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未知の召喚獣1
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フィリスの霊廟の地下5階。
その中央に設置された召喚用の設備が、リリスの流した魔力に反応して異常な動作を起こし始めていた。
高速で回転する5個の特殊な魔石の効果で、回転する金属の輪は光の輪となっていた。
光の輪の上にバチバチバチッと火花が飛び、リリス達も不安に駆られてその様子を見つめている。
その光の輪の上に突然金色の光が現われ、それは一瞬カッと光を放ち、その位置から何かがピョンとリリスの目の前に飛び降りてきた。
それは一見、鹿のようだった。
だが鹿にしては体毛が長い。
頭には立派な角が二本生えている。
体長1mほどで、毛色は黄土色に近く、艶消しの金色のようにも見えるのだが・・・。
鹿はその身体をリリスに摺り寄せている。
せっかくなので魔力を流し込み、召喚を成立させようとしたのだが、鹿は嬉しそうに擦り寄るだけで、召喚獣となった気配を感じられない。
魔力で通じ合えないのだ。
魔力が足りないのかしら?
鹿も魔力をおねだりしているようなので、リリスはもう一度魔力を流し込んでみた。
鹿はその魔力を味わうように目を細め、リリスの手をペロッと舐めた。
リリスもその仕草が可愛いので、小鹿の背を優しく撫でようとした。
だがその瞬間に鹿の身体が光を放ち、その姿を変え始めた。
体長が2mほどに大きくなり、角もグンと伸びてきた。
それと共に顔つきがごつくなって、龍のような顔つきに変わってきた。
身体を覆う体毛は長く伸びて渦を巻き、短いたてがみのようなものまで生えてきている。
うっすらと金色の光を帯びているそのフォルムは、リリスの以前の記憶にあるものに極似している。
これって・・・これって麒麟じゃないの?
どうしてこんなものが・・・。
目の前に現れた麒麟は細胞励起のような波動を周囲に放ち、リリスをじっと見つめている。
「これって何なの? 普通の召喚獣じゃない事は分かるけど・・・」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子も首を傾げていた。
サラはポカンと口を開いたままだ。
その時、天井から声が聞こえてきた。
「ほう! これは聖獣ではないか! こんなものが出現するとは縁起が良い。」
その声の主は天井から降りてきたオルヴィスの使い魔のカラスだった。
「オルヴィス様。どうしてここに?」
リリスの言葉にカラスは麒麟から視線を外さずに口を開いた。
「儂の全身が震えるほどの異様な気配を感じたから、取りも直さず来てみたのだよ。そうしたらこの聖獣が居たわけだ。」
カラスはそう言うとリリスの肩に留まった。
そのカラスにフィリップ王子が話し掛けた。
「賢者オルヴィス様ですね。ここでお会い出来るとは思っていませんでした。」
フィリップ王子とメリンダ王女は自己紹介をして、その身分を明らかにした。
「そうでしたか。殿下がこのフィリスの街の復興を後押ししてくださるのは実に有り難い。儂はまだ仮想空間内の整理に取り掛かっているところなので、実体としてまだこちらに姿を現す事が出来ませんが、いずれ実体でお目に掛かりますぞ。」
「それは待ち遠しいですね。このフィリスの街を数百年前から知っておられ、その建設にも携わられた賢者様の助言を頂きたいものです。それとは別にこの召喚獣ですが、これは聖獣なのですか?」
フィリップ王子の言葉にカラスは強く頷いた。
「これは麒麟と言う名の聖獣ですな。そもそも聖獣は召喚獣でもなく、人間に従うような存在でもありません。儂も聖獣をこの目で見るのは初めてですが、儂の元にある文献の図説そのままの姿なのでね。」
そう言うとカラスはリリスの顔に目を向けた。
「リリス。お前がこれを呼び出したのか?」
カラスの言葉にリリスはハイと答えた。
「まあ、呼び出したという表現すら正確では無かろう。聖獣の出現頻度は1000年に一度だとも言う。複数の高位の精霊の合体した姿だと言う説もあるのだが、その正体は定かではない。精霊界から地上に降臨したものだという事は確かなようだ。」
「聖獣は吉兆だ。健康や富の象徴でもある。聖獣の棲み付く街は繁栄を約束されているようなものだからな。この麒麟が気に入るような棲み処があればよいのだが・・・」
カラスの言葉にフィリップ王子は前のめりになって口を開いた。
「それなら聖獣の棲む宮殿を造りましょう!」
「いやいや、そんなものには棲み付かないですよ。」
カラスはそう言うと麒麟の方に目を向けた。
「この聖獣は自分で気に入る場所を探すでしょうな。儂の推測では王宮跡地の大木の傍らが適しているようにも思える。」
う~ん。
桜の大木に麒麟ね。
何となく花札の図柄のように感じちゃうわ。
そう思いつつ、リリスは自分の身体に擦り寄ってくる麒麟の背を撫でた。
麒麟もリリスに懐いているような仕草を見せる。
鼻を摺り寄せてくるその仕草に、リリスは以前の世界での記憶を思い出した。
これって仕草がまるで奈良公園の鹿じゃないの。
小学校の修学旅行で訪れた京都・奈良の思い出が蘇ってくる。
そうよ!
