落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新生した王国3

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歓迎晩さん会の会場。

リリスは言葉を選び、自分がアブリル王国の王家から招待された理由をノイマン卿に告げた。

「半年ほど前に、とある賢者様の要請で、ワームホールの原因である時空の歪の修復を手伝っていたのです。その時空の歪はアブリル王国の領海内の孤島にも生じていました。」

「その孤島と言うのは、当時のローラ王女が幽閉されていた孤島の事だね?」

ノイマン卿の問い掛けにリリスは静かに頷いた。

「その時空の歪を修復する際に予期せぬ事態が生じて、孤島からアブリル王国内に一時的に特殊な亜空間回廊が生じてしまったようです。当初はその特異性ゆえに存在すら気づかなかったのですが、後になって発見した際には数名の獣人が通過した痕跡がありました。それがおそらくローラ様達だったと思うのですが・・・」

リリスの話にノイマン卿は興味深く頷いた。

「ふむ。結果的にはローラ王女様達を救出した事になったと言うのだな。だがそれにしてもそれからの半年で、これほどにこの国が変わるものなのか?」

「それはその特殊な亜空間回廊の影響だと思います。亜空間回廊内の時空の歪が脳内に大きく干渉して、複数の能力やスキルを底上げしてしまったのかも知れません。」

リリスの説明にノイマン卿は首を傾げた。

「そんな事があるのかねえ。」

ノイマン卿の疑問にリリスはしたり顔で答えた。

「ノイマン様。ローラ女王様やジーナさんを見ればそう思えますよ。明らかに獣人の範疇を超えた能力やスキルを持っておられると感じますので。リンディも獣人特有の感性でそれを感じ取っています。」

「まあ、その事に関しては、御本人達に聞いて確かめるのは失礼かと思いますが。」

「うむ。それはそうだな。あくまでも目に見える結果で判断するのが適切だろうな。」

そう言ってノイマン卿は会場内の参席者を一瞥した。

「この場に参席しているこの国の貴族や要人達の顔には、この国の現状と未来に対する希望が満ち溢れている。それが全てを物語っているようだ。」

ノイマン卿の言葉が終わらぬうちに、ファンファーレが鳴り、ローラ女王が会場に入ってきた。
リリス達は椅子から立ち上がり、拍手と共に女王を迎えた。

ローラ女王の歓迎の挨拶で晩さん会は始まった。
オーケストラの演奏がBGMとして流れる中、各テーブルにメイドや男性の給仕が料理を次々と運んでくる。
それらは手の込んだ料理で、カロリー重視の獣人の国の料理とは思えない繊細なものばかりだった。
ドリンクが各テーブルに配られ、アブリル王国の王族の音頭で乾杯が交わされた。
王族と言ってもまだ30代の若い男性で、王族の参席者には年配者が見当たらない。

投獄や粛清の対象になった王族も居るのかしら?

ふとそんな思いを抱くリリスである。

ローラ女王とノイマン卿で交わされる会話は、ミラ王国との関係性を強化する様々な分野での課題や共通点の確認であった。
何とも実務的な晩さん会である。
それでもローラ女王の穏やかな佇まいにノイマン卿は癒され、話も弾んだようだ。
そのローラ女王の仕草や会話の内容を聞きながら、実体は10歳前後の少女の持つ才覚にリリスは驚くばかりだった。

ローラって精神的な負担を感じていないのかしら?

そう思ってローラ女王の顔を見ると、その目に余裕が感じられる。
彼女の生来の才覚が、個別進化で更に磨きを掛けられたのかも知れない。

リリスはローラ女王と他愛もない話をしながら、晩さん会の雰囲気を楽しんだ。

2時間ほどで各テーブルの上の食事はほとんどなくなり、第一部の終わりが近付いた。
ローラ女王の退席となって、全員席を立ち、拍手で女王の後姿を見送る。
その後は第二部である。

アブリル王国側の要人の座るテーブルをノイマン卿が回り、自己紹介から情報交換を進めていく。
珍しくタキシード姿のジークは、グルジアを始めとする軍の要人達と情報交換を進めていた。

リリスは従者であるリンディと共に席を立ち、若い王族達の座る隣のテーブルを訪れた。
彼等はいずれも20代から30代の男女で、ローラやジーナと同じような気品と佇まいを持っている。
互いに挨拶を交わし、しばらく当たり障りのない話をしていたのだが、リリスはふと疑問を感じた。
彼等は一様にローラ女王の統治を褒め称えている。
その話す素振りや口調から、彼らが本心で褒め称えているのは明らかだ。

イエスマンの王族だけを参席させたのだろう。
当初はそう思ったリリスだが、何となく彼等が精神誘導されているような気配を感じる。

気のせいかしら?
それともこれはこの国では触れちゃいけない部分なの?

