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フィリスの霊廟
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フィリスの南端の霊廟。
その地上部分の建物に潜入したリリス達。
内部に棲み付いていたアンデッドは駆除されたが、その内部は荒れ果て、床にはグールの残滓が散乱して腐臭を放っていた。
「リリス。悪臭が酷いから闇で床掃除して!」
メリンダ王女の渋面の言葉にリリスも同意した。
スイーパーとなる闇を出現させ、床一面に伸張させる。
床一面に広がった闇は、床上のすべての土埃やアンデッドの残滓までも吸収し、魔素に分解してしまった。
それでも腐臭はまだ若干漂っているのだが、耐えられる範囲ではある。
「後で建物の修復もお願いするからね。」
フィリップ王子の言葉にリリスは頷いた。
一行は階下に続く階段を下りた。
目の前に大きな扉があり、その向こう側が地下1階の墓所となる。
「さあ、サラ。次は何が出てくるの?」
興味津々のメリンダ王女である。
サラは無言で頷き、再び魔法陣を出現させた。
そこに魔力を投入して呼び出したのは、巨大な鎌を抱えた黒装束の死神。
妖気を纏ったその不気味なオーラに、メリンダ王女は思わずひやぁぁぁ!と声を上げた。
サラが死神に指示を告げると、死神は任されよ!と答え、すっと扉の向こうに溶け込むように消えていった。
その途端に再び大量のアンデッドの悲鳴が巻き上がる。
扉の向こう側から、ギヤーッギヤーッと言う断末魔の声が幾重にも重なって聞こえてきた。
「覗いてみて大丈夫かしら?」
恐る恐るメリンダ王女が扉を開くと、死神が巨大な鎌を振り回しながら音もなく走り回っていた。
その巨大な鎌を振り回すたびに、多数のレイスやグールが消滅していくのは圧巻だ。
総数で200体近くのアンデッドは全て、死神の巨大な鎌の餌食となってしまった。
任務を終えた死神が音もなくサラの傍に近付いた。
「ガルさん、お疲れ様。」
サラの言葉に死神は無言で頷き、そのまま光の粒となって消えていった。
「サラ、死神にまで名前を付けたの?」
リリスの言葉にサラは首を横に振った。
「違うのよ。彼も自分から名乗ったのよ。ガルベスト・フォン・テスタロッサだってさ。」
「それでガルさんって・・・・・」
平然と答えるサラに呆れつつも、リリスはまた考え込んだ。
この死神も明らかに貴族っぽい名前の持ち主だ。
死神ではなく死神風の妖魔と言った方が良いのかも知れない。
どんな理由で闇落ちしてあの姿になったのかしらねえ。
あまり考えない事にしておこう。
リリスはそう思いながら、再びスイーパーとして闇を出現させ、地下1階の墓所の床一面にそれを伸張させた。
地上部分の床と同じように綺麗にすると、豪華な装飾を施した立派な棺が並んでいるのが見えた。
その前面に金属製のプレートが付けられ、そこにはその王族の名前や業績が記されている。
通路を進み、棺の傍を通り過ぎるとそこには階下への階段があった。
その扉の前でサラは再びデュラハンを召喚し、地下2階へと送り込んだ。
更に地下3階には死神を送り込み、アンデッドの駆除を進めていった。
だが地下4階に向かう階段で、サラはその場に座り込んでしまった。
少し辛そうな表情を見せている。
かなり魔力を消耗して、枯渇してきたようだ。
サラの召喚したデュラハンや死神は普通の召喚獣ではないので、魔力の消耗も激しいのだろう。
「サラ、大丈夫?」
そう言いながらリリスはサラに低レベルの細胞励起を施し、サラの手を握って自分の魔力を流し込んだ。
サラはう~んと唸って、気持ち良さそうに目をつぶった。
「ありがとう、リリス。でもあんたの魔力ってこんなに濃厚だったっけ? 魔力酔いを起こしそうだわ。」
そう言いながらサラはその場で立ち上がった。
「これだけ濃厚な魔力を補充してくれるのなら、ぬら爺を呼び出す事も可能かも。」