桜の大木の周囲を公園化して、そこに棲み付いてもらったら良いわよね。
ついでに野生の鹿も数頭放っておけば良いわよ。
リリスはあれこれと思いを巡らせながら、聖獣の背を撫でようとした。
だがその瞬間に聖獣の姿がふっと消えてしまった。
「えっ? どこに行ったの?」
リリスは慌てて周囲を探知した。
麒麟らしき反応がフィリスの王宮跡地の付近に感じられる。
どうやらオルヴィスの予想通り、桜の巨木の傍に行ったようだ。
棲み処を探しているのだろう。
「オルヴィス様の予測がビンゴですね。」
リリスの言葉にカラスはうんうんと頷いた。
聖獣はそのまま放置していて構わないと言うので、リリス達は霊廟から出る事にした。
その途中で霊廟各階の大まかな修復をリリスが担当したのは言うまでもない。
霊廟から外に出ると、オルヴィスの使い魔のカラスはその場から上空へ飛び立った。
聖獣の行き先を追うつもりだそうだ。
リリス達は待機していた軍用馬車に乗り、フィリスの中心街に戻って行った。
宿舎に辿り着き、昼食を済ませてサラと部屋で寛いでいると、メイドがメリンダ王女からの呼び出しを告げた。
何だろうかと思ってサラと共に、メリンダ王女の部屋に向かうと、その広いリビングスペースでメリンダ王女がソファに座って待っていた。
その傍らには霊廟の地下5階で召喚した赤い鳥が留まっている。
その小鳥の長い尾羽を撫でながら、メリンダ王女はリリスを手招きした。
「ねえ、リリス。この鳥って何だか変なのよね。私が呼び出してもいないのに、こうして出て来ちゃったのよ。」
そんな事ってあるの?
リリスは首を傾げつつサラの方に視線を向けた。
だがサラも同じように首を傾げている。
「王女様の魔力を注いで召喚関係を結びましたよね。それなら勝手に出てくる事は無いはずですけど・・・・」
サラもその要因が分からない様子だ。
「まあ、可愛いから良いんだけどね。でも公式行事の最中に勝手に出てこられても困るんだけど。」
それはそうだ。
リリスはそう思って解析スキルを発動させた。
ねえ、この赤い鳥って召喚獣なの?
解析スキルからの反応が返ってくるのに、珍しく少し時間が掛かってしまった。
『実に不思議な現象ですね。召喚獣である事は間違いないのですが、意図的にその絆を弱めているようにも思えます。』
絆を弱めているって誰が?
『その赤い鳥ですよ。召喚獣にそのような意思は無いはずなのですが・・・』
『それと、その赤い鳥の周囲に精霊が集まりつつあるようですが、感知出来ますか? 魔装を発動させればその気配を感知出来ると思いますよ。』
リリスは解析スキルの言葉を受け、魔装を非表示で発動させた。
魔装の発動によって付随的に感知能力が高まり、感覚が鋭敏になってくる。
それによって赤い鳥の周囲に、薄っすらと小さな光点が見えてきた。
赤や緑の光点だ。
うっ!
