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ゲートシティ2
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オアシス都市イオニアの闇の神殿の中。
プレートの両側の突起にべリアが闇魔法の魔力を流すと、リリス達を取り巻く空気がふっと入れ替わったような気がした。
「何?」
その違和感に小さく驚くリリスだが、その傍に居たリンディはう~んと唸って頭を抱えた。
「転送・・・されちゃいましたね。でもこれってどんな仕組みなんだろう? 私には全く感知出来なかったわ。」
リンディの言葉にリリスは首を傾げた。
だがべリアは状況を把握しているようだ。
「リリス様。神殿の外が全く違う空間になっていますよ。」
べリアの言葉に驚いて神殿の遺跡の外に出ると、リリスの目の前には驚きの光景が広がっていた。
目の前に広がるのは草原だった。
何処までも広く、四方には山並みが見える。
吹き抜ける風が心地良い。
空は何処までも青く、所々に白い雲が浮かんでいるのだが、何となく人工的な造形にも見える。
それは日の光が無いのに明るいからだ。
これってダンジョンの内部じゃないの?
そう思って周囲を見渡すと、神殿の遺跡の背後に大きな石造りの門が立っていた。
高さは10mほどもあり、至る所に精緻なレリーフが施されている。
更に門の200mほど背後には巨大な石造りの建物があった。
その建物は全体的に黒い色に覆われているのだが、何処かその造形に見覚えがある。
何処かで見たような・・・・・。
思いを巡らすリリスの目の前にすっと人影が現われ、徐々に形状を露にした。
何事かと思って後ろに引き下がったリリス達の耳に、子供を諭すような優し気な声が聞こえて来た。
「心配しなくても良いですよ。私はここの管理を任されている人工知能ですから。」
「ホログラムの姿で失礼しますね。」
そう言いながら現われたのは、ゴート族の若い女性だった。
淡い褐色の肌でカラフルな頭巾を被っているが、端正な顔立ちは如何にも人工的に見える。
「ここは何処なの?」
リンディの問い掛けにホログラムはふふふと笑った。
「ここでは使われなくなった転移門と神殿を管理しているのです。」
転移門なの?
転移門にしては豪華な造りね。
「使われなくなったってどう言う事なの?」
リリスの問い掛けにホログラムは転移門を指差した。
「ゴート族はあの転移門からこのイオニアに移り住んだのです。その当時は200人程度でしたが。」
「1000年ほど前、獣人の種族間の激しい闘いに巻き込まれ、ゴート族は滅亡の危機に立たされていました。そこで賢者リクード様が大規模な転移門と転移システムを造り上げ、ここイオニアに辿り着いたのです。」
ホログラムの話を聞き、べリアは自分の疑問を漏らした。
「どうしてここに来るのに闇の門番が必要なの?」
「それはここが基本的には闇魔法によって構築されているからです。闇の門番たるスキルを持つほどの人物でなければ、ここを訪れる事は出来ない。それが賢者リクード様の意思なのですよ。」
そこまでの話を聞き、リリスはふとホログラムの言葉を思い出した。
「そう言えば神殿って言っていましたよね? あの建物が?」
再びその建物を見て、遠目ながらその正面に三角形の開口部がある事に気が付いた。
「あの神殿って・・・・・レミア族の豊穣の神殿では・・・・・」
リリスの実家の領地にある神殿と形状が良く似ているのだ。
「レミア族をご存じなのですね。そうです、あの神殿は賢者リクード様がこの地で発見発掘し、再稼働させたものなのです。」
こんなところにレミア族の神殿が残されていたのね!
