落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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ゲートシティ再訪 後日談

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オアシス都市イオニアでのリリス達の用件は済んだ。

リリスはサリナと共にメリンダ王女達と合流し、軍用の馬車で転移門からミラ王国に戻った。

現地解散となったので、リリスは急いでマキの待つ王都の神殿へと急いだ。
王城前の広場から神殿までの僅かな距離を歩きつつも、マキの困惑している姿が目に浮かぶ。

マキちゃん、大丈夫かなぁ?

駆けこむように神殿に入り、神官の女性に用件を話すと、神官はマキの待つゲストルームに案内してくれた。

そこに入るとマキはソファに座って苦笑いを浮かべていた。

「ごめんね、リリスちゃん。」

そう言ってリリスをソファに座るように促すマキの表情は、かなり憔悴しているようだった。

「今もその風景が見えているの?」

心配そうに問い掛けるリリスにマキはうんうんと頷いた。

「今も見えているのよ。半透明の景色なんだけど、微かに音まで聞こえてくるの。車の走行音や道行く人達の声、飲食店の呼び込みの声やカラスの鳴き声まで・・・・・」

う~ん。
それってうんざりする状況よね。
決して郷愁を誘うようなものでは無いわ。
今のマキちゃんにとっては、あまり思い出したくもない情景かも知れないし。

リリスはマキの異変の要因が、サリナの両親との魔力の交流に会った事を簡潔に説明した。
それに伴ってリリスの持つ特殊なスキルについても言及した。
マキはリリスの説明に驚くばかりだ。

「日本からの転移者の子孫が居るんですね。でも私は異世界に通じるようなスキルは持っていないけど・・・」

「だからその程度で済んでいるんじゃないのかなぁ。私みたいに時空の歪に飛ばされてしまう事は無さそうだからね。」

リリスの言葉にマキは首を傾げた。
あまり納得のいかない様子だ。

どうしたら良いの?

この状況の打開の為に何をしたら良いのか分からない。
迷いながらもリリスは、とりあえず解析スキルを発動させた。

マキちゃんの見ている光景って幻視なの?

『いえ、幻視では無さそうです。僅かな時空の歪かも知れません。』

時空の歪なの?

『そうとしか思えません。それを裏付けるかのように、異世界通行手形が反応し始めましたよ。』

えっ!

驚くリリスの足首がじんじんと疼き始めた。
だからと言って発動しようとしているようには感じられない。
これはどう言う状態なのだろうか?

戸惑うリリスに解析スキルの説明が続く。

『実は昨夜から最適化スキルが奮闘していまして、スキルの改良がかなり進んだのです。最適化スキルからの報告では、この程度の時空の歪なら修正出来るはずだとの事です。』

それってどうやって?

『とりあえずスキルを刺激して、気紛れな眷属を呼び出せば良いですよ。』

気紛れな眷属?
それってもしかしてあの猫の事?

『あれは猫と言いましたかね? この世界には存在しない生物なのですが、徐々に眷属化しつつあります。最適化スキルの奮闘を労ってやってください。』

眷属化出来るの?
それって朗報だわ!
最適化スキルには改めて感謝するわね。

リリスは高揚して思わず笑みを漏らしてしまった。
その様子を見てマキは不思議そうに首を傾げた。

「リリスちゃん、どうしたの? 誰かと話しているような仕草をしているかと思えば、急に笑っちゃって・・・。思い出し笑いでもしていたの?」

「ああ、ごめんね。そうじゃないのよ。解決策が見つかりそうなのよね。」

そう言いながらリリスは手に魔力を纏わらせ、自分の足首を擦ってみた。
それに反応して足首から白い煙が立ち上がり、その中から三毛猫が出現した。

「えっ! どうして猫が?」

驚くマキにえへへと笑いながら、リリスはその猫を撫で始めた。
ゴロゴロと喉を鳴らす猫の姿にリリスも和む。
一しきり撫でてから、リリスはおもむろに猫に話し掛けた。

「ありきたりだけど、あんたの名前はミケで良いよね。」

「ねえ、ミケ。マキちゃんの周辺で生じている時空の歪って修復出来るの?」

リリスの言葉にミケはにゃあと答えて、その身体に魔力を巡らせた。
それに従ってマキの周辺からミケの身体に何かが吸収されていく。
魔力や魔素ではない。
時空の歪の構成要素を吸収しているのだろうか?

