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古代竜との出会い4
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デルフィの施設を訪れたリンとハドル。
リリスから暗黒竜の加護を得るようになったいきさつを聞き、リンはふうっとため息をついた。
「リリスお姉様の身体を乗っ取るつもりが、逆に加護にされてしまったって事ですね。暗黒竜もその思惑が外れてしまって、落胆しているんじゃないですか?」
「そうでもなさそうよ。暗黒竜が存在した爪痕を残したいと言っていたからね。」
リリスの言葉にリンは再び不安げな表情を見せた。
「存在した爪痕を残したいと言っても、あんな事をされると周りが迷惑なんですよね。」
「あんな事ってさっき上空に吐き出した竜の息吹の事?」
リリスには状況が分からない。
何気ないリリスの問い掛けに、傍に居たハドルが口を挟んだ。
「リリス様。あれは単なる竜の息吹では無かったのです。竜の息吹はその存在を示す為のものですが、暗黒竜の息吹には周辺の竜族の精神状態を狂乱させ、極度の強迫観念を植え付ける作用があるようです。」
そうなの?
「それって意図的に?」
「いえ。意図的では無さそうですね。暗黒竜と言う存在そのものが、そう言う要素を持っているのでしょう。」
ハドルの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうやら暗黒竜と言う存在そのものが厄介なもののようだ。
それに加えてクイーングレイスは感情の起伏も激しいようで、今回の件も石化した自分の骨を見つけて、興奮のあまり息吹を吐こうとしたのだろう。
暗黒竜の加護は突発的なアクシデントを起こす可能性もある。
リリスはそれを肝に銘じて行動しなければならないと思った。
「とりあえず現状は加護も落ち着いているようですね。デルフィ様、仮想空間での混乱はまだ続いているのですか?」
リンの問い掛けにデルフィは迷走して確かめた。
「ああ、まだ混乱が続いているようだ。現在はテキストベースでのみ運営されておる。」
「その中には、リリスが未知の強大な竜を引き連れて、ドラゴニュートを滅ぼしに来たのではないかと言うコメントが多数あるようだが・・・」
そんな馬鹿な事を!
リリスは驚きのあまり、言葉を失ってしまった。
そのリリスの様子を見て、デルフィは神妙な表情で口を開いた。
「風評の流布とはそう言うものだよ、リリス。不安だけが募る中で、憶測が憶測を呼びそう言う言葉だけが広がってしまうのだ。」
デルフィの言葉を聞きながら、リンはふと何かを思いついた様な仕草をした。
「デルフィ様。この際、リリスお姉様の起こした騒動を利用しませんか?」
「ドラゴニュートの王族間で争っている場合ではない。挙国一致体制を維持しないと、今回の様な災厄には対応出来ないぞと主張して下されば、王族達の考え方も少しは変わるのではないかと・・・」
ちょっと! リンちゃん!
災厄って何よ!
思わず不満げな表情になったリリスを宥める様に、リンはそのつぶらな目でリリスを見つめた。
「リリスお姉様。リンもドラゴニュートの国の混乱には頭を悩ませているんです。デルフィ様までこんな目に遭ってしまって。」
「お姉様が発端になった今回の騒動を少しでも活用したいんですよ。リンの為に、少しだけ悪者になっていただけませんか?」
そう訴えるリンの表情があざとい。
リンちゃんって処世術に長けて来たのかしら?
それにしてもこのあざとさは何?
「わかったわよ。仕方が言わねえ。」
リンにウルウルとした目で見つめられ、リリスはそう答えるのがやっとの事だった。
そのリリスの返答を引き出した上で、更にリンは策を練った。
「デルフィ様。リリスお姉様に協力していただけるようですから、ここでもう一押ししてみませんか?」
「一押しってなんじゃ?」
唐突に話を振られてデルフィは甲高い声をあげてしまった。
「闇操作でリリスお姉様の魔力を竜の形に錬成して、この付近からドラゴニュートの国の上空まで転移させるとどうなると思われますか?」
うっ!