「でもどうして黒く覆われているの?」
「それは近くで見れば分かりますよ。」
ホログラムに促され、リリス達は神殿の傍まで歩いた。
神殿の正面の三角形の開口部から内部に入ると、少し広いホールになっていてその奥に台座が置かれている。
確かにこれはレミア族の神殿の形状だ。
だがその台座の上に何重にもシールドで覆われた黒い球体が置かれていた。
「あれは・・・闇のオーブ!」
直径は1mほどだが間違いなく闇のオーブだ。
そのオーブから時折台座に魔力が放たれているのが分かる。
その様子を見て、リリスは状況を理解した。
「台座への魔力の寄進をオーブに任せているのね。」
神殿の外壁が黒く覆われているのは闇魔法の魔力による影響なのだろう。
リリスの言葉にホログラムはうんうんと頷いた。
「良くご存じですね。賢者リクード様はこの神殿の仕組みを把握し、常時魔力を寄進できるように工夫されたのです。」
「それ故、定期的に神殿の上部からイオニア全土に向けて、土地改良の波動が放たれています。」
ホログラムの言葉に反応するように、神殿の上部から土魔法の波動が放たれていく。
だが何故かその波動はかなり微弱に感じられた。
その波動を神殿内部で感じながら、リリスはふと口にした。
「神殿から放たれている土地改良の波動がかなり弱いですね。」
リリスの言葉にホログラムは頷いた。
「そうなのですよ。この神殿は本来土魔法を基礎に稼働するように設計されているそうです。それ故に闇魔法のオーブで魔力を供給するのは、本来の稼働環境ではありません。」
「ですがリクード様は闇魔法と空間魔法に特化された賢者様なので、このような形態を取らざるを得ませんでした。」
「それでも当初は神殿から放たれる波動も強かったのです。現在はその時に比べると30%程度の出力ですね。」
そこまで話してホログラムはふうっとため息をついた。
その人間臭い所作にリリス達も驚いた。
「土魔法の魔力を豊富に投入すれば、大きく再稼働出来ると思うのですが・・・」
ホログラムの言葉にリンディが口を開いた。
「土魔法の魔力ならリリス先輩の出番じゃ無いですか。寄進してあげれば良いですよ。」
リンディの言葉にべリアが続く。
「そうですよ、リリス様。土魔法のスペシャリストがここにおられるのだから、力を貸してあげて下さい。」
あんた達って随分煽るわね!
二人の言葉に押されて、リリスは渋々闇のオーブが設置された台座に近付いた。
闇のオーブは多重シールドによって隔離されているので、傍に近付いてもその影響を受ける事は無い。
リリスはそれでも恐る恐る台座に手を伸ばし、土魔法を発動させ、その魔力をグッと台座に流してみた。
その途端にパンと言う音が鳴り、神殿内部が急に明るくなった。
壁一面が明るく光り始めたのだ。
台座を取り巻く壁の一面に映像が浮かび上がった。
花々が咲き乱れ、穀物が実り、豊穣の大地が広がっていく。
神殿の外に出ると、神殿の外壁にも映像がびっしりと写し出されていた。
まるでプロジェクトマッピングだわ。
神殿が喜んでいる。
それを肌身に感じてリリスも高揚していた。
神殿の上部から勢い良く土地改良の波動が放たれ、神殿全体が活性化したようだ。
神殿の台座の場所に戻ると、ホログラムが嬉しそうな表情を見せていた。
「神殿は土魔法の魔力に飢えていたのでしょうね。ありがとうございます。」
頭を下げるホログラムにいえいえと謙遜しつつ、リリスはふと尋ねた。
「常時魔力を寄進していると、子孫繁栄のお札が出て来ると思うんですけど、それはどうしているんですか?」
「それは私が回収し、魔素に分解した上でイオニア全土に放っています。そのお陰でゴート族は滅びる事なく、それなりに増え続けて来たのですよ。」
そう言う事なのね。
でもレミア族の神殿を再稼働させ、その管理システムを構築した賢者様ってどんな人なのかしら?
