落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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ゲートシティ4

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オアシス都市イオニアの南端の城壁。

その傍の闇の神殿の遺跡の前に転送されたリリス達は、騒然とした街の雰囲気に違和感を覚えた。

何があったのだろうか?

通り過ぎる人々の多くが転移門の事を口にしている。

「転移門の方に向かってみましょうか?」

べリアの言葉にリリスとリンディも頷き、即座に都市の中央方向に向かった。

ミラ王国が設置した大型の転移門は都市の中央部にあり、その周辺は軍関係の施設が並んでいる筈だ。
石畳を速足で歩いていくと、都市の中央部に軍人が集結しているのが見えて来た。
一般人の通行が制限されているようで、ピリピリした雰囲気が漂っている。

転移門まで100mほどの距離に近付くと、微かに妖気や瘴気が漂って来た。
リリス達はスキルや耐性を持っているので、それほどに気にはならないのだが、一般人なら吐き気を催すレベルだ。

立ち並ぶ軍人の前にジークが軍服姿で立っているのを見つけて、リリスは足早に駆け寄った。

「ジーク先生。何かあったんですか?」

リリスの言葉にジークは失笑を浮かべた。

「転移門が使えなくなっちゃったんだよ。転移門から見た事も無い魔物が出てきてしまって、対処に困っているところなんだ。」

「君達に対処出来るようなら有難いのだが、とりあえずその魔物を見てみるかい?」

随分簡単に言うわね。

ジークの言葉の軽さをリリスは怪訝に思った。

「近付いて大丈夫なんですか?」

べリアの問い掛けにジークはうんうんと頷いた。

「今のところ大丈夫だ。シールドで何重にも封じ込めているからね。でもそこからが膠着状態なんだよ。」

ジークの口調には対処に困っている様子が籠められていた。
転移門から何が出て来たと言うのだろうか?

ジークの指示で立ち並んでいた兵士達が道を開け、ジークに付き従ってリリス達は転移門の方向に進んだ。
目の前に見えて来たのは多重シールドの半透明のドームだ。
その中に何かが蠢いている。

シールドまで10mほどの距離に近付くと、ドームの中に黒いサイコロが重なり合って建物状になっているのが見えた。
サイコロは一辺が2m程で、10個ほどのそれが3段に重なっている。
その積み上げ方は乱雑で幾何学的ではない。
そのサイコロの黒い壁から魔物が頻繁に出入りしている。

その魔物は身長が1mほどで人の形をしているが、頭部は昆虫の様な形状だった。
複眼の様な大きな眼が印象的で、口は有るのか無いのか見た目では分からない。更に額から金色の触覚が二本生えている。
全身は緑色で身体の所々に淡い縞模様が入っているが、その奇妙な見た目故に正体が全く分からない。

「あれって魔物なんですか?」

リリスの言葉にジークはう~んと唸って首を傾げた。

「魔物だと思うよ。少なくとも魔人ではないし魔族でもない。言葉が全く通じないんだ。その上にこちらから近付くと魔法で攻撃を仕掛けて来る。」

「あのサイコロ状の物体の塊は、恐らくコロニーを造ろうとしているのだろう。女王蜂の様な存在が居るのかも知れない。」

シールド越しに見える魔物を見つめながら、リンディはふと呟いた。

「あれがコロニーだとしたら、生息範囲が広がらないうちに根絶した方が良いのでは・・・」

リンディの呟きにジークは苦笑いを浮かべた。

「それは既にやってみたんだ。だがこちらからの魔法攻撃が全く効かないんだよ。」

「防御力が高いとか、耐性があるってレベルじゃ無く、攻撃魔法の魔力が分解され吸収されてしまうような状態だ。」

「こんなものが転移門から出て来るなんて、何が何だか訳が分からないよ。」

困り果てた様子のジーク。
その様子を見ながら、リンディは空間魔法を発動させ、転移門周辺に探知を深く掛けた。
リンディが目を瞑って集中している。
そのリンディの傍にリリスはそっと寄り添った。