そう思ってリンディの様子を見ると、リンディは屈託のない笑顔で王族の若い女性達と話をしていた。
獣人同士で通じ合う部分もあるのだろう。

リリスはあらぬ疑いを持つ事を自制し、王族達との交流の場を楽しんだ。

第二部も2時間ほどで終了となり、各自が晩さん会の会場から退席していく。
リンディと共にコーディネートルームに足を運ぶリリスに、紫のドレスを纏ったジーナが駆け寄って言葉を掛けた。

「リリス様。明日は午前中に神殿をご案内する予定です。」

「ええ、そのつもりよ。ケネスさんが待っているって聞いたわ。」

リリスの言葉にジーナはニヤッと笑った。

「実はケネス以外にもう一人、リリス様に会いたいと言って待機している人物が居ります。それは・・・明日のお楽しみにしておいてくださいね。」

「明朝、宿舎にお迎えに伺います。」

そう言ってジーナはドレスの裾を翻し、颯爽とその場を離れていった。

私に会いたいって、誰だろう?

去り際のジーナの含み笑いが気になるところだ。

首を傾げつつもリリスはリンディと共にコーディネートルームを訪れ、レンタルしたドレスやアクセサリー類を返却し、宿舎である宮殿に帰っていった。






翌朝。

リリスとリンディは早めに起床して身支度をした。

二人で宿舎の部屋のリビングスペースに用意されていた朝食を食べて寛いでいると、ほどなくジーナが黒いパンツスーツ姿で部屋に入ってきた。
ジーナの案内で宿舎の宮殿の前に準備された馬車に乗る。
馬車はゆっくりとしたスピードで10分ほど走り、大きな白亜の神殿の前で停車した。

馬車から降りてその神殿の前の広場を見ると、二人の人物が出迎えに来ていた。
一人は祭司の衣裳を着た40代の壮年男性で、彼がケネスだろう。
だがその傍に小柄な老人が笑顔で立っていた。
良く見るとリリスもリンディにも見覚えのある顔だ。

「賢者ブルギウス様! どうしてここに?」

老人はニヤッと笑ってリリス達の前に進み出た。

「どうしても何も、儂はこの国の出身だからな。ここに居ても不思議ではあるまい。」

ブルギウスの背後から祭司の男性が近付いてきた。

「リリス様ですね。初めてお目に掛かります。大祭司のケネスです。ローラ様の救出に尽力してくださって、ありがとうございました。」

尽力したと言っても、結果的に救出した事になっただけだけどね。

そう思いながら、リリスはケネス達と挨拶を交わした。
リンディもリリスに続いてあいさつを交わし、一行はケネスの案内で神殿の中に入っていった。

白亜の壁が映える立派な神殿だ。
これもおそらく建て替えたのだろう。

ノイマン卿の話では、このハーグは薄汚い王都だと聞いていた。
だが王城や神殿や街路に立ち並ぶ建物はどれも真新しい。
街路自体も整備されている。
この為の財源は何処にあるのだろうか?
元々王家が隠し持っていたものを放出したかも知れないが、それだけでは不足だろう。
住民一人一人まで何となく、経済的に潤っているように見える。

リリスは神殿の中を訪れている獣人の参詣者を見ながら、あれこれと思いを巡らせていた。
神殿内部への通路は清潔で、常時掃き清められているのだろう。
通りすがりの参詣者に会釈しながら、ケネスはリリスに話し掛けた。

「ここにおられるブルギウス様とは旧知の仲でして、以前から色々とお世話になっていたのですよ。リリス様やリンディ様とも面識があるとは思いませんでした。」

ケネスの言葉にブルギウスはふふふと笑った。

「南部の山麓に出現したワームホールの近くで、魔物駆除をしていたこの子達と知り合ったのだ。だが、突然現れた魔人から魔力を奪い取って干物にしてしまう人族なんて、儂は未だかつて見た事がなかったからなあ。」

「ああ、そんな事もありましたね。」

リリスはブルギウスの言葉を軽くいなした。
だがブルギウスはそれを気にせず話を続けた。

「今回の事もリリスが関わっていると聞いて、本当に驚いたぞ。」

ブルギウスの言葉にリリスはえっ!と驚きの声を上げ、ケネスの顔を覗き込んだ。

「ケネスさん。ブルギウス様にどこまで話されたのですか?」

「ああ、その件ですが・・・・・」

ケネスは少しばつが悪そうな表情を見せた。
そのケネスに代わってブルギウスが口を開いた。

「ケネスからは色々と話してもらったよ。と言うのも、このケネスとは数年前まで良く会っていたのだよ。それが突然行方不明となり、姿を見せたかと思うとまるで別人じゃないか。既存の獣人のレベルを超えた波動を感じたのだが、それに加えて様々なスキルが獣人の限界を超えておる。何があったのかと聞きたくなるのも無理はないだろう?」