会ってみたいわね。
リリスの思いを見透かしたように、ホログラムは口を開いた。
「神殿の変化を察知したリクード様にはあなた方の事を報告しておきました。是非、リクード様のおられる別の門に案内するようにとの指示を受けています。」
「イオニアの南端の城壁の近くにもう一つ、闇の神殿の遺跡があるのです。そちらにご案内しますね。」
「ちなみに門の開け方は同じですから。」
そう言ってホログラムはパチンと指を鳴らした。
その途端に再び空気がふっと変わり、リリス達の周りの草原の景色が徐々に消えていく。
それと共にイオニアの街の風景がじわりと浮き上がって来た。
「う~ん。全く仕組みが分からないわ。闇魔法と空間魔法を連動させているのかしら?」
リンディが首を傾げながらそう呟いた。
空間魔法に長けたリンディにとっても、これは未知の領域なのだろう。
照り付ける日差しが熱い。
乾燥した砂交じりの風が吹き抜ける。
間違いなくイオニアの街だ。
目の前に広がるのはイオニアの南端に配置された城壁だ。
高さは10mほどで砂嵐から被害を受けないためのものらしい。
その近くに朽ちた石造りの闇の神殿がある。
「ここも取り壊してはならないと言われているそうですよ。」
べリアが闇の神殿の遺跡を指差して口を開いた。
外壁はボロボロになっていて、市場の近くにあった遺跡よりも更に風化が進んでいるようだ。
それでも内部は補強され、崩壊しないように工夫されているのだと言う。
本当に大丈夫なの?
不安を感じながらもリリス達は神殿の遺跡に近付いた。
内部に入ると造りは同じだった。
魔道具で灯を設置された薄暗い通路を進むと、その奥に台座があり、後ろ側の壁に金属製の黒いプレートが貼り付けられている。
リリスが闇魔法を発動させ、闇魔法の魔力をプレートに流すと、その途端にピンッと言う音がして、手前の台座の縁から二本の棒状の突起が現われた。
この二本の突起をリリスが握り、魔力を流すとプレートの両側に二本の突起が出現した。
プレートの上には文字が浮かび上がっている。
リンディに読み取って貰うと、やはり『門番を呼べ』となっているそうだ。
「私の出番ですね。」
べリアはそう言いながら、プレートの両側の突起を握り、そこに魔力をグッと流した。
その途端に、やはり空気がふっと入れ替わったような気がした。
3人が無言で神殿の遺跡の外に出ると、そこにはやはり草原が広がっていた。
遠くに山並みが見えているのも同じだ。
空も青く雲が浮かんでいる。
だが転移門や豊穣の神殿は建っていない。
相変わらずダンジョンの様な風景だ。
ふと近くの低木の茂みを見ると、ガサガサと何かが動いている。
うん?
微かに魔物の気配がする。
そう思ったリリス達の目の前に現れたのは、3体のゴブリンだった。
ギギギギギと気味の悪い声をあげて近づいて来る。
粗末な衣装を着ていて、手には錆びたショートソードを持つものが2体、弓矢を手にするものが1体。
取るに足りない相手だが、放置するわけにもいかない。
リリスは火魔法を発動させ、両手にファイヤーボルトを出現させた。
だがそれを放とうとした瞬間、ゴブリン達はフッと消えていった。
まるで魔素に分解されてしまったような光景だ。
えっ!と驚き、リリスは首を傾げた。
何が起きたのだろうか?
そう思ってリンディを見ると、目を瞑って何かを精査している様子だ。
リンディは目を開き、リリスに向かって口を開いた。
「リリス先輩。ここって間違いなくダンジョンですよ。」
「空間魔法で探知を掛けたら、5階層まである事が分かりました。」
ダンジョンですって?
どうしてこんなところに?
状況が把握出来ないままにべリアを見ると、遠くの山並みを見つめている。
「リリス様。あそこから何かが飛び立ちました。こちらに向かっています。」
べリアの指差す方向を見ると、遠くの空に黒い影があり、こちらに向かっているのが分かった。
目を凝らして良く見ると、大きな翼が目に入る。
それと共に大きな魔力の塊である事も探知出来た。
これは・・・巨大な竜だ!