マキはこの時、驚きの光景を目にしていた。
自分の周辺で半透明の状態で見えていた光景が、まるで霧のようになって目の前にいる猫の身体に吸収されていく。
しばらくすると、元の世界の光景は全て消え去ってしまった。

「猫が・・・猫ちゃんが吸い上げちゃったわ。」

マキはそう言いながら、ミケの身体に恐る恐る触れてみた。
その感触が直に伝わってくる。
懐かしい感触だ。

「この世界で三毛猫に会えるなんて思わなかったわ。この子ってリリスちゃんの使い魔なの?」

「う~ん。それが良く分からないのよ。元々は異世界通行手形って言う特殊なスキルの仮想空間での擬態だったんだけど、私の持つスキルが魔改造を施したらしいの。現状では眷属に近い存在になっているそうよ。」

「眷属! こんな可愛い眷属なんて・・・・・。紗季さんってやっぱりずるいですよ。」

うっ!
マキちゃんったらまた話がずれて来ちゃっているわ。

リリスは困惑の表情でマキを見つめた。
だがマキはそのリリスの視線に目もくれず、猫の背を撫で回していた。

「マキちゃん。それで元の世界の光景はどうなったの?」

「ああ、それならこの子が全て吸い込んじゃいましたよ。今は全く見えませんから。」

マキは猫の背を撫で回しながら、ありがとうねと猫に向かって話し掛けた。
猫はマキの撫でる手を気持ち良さそうに舐め始めた。
その行動にマキの心も和む。
だが猫はマキの撫でる手を舐めながら、徐々にその姿を消していった。

「今はまだ一日一回、それも5分ほどしか実体化出来ないのよ。」

「そうなんですか。残念!」

マキは残念そうに舐められていた手を引き戻した。
如何にも名残惜しそうな表情だ。

マキは気を取り直してリリスに話し掛けた。

「今後もクロード家の方と魔力の交流をすると、あの光景がまた生じるの?」

「可能性としては高いと思う。でも魂魄浄化を依頼されたら、断れないわよね。」

リリスの言葉にマキは神妙な表情で頷いた。
サリナの両親が貴族である以上、神殿の大祭司への公式的な依頼事を断る事は出来ないからだ。

どうしたら良いのだろうか?

マキはしばらく黙り込んでいたが、ふっと吹っ切れたような表情を見せた。

「まあ、その時はまたあの猫ちゃんにお願いしますよ。また会えるのが楽しみになっちゃうかも。」

そう言いながら苦笑いをするマキの言葉に、リリスも苦笑いをして頷くだけだった。




翌日。

授業を終えた放課後。

生徒会の部屋ではサリナとリリスが生徒会のメンバーに、イオニアで買い込んだお土産を配っていた。

その中でもリリスが配ったゴート族のカラフルな頭巾は評判が良く、エリスやウィンディもその場で頭に巻き始めた。
サリナはイオニアの宿舎の売店で販売していたお菓子を配ったのだが、これもまた生徒会のメンバーには評判が良く、生徒会の部屋は一気に和やかになった。