何を言い出すのよ、リンちゃんったら。
「そうじゃな。気配を探知出来る者は瞬時に暗黒竜が移動してきたように感じるだろうな。」
「それに転移先では形状を維持出来ず、瞬時に魔力が拡散されてしまうので、ふっと消えたように感じるはずだ。」
そう言いながらデルフィはニヤッと笑った。
「ドラゴニュート達を慌てさせる効果はありそうだな。リリスが暗黒竜を連れて来たと言う噂話を、現実のものとして受け止める者も少なからず出て来るだろうよ。」
デルフィは真顔でリンの顔を見つめた。
「子供の悪戯の様なものだが、狂乱状態になって居たり、混乱状態に陥っているドラゴニュート相手なら、騙せるかも知れんな。」
デルフィはそう言うとリリスの方に顔を向けた。
「リリス。そう言う事だ。お前の魔力を操作して竜の形に形成してくれ。少し大きめに作った方が現実味がある。全長10mほどで良いと思うぞ。」
そう言う事って言われてもねえ。
そんな事をしちゃって良いのかしら?
多少の疑問を抱きながらも、リリスは闇魔法を発動させ、闘技場の床の上に闇の球体を造り上げた。
そこに魔力を投入しながら、闇操作のスキルを使って形を造っていく。
竜の形だ。
頭部や胴部を造り、手足を胴部から伸ばしていく。
大きな翼も必要だ。
リリスは闇魔法の魔力を更に投入しながら尻尾に至るまで形を整えていった。
闇魔法の加護が自動的に発動されているので、闇は全体的に暗黒竜の気配を漂わせ、妖気すら放っている。
こんなものかしら?
そう思いながら振り返ると、デルフィががっかりとした表情を見せている。
リンも俯き加減で笑いを我慢しているようだ。
「これは酷いな。」
デルフィが呆れるように呟いた。
リリスが造り上げたものは、竜をバルーンアートで表現したようなお粗末なもので、客観的に見て、竜とは程遠いものになってしまったのだ。
「リリス。お前は多彩な魔法とスキルを得ているが、その代償として絵心を捨てたのか?」
随分な言い方だ。
「デッサン力が基本的に皆無だな。」
「動体視力は優れているのに、形に表せないのか?」
背後からユリアスとラダムの声も耳に入る。
どうせ私は絵は下手ですよ。
そんな私に彫刻まがいの造形なんて更に無理ってものよ!
心の中で悪態をつき開き直るリリスだが、その時急に身体が熱くなってきた。
暗黒竜の加護が異常反応をしている!
焦るリリスの意に反して、身体全体から闇魔法の魔力が流れ出し、リリスが造形した闇に流れ込み始めた。
それと共に闇の周囲に手の形をした半透明の魔力の塊が大量に現われ、闇の造形を手直しし始めた。
その様子にデルフィは訝し気な表情を見せた。
「どうした? まさかと思うが暗黒竜の加護が暴走しているのか?」
「そうじゃないんです。」
リリスはそう言いながら魔力を中断しようとしたが、リリスの意志と関係なく魔力が闇に流れていく。
その焦りでリリスの表情は強張っている。
「暗黒竜の加護が張り切っているんです。」
この時、リリスの脳裏には『こんなの竜じゃ無いわ!』と言う言葉が浮かび上がっていた。
恐らくこれもクイーングレイスの意志なのだろう。
10分ほど過ぎて、リリスの闇魔法が全て停止した。
かなりの魔力を費やしたので、リリスの疲労も大きい。
ハアハアと肩で息をしながら、リリスはその場に座り込んでしまった。
そのリリスの投入させられた代価の如く、闘技場の床に造り上げられた竜の姿は立派なものだった。
竜の鱗の一枚一枚まで再現しているような出来栄えで、全長も20mほどになり、漆黒の身体には時折赤い稲妻がバチバチと走っている。
全体からは妖気や瘴気まで放たれ、その目は獲物を探すような目つきで、しかも周囲をじろじろと見回していた。
「これは・・・・・暗黒竜を本物そっくりに再現したのか? それにしても鬼気迫る出来栄えだな。」
デルフィの言葉にリリスもうんうんと頷いた。
「暗黒竜の加護が張り切っちゃって、現物そっくりに造り上げたようです。」
「でもこの巨大なサイズの造形物を闇魔法の転移で操作出来るのですか?」
リリスの問い掛けにデルフィもう~んと唸って考え込んだ。
「無理に転移させても形を維持出来ないだろうな。転移先で一瞬でも竜の姿を維持出来れば良いのだが・・・・・」
