落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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古都再生5

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突然リリスの前に現れたドライアド。

リリスを見つめるその穏やかな表情には敵意は無い。

リリスの脳裏にドライアドからの特殊な念話が届いてきた。

(この樹木を再生したいの?)

(ええ、この木はこの都市の人々にとっても、私自身にとっても大切な木なの。)

リリスの送った念話にドライアドは笑顔を見せ、静かに頷いた。

(そう。それなら手伝ってあげる。)

(それは有り難いわ。でもどうして世界樹が関与してくれるの?)

リリスの念話にドライアドはその視線を朽ちかけた巨木に移した。

(この木はこの世界のものでは無いわ。この木はこの世界の土壌や生物と深く関与することで、この世界の生態系に特殊な刺激を与えているの。それにリリスが魔法学院の敷地で見つけてくれた若木とも類似性があって、精霊を呼び集めたり世界樹と接点を持つ要素も持っているわ。)

(世界樹の加護を使えばこの木も容易に再生出来るわよ。)

ドライアドの提案にリリスはうっと唸った。
そもそもロキによる発動制限を掛けられているのに、世界樹の加護を本格的に発動出来るのだろうか?
それに発動させると異形の姿になってしまう。
ケネスやオルヴィスの前でそれは避けたい。

躊躇うリリスの心を察して、ドライアドは念話を送ってきた。

(大丈夫よ。超越者の発動制限の範囲内で起動出来るわ。それに目立たないように工夫してあげるから。)

ドライアドは念話が終わるとリリスに近付き、背後からリリスの体を抱きしめるように包み込んだ。

えっ!
何をするの?

驚くリリスに笑顔を向けながら、ドライアドは後退りにゆっくりと下がり、その背中を巨木の朽ちかけた木肌に密着させた。
ドライアドの身体を介して、リリスが巨木に後ろ向きに接している状態だ。


その様子を見ながら、オルヴィスが心配して言葉を掛けた。

「リリス、大丈夫か? そのドライアドに取り込まれているのではないのか?」

オルヴィスが心配するのも無理もない。
オルヴィス達から見れば、リリスがドライアドに後ろから羽交い絞めにされているようにしか思えない。

リリスはその懸念を払拭すべく笑顔で首を横に振った。

「大丈夫ですよ。このドライアドは私の友人ですから。この巨木を再生するのに力を貸してくれているんです。」

リリスの言葉が終わらないうちに、世界樹の加護が大きく発動し始めた。
リリスの身体中の魔力が大きく循環し、背中が熱くなってくる。
リリスの背中から大量の魔力の触手が伸び出し、それらはドライアドの身体を貫いて巨木の中に浸透し始めた。
数百本の魔力の触手が巨木の中にぐんぐんと入り込んでいく。
だがそれらはリリスの背中から伸び出しているので、リリスと対面するオルヴィス達には分からない。
それはドライアドの配慮だ。

世界樹の加護はリリスの持つ魔力吸引のスキルを発動させ、大気や地中からぐんぐんと魔力を吸い上げ始めた。
魔力が渦となってリリスの身体に注ぎ込まれていく。
それがさらに魔力の触手を伸ばしていく原動力となる。

リリスの身体は仄かな金色の光を放ち始めた。
額の両側から金色の光る魔力の触手が2本伸び、リリスの脳に左右から食い込んでいく。
これは世界樹の加護のブースターなのだろう。
世界樹の加護が更にその機能を向上させていく。

「何が起きているんだ?」

驚くオルヴィスとケネスの目の前で、朽ちかけていた巨木はその全体から仄かな光を放ち始めた。

リリスの背中から伸び出した大量の魔力の触手は高さ30mもある巨木の枝の隅々まで到達し、更にその触手は細かく枝分かれを繰り返し始めている。
枝葉の一つ一つまでくまなく把握するのだろう。

(さあ、細胞励起を発動させるわよ。)

ドライアドの念話と共に細胞励起が発動され、巨木の隅々まで張り巡らせた魔力の触手からその波動が流れ出していく。

(レベルを上げるわよ。)

細胞励起のレベルがぐんと上がり、最高レベルに近い状態にまでなってしまった。
リリスの身体がぶるぶると震え、魔力の吸引が更にヒートアップしていく。
身体が熱くなって額から汗が流れ出すほどだ。

巨木全体が内外から細胞励起の波動に包み込まれ、活性化されていく。
その細胞励起の余波はオルヴィス達にも及び、今まで体験した事も無い癒しの波動に驚くと共に、う~んと唸ってその心地良さに身を委ねていた。

(巨木を少しだけ個別進化させるわね。超越者に怒られるかもしれないけど。)

ええっ!
そんな事をして大丈夫なの?