だがその喧騒の中、サリナがふと真剣な表情を見せた。
部屋の片隅の天井をじっと見つめている。

「どうしたの?」

リリスの問い掛けにサリナは少し首を傾げた。

「少し妙な気配を感じたんです。虫だと思うんですけど、人の気配を少し感じて・・・・・」

そう言いながらリリスの方に振り返ったサリナは、突然目を丸くして固まってしまった。
リリスの背後に先ほどまで居なかったニーナの姿を見たからだ。

「ニーナ先輩・・・」

驚くサリナにニーナはえへへと笑って、エリスの傍に椅子に座った。

「あらっ! ニーナ先輩。何時入って来たんですか?」

エリスの問い掛けにニーナは『今よ』と答えるだけだ。
固まっていたサリナは我に返り、合点のいかない表情で自分の席に戻った。

ニーナったら、虫に僅かな気配を移してサリナを幻惑させたのね。

以前にも同じような事を、エレンの見ている前でガイに仕掛けて幻惑させた事があった。
それを思い出したリリスはニーナに近付き、その耳元で小声で話し掛けた。

「ニーナ。そう言う悪戯をサリナに仕掛けないでよね。彼女はまだ新入生なんだから。」

リリスの言葉にニーナはえへへと笑った。

「心配しなくても大丈夫だよ。あの子って私がいくら気配を隠しても察知するのよね。それで少し技を仕掛けてみただけだから。」

「それにサリナって、私と同じようなスキルを持つ匂いがするんだもの。」

う~ん。
だからと言って何をしているのよ。
お互いの技の探り合いなのかしら?
ニーナはニーナで、シーフマスターとしての面目を立てたかったの?

そう思いながらリリスは、生徒会としての新たな作業をメンバーに伝えた。
新入生に向けての学院便りの作成であるが、入学当初に渡される学院主導のものと違い、生徒目線で作成されるもので、学院生活をより充実させるためのちょっとしたヒントやアドバイスを、ふんだんに盛り込む予定である。

サリナは自分の担当する箇所を確認し、何事も無かったかのように作業を始めた。
ボランティアで協力してくれるニーナの姿を見ながら、サリナも気を取り直したようである。


だがその翌日。

授業の終了と共にニーナを誘い、生徒会の部屋に足を運んだリリスは、ドアの向こうにエリスの気配を感じた。
他には誰も居ないようだ。
ニーナもいち早くエリスの気配を探知して、部屋のドアに駆け寄った。

「エリスって今日は随分早く来たのね。」

そう言いながらニーナは勢い良くドアを開き、うっと唸ってその場で立ち尽くした。

「どうしたのよ、ニーナ。」

その場から動かないニーナの横を擦り抜けて部屋に入ると、そこには椅子に座って作業を始めているサリナの姿があった。

エリスの姿は何処にも見当たらない。

うん? 
これってどう言う事?
私もエリスの気配を感じたわよ。

その時、ドアの前で戸惑うニーナの背後から、彼女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
エリスである。

「ニーナ先輩、先に来られていたんですね。私が後になっちゃったわ。」

そう言ってエリスは部屋に入り、自分の席に座った。
その隣に首を傾げながらニーナも座った。

神妙な表情のニーナに対して、サリナはえへへと笑いながら視線を向けた。
その途端にニーナの表情が落胆に変わっていく。

してやられた!

そう言いたげな表情だ。

そのニーナの表情を見ながら、リリスはサリナの隠しスキルを思い出していた。

これは恐らく・・・隠形七変化。

自分の気配を消すのではなく、他者の気配を纏って隠形を試みるスキルなのだろう。
これはサリナなりの、昨日の仕返しなのかも知れない。

自分が置かれた状況を察したニーナは席を立ちあがり、サリナの傍に近付いた。
拳を握って笑顔でゆっくりとサリナに向かって突き出すと、サリナも立ち上がって拳を前に出してグータッチをした。

「サリナってくせ者だね。」

笑顔で毒を含んだ言葉を口にするニーナである。

「それってニーナ先輩が言いますかね?」

サリナも負けていない。
それでもお互いの技量を認め合ったようで、その後は二人で打ち解けて会話を交わしていた。

まあ、似た者同士って事よね。

そう思いながら二人の様子を見ていたリリスに、エリスが苦笑いをしながら言葉を掛けた。

「あの二人、今度ダンジョンに一緒に行こうって言ってますよ。気が付かないうちに瞬殺されているゴブリンやオークの姿が目に浮かびますよね。」

う~ん。
その情景を見てみたい気がする。
これって不謹慎かな?

リリスはエリスに相槌を打ちながら、その日の作業に取り掛かったのだった。















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