そうなのね。
以前から相当親交があったのね。
それなら色々と話してしまっても、無理もない事かしら・・・。

あれこれと思いを巡らせているリリスの表情を見ながら、ケネスはリリス達を神殿奥のゲストルームに案内した。
リリスとリンディはゲストルームの大きなソファに座り、その対面にケネスとブルギウスが座った。

飲み物を運んできた祭司の女性が退室した頃合いで、ブルギウスはリリスに話し掛けた。

「ところでリリス。君は以前に儂と会った時とは、魔力の波動と厚みが全く違っている。獣人を個別進化させるようなスキルはあれ以降に手に入れたのか?」

う~ん。
さすがに鋭い賢者様だわね。

「そうなんですよね。たまたま異世界の世界樹と縁を持って、その際に世界樹から受け渡された権能なんです。」

「ほう! 異世界由来のものだったのか。」

「そうなんですけど、この世界では安易に使うなとお咎めを受けていまして・・・」

リリスの言葉にブルギウスはうんうんと頷き、チラっとケネスの顔を見た。

「その咎めた相手がロキと名乗る超越者だな。儂もケネスから話を聞くまでは、超越者と言う存在が居る事すら信じていなかったのだが・・・」

まあ、ケネスさんやローラ女王を見れば、賢者様としては疑う余地もないわよね。

「その超越者が今回は許可したと言うわけだな?」

「そうなんです。個別進化の効果を見てみたいと言う事で・・・」

リリスの言葉にブルギウスはふうっと大きくため息をついた。

「その効果は相当なものだったと言う事だな。儂はローラ様とも会って、その内面的な成長に驚かされた。10歳の少女とは思えぬ高貴で清廉な理念を持ち、その実現に真摯に取り組もうとする姿勢に心を打たれた。それで儂からも協力を申し出て、国民全体の啓蒙の為のシステムを構築したのだよ。」

ブルギウスの言葉にリンディはピクンと眉を動かした。

「それって、私がこの国に来てから感知している不思議な波動の事ですか?」

「うむ。リンディは獣人だから影響を受けているようだな。広範囲に拡散される特殊な魔力の波動にメッセージを加え、更にケネスの持つ細胞励起の波動をミックスして、24時間休みなくこの神殿から放たれているのだ。」

えっ!
細胞励起!

「ケネスさんって細胞励起のスキルを持っているのですか?」

リリスの問い掛けにケネスは苦笑いを浮かべた。

「元々私は聖魔法を扱えるのですが、個別進化を受けた後、通常のヒールとは別に特殊なヒールのスキルを獲得したのです。最初は自分でもその効用が分かりませんでした。それでブルギウス様に話し、実際に受けていただいたところ、その効果から細胞励起と言うスキルではないかと教わったのです。」

ケネスの言葉にブルギウスが補足する。

「儂は以前にダークエルフの賢者から、細胞励起と言うスキルの存在を教わったのだ。それはどうやら高位の精霊の持つスキルらしい。それでケネスの持つスキルをそれだと判断したのだが・・・リリス、その言い方だと君も持っているのだな?」

ブルギウスの言葉にリリスはうんうんと頷いた。

「こんな感じですよね?」

そう言ってリリスはケネスとブルギウスに向けて細胞励起を低レベルで発動させた。
細胞励起の波動が二人の身体を包み込む。
その心地良い波動に二人はうっとりとした表情を見せた。

「これって私のものとは数段レベルが上ですよ。」

ケネスの言葉にブルギウスも同意して強く頷いた。

「このスキルも世界樹から受け渡されたものです。これでも一応低レベルで発動させました。もっと強力に発動させる事も可能なのですが、魔力の消耗が半端じゃないので滅多に高レベルでの発動は出来ません。」

リリスの言葉を聞き、ケネスが前に身を乗り出してきた。

「リリス様の細胞励起の魔力を魔石にプールさせて欲しいのですが、お願い出来ますか?」

突然のケネスの依頼にリリスは少し戸惑った。

「プール出来る魔石があるのですか?」

「うむ。儂が構築したシステムの中心部にあるのだよ。」

ブルギウスの言葉にケネスも頷いた。

「私の放つ細胞励起の魔力を魔石にプールし、ここから放たれる魔力の波動に少しずつ加味しているのです。ですがリリス様の細胞励起の魔力なら、啓蒙の効果も格段に上がりそうです。」

そうなのかなあ?
それって買い被りしすぎじゃないの?

「まあ、それは構いませんよ。」

そう答えたリリスの言葉にケネスは満面の笑みを浮かべた。

「いずれにしても、ブルギウス様の構築したシステムをご覧になってください。」

ケネスはそう言うとソファから立ち上がり、リリスのみならずブルギウスやリンディを促して、ゲストルームから外の通路に案内し始めた。

随分乗り気ねえ。
私の気が変わらないうちにプールして欲しいって事なのね。

話の流れで妙な事になったと思いつつ、リリスはケネスの案内で神殿の更に奥へと誘導されたのだった。














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