「ぬら爺って・・・・・」
サラったらあれを呼び出す気なのね。
まあ、確かに私も見てみたいけどね。
現実に存在するものなのか確かめたいし・・・。
「簡単には呼び出せないの?」
リリスの問い掛けにサラは首を横に振った。
「呼び出すのは簡単なのよ。でも自分の下のものを戦闘に駆り出すには、私の魔力量じゃおぼつかないって説教されるのよ。」
説教ねえ。
何となくその姿が目に浮かぶわね。
「リリス。私が魔力酔いを起こす寸前まで、あんたの魔力を補充してよ。そうすれば・・・ぬら爺も素直に参戦してくれると思うの。」
「うん。分かったわ。」
リリスはサラの要請に応えて、自分の魔力をサラの身体に流し込んだ。
サラはううっと呻きながらも、自分の目の前に魔法陣を出現させた。
そこに魔力を注ぐと青白い光が現われ、徐々に形が定まっていく。
魔法陣の上に現れたのは・・・小柄な老人だった。
細長い顔立ちで頭髪は無く、白い眉とあごひげが目に付く。
衣装は着物ではなく作務衣のようなものを纏っている。
見た目は老人だが、この世のものとは思えない異様な妖気を放っているので、妖魔であることは明らかだ。
う~ん。
アニメに出てくるイメージとは少し違うわね。
そう感じたリリスの傍で、メリンダ王女が呟いた。
「ねえ、あの爺さんって何なの?」
「ああ、あれはぬらりひょんと言って、妖魔の頭目なのよ。」
「でも全然強そうじゃないわよ。」
「まあ、頭目だからね。たくさんの部下がいるのよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はふうんと言いながら、半信半疑の目で老人を見つめていた。
その老人はサラに笑顔で話し掛けた。
「サラ。今日は準備万端だな。これだけ濃厚な魔力が満ちていれば、儂の部下達を総動員出来るわい。」
「ああ、それは良かった。それでぬら爺、この霊廟の地下4階と地下5階のアンデッドの駆除をしたいんだけど・・・・」
遠慮がちなサラの言葉に老人はふふんと鼻で笑った。
「任せておけ。今地下4階と地下5階を探知したが、総数で500体はいそうだな。まあどうって事はない。」
そう言うと老人は自分の背後に光の門を出現させた。
「ほれ! 百鬼夜行の始まりだ!」
老人がそう叫ぶと、光の門からぞろぞろと白い光を纏った大量の妖魔が現われ、次々に扉の向こう側に吸い込まれるように消えていった。
その大半は人の形や獣の形であるが、さすがに日本的な風情の妖魔は見当たらなかった。
さすがに唐笠とか土壁なんていないわよね。
そう思いながら大量の妖魔を見送るリリスの傍で、メリンダ王女が呆れ顔で呟いた。
「これって全部妖魔なの?」
「そうよ。全部で100体はいるはずだからね。妖魔の軍団みたいなものよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はへえっ!と小声で叫び、妖魔の軍団の最後尾を見送った。
扉の向こう側からは、当然の事ながらアンデッド達の断末魔の悲鳴が響いてくる。
かなり激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。
メリンダ王女は興味津々で地下4階の入り口の扉を開いた。
だがあっという間にアンデッドは駆除されたようで、既に地下5階への階段に妖魔達が殺到していた。
「仕事が早いわねえ。」
メリンダ王女の言葉に老人はふふふとほくそ笑んだ。
リリスは闇を展開しスイーパーとして稼働させながら、サラやぬら爺と共に地下5階へと進んだ。
そのリリスの前に巨大な白い壁のようなものが見える。
地下5階は他の階層と違って天井が高く、高さは10m以上もありそうだ。
フロアの中心には何らかの儀式の為の台座があり、その上に白い壁のように立ち上がっていたのは巨大なレイスだった。
このレイスは天井に届きそうなほどの大きさで、その身体中にぬら爺の配下の妖魔達が群がっている。