「リンディ。何か分かるの?」

小さく呟いたリリスの声にリンディは軽く頷いた。

「二本の経路が絡み合っているのが分かります。空間魔法による転移経路が混線していますね。一本はミラ王国が設置した経路ですが、もう一本の経路は何処から繋がっているのか全く分かりません。」

「でも間違いなくあれは、経路の混線から紛れ込んできた魔物でしょうね。」

そう言いながらリンディは目を開けた。
その瞳が金色に光っていたのを見て、リリスはリンディの空間魔法の隠れたスキルの存在を感じた。

「リリス君。試しにあの魔物を君の土魔法で駆除してくれないか?」

ジークの言葉が軽い。

試しにって言ってもねえ。

そう思いながらも、手詰まり感満載のジークに手を差し伸べないわけにもいかない。

「やってみましょうか。」

リリスはそう言うと、ドーム状のシールドの近くに進み出た。

魔物のコロニーは恐らく地下にも繋がっているだろう。
地下から焼き尽くすのが良いかも知れない。

リリスは土魔法を発動させ、火魔法と連携させながらその魔力をシールドの内部に放った。
直径20mほどのシールド内の地面が泥沼になり、徐々に熱を帯びていく。
泥沼になってしまった地面に魔物のコロニーがずぶずぶと沈んでいくのを見ながら、リリスは更に魔力を強く放った。
泥沼の温度が上がり、あちらこちらから蒸気が噴き出し始めた。

泥沼が赤く光り始め、溶岩となってドロドロと溶けていく。
その高熱でシールド内部が蒸気で曇り、良く見えないのだが、何かがシールド内部で蠢いている様子だ。

これで根絶出来たのかしら?

そう思ったリリスは、その直後に信じられない状況を目にした。

多重シールドの頂上部にまるで溶けるように穴が開き、高熱の蒸気が噴き出すと共に、緑色の物体が半透明の羽を広げて一気に飛び出したのだ。

「シールドが破られた!」

その驚きにジークも目が点になっている。

飛び出してきたのはあの魔物の女王の様な存在なのだろうか。
先ほどまで目にしていた魔物の倍ほどの大きさで、葉脈の様な筋の入った半透明の羽を羽ばたかせ、上空に逃げ去ろうとしていた。

「リンディ! あいつを逃がさないで!」

リリスの叫びにリンディはハイと答えて空間魔法を発動させた。

急場しのぎに時限監獄に閉じ込め、その上で念のためにその周囲を亜空間に封じ込めたリンディの手際の良さに、改めてリリスはこの頼りになる後輩に感心した。

溶岩の沼を普通の地面に戻すと、リリスはリンディと共に、亜空間に閉じ込められた魔物の傍に近付いた。
直径5mほどの亜空間の中に時限監獄が設置され、その中で緑色の魔物が蠢いている。
魔物はその触覚を時限監獄の壁にくっ付けて、何度も繰り返し魔力を放っていた。

「魔力の波動を解析していますね。脱出を試みているのでしょう。」

リンディの言葉にリリスも黙って頷いた。

「それにしても何処から転移してきたのかしら? 単に転移経路の混線だとしても、こんな魔物は私達の世界には居ないと思うんですけど・・・」

リンディの疑問にはリリスも同じ思いだ。
とてもこの世界の魔物だとは思えない。
そもそもが魔物の範疇に入っているのだろうか?

そう思って立ち尽くしているリリスの頭上から、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「周囲を確かめないで、無闇に転移門を設置するからこう言う事になるんだよ。」