リリスの躊躇いを嘲笑うかのように、世界樹の加護に吸収され既に権能と化した産土神体現スキルの構成要素が発動され、魔力の触手からそれらが放たれていく。
その影響で巨木は半透明の繭に包み込まれてしまった。
その繭の中で巨木の朽ちた木肌がボロボロと剥がれ落ち、がっしりとした木肌に変わっていく。
更に空洞になった箇所は活性化された木の細胞によって埋められ、修復されていった。
古い葉は落ち、新たな芽が生み出されていく。
まるで早送りの映像のように、それらは瞬く間に青々とした葉を出現させた。

驚くべき光景だが巨木の変化に伴い、巨木の周囲の大気が陽炎のようにゆらゆらと揺れ、時折淡い虹色の光が全体に流れているのが見えた。

拙いわね。
これって・・・時空の歪が発生しているんじゃないの?

リリスがそう不安を感じた矢先、リリスの上空から白い鳥が降りてきて、リリスの肩に留まった。
ブルーのストライプの入った白い鳥。
これはレイチェルの使い魔だ。

「リリス、何をやっているのよ。」

「それは・・・」

白い鳥の言葉にリリスはどう説明して良いのか分からず、即座に答えられなかった。

リリスが答えないので白い鳥はリリスの脳裏を探知し、巨木の周辺をも探知し始めた。

「なるほどね。概要は掴めたわ。リリスの周辺で時空の歪が生じ始めたので、慌てて駆けつけたのよ。それにしてもこんな事になっているとは思わなかったわ。」

「それと、あんたの後ろで大量の魔力の触手によって、串刺しにされているドライアドは何なの?」

白い鳥はそう言うと、ドライアドに向かって交信を始めた。
だがそれは未知の交信手段でリリスにはその内容が分からない。

白い鳥はドライアドとの交信を終えると、リリスに向かって言葉を掛けた。

「驚いたわね。このドライアドってリリスの持つ世界樹の加護の疑似人格でありながら、異世界の世界樹との交信用の端末を兼ねているのね。存在そのものが異世界との交流の窓口だわ。」

白い鳥はさらに言葉を続けた。

「ロキが怒っているわよ。でも今忙しいから、私に調査と後始末をしてくれって頼まれたのよね。まあ、私で解決出来る範囲の騒動だって事だから安心して。」

安心しろと言われても、リリスの脳裏にはロキの怒りの声が浮かび上がってくる。
その表情を見て白い鳥はふふふと笑った。

「ここで生じたのは僅かな時空の歪だから、リリスの持つスキルで解消出来るって言ってたわよ。」

「でも私の力でパワーアップする必要はありそうだけどね。」

そう言うと白い鳥はリリスの肩に留まり、その膨大な魔力をリリスの身体に流し始めた。

何をするつもりなのよ!

この世界において、風の亜神は全ての事象を加速させる役割を持つ。
火の亜神すら焚きつけるその本来の波動が、リリスの身体を激しく揺さぶり始めた。

「さあ、あんたが異世界と関与して手に入れたもう一つのスキルを発動させるわよ。」

白い鳥の言葉と共に、リリスの足首が熱くなってくる。

異世界通行手形を発動させるつもりなのね!
これってこの状態で発動させて、暴走しないの?

驚きと不安の中でリリスの足首から白い靄が吹き出し、宙に浮かんでその形を定めていく。
ほどなく現れたのは半透明の巨大な虎だった。

三毛猫が白虎になっちゃった!