確かに赤い鳥の周囲に精霊らしい反応があるわね。
それも複数で。
それに徐々に増えてくるわよ。
すでに10体以上出現しているわ。
精霊が集まりつつある影響で、リリスには赤い鳥の周囲の空気が少し歪んできているようにも見えた。
何となく拙い予感がする。
「メル。試しに召喚を解除してみて。」
「解除って召喚していないのに?」
「解除を念じてみれば良いわよ。」
リリスの言うままにメリンダ王女は召喚の解除を念じた。
その途端に赤い鳥はふっと消えてしまった。
赤い鳥の周囲に集まっていた精霊はふらふらと動きながら、徐々にその場から消えていく。
「あらっ! 消えちゃったわ。」
メリンダ王女も理由が分からず首を傾げた。
「まあ、勝手に出てきても解除を念じれば消えるという事なら、今のところそれで良いんじゃないの?」
「そう言われればそうなんだけど、何となく解せないわねえ。」
そう言いながらメリンダ王女はソファの背に深くもたれかかった。
その後しばらく3人で談笑していると、フィリップ王子が部屋に入ってきた。
「ああ、3人が揃っているなんて丁度良かったよ。」
「先ほどオルヴィス様の使い魔から連絡があったんだ。王城跡の巨木の傍で聖獣が棲み付き、それを一目見ようとして人が集まってきているそうだ。」
うん。
まあ、そうなるわよね。
「でも棲み付くか否か、まだ分からないのでは?」
リリスの問い掛けにフィリップ王子は首を横に振った。
「それがねえ。巨木の幹の一部が変形して、聖獣のねぐらに適した空洞になっているそうだ。」
ええっ?
そんな空洞って無かったわよ。
あの麒麟が造っちゃったの?
「既に王家にも連絡したので、当面は軍の管理下で整備を進め、聖獣の棲む公園として造成する予定だよ。」
聖獣の棲む公園って、それだけで観光名物になるわよね。
「造成が済んでから、また見に来ても良いかもね。」
「いや、ぜひ見に来させて下さい!」
リリスの言葉にメリンダ王女もサラも同意してうんうんと頷いた。
この日の午後は街で買い物を済ませ、リリス達は日が傾く頃に軍用馬車でフィリスを後にし、ミラ王国の魔法学院に戻って行ったのだった。
翌日。
授業を終えた放課後に、リリスは生徒会の部屋に向かった。
先に席に着き作業を始めているエリス達と挨拶を交わし、リリスはフィリスで買ってきたお土産をその場に居た全員に渡した。
小粒の魔石をあしらった小さなアクセサリーで、何処にでもありそうな普通のお土産だ。
それでも喜んでくれるので、リリスとしても笑みがこぼれる。
実際フィリスは衰亡していた都市なので、これと言った特産物やお土産も見当たらなかったのだ。
それでもリリスが手を加えた事で、フィリスも確実に反映していくだろう。
聖獣の存在も大きい。
リリスはそう思ってフィリスの反映した姿を思い浮かべた。
自分の席に着いたリリスは、数日振りに作業を始めようとした。
そのリリスにエリスがニヤッと笑いながら話し掛けた。
「リリス先輩。フィリスの街を大規模に修復されたそうですね。メリンダ王女様から聞きましたよ。」
メルったら、早速吹聴しているのね。
「修復と言っても土魔法を使っただけよ。」
「土魔法を持たない私達にとっては、その情景が容易に思い浮かばないんですよね。崩れかけた石壁が一瞬で建築直後の状態に変わってしまうとか、表面が化粧板を張り詰めたような状態に変化するとか、私達にとっては信じられないような魔法なんですけど・・・・・」
「だから、普通の土魔法だってば。」
そう答えたリリスにニーナがふっと呟いた。
「リリスの言う普通って賢者レベルじゃないの?」
「それは無いわよ。」
謙遜してリリスは作業に取り掛かろうとしたが、再びエリスが口を開いた。
「そう言えば今日の授業の時、メリンダ王女様が赤い鳥を連れてきていましたよ。召喚獣だと言っておられましたが、召喚を解除出来なくて困っているって。」
メルったら、またあの赤い鳥を連れてきたの?
「それでどうしたの?」
「しばらくそのままの状態で授業を受けておられました。でもそのうちに気が付くと、赤い鳥は姿を消していましたけどね。」
う~ん。
メルもかなり困っているようね。
簡単に解除出来なくなってきたのかしら?
そう思っているとドアがノックされ、ケイト先生が入室してきた。
リリスを見つけてその傍に近付くと、少し困ったような表情でリリスに話し掛けた。
「リリスさん。メリンダ王女様が学生寮の最上階に今直ぐに来て欲しいって言っているの。そちらに向かってもらって構わないかしら?」
う~ん。
これはおそらくあの赤い鳥の事が用件よね。
もしかして昨日よりも厄介な状況になってきたのかしら?