あれっと思って上を向くと、頭上から小さな龍がゆっくりと降りて来た。

「えっ! ロキ様。どうしてここに?」

それは明らかに超越者のロキの使い魔の姿だ。
だが何時もの姿に比べてかなり小さい。
体長10cmほどでアクセサリーサイズだ。

「儂は今、別の用事で忙しいので、小さな使い魔の姿でお邪魔するぞ。」

如何にも片手間で来たと言う言い草だ。

「ロキ様。転移経路が混線しているようですが・・・」

リリスの言葉に龍はうむと同意した。

「その通りだ。ミラ王国が何も考えずに設置した経路と、以前にエイヴィスが設置した獣人の国を繋ぐ経路が混線したのだよ。」

「ええっ! エイヴィス様の設置した転移経路ってここにもあったんですか?」

リリスの驚きに龍はうんうんと頷いた。

「ここだって獣人の棲むオアシス都市なのだから、不思議ではあるまい? 獣人の賢者であった頃のエイヴィスの遺した負の遺産の一部だよ。」

「でもそれならあの魔物は何処から?」

リリスはそう言いながら、亜空間に閉じ込められた魔物を指差した。
その指差す方向に龍は向きを変えた。

「あれは・・・どこから来たのかも分からん。混線したはずみで異世界に繋がったのかも知れん。」

龍の言葉を聞きリリスはう~んと唸った。
この二人の会話を聞きながら、リンディが話に加わって来た。

「あのう・・・この龍はどなたですか? エイヴィス様をご存じのようですけど・・・」

リンディの言葉に龍は向きを変え、瞬時にリンディを精査した。

「うん? この娘は何者だ? エイヴィスの魔力の影響をもろに受けた痕跡があるのだが・・・」

「それにエイヴィスと同じ種族の気配がする・・・」

龍の疑問にリリスはリンディとエイヴィスの関係性を簡略に話した。
それを聞き、龍は驚きを隠せない様子だ。

「お前はダークリンクスの血を引いているのか。だが先祖返りと言うレベルではないぞ。魔力の波動がダークリンクス特有のものとほぼ同等だ。それに空間魔法の特殊な隠しスキルを大量に抱え込み、まだ十分に活用し切れてないではないか。」

「ロキ様。そこのところは内密でお願いします。」

リンディの言葉に龍はフンと息を吐いた。

「そうだな。大量の隠しスキルの持ち腐れと言えば、ここに居るリリスもそうだったな。まあそこのところは触れないでおこう。」

ロキ様。一言余計ですよ。

そう思いつつも反論の余地は無い。
龍の言葉にリリスは苦笑いをするだけだ。

龍はその向きを変え、リンディの目の前に浮かんだ。

「丁度良い。リンディ。お前の魔法とスキルを借りて、転移経路の修復を行なおう。儂も今ここに投入している余力があまり無いので、お前の能力を利用させて貰うぞ。お前にとっても空間魔法のスキルの高度な活用を体験出来るのだから、文句はあるまい。」

そう言いながら龍はリンディの肩に留まった。
その姿はまるでアクセサリーのようだ。

だが龍の身体から魔力の触手がリンディの身体に撃ち込まれ、しっかりと憑依状態になっているのが分かる。
龍に操られ、リンディの身体はふらふらと揺れ始めた。

この時、リンディは自分の脳内に、ロキの意識が強度に憑依しているのを半覚醒状態で理解出来ていた。
ロキはリンディの空間魔法のスキルを操り、混線している転移経路の修復を始めた。
それはリンディにとってもこの上ない経験であり刺激である。

こんなふうに空間魔法って使えるんだ!

その驚きに興奮しながらもリンディは、ロキによる複数のスキルの連携や活用を記憶にしっかりと留めた。

このリリスとリンディの様子を見ながら、背後からジークがべリアの傍を擦り抜けて不思議そうに近付いて来た。

「リリス君。状況はどうなっているのかね?」

ジークの言葉にリリスは振り返ると、リンディの肩に留まっている龍を指差した。

「とある賢者様が力を貸して下さって、転移経路の修復を手伝って下さっているんです。」

「至急、混線している転移経路を修復しないと、またどこからか正体不明の魔物が現われるかも知れませんからね。」

そう言われて腑に落ちないものの、言葉の無いジークである。
そうかと言いながら頷くだけだ。

程なく、ロキの力を借りて転移経路は修復された。
だがリンディが亜空間に閉じ込めた魔物は、時限監獄の壁を今にも解除しようとしていた。

「ロキ様! 魔物が逃げ出しちゃう!」

リリスの叫びが周囲に響き渡った。

時限監獄の壁を溶かすように蠢く魔物の様子を見、ジークや周囲の兵士達も緊張して身構えていたのだった。




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