デルフィはそう言うと再度考え込んだ。
だがそこにリンが口を挟んだ。
「私がやりましょう。この施設の上空からドラゴニュートの国の上空に転移させれば良いのですよね?」
「そうか。リン、申し訳ないね。」
そう答えるデルフィに笑みを返してリンは闇で出来た竜の傍に近付いた。
その竜の身体全体を魔力で包み込み、空間魔法を発動させ、瞬時にそれを移動させる。
闇で出来た竜は一瞬でその場から消えてしまった。
遥か高高度にあるのだろうが、強大な竜の気配が上空に僅かに感じられる。
それが一瞬でドラゴニュートの国の方向に消え去ってしまった。
リンの能力からすれば、余裕で出来る作業なのだろう。
「デルフィ様。ドラゴニュート達の反応はありましたか?」
リンの問い掛けにデルフィは目を瞑り、仮想空間の反応を精査し始めた。
その表情は真顔から徐々に緩んだものになって来た。
「うむ。予想以上の反響だ。未知の竜が現われたと言って大騒ぎになっておる。」
「今、儂の方から発信しておいた。いつどこから災厄が現われるかも知れないのに、国の中で些細な事に引っ掛かって対立している場合ではないぞと、匿名でコメントしておいたよ。」
「今回の件でリリスが関わっている痕跡は無いが、関わった可能性は高いとも付け加えたぞ。」
あ~あ。
これで私が悪者になってしまったわね。
落胆するリリス。
その傍にリンがにじり寄った。
「リリスお姉様。堪えてくださいね。これはお姉様の為にもなるのですから。」
「そうかしら? 単に悪者にしただけじゃないの?」
リリスの不満にリンは首を横に振った。
「リリスお姉様は機嫌を損ねると、何をするか分からない人物だと言うイメージを付けておくのも得策だと思います。」
そう言いながらリンはリリスの耳元に近付いた。
「ドラゴニュートって基本的に脳筋で馬鹿ですからね。」
周囲に聞こえないように小声で呟いたリンの言葉に、リリスは思わず噴き出してしまった。
リンもドラゴニュートの種族間の抗争に仲裁者として関わったりしているので、そこから体感している事なのだろう。
まあ、なるようにしかならないわね。
理不尽な喧嘩を吹っかけられる事から逃れられるのなら、多少嫌われても構わないわよ。
リリスはそう思って自分の気持ちを切り替えた。
その後、デルフィから譲り受けた古代竜の化石と共にリリス達は、ユリアスの管理するレミア族の施設に戻り、リリスもそこから魔法学院の敷地に戻った。
その日の夜。
ぐっすり眠っていたリリスは突然起こされてしまった。
また賢者様達に呼び出されたの?
そう思ったリリスだが、少し様子が違う。
何時もの真っ白な部屋に招かれたのではなく、荒涼とした渓谷の断崖の縁に立っていたのだ。
熱い日差しが照り付け、乾燥した風が吹き荒れている。
崖を背にして立つリリスの前方に、二つの巨大な黒い塊りが対峙していた。
目を凝らすと一方は、宝玉の中の世界で見たキングドレイクの姿そのものだった。
黒く巨大な竜の姿はそれだけで美しく、神々しくも見える。
他方にはキングドレイクよりも一回り小さな黒い竜が向き合っている。一回り小さいと言っても全長は25mほどもあるだろう。
黒い全身の所々に赤い稲妻がバチバチと走り、如何にも凶悪なオーラが放たれている。
その妖気漂う気配からリリスはその竜をクイーングレイスの姿だと悟った。
2体の巨大な竜が睨み合い、その全身から威圧と瘴気を放ち始めた。
両者の間隔は20mほどの距離で、その荒く激しい息遣いがこちらにまで伝わってくる。
どちらからともなく咆哮を始めると、大気がビリビリと振動し、大地がドドドドドッと振動し始めた。
巨大な翼をバタバタと羽ばたかせると、周囲の岩や土が舞い上がり、その暴風によってこちらまで飛んできた。
吹き飛ばされてきた小石がリリスの頬をかすめる。
チクッと痛みが走り頬を拭うと、僅かに血が滲んでいた。
これって夢なの?
違うわよね。
痛みがあって血まで出ちゃっているじゃないの!
グオオオオオオオッと言う咆哮を合図に、両者の口の奥に巨大な光が生じて来た。
ブレスをぶつけ合うつもりだ!
この場所だと炎熱に巻き込まれてしまう!
だが後は崖だ。
後ろに下がるわけにはいかない。
闇魔法の転移で移動しよう!