それはまさに数の暴力だ。
妖魔達はレイスの身体に喰い付き、魔素に分解しようとしているのだろう。
巨大なレイスは大きな悲鳴を上げながら暴れまわろうとするのだが、妖魔達の連携で魔力の網が張り巡らされ、その場から移動することすら出来ない。
そうしているうちにもレイスの身体は妖魔達に蝕まれ、ギエエエエエッと言う断末魔の声を上げて消えていった。
「良くやった。皆の者、撤収じゃ!」
ぬら爺の言葉に妖魔達は勝鬨を上げ、意気揚々と消えていった。
「サラ。次回は人の魔力に頼らず、お前だけで儂の配下の者を全て稼働出来るようになるんだよ。」
そう言うとぬら爺はふふふふふっと笑いながら、その場から消えていった。
その口調がまるで祖父と孫娘のようで、その様子を見たリリスは思わず頬が緩んでしまった。
「サラっておじいちゃんから気に入られるタイプなのかな?」
「うん。自分でもそうだと思うよ。」
サラはそう言いながら、ぬら爺の消えていった方向をじっと見つめていた。
そのサラにメリンダ王女が話し掛けた。
「サラ、お疲れ様。アンデッド退治でこれだけの仕事が出来れば大したものだわ。」
「ありがとうございます。お役に立てて良かったです。」
サラはメリンダ王女の言葉に恐縮して、少し引き攣ったような笑顔を見せた。
その間、フィリップ王子がレイスの立っていた台座を調べ、その中を覗き込んでいた。
台座は直径が3mほどで、その中央はくり抜かれており、円形の金色の輪が設置されている。
その輪には5か所に器が設置されており、その中に何かを入れるような仕組みだ。
台座の手前側には直径20cmほどの白いドームと、長さ1mほどのレバーが付いている。
それらを調べながら、フィリップ王子はう~んと唸って考え込んでいた。
「お兄様。これって何なの?」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子は熟考を中断し、思いを巡らせるような仕草で口を開いた。
「こんなものがここにあったとは思わなかった。これは多分、ドルキア帝国初期にあったとされる召喚用の設備だと思う。当時は王族の娯楽として活用していたと言う記録が残っているよ。」
「娯楽?」
メリンダ王女の素っ頓狂な声にサラはビクッと反応した。
「そう。娯楽だよ。金色の輪の5か所の器に、特性の異なる召喚用の魔石を入れて、魔力を流しながらレバーを下に降ろす。そうすると魔石同士の干渉もあって特殊な召喚が成立するんだ。何が出てくるかお楽しみって事だね。」
「勇者レッドの言行録には、この装置をガチャと呼んでいたと書かれているよ。」
ガチャって・・・・・。
自分が問答無用で召喚された立場で、よくそんな事が言えるわね。
確かにガチャのようなものだけど・・・・・。
「これって召喚用の魔石が無いと動かないのね。」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子はうんうんと頷いた。
「でもこの装置がここにあるんだから、この周辺に魔石があるんじゃないのか?」
フィリップ王子は台座の周りを撫で回し、何かないかと探り始めた。
そのフィリップ王子がふとその指を止めた。
「ここに何かありそうだな。このくり抜かれた内側の壁に不自然な突起が2個あるんだよ。」
フィリップ王子が何気なくその突起に触れ、魔力を流してみるとピンッと言う音がして、台座の外側の壁から引き出しのようなものがせり出してきた。
その中に収納されていたのは、5個の魔石だった。
「うん。ビンゴだね。これを輪の5か所の器に嵌めれば良いはず・・・」
フィリップ王子は淡々と作業を進めた。
「さあ、メル。やってごらん。白いドームに魔力を流しながら、レバーを下に降ろすんだ。」
フィリップ王子の言葉に、メリンダ王女はうんと答えて台座の前に立った。
白いドームに魔力を流し、レバーを下に降ろす。