接近してくる竜を見つめながら、リリス達は直ぐに動く事が出来ず、その対処に戸惑っていたのだった。
プレートの両側の突起にべリアが闇魔法の魔力を流すと、リリス達を取り巻く空気がふっと入れ替わったような気がした。
「何?」
その違和感に小さく驚くリリスだが、その傍に居たリンディはう~んと唸って頭を抱えた。
「転送・・・されちゃいましたね。でもこれってどんな仕組みなんだろう? 私には全く感知出来なかったわ。」
リンディの言葉にリリスは首を傾げた。
だがべリアは状況を把握しているようだ。
「リリス様。神殿の外が全く違う空間になっていますよ。」
べリアの言葉に驚いて神殿の遺跡の外に出ると、リリスの目の前には驚きの光景が広がっていた。
目の前に広がるのは草原だった。
何処までも広く、四方には山並みが見える。
吹き抜ける風が心地良い。
空は何処までも青く、所々に白い雲が浮かんでいるのだが、何となく人工的な造形にも見える。
それは日の光が無いのに明るいからだ。
これってダンジョンの内部じゃないの?
そう思って周囲を見渡すと、神殿の遺跡の背後に大きな石造りの門が立っていた。
高さは10mほどもあり、至る所に精緻なレリーフが施されている。
更に門の200mほど背後には巨大な石造りの建物があった。
その建物は全体的に黒い色に覆われているのだが、何処かその造形に見覚えがある。
何処かで見たような・・・・・。
思いを巡らすリリスの目の前にすっと人影が現われ、徐々に形状を露にした。
何事かと思って後ろに引き下がったリリス達の耳に、子供を諭すような優し気な声が聞こえて来た。
「心配しなくても良いですよ。私はここの管理を任されている人工知能ですから。」
「ホログラムの姿で失礼しますね。」
そう言いながら現われたのは、ゴート族の若い女性だった。
淡い褐色の肌でカラフルな頭巾を被っているが、端正な顔立ちは如何にも人工的に見える。
「ここは何処なの?」
リンディの問い掛けにホログラムはふふふと笑った。
「ここでは使われなくなった転移門と神殿を管理しているのです。」
転移門なの?
転移門にしては豪華な造りね。
「使われなくなったってどう言う事なの?」
リリスの問い掛けにホログラムは転移門を指差した。
「ゴート族はあの転移門からこのイオニアに移り住んだのです。その当時は200人程度でしたが。」
「1000年ほど前、獣人の種族間の激しい闘いに巻き込まれ、ゴート族は滅亡の危機に立たされていました。そこで賢者リクード様が大規模な転移門と転移システムを造り上げ、ここイオニアに辿り着いたのです。」
ホログラムの話を聞き、べリアは自分の疑問を漏らした。
「どうしてここに来るのに闇の門番が必要なの?」
「それはここが基本的には闇魔法によって構築されているからです。闇の門番たるスキルを持つほどの人物でなければ、ここを訪れる事は出来ない。それが賢者リクード様の意思なのですよ。」
そこまでの話を聞き、リリスはふとホログラムの言葉を思い出した。
「そう言えば神殿って言っていましたよね? あの建物が?」
再びその建物を見て、遠目ながらその正面に三角形の開口部がある事に気が付いた。
「あの神殿って・・・・・レミア族の豊穣の神殿では・・・・・」
リリスの実家の領地にある神殿と形状が良く似ているのだ。
「レミア族をご存じなのですね。そうです、あの神殿は賢者リクード様がこの地で発見発掘し、再稼働させたものなのです。」
こんなところにレミア族の神殿が残されていたのね!