そう思った矢先、2体の竜がそれぞれ強烈なブレスを吐き、一瞬でその周囲は真っ白な光と炎熱に包み込まれてしまったのだった。
リリスから暗黒竜の加護を得るようになったいきさつを聞き、リンはふうっとため息をついた。
「リリスお姉様の身体を乗っ取るつもりが、逆に加護にされてしまったって事ですね。暗黒竜もその思惑が外れてしまって、落胆しているんじゃないですか?」
「そうでもなさそうよ。暗黒竜が存在した爪痕を残したいと言っていたからね。」
リリスの言葉にリンは再び不安げな表情を見せた。
「存在した爪痕を残したいと言っても、あんな事をされると周りが迷惑なんですよね。」
「あんな事ってさっき上空に吐き出した竜の息吹の事?」
リリスには状況が分からない。
何気ないリリスの問い掛けに、傍に居たハドルが口を挟んだ。
「リリス様。あれは単なる竜の息吹では無かったのです。竜の息吹はその存在を示す為のものですが、暗黒竜の息吹には周辺の竜族の精神状態を狂乱させ、極度の強迫観念を植え付ける作用があるようです。」
そうなの?
「それって意図的に?」
「いえ。意図的では無さそうですね。暗黒竜と言う存在そのものが、そう言う要素を持っているのでしょう。」
ハドルの言葉にリリスはう~んと唸った。
どうやら暗黒竜と言う存在そのものが厄介なもののようだ。
それに加えてクイーングレイスは感情の起伏も激しいようで、今回の件も石化した自分の骨を見つけて、興奮のあまり息吹を吐こうとしたのだろう。
暗黒竜の加護は突発的なアクシデントを起こす可能性もある。
リリスはそれを肝に銘じて行動しなければならないと思った。
「とりあえず現状は加護も落ち着いているようですね。デルフィ様、仮想空間での混乱はまだ続いているのですか?」
リンの問い掛けにデルフィは迷走して確かめた。
「ああ、まだ混乱が続いているようだ。現在はテキストベースでのみ運営されておる。」
「その中には、リリスが未知の強大な竜を引き連れて、ドラゴニュートを滅ぼしに来たのではないかと言うコメントが多数あるようだが・・・」
そんな馬鹿な事を!
リリスは驚きのあまり、言葉を失ってしまった。
そのリリスの様子を見て、デルフィは神妙な表情で口を開いた。
「風評の流布とはそう言うものだよ、リリス。不安だけが募る中で、憶測が憶測を呼びそう言う言葉だけが広がってしまうのだ。」
デルフィの言葉を聞きながら、リンはふと何かを思いついた様な仕草をした。
「デルフィ様。この際、リリスお姉様の起こした騒動を利用しませんか?」
「ドラゴニュートの王族間で争っている場合ではない。挙国一致体制を維持しないと、今回の様な災厄には対応出来ないぞと主張して下されば、王族達の考え方も少しは変わるのではないかと・・・」
ちょっと! リンちゃん!
災厄って何よ!
思わず不満げな表情になったリリスを宥める様に、リンはそのつぶらな目でリリスを見つめた。
「リリスお姉様。リンもドラゴニュートの国の混乱には頭を悩ませているんです。デルフィ様までこんな目に遭ってしまって。」
「お姉様が発端になった今回の騒動を少しでも活用したいんですよ。リンの為に、少しだけ悪者になっていただけませんか?」
そう訴えるリンの表情があざとい。
リンちゃんって処世術に長けて来たのかしら?
それにしてもこのあざとさは何?
「わかったわよ。仕方が言わねえ。」
リンにウルウルとした目で見つめられ、リリスはそう答えるのがやっとの事だった。
そのリリスの返答を引き出した上で、更にリンは策を練った。
「デルフィ様。リリスお姉様に協力していただけるようですから、ここでもう一押ししてみませんか?」
「一押しってなんじゃ?」
唐突に話を振られてデルフィは甲高い声をあげてしまった。
「闇操作でリリスお姉様の魔力を竜の形に錬成して、この付近からドラゴニュートの国の上空まで転移させるとどうなると思われますか?」
うっ!