その動作で台座の中の金色の輪がゆっくりと回転し始めた。
それは徐々に回転の速度を上げ、台座の中央部の上に白い靄のようなものが浮かんできた。
それは一瞬カッと光り、白い靄が消失すると、その空中に赤い光が現われた。
赤い光は徐々に姿を変え、尾の長い小さな赤い鳥になった。
「これって私の召喚獣って事なの?」
メリンダ王女の言葉にサラはうんうんと頷いた。
「王女様の魔力を流し込めば召喚は成立です。解除したければ放置しておいてください。そのうちに消失しますから。」
「まあ、せっかくだから私の召喚獣にしてあげるわよ。」
メリンダ王女はそう言うと、赤い小鳥の頭を撫でながら魔力を流した。
赤い鳥はピピッと鳴いて、メリンダ王女の肩に留まった。
「どんなスキルや特性を持つ召喚獣なのか、ゆっくり調べてみるわね。」
メリンダ王女の表情がいつになく柔和だ。
見た目でこの召喚獣を気に入ったのだろう。
赤い小鳥を撫でるメリンダ王女の仕草を、リリスは微笑ましく思った。
「サラもやってみたら。ああ、でもこれ以上特異な召喚獣を抱え込んでも大変よね。」
メリンダ王女の言葉にサラは失笑し、リリスに向かって口を開いた。
「リリスがやってみたら? あんたの魔力に反応すると、どんなものが出てくるのか楽しみだわ。」
「そうよ、リリス。やってみてよ。」
サラの言葉にメリンダ王女が追撃している。
リリスはう~んと唸りながらも台座の前に立った。
あまり気乗りはしないのだが、流れに従って操作を始めたリリスである。
自分の魔力を白いドームに流すと、ドームは一際明るく光り始めた。
その様子を不審に思いながらもレバーを下に降ろす。
その途端に台座の中の輪が速い速度で回転し始め、キーンと金切り音を上げるほどに高速で回り始めた
輪の器の嵌め込まれた魔石は多彩な光の塊となり、回転する輪が光の輪のように見える。
「何が起きているのよ・・・」
メリンダ王女の言葉にリリスも首をひねるだけだった。
その地上部分の建物に潜入したリリス達。
内部に棲み付いていたアンデッドは駆除されたが、その内部は荒れ果て、床にはグールの残滓が散乱して腐臭を放っていた。
「リリス。悪臭が酷いから闇で床掃除して!」
メリンダ王女の渋面の言葉にリリスも同意した。
スイーパーとなる闇を出現させ、床一面に伸張させる。
床一面に広がった闇は、床上のすべての土埃やアンデッドの残滓までも吸収し、魔素に分解してしまった。
それでも腐臭はまだ若干漂っているのだが、耐えられる範囲ではある。
「後で建物の修復もお願いするからね。」
フィリップ王子の言葉にリリスは頷いた。
一行は階下に続く階段を下りた。
目の前に大きな扉があり、その向こう側が地下1階の墓所となる。
「さあ、サラ。次は何が出てくるの?」
興味津々のメリンダ王女である。
サラは無言で頷き、再び魔法陣を出現させた。
そこに魔力を投入して呼び出したのは、巨大な鎌を抱えた黒装束の死神。
妖気を纏ったその不気味なオーラに、メリンダ王女は思わずひやぁぁぁ!と声を上げた。
サラが死神に指示を告げると、死神は任されよ!と答え、すっと扉の向こうに溶け込むように消えていった。
その途端に再び大量のアンデッドの悲鳴が巻き上がる。
扉の向こう側から、ギヤーッギヤーッと言う断末魔の声が幾重にも重なって聞こえてきた。
「覗いてみて大丈夫かしら?」
恐る恐るメリンダ王女が扉を開くと、死神が巨大な鎌を振り回しながら音もなく走り回っていた。
その巨大な鎌を振り回すたびに、多数のレイスやグールが消滅していくのは圧巻だ。
総数で200体近くのアンデッドは全て、死神の巨大な鎌の餌食となってしまった。
任務を終えた死神が音もなくサラの傍に近付いた。
「ガルさん、お疲れ様。」
サラの言葉に死神は無言で頷き、そのまま光の粒となって消えていった。
「サラ、死神にまで名前を付けたの?」
リリスの言葉にサラは首を横に振った。