「でもどうして黒く覆われているの?」
「それは近くで見れば分かりますよ。」
ホログラムに促され、リリス達は神殿の傍まで歩いた。
神殿の正面の三角形の開口部から内部に入ると、少し広いホールになっていてその奥に台座が置かれている。
確かにこれはレミア族の神殿の形状だ。
だがその台座の上に何重にもシールドで覆われた黒い球体が置かれていた。
「あれは・・・闇のオーブ!」
直径は1mほどだが間違いなく闇のオーブだ。
そのオーブから時折台座に魔力が放たれているのが分かる。
その様子を見て、リリスは状況を理解した。
「台座への魔力の寄進をオーブに任せているのね。」
神殿の外壁が黒く覆われているのは闇魔法の魔力による影響なのだろう。
リリスの言葉にホログラムはうんうんと頷いた。
「良くご存じですね。賢者リクード様はこの神殿の仕組みを把握し、常時魔力を寄進できるように工夫されたのです。」
「それ故、定期的に神殿の上部からイオニア全土に向けて、土地改良の波動が放たれています。」
ホログラムの言葉に反応するように、神殿の上部から土魔法の波動が放たれていく。
だが何故かその波動はかなり微弱に感じられた。
その波動を神殿内部で感じながら、リリスはふと口にした。
「神殿から放たれている土地改良の波動がかなり弱いですね。」
リリスの言葉にホログラムは頷いた。
「そうなのですよ。この神殿は本来土魔法を基礎に稼働するように設計されているそうです。それ故に闇魔法のオーブで魔力を供給するのは、本来の稼働環境ではありません。」
「ですがリクード様は闇魔法と空間魔法に特化された賢者様なので、このような形態を取らざるを得ませんでした。」
「それでも当初は神殿から放たれる波動も強かったのです。現在はその時に比べると30%程度の出力ですね。」
そこまで話してホログラムはふうっとため息をついた。
その人間臭い所作にリリス達も驚いた。
「土魔法の魔力を豊富に投入すれば、大きく再稼働出来ると思うのですが・・・」
ホログラムの言葉にリンディが口を開いた。
「土魔法の魔力ならリリス先輩の出番じゃ無いですか。寄進してあげれば良いですよ。」
リンディの言葉にべリアが続く。
「そうですよ、リリス様。土魔法のスペシャリストがここにおられるのだから、力を貸してあげて下さい。」
あんた達って随分煽るわね!
二人の言葉に押されて、リリスは渋々闇のオーブが設置された台座に近付いた。
闇のオーブは多重シールドによって隔離されているので、傍に近付いてもその影響を受ける事は無い。
リリスはそれでも恐る恐る台座に手を伸ばし、土魔法を発動させ、その魔力をグッと台座に流してみた。
その途端にパンと言う音が鳴り、神殿内部が急に明るくなった。
壁一面が明るく光り始めたのだ。
台座を取り巻く壁の一面に映像が浮かび上がった。
花々が咲き乱れ、穀物が実り、豊穣の大地が広がっていく。
神殿の外に出ると、神殿の外壁にも映像がびっしりと写し出されていた。
まるでプロジェクトマッピングだわ。
神殿が喜んでいる。
それを肌身に感じてリリスも高揚していた。
神殿の上部から勢い良く土地改良の波動が放たれ、神殿全体が活性化したようだ。
神殿の台座の場所に戻ると、ホログラムが嬉しそうな表情を見せていた。
「神殿は土魔法の魔力に飢えていたのでしょうね。ありがとうございます。」
頭を下げるホログラムにいえいえと謙遜しつつ、リリスはふと尋ねた。
「常時魔力を寄進していると、子孫繁栄のお札が出て来ると思うんですけど、それはどうしているんですか?」
「それは私が回収し、魔素に分解した上でイオニア全土に放っています。そのお陰でゴート族は滅びる事なく、それなりに増え続けて来たのですよ。」
そう言う事なのね。
でもレミア族の神殿を再稼働させ、その管理システムを構築した賢者様ってどんな人なのかしら?