「分かりました。王女様からの要請なら直ぐに向かいます。」
リリスはそう言うと、速足で学生寮に向かったのだった。
その中央に設置された召喚用の設備が、リリスの流した魔力に反応して異常な動作を起こし始めていた。
高速で回転する5個の特殊な魔石の効果で、回転する金属の輪は光の輪となっていた。
光の輪の上にバチバチバチッと火花が飛び、リリス達も不安に駆られてその様子を見つめている。
その光の輪の上に突然金色の光が現われ、それは一瞬カッと光を放ち、その位置から何かがピョンとリリスの目の前に飛び降りてきた。
それは一見、鹿のようだった。
だが鹿にしては体毛が長い。
頭には立派な角が二本生えている。
体長1mほどで、毛色は黄土色に近く、艶消しの金色のようにも見えるのだが・・・。
鹿はその身体をリリスに摺り寄せている。
せっかくなので魔力を流し込み、召喚を成立させようとしたのだが、鹿は嬉しそうに擦り寄るだけで、召喚獣となった気配を感じられない。
魔力で通じ合えないのだ。
魔力が足りないのかしら?
鹿も魔力をおねだりしているようなので、リリスはもう一度魔力を流し込んでみた。
鹿はその魔力を味わうように目を細め、リリスの手をペロッと舐めた。
リリスもその仕草が可愛いので、小鹿の背を優しく撫でようとした。
だがその瞬間に鹿の身体が光を放ち、その姿を変え始めた。
体長が2mほどに大きくなり、角もグンと伸びてきた。
それと共に顔つきがごつくなって、龍のような顔つきに変わってきた。
身体を覆う体毛は長く伸びて渦を巻き、短いたてがみのようなものまで生えてきている。
うっすらと金色の光を帯びているそのフォルムは、リリスの以前の記憶にあるものに極似している。
これって・・・これって麒麟じゃないの?
どうしてこんなものが・・・。
目の前に現れた麒麟は細胞励起のような波動を周囲に放ち、リリスをじっと見つめている。
「これって何なの? 普通の召喚獣じゃない事は分かるけど・・・」
メリンダ王女の言葉にフィリップ王子も首を傾げていた。
サラはポカンと口を開いたままだ。
その時、天井から声が聞こえてきた。
「ほう! これは聖獣ではないか! こんなものが出現するとは縁起が良い。」
その声の主は天井から降りてきたオルヴィスの使い魔のカラスだった。
「オルヴィス様。どうしてここに?」
リリスの言葉にカラスは麒麟から視線を外さずに口を開いた。
「儂の全身が震えるほどの異様な気配を感じたから、取りも直さず来てみたのだよ。そうしたらこの聖獣が居たわけだ。」
カラスはそう言うとリリスの肩に留まった。
そのカラスにフィリップ王子が話し掛けた。
「賢者オルヴィス様ですね。ここでお会い出来るとは思っていませんでした。」
フィリップ王子とメリンダ王女は自己紹介をして、その身分を明らかにした。
「そうでしたか。殿下がこのフィリスの街の復興を後押ししてくださるのは実に有り難い。儂はまだ仮想空間内の整理に取り掛かっているところなので、実体としてまだこちらに姿を現す事が出来ませんが、いずれ実体でお目に掛かりますぞ。」
「それは待ち遠しいですね。このフィリスの街を数百年前から知っておられ、その建設にも携わられた賢者様の助言を頂きたいものです。それとは別にこの召喚獣ですが、これは聖獣なのですか?」
フィリップ王子の言葉にカラスは強く頷いた。
「これは麒麟と言う名の聖獣ですな。そもそも聖獣は召喚獣でもなく、人間に従うような存在でもありません。儂も聖獣をこの目で見るのは初めてですが、儂の元にある文献の図説そのままの姿なのでね。」
そう言うとカラスはリリスの顔に目を向けた。
「リリス。お前がこれを呼び出したのか?」
カラスの言葉にリリスはハイと答えた。
「まあ、呼び出したという表現すら正確では無かろう。聖獣の出現頻度は1000年に一度だとも言う。複数の高位の精霊の合体した姿だと言う説もあるのだが、その正体は定かではない。精霊界から地上に降臨したものだという事は確かなようだ。」
「聖獣は吉兆だ。健康や富の象徴でもある。聖獣の棲み付く街は繁栄を約束されているようなものだからな。この麒麟が気に入るような棲み処があればよいのだが・・・」
カラスの言葉にフィリップ王子は前のめりになって口を開いた。
「それなら聖獣の棲む宮殿を造りましょう!」
「いやいや、そんなものには棲み付かないですよ。」
カラスはそう言うと麒麟の方に目を向けた。
「この聖獣は自分で気に入る場所を探すでしょうな。儂の推測では王宮跡地の大木の傍らが適しているようにも思える。」
う~ん。
桜の大木に麒麟ね。
何となく花札の図柄のように感じちゃうわ。
そう思いつつ、リリスは自分の身体に擦り寄ってくる麒麟の背を撫でた。
麒麟もリリスに懐いているような仕草を見せる。
鼻を摺り寄せてくるその仕草に、リリスは以前の世界での記憶を思い出した。
これって仕草がまるで奈良公園の鹿じゃないの。
小学校の修学旅行で訪れた京都・奈良の思い出が蘇ってくる。
そうよ!