何を言い出すのよ、リンちゃんったら。
「そうじゃな。気配を探知出来る者は瞬時に暗黒竜が移動してきたように感じるだろうな。」
「それに転移先では形状を維持出来ず、瞬時に魔力が拡散されてしまうので、ふっと消えたように感じるはずだ。」
そう言いながらデルフィはニヤッと笑った。
「ドラゴニュート達を慌てさせる効果はありそうだな。リリスが暗黒竜を連れて来たと言う噂話を、現実のものとして受け止める者も少なからず出て来るだろうよ。」
デルフィは真顔でリンの顔を見つめた。
「子供の悪戯の様なものだが、狂乱状態になって居たり、混乱状態に陥っているドラゴニュート相手なら、騙せるかも知れんな。」
デルフィはそう言うとリリスの方に顔を向けた。
「リリス。そう言う事だ。お前の魔力を操作して竜の形に形成してくれ。少し大きめに作った方が現実味がある。全長10mほどで良いと思うぞ。」
そう言う事って言われてもねえ。
そんな事をしちゃって良いのかしら?
多少の疑問を抱きながらも、リリスは闇魔法を発動させ、闘技場の床の上に闇の球体を造り上げた。
そこに魔力を投入しながら、闇操作のスキルを使って形を造っていく。
竜の形だ。
頭部や胴部を造り、手足を胴部から伸ばしていく。
大きな翼も必要だ。
リリスは闇魔法の魔力を更に投入しながら尻尾に至るまで形を整えていった。
闇魔法の加護が自動的に発動されているので、闇は全体的に暗黒竜の気配を漂わせ、妖気すら放っている。
こんなものかしら?
そう思いながら振り返ると、デルフィががっかりとした表情を見せている。
リンも俯き加減で笑いを我慢しているようだ。
「これは酷いな。」
デルフィが呆れるように呟いた。
リリスが造り上げたものは、竜をバルーンアートで表現したようなお粗末なもので、客観的に見て、竜とは程遠いものになってしまったのだ。
「リリス。お前は多彩な魔法とスキルを得ているが、その代償として絵心を捨てたのか?」
随分な言い方だ。
「デッサン力が基本的に皆無だな。」
「動体視力は優れているのに、形に表せないのか?」
背後からユリアスとラダムの声も耳に入る。
どうせ私は絵は下手ですよ。
そんな私に彫刻まがいの造形なんて更に無理ってものよ!
心の中で悪態をつき開き直るリリスだが、その時急に身体が熱くなってきた。
暗黒竜の加護が異常反応をしている!
焦るリリスの意に反して、身体全体から闇魔法の魔力が流れ出し、リリスが造形した闇に流れ込み始めた。
それと共に闇の周囲に手の形をした半透明の魔力の塊が大量に現われ、闇の造形を手直しし始めた。
その様子にデルフィは訝し気な表情を見せた。
「どうした? まさかと思うが暗黒竜の加護が暴走しているのか?」
「そうじゃないんです。」
リリスはそう言いながら魔力を中断しようとしたが、リリスの意志と関係なく魔力が闇に流れていく。
その焦りでリリスの表情は強張っている。
「暗黒竜の加護が張り切っているんです。」
この時、リリスの脳裏には『こんなの竜じゃ無いわ!』と言う言葉が浮かび上がっていた。
恐らくこれもクイーングレイスの意志なのだろう。
10分ほど過ぎて、リリスの闇魔法が全て停止した。
かなりの魔力を費やしたので、リリスの疲労も大きい。
ハアハアと肩で息をしながら、リリスはその場に座り込んでしまった。
そのリリスの投入させられた代価の如く、闘技場の床に造り上げられた竜の姿は立派なものだった。
竜の鱗の一枚一枚まで再現しているような出来栄えで、全長も20mほどになり、漆黒の身体には時折赤い稲妻がバチバチと走っている。
全体からは妖気や瘴気まで放たれ、その目は獲物を探すような目つきで、しかも周囲をじろじろと見回していた。
「これは・・・・・暗黒竜を本物そっくりに再現したのか? それにしても鬼気迫る出来栄えだな。」
デルフィの言葉にリリスもうんうんと頷いた。
「暗黒竜の加護が張り切っちゃって、現物そっくりに造り上げたようです。」
「でもこの巨大なサイズの造形物を闇魔法の転移で操作出来るのですか?」
リリスの問い掛けにデルフィもう~んと唸って考え込んだ。
「無理に転移させても形を維持出来ないだろうな。転移先で一瞬でも竜の姿を維持出来れば良いのだが・・・・・」
デルフィはそう言うと再度考え込んだ。
だがそこにリンが口を挟んだ。
「私がやりましょう。この施設の上空からドラゴニュートの国の上空に転移させれば良いのですよね?」
「そうか。リン、申し訳ないね。」
そう答えるデルフィに笑みを返してリンは闇で出来た竜の傍に近付いた。
その竜の身体全体を魔力で包み込み、空間魔法を発動させ、瞬時にそれを移動させる。