会ってみたいわね。
リリスの思いを見透かしたように、ホログラムは口を開いた。
「神殿の変化を察知したリクード様にはあなた方の事を報告しておきました。是非、リクード様のおられる別の門に案内するようにとの指示を受けています。」
「イオニアの南端の城壁の近くにもう一つ、闇の神殿の遺跡があるのです。そちらにご案内しますね。」
「ちなみに門の開け方は同じですから。」
そう言ってホログラムはパチンと指を鳴らした。
その途端に再び空気がふっと変わり、リリス達の周りの草原の景色が徐々に消えていく。
それと共にイオニアの街の風景がじわりと浮き上がって来た。
「う~ん。全く仕組みが分からないわ。闇魔法と空間魔法を連動させているのかしら?」
リンディが首を傾げながらそう呟いた。
空間魔法に長けたリンディにとっても、これは未知の領域なのだろう。
照り付ける日差しが熱い。
乾燥した砂交じりの風が吹き抜ける。
間違いなくイオニアの街だ。
目の前に広がるのはイオニアの南端に配置された城壁だ。
高さは10mほどで砂嵐から被害を受けないためのものらしい。
その近くに朽ちた石造りの闇の神殿がある。
「ここも取り壊してはならないと言われているそうですよ。」
べリアが闇の神殿の遺跡を指差して口を開いた。
外壁はボロボロになっていて、市場の近くにあった遺跡よりも更に風化が進んでいるようだ。
それでも内部は補強され、崩壊しないように工夫されているのだと言う。
本当に大丈夫なの?
不安を感じながらもリリス達は神殿の遺跡に近付いた。
内部に入ると造りは同じだった。
魔道具で灯を設置された薄暗い通路を進むと、その奥に台座があり、後ろ側の壁に金属製の黒いプレートが貼り付けられている。
リリスが闇魔法を発動させ、闇魔法の魔力をプレートに流すと、その途端にピンッと言う音がして、手前の台座の縁から二本の棒状の突起が現われた。
この二本の突起をリリスが握り、魔力を流すとプレートの両側に二本の突起が出現した。
プレートの上には文字が浮かび上がっている。
リンディに読み取って貰うと、やはり『門番を呼べ』となっているそうだ。
「私の出番ですね。」
べリアはそう言いながら、プレートの両側の突起を握り、そこに魔力をグッと流した。
その途端に、やはり空気がふっと入れ替わったような気がした。
3人が無言で神殿の遺跡の外に出ると、そこにはやはり草原が広がっていた。
遠くに山並みが見えているのも同じだ。
空も青く雲が浮かんでいる。
だが転移門や豊穣の神殿は建っていない。
相変わらずダンジョンの様な風景だ。
ふと近くの低木の茂みを見ると、ガサガサと何かが動いている。
うん?
微かに魔物の気配がする。
そう思ったリリス達の目の前に現れたのは、3体のゴブリンだった。
ギギギギギと気味の悪い声をあげて近づいて来る。
粗末な衣装を着ていて、手には錆びたショートソードを持つものが2体、弓矢を手にするものが1体。
取るに足りない相手だが、放置するわけにもいかない。
リリスは火魔法を発動させ、両手にファイヤーボルトを出現させた。
だがそれを放とうとした瞬間、ゴブリン達はフッと消えていった。
まるで魔素に分解されてしまったような光景だ。
えっ!と驚き、リリスは首を傾げた。
何が起きたのだろうか?
そう思ってリンディを見ると、目を瞑って何かを精査している様子だ。
リンディは目を開き、リリスに向かって口を開いた。
「リリス先輩。ここって間違いなくダンジョンですよ。」
「空間魔法で探知を掛けたら、5階層まである事が分かりました。」
ダンジョンですって?
どうしてこんなところに?
状況が把握出来ないままにべリアを見ると、遠くの山並みを見つめている。
「リリス様。あそこから何かが飛び立ちました。こちらに向かっています。」
べリアの指差す方向を見ると、遠くの空に黒い影があり、こちらに向かっているのが分かった。
目を凝らして良く見ると、大きな翼が目に入る。
それと共に大きな魔力の塊である事も探知出来た。
これは・・・巨大な竜だ!
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