桜の大木の周囲を公園化して、そこに棲み付いてもらったら良いわよね。
ついでに野生の鹿も数頭放っておけば良いわよ。
リリスはあれこれと思いを巡らせながら、聖獣の背を撫でようとした。
だがその瞬間に聖獣の姿がふっと消えてしまった。
「えっ? どこに行ったの?」
リリスは慌てて周囲を探知した。
麒麟らしき反応がフィリスの王宮跡地の付近に感じられる。
どうやらオルヴィスの予想通り、桜の巨木の傍に行ったようだ。
棲み処を探しているのだろう。
「オルヴィス様の予測がビンゴですね。」
リリスの言葉にカラスはうんうんと頷いた。
聖獣はそのまま放置していて構わないと言うので、リリス達は霊廟から出る事にした。
その途中で霊廟各階の大まかな修復をリリスが担当したのは言うまでもない。
霊廟から外に出ると、オルヴィスの使い魔のカラスはその場から上空へ飛び立った。
聖獣の行き先を追うつもりだそうだ。
リリス達は待機していた軍用馬車に乗り、フィリスの中心街に戻って行った。
宿舎に辿り着き、昼食を済ませてサラと部屋で寛いでいると、メイドがメリンダ王女からの呼び出しを告げた。
何だろうかと思ってサラと共に、メリンダ王女の部屋に向かうと、その広いリビングスペースでメリンダ王女がソファに座って待っていた。
その傍らには霊廟の地下5階で召喚した赤い鳥が留まっている。
その小鳥の長い尾羽を撫でながら、メリンダ王女はリリスを手招きした。
「ねえ、リリス。この鳥って何だか変なのよね。私が呼び出してもいないのに、こうして出て来ちゃったのよ。」
そんな事ってあるの?
リリスは首を傾げつつサラの方に視線を向けた。
だがサラも同じように首を傾げている。
「王女様の魔力を注いで召喚関係を結びましたよね。それなら勝手に出てくる事は無いはずですけど・・・・」
サラもその要因が分からない様子だ。
「まあ、可愛いから良いんだけどね。でも公式行事の最中に勝手に出てこられても困るんだけど。」
それはそうだ。
リリスはそう思って解析スキルを発動させた。
ねえ、この赤い鳥って召喚獣なの?
解析スキルからの反応が返ってくるのに、珍しく少し時間が掛かってしまった。
『実に不思議な現象ですね。召喚獣である事は間違いないのですが、意図的にその絆を弱めているようにも思えます。』
絆を弱めているって誰が?
『その赤い鳥ですよ。召喚獣にそのような意思は無いはずなのですが・・・』
『それと、その赤い鳥の周囲に精霊が集まりつつあるようですが、感知出来ますか? 魔装を発動させればその気配を感知出来ると思いますよ。』
リリスは解析スキルの言葉を受け、魔装を非表示で発動させた。
魔装の発動によって付随的に感知能力が高まり、感覚が鋭敏になってくる。
それによって赤い鳥の周囲に、薄っすらと小さな光点が見えてきた。
赤や緑の光点だ。
うっ!