闇で出来た竜は一瞬でその場から消えてしまった。
遥か高高度にあるのだろうが、強大な竜の気配が上空に僅かに感じられる。
それが一瞬でドラゴニュートの国の方向に消え去ってしまった。
リンの能力からすれば、余裕で出来る作業なのだろう。
「デルフィ様。ドラゴニュート達の反応はありましたか?」
リンの問い掛けにデルフィは目を瞑り、仮想空間の反応を精査し始めた。
その表情は真顔から徐々に緩んだものになって来た。
「うむ。予想以上の反響だ。未知の竜が現われたと言って大騒ぎになっておる。」
「今、儂の方から発信しておいた。いつどこから災厄が現われるかも知れないのに、国の中で些細な事に引っ掛かって対立している場合ではないぞと、匿名でコメントしておいたよ。」
「今回の件でリリスが関わっている痕跡は無いが、関わった可能性は高いとも付け加えたぞ。」
あ~あ。
これで私が悪者になってしまったわね。
落胆するリリス。
その傍にリンがにじり寄った。
「リリスお姉様。堪えてくださいね。これはお姉様の為にもなるのですから。」
「そうかしら? 単に悪者にしただけじゃないの?」
リリスの不満にリンは首を横に振った。
「リリスお姉様は機嫌を損ねると、何をするか分からない人物だと言うイメージを付けておくのも得策だと思います。」
そう言いながらリンはリリスの耳元に近付いた。
「ドラゴニュートって基本的に脳筋で馬鹿ですからね。」
周囲に聞こえないように小声で呟いたリンの言葉に、リリスは思わず噴き出してしまった。
リンもドラゴニュートの種族間の抗争に仲裁者として関わったりしているので、そこから体感している事なのだろう。
まあ、なるようにしかならないわね。
理不尽な喧嘩を吹っかけられる事から逃れられるのなら、多少嫌われても構わないわよ。
リリスはそう思って自分の気持ちを切り替えた。
その後、デルフィから譲り受けた古代竜の化石と共にリリス達は、ユリアスの管理するレミア族の施設に戻り、リリスもそこから魔法学院の敷地に戻った。
その日の夜。
ぐっすり眠っていたリリスは突然起こされてしまった。
また賢者様達に呼び出されたの?
そう思ったリリスだが、少し様子が違う。
何時もの真っ白な部屋に招かれたのではなく、荒涼とした渓谷の断崖の縁に立っていたのだ。
熱い日差しが照り付け、乾燥した風が吹き荒れている。
崖を背にして立つリリスの前方に、二つの巨大な黒い塊りが対峙していた。
目を凝らすと一方は、宝玉の中の世界で見たキングドレイクの姿そのものだった。
黒く巨大な竜の姿はそれだけで美しく、神々しくも見える。
他方にはキングドレイクよりも一回り小さな黒い竜が向き合っている。一回り小さいと言っても全長は25mほどもあるだろう。
黒い全身の所々に赤い稲妻がバチバチと走り、如何にも凶悪なオーラが放たれている。
その妖気漂う気配からリリスはその竜をクイーングレイスの姿だと悟った。
2体の巨大な竜が睨み合い、その全身から威圧と瘴気を放ち始めた。
両者の間隔は20mほどの距離で、その荒く激しい息遣いがこちらにまで伝わってくる。
どちらからともなく咆哮を始めると、大気がビリビリと振動し、大地がドドドドドッと振動し始めた。
巨大な翼をバタバタと羽ばたかせると、周囲の岩や土が舞い上がり、その暴風によってこちらまで飛んできた。
吹き飛ばされてきた小石がリリスの頬をかすめる。
チクッと痛みが走り頬を拭うと、僅かに血が滲んでいた。
これって夢なの?
違うわよね。
痛みがあって血まで出ちゃっているじゃないの!
グオオオオオオオッと言う咆哮を合図に、両者の口の奥に巨大な光が生じて来た。
ブレスをぶつけ合うつもりだ!
この場所だと炎熱に巻き込まれてしまう!
だが後は崖だ。
後ろに下がるわけにはいかない。
闇魔法の転移で移動しよう!
そう思った矢先、2体の竜がそれぞれ強烈なブレスを吐き、一瞬でその周囲は真っ白な光と炎熱に包み込まれてしまったのだった。
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雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
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ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
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