その白虎は高速で宙を駆け、巨樹の周囲に生じた時空の歪を吸収するかのように消し去っていった。
それと共に巨木を覆っていた半透明の繭も消え、巨木はその立派な姿を白日の下に晒した。
青々と茂る桜の巨木だ。
しかも長年地中から魔素を吸い上げ蓄えているので、巨木全体から穏やかな癒しの波動が放たれている。

巨大な白虎はリリスの目の前に降り立ち、リリスの身体に擦り寄りながら消えていった。

ありがとう。
また今度可愛がってあげるわね。
でもその時は三毛猫の状態で現れてよね。

そう思いながらリリスはドライアドに念話を送った。

(これで巨木の再生も終わったのね。世界樹の加護を解除して良いかしら?)

(ええ、これでこの巨木も大丈夫。リリスが見つけ出した魔法学院の敷地の若木や世界樹と同じように、この巨木ともいつでも意識で交流出来るわよ。)

ドライアドの念話と共に、リリスの背中から伸び出していた大量の魔力の触手も消え、リリスに密着していたドライアドの姿も霧のように消えていった。

リリスは背後に居たドライアドが消えたので、巨木に背を預け大きくふうっとため息をついた。
世界樹の加護や異世界通行手形の発動に加え、レイチェルの魔力を大きく流し込まれたので、かなり身体に負荷が掛かり体力を消耗したようだ。

そのリリスを心配して、オルヴィスの使い魔のカラスとケネスがリリスの元に駆け寄ってきた。

「リリス君、大丈夫か?」

ケネスの言葉にリリスは、大丈夫だと言いながら笑顔で頷いた。

「儂らはとんでもないものを見せられたのだな。」

オルヴィスの使い魔のカラスはそう言うと、まだリリスの肩に留まっている白い鳥の傍に近付いた。

「そなたは誰の使い魔なのだ? かなりの術者のようにお見受けするのだが・・・」

カラスの言葉に白い鳥は口を開いた。

「私は風の女神様の使いの者です。この巨木が再生復活した事を女神様も喜ばれ、この街に風の女神の加護を与えてあげようと仰っていますよ。」

そう言いながら白い鳥はリリスの肩から羽ばたいて舞い上がり、上空でその姿を女神の姿に変貌させて消え去っていった。

レイチェルったら役者だわね。

心の中でそう思ったリリスだが、目の前のケネスは感動している様子で、若干涙目になっているようにも見える。

「リリス。お前は何故あのような存在と縁を持っているのだ?」

カラスの言葉にリリスはえへへと笑った。

「まあ、成り行きで知り合ったんですよ。」

「成り行きって・・・」

カラスはそう言うと言葉を失ってしまった。
リリスは背中を預けていた巨木から少し離れ、その巨木の全容をまじまじと眺めた。
この都市の復興と再生のシンボルになりそうだ。
そう思うと嬉しくなって、リリスはしばらくその太い幹の木肌を擦っていた。




その後、少し休憩を挟んでリリスは再び街路や主要な建物の修復に取り掛かった。
自分の土魔法で都市が再生されていく。
その様子を見ながらリリスは元の世界で遊んだゲームの事を思い出した。

これってまるで都市開発のシュミレーションゲームの実体版じゃないの。
これで鉄道を引けたら最高なんだけど・・・。

この世界に鉄道は無いのでその構想は叶わないが、それでもリリスは面白くなって作業を積極的に続けた。


その日の夕方になり、ケネスの案内でリリスはフィリスの街の外れにある軍の宿舎を訪れた。
そこにある軍の宿舎で一泊する予定だが、ほどなくメリンダ王女達もこちらに来ると言う。

飾りっ気のない頑丈そうな建物の中に入り、あてがわれた部屋に入ると、その内部は意外にも瀟洒で清潔な部屋だった。
貴族の娘や王族が泊まることを想定した部屋なのだろう。

リリスは一人部屋なので誰の目も気にすることなくベッドに横になった。
一日の疲れが出てきたのだろう。
着替える事も無くそのまま横になって身体を休めていると、ふと部屋の天井から大きな魔力の気配を感じた。

うっ!
これってもしかして・・・。

不安に駆られるリリスの目の先に、小さな赤い龍が現われた。

ロキ様!

赤い龍はそのままリリスの近くにまで近づいてきた。

「さあ、リリス。お説教の時間だよ。」

ロキの言葉にリリスは戦慄を覚えていたのだった。











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