「違うのよ。彼も自分から名乗ったのよ。ガルベスト・フォン・テスタロッサだってさ。」
「それでガルさんって・・・・・」
平然と答えるサラに呆れつつも、リリスはまた考え込んだ。
この死神も明らかに貴族っぽい名前の持ち主だ。
死神ではなく死神風の妖魔と言った方が良いのかも知れない。
どんな理由で闇落ちしてあの姿になったのかしらねえ。
あまり考えない事にしておこう。
リリスはそう思いながら、再びスイーパーとして闇を出現させ、地下1階の墓所の床一面にそれを伸張させた。
地上部分の床と同じように綺麗にすると、豪華な装飾を施した立派な棺が並んでいるのが見えた。
その前面に金属製のプレートが付けられ、そこにはその王族の名前や業績が記されている。
通路を進み、棺の傍を通り過ぎるとそこには階下への階段があった。
その扉の前でサラは再びデュラハンを召喚し、地下2階へと送り込んだ。
更に地下3階には死神を送り込み、アンデッドの駆除を進めていった。
だが地下4階に向かう階段で、サラはその場に座り込んでしまった。
少し辛そうな表情を見せている。
かなり魔力を消耗して、枯渇してきたようだ。
サラの召喚したデュラハンや死神は普通の召喚獣ではないので、魔力の消耗も激しいのだろう。
「サラ、大丈夫?」
そう言いながらリリスはサラに低レベルの細胞励起を施し、サラの手を握って自分の魔力を流し込んだ。
サラはう~んと唸って、気持ち良さそうに目をつぶった。
「ありがとう、リリス。でもあんたの魔力ってこんなに濃厚だったっけ? 魔力酔いを起こしそうだわ。」
そう言いながらサラはその場で立ち上がった。
「これだけ濃厚な魔力を補充してくれるのなら、ぬら爺を呼び出す事も可能かも。」
「ぬら爺って・・・・・」
サラったらあれを呼び出す気なのね。
まあ、確かに私も見てみたいけどね。
現実に存在するものなのか確かめたいし・・・。
「簡単には呼び出せないの?」
リリスの問い掛けにサラは首を横に振った。
「呼び出すのは簡単なのよ。でも自分の下のものを戦闘に駆り出すには、私の魔力量じゃおぼつかないって説教されるのよ。」
説教ねえ。
何となくその姿が目に浮かぶわね。
「リリス。私が魔力酔いを起こす寸前まで、あんたの魔力を補充してよ。そうすれば・・・ぬら爺も素直に参戦してくれると思うの。」
「うん。分かったわ。」
リリスはサラの要請に応えて、自分の魔力をサラの身体に流し込んだ。
サラはううっと呻きながらも、自分の目の前に魔法陣を出現させた。
そこに魔力を注ぐと青白い光が現われ、徐々に形が定まっていく。
魔法陣の上に現れたのは・・・小柄な老人だった。
細長い顔立ちで頭髪は無く、白い眉とあごひげが目に付く。
衣装は着物ではなく作務衣のようなものを纏っている。
見た目は老人だが、この世のものとは思えない異様な妖気を放っているので、妖魔であることは明らかだ。
う~ん。
アニメに出てくるイメージとは少し違うわね。
そう感じたリリスの傍で、メリンダ王女が呟いた。
「ねえ、あの爺さんって何なの?」
「ああ、あれはぬらりひょんと言って、妖魔の頭目なのよ。」
「でも全然強そうじゃないわよ。」
「まあ、頭目だからね。たくさんの部下がいるのよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はふうんと言いながら、半信半疑の目で老人を見つめていた。
その老人はサラに笑顔で話し掛けた。
「サラ。今日は準備万端だな。これだけ濃厚な魔力が満ちていれば、儂の部下達を総動員出来るわい。」
「ああ、それは良かった。それでぬら爺、この霊廟の地下4階と地下5階のアンデッドの駆除をしたいんだけど・・・・」
遠慮がちなサラの言葉に老人はふふんと鼻で笑った。
「任せておけ。今地下4階と地下5階を探知したが、総数で500体はいそうだな。まあどうって事はない。」
そう言うと老人は自分の背後に光の門を出現させた。
