかわらず、仄かに竜の気配を感じさせているのが不思議だ。

スッと尻尾の先端近くを撫でた時、リリスは指先にチクッと何かが刺さったように感じた。
咄嗟に手を離すと、指先が少し赤くなっている。

棘でもあったのかしら?

そう思ったリリスの脳裏に突然解析スキルの言葉が浮かび上がった。

『未知の生命反応が指先から体内に侵入しました! 緊急で解析中です!』

何事なの?
化石化した竜の尻尾の部分に何か潜んでいたの?

『現在解析中ですが、おそらく竜の休眠細胞あるいは刺胞のようなものだと思われます。』

刺胞ってクラゲの毒針のようなものよね。
でも休眠細胞って・・・何万年も存在出来るの?

『竜の生命力や魔力は強靭ですからね。その上、古代竜となると見当もつきません。』

『ですが確実に体内に侵入し、魔力に同化した上で増殖中です。』

増殖!
そんなに簡単に言わないでよ。
そんなものが増殖したら、竜化しちゃうんじゃないの?

『その可能性は高いですね。それ故に最適化スキルを発動させ、その制限下で抑え込もうとしています。』

大丈夫なの?

『大丈夫です。以前に竜の血を輸血された際の竜化を阻止した体験があるので、データとノウハウは揃っていますからね。』

『それでもある程度の増殖は食い止められませんが。』

この状況では安心して良いのか否か、良く分からない。
解析スキルや最適化スキルに任せておくしかないようだ。

突然の事に動揺するリリスであるが、ラダムとユリアスの居る状況で騒ぐわけにもいかない。
平然を装ってリリスはラダムに竜の鱗の礼を述べた。
その後しばらくの間施設内を見学し、ユリアスの闇魔法の転移でリリスは自室に戻った。




自室に戻ると既にサラも帰っていた。

「あらっ? リリス、何処に行っていたの?」

「ああ、ユリアス様の元に行っていたのよ。竜の鱗を分けて貰ってきたの。」

リリスはそう言うとサラに数枚の竜の鱗を見せた。

「王族の持つアクセサリーの修復に必要だって言うから、急ぎで調達してきたのよ。」

「ふうん。リリスって王家の為に物品の調達までするのね。まるで業者だわ。」

冗談交じりにリリスを揶揄するサラである。
だが竜の鱗をリリスに返そうとしてその手に触れた途端、サラの身体に変化が生じた。

ううっと呻くサラ。
頭を抱えてその場に座り込んでしまった。

「サラ! どうしたの?」

リリスの問い掛けに、サラは苦悩に満ちた表情でリリスの目を見つめた。

「・・・無理矢理スキルが・・・発動させられているわ。それも強烈に魔力を費やして・・・」

「スキルって・・・何のスキルを発動しようとしているの?」

リリスの問い掛けにサラは絞り出すような声で呟いた。

「召喚術に関する全てのスキルよ。」

その言葉が終わらないうちに、サラの身体が赤く光り、部屋の床に召喚用の魔方陣が突如現れた。
その魔方陣の上に黒い靄のようなものが現われた。

何かが召喚されようとしている!

リリスは辛そうに呻くサラの身体を擦りながら、その魔方陣によって召喚されようとしている何かを凝視していたのだった。









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