確かに赤い鳥の周囲に精霊らしい反応があるわね。
それも複数で。
それに徐々に増えてくるわよ。
すでに10体以上出現しているわ。
精霊が集まりつつある影響で、リリスには赤い鳥の周囲の空気が少し歪んできているようにも見えた。
何となく拙い予感がする。
「メル。試しに召喚を解除してみて。」
「解除って召喚していないのに?」
「解除を念じてみれば良いわよ。」
リリスの言うままにメリンダ王女は召喚の解除を念じた。
その途端に赤い鳥はふっと消えてしまった。
赤い鳥の周囲に集まっていた精霊はふらふらと動きながら、徐々にその場から消えていく。
「あらっ! 消えちゃったわ。」
メリンダ王女も理由が分からず首を傾げた。
「まあ、勝手に出てきても解除を念じれば消えるという事なら、今のところそれで良いんじゃないの?」
「そう言われればそうなんだけど、何となく解せないわねえ。」
そう言いながらメリンダ王女はソファの背に深くもたれかかった。
その後しばらく3人で談笑していると、フィリップ王子が部屋に入ってきた。
「ああ、3人が揃っているなんて丁度良かったよ。」
「先ほどオルヴィス様の使い魔から連絡があったんだ。王城跡の巨木の傍で聖獣が棲み付き、それを一目見ようとして人が集まってきているそうだ。」
うん。
まあ、そうなるわよね。
「でも棲み付くか否か、まだ分からないのでは?」
リリスの問い掛けにフィリップ王子は首を横に振った。
「それがねえ。巨木の幹の一部が変形して、聖獣のねぐらに適した空洞になっているそうだ。」
ええっ?
そんな空洞って無かったわよ。
あの麒麟が造っちゃったの?
「既に王家にも連絡したので、当面は軍の管理下で整備を進め、聖獣の棲む公園として造成する予定だよ。」
聖獣の棲む公園って、それだけで観光名物になるわよね。
「造成が済んでから、また見に来ても良いかもね。」
「いや、ぜひ見に来させて下さい!」
リリスの言葉にメリンダ王女もサラも同意してうんうんと頷いた。
この日の午後は街で買い物を済ませ、リリス達は日が傾く頃に軍用馬車でフィリスを後にし、ミラ王国の魔法学院に戻って行ったのだった。
翌日。
授業を終えた放課後に、リリスは生徒会の部屋に向かった。
先に席に着き作業を始めているエリス達と挨拶を交わし、リリスはフィリスで買ってきたお土産をその場に居た全員に渡した。
小粒の魔石をあしらった小さなアクセサリーで、何処にでもありそうな普通のお土産だ。
それでも喜んでくれるので、リリスとしても笑みがこぼれる。
実際フィリスは衰亡していた都市なので、これと言った特産物やお土産も見当たらなかったのだ。
それでもリリスが手を加えた事で、フィリスも確実に反映していくだろう。
聖獣の存在も大きい。
リリスはそう思ってフィリスの反映した姿を思い浮かべた。
自分の席に着いたリリスは、数日振りに作業を始めようとした。
そのリリスにエリスがニヤッと笑いながら話し掛けた。
「リリス先輩。フィリスの街を大規模に修復されたそうですね。メリンダ王女様から聞きましたよ。」
メルったら、早速吹聴しているのね。
「修復と言っても土魔法を使っただけよ。」
「土魔法を持たない私達にとっては、その情景が容易に思い浮かばないんですよね。崩れかけた石壁が一瞬で建築直後の状態に変わってしまうとか、表面が化粧板を張り詰めたような状態に変化するとか、私達にとっては信じられないような魔法なんですけど・・・・・」
「だから、普通の土魔法だってば。」
そう答えたリリスにニーナがふっと呟いた。
「リリスの言う普通って賢者レベルじゃないの?」
「それは無いわよ。」
謙遜してリリスは作業に取り掛かろうとしたが、再びエリスが口を開いた。
「そう言えば今日の授業の時、メリンダ王女様が赤い鳥を連れてきていましたよ。召喚獣だと言っておられましたが、召喚を解除出来なくて困っているって。」
メルったら、またあの赤い鳥を連れてきたの?
「それでどうしたの?」
「しばらくそのままの状態で授業を受けておられました。でもそのうちに気が付くと、赤い鳥は姿を消していましたけどね。」
う~ん。
メルもかなり困っているようね。
簡単に解除出来なくなってきたのかしら?
そう思っているとドアがノックされ、ケイト先生が入室してきた。
リリスを見つけてその傍に近付くと、少し困ったような表情でリリスに話し掛けた。
「リリスさん。メリンダ王女様が学生寮の最上階に今直ぐに来て欲しいって言っているの。そちらに向かってもらって構わないかしら?」
う~ん。
これはおそらくあの赤い鳥の事が用件よね。
もしかして昨日よりも厄介な状況になってきたのかしら?
「分かりました。王女様からの要請なら直ぐに向かいます。」
リリスはそう言うと、速足で学生寮に向かったのだった。
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