「ほれ! 百鬼夜行の始まりだ!」
老人がそう叫ぶと、光の門からぞろぞろと白い光を纏った大量の妖魔が現われ、次々に扉の向こう側に吸い込まれるように消えていった。
その大半は人の形や獣の形であるが、さすがに日本的な風情の妖魔は見当たらなかった。
さすがに唐笠とか土壁なんていないわよね。
そう思いながら大量の妖魔を見送るリリスの傍で、メリンダ王女が呆れ顔で呟いた。
「これって全部妖魔なの?」
「そうよ。全部で100体はいるはずだからね。妖魔の軍団みたいなものよ。」
リリスの言葉にメリンダ王女はへえっ!と小声で叫び、妖魔の軍団の最後尾を見送った。
扉の向こう側からは、当然の事ながらアンデッド達の断末魔の悲鳴が響いてくる。
かなり激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。
メリンダ王女は興味津々で地下4階の入り口の扉を開いた。
だがあっという間にアンデッドは駆除されたようで、既に地下5階への階段に妖魔達が殺到していた。
「仕事が早いわねえ。」
メリンダ王女の言葉に老人はふふふとほくそ笑んだ。
リリスは闇を展開しスイーパーとして稼働させながら、サラやぬら爺と共に地下5階へと進んだ。
そのリリスの前に巨大な白い壁のようなものが見える。
地下5階は他の階層と違って天井が高く、高さは10m以上もありそうだ。
フロアの中心には何らかの儀式の為の台座があり、その上に白い壁のように立ち上がっていたのは巨大なレイスだった。
このレイスは天井に届きそうなほどの大きさで、その身体中にぬら爺の配下の妖魔達が群がっている。
それはまさに数の暴力だ。
妖魔達はレイスの身体に喰い付き、魔素に分解しようとしているのだろう。
巨大なレイスは大きな悲鳴を上げながら暴れまわろうとするのだが、妖魔達の連携で魔力の網が張り巡らされ、その場から移動することすら出来ない。
そうしているうちにもレイスの身体は妖魔達に蝕まれ、ギエエエエエッと言う断末魔の声を上げて消えていった。
「良くやった。皆の者、撤収じゃ!」
ぬら爺の言葉に妖魔達は勝鬨を上げ、意気揚々と消えていった。
「サラ。次回は人の魔力に頼らず、お前だけで儂の配下の者を全て稼働出来るようになるんだよ。」
そう言うとぬら爺はふふふふふっと笑いながら、その場から消えていった。
その口調がまるで祖父と孫娘のようで、その様子を見たリリスは思わず頬が緩んでしまった。
「サラっておじいちゃんから気に入られるタイプなのかな?」
「うん。自分でもそうだと思うよ。」
サラはそう言いながら、ぬら爺の消えていった方向をじっと見つめていた。
そのサラにメリンダ王女が話し掛けた。
「サラ、お疲れ様。アンデッド退治でこれだけの仕事が出来れば大したものだわ。」
「ありがとうございます。お役に立てて良かったです。」
サラはメリンダ王女の言葉に恐縮して、少し引き攣ったような笑顔を見せた。
その間、フィリップ王子がレイスの立っていた台座を調べ、その中を覗き込んでいた。
台座は直径が3mほどで、その中央はくり抜かれており、円形の金色の輪が設置されている。
その輪には5か所に器が設置されており、その中に何かを入れるような仕組みだ。
台座の手前側には直径20cmほどの白いドームと、長さ1mほどのレバーが付いている。
それらを調べながら、フィリップ王子はう~んと唸って考え込んでいた。
「お兄様。これって何なの?」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子は熟考を中断し、思いを巡らせるような仕草で口を開いた。
「こんなものがここにあったとは思わなかった。これは多分、ドルキア帝国初期にあったとされる召喚用の設備だと思う。当時は王族の娯楽として活用していたと言う記録が残っているよ。」
「娯楽?」
メリンダ王女の素っ頓狂な声にサラはビクッと反応した。
「そう。娯楽だよ。金色の輪の5か所の器に、特性の異なる召喚用の魔石を入れて、魔力を流しながらレバーを下に降ろす。そうすると魔石同士の干渉もあって特殊な召喚が成立するんだ。何が出てくるかお楽しみって事だね。」
「勇者レッドの言行録には、この装置をガチャと呼んでいたと書かれているよ。」
ガチャって・・・・・。
自分が問答無用で召喚された立場で、よくそんな事が言えるわね。
確かにガチャのようなものだけど・・・・・。
「これって召喚用の魔石が無いと動かないのね。」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子はうんうんと頷いた。
「でもこの装置がここにあるんだから、この周辺に魔石があるんじゃないのか?」
フィリップ王子は台座の周りを撫で回し、何かないかと探り始めた。
そのフィリップ王子がふとその指を止めた。
「ここに何かありそうだな。このくり抜かれた内側の壁に不自然な突起が2個あるんだよ。」
フィリップ王子が何気なくその突起に触れ、魔力を流してみるとピンッと言う音がして、台座の外側の壁から引き出しのようなものがせり出してきた。
その中に収納されていたのは、5個の魔石だった。
「うん。ビンゴだね。これを輪の5か所の器に嵌めれば良いはず・・・」
フィリップ王子は淡々と作業を進めた。
「さあ、メル。やってごらん。白いドームに魔力を流しながら、レバーを下に降ろすんだ。」
フィリップ王子の言葉に、メリンダ王女はうんと答えて台座の前に立った。
白いドームに魔力を流し、レバーを下に降ろす。
その動作で台座の中の金色の輪がゆっくりと回転し始めた。
それは徐々に回転の速度を上げ、台座の中央部の上に白い靄のようなものが浮かんできた。
それは一瞬カッと光り、白い靄が消失すると、その空中に赤い光が現われた。
赤い光は徐々に姿を変え、尾の長い小さな赤い鳥になった。
「これって私の召喚獣って事なの?」
メリンダ王女の言葉にサラはうんうんと頷いた。
「王女様の魔力を流し込めば召喚は成立です。解除したければ放置しておいてください。そのうちに消失しますから。」
「まあ、せっかくだから私の召喚獣にしてあげるわよ。」
メリンダ王女はそう言うと、赤い小鳥の頭を撫でながら魔力を流した。
赤い鳥はピピッと鳴いて、メリンダ王女の肩に留まった。
「どんなスキルや特性を持つ召喚獣なのか、ゆっくり調べてみるわね。」
メリンダ王女の表情がいつになく柔和だ。
見た目でこの召喚獣を気に入ったのだろう。
赤い小鳥を撫でるメリンダ王女の仕草を、リリスは微笑ましく思った。
「サラもやってみたら。ああ、でもこれ以上特異な召喚獣を抱え込んでも大変よね。」
メリンダ王女の言葉にサラは失笑し、リリスに向かって口を開いた。
「リリスがやってみたら? あんたの魔力に反応すると、どんなものが出てくるのか楽しみだわ。」
「そうよ、リリス。やってみてよ。」
サラの言葉にメリンダ王女が追撃している。
リリスはう~んと唸りながらも台座の前に立った。
あまり気乗りはしないのだが、流れに従って操作を始めたリリスである。
自分の魔力を白いドームに流すと、ドームは一際明るく光り始めた。
その様子を不審に思いながらもレバーを下に降ろす。
その途端に台座の中の輪が速い速度で回転し始め、キーンと金切り音を上げるほどに高速で回り始めた
輪の器の嵌め込まれた魔石は多彩な光の塊となり、回転する輪が光の輪のように見える。
「何が起きているのよ・・・」
メリンダ王女の言葉にリリスも首をひねるだけだった。
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その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
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