落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リリアの目論見1

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デルフィの研究施設からリリスが帰ってきてから1週間後。

放課後に生徒会の部屋に足を運ぶと、そこにはリリアとウィンディが座って談笑していた。

リリアがその日から登校し始めた事はあらかじめ聞いていたリリスだが、リリアの表情が以前にも増して明るいのはリリスにとっても喜ばしい事だ。

「リリア、お帰り!」

そう言って笑顔を向けたリリスにリリアは深々と頭を下げた。

「先輩には色々とお世話になって・・・」

「ああ、良いのよ。気にしないで。」

リリスの言葉にリリアはもう一度頭を下げた。
だがそのリリアの身体から僅かに放たれる気配に、リリスは少し違和感を感じた。

これって何だろう?
まるで分厚いシールドを纏ったような気配なんだけど・・・。

表現する語彙が見つからず頭を巡らせるリリスの僅かな仕草に、リリアはうふふと笑みを漏らした。

「さすがにリリス先輩って気が付いたようですね。」

リリアはそう言うと周囲を見回し、小声で話し始めた。

「実は今、業火の化身を発動させているんです。でも10%程度の出力ですけどね。」

ええっ!と驚くリリスにウィンディが口を開いた。

「リリアったら業火の化身の出力調整を出来るようになったんですよ。しかも触手を非表示に出来るそうです。」

ウィンディの言葉に驚くリリスの目の前で、リリアはえへへと笑いながら魔力を操作した。
それに伴ってリリアの身体の周りに長さ20cmほどの触手が多数現われ、リリアの操作で再び見えなくなってしまった。

「そんな器用な事が出来るようになったのね。」

感心するリリスにリリアはそうなった経緯を話し始めた。

「リゾルタからミラ王国に両親と帰ってきた日の夜、不思議な夢を見たんです。」

「夢の中でドラゴニュートの女性が現われて、自分は業火の化身の仮の姿だって言うんです。それで竜の血を受けて自律進化出来たので、出力調整が可能になったし、触手の表示非表示の切り替えも出来るようになったって言うんですよ。」

「それで私の身体を守るためにも、常時10%程度の出力で発動させて欲しい。魔力の消耗は気にしなくても大丈夫だって言う事でした。実際に魔力の消耗は殆どありませんし、いざとなれば独自の判断で魔力吸引を発動させるとも言いました。」

そうなのね。
それでリリアの気配に僅かな違和感を覚えたのね。

「でも学校生活の中では発動させておく必要はないんじゃないの?」

リリスの疑問にリリアはうんうんと頷いた。

「そうなんですけど、発動させていると安心感があるんですよね。守られているって言う実感があって。それに何事にも自信を持って取り組める気がするんです。」

う~ん。
それならそれで良いのかなあ。
依存するようにならなければ良いんだけど・・・。

そう思ったリリスだが、リリアの明るい表情を見ていると、それも杞憂かも知れないと思った。
何よりあのリリアが物事に自信を持って取り組めるのは良い事だ。
ウィンディと仲良くなり、火魔法にも上達の兆しが見え、それなりに明るい表情になっていたリリアではあるが、まだ以前の自分を引き摺っているような部分はあった。
だが今目の前に居るリリアの自信に満ちた表情と屈託のない笑顔を見ていると、結果オーライなのかも知れない。

リリスのその思いを確信させるかのように、リリアは後から部屋に入ってきた生徒会のメンバーとも明るく談笑していた。

そんな中、ニーナが少し怪訝そうな表情でリリスの耳元に呟いた。

「ねえ、リリス。リリアの身体の周りにボヤッとした霞のようなものを感じるんだけど・・・」

ニーナったら相変わらず敏感な子ねえ。
業火の化身の僅かな気配を感じちゃったのかしら?

「それはリリアの持つ加護の影響だと思うわよ。」

「ああ、そうなのね。特殊な護符でも持っているのかと思ったわ。」

「まあ、そんなところよ。」

そう言ってリリスはニーナの肩をポンポンと軽く叩いた。

「ここはダンジョンじゃないんだから、周りの気配を探らなくても良いわよ。」

「ああ、これって私の習性だから気にしないで。呼吸と同じような感覚だから。」

呼吸と気配探知が同レベルだって言うの?
これってシーフマスターの宿命なのかしらねえ。

平然と言い放つニーナにリリスは呆れて苦笑いを浮かべるだけだった。

そう言えば最近リリアのステータスを見ていなかったわね。

リリスはウィンディ達と談笑しているリリアをこっそりと鑑定してみた。


**************

リリア・エル・ウィンドフォース

種族:人族 レベル20

年齢:15

体力:1500
魔力:1800

属性:風・火

魔法:エアカッター      レベル1

   ファイヤーボール    レベル3+

   ファイヤーニードル   レベル2+

   ファイヤーボルト    レベル2+

   ファイヤーウォール   レベル3

   ファイヤートルネード  レベル2



スキル:探知  レベル2

    毒耐性 レベル2

        投擲  レベル2

    
(秘匿領域:解析済み)


  業火の化身(改)
    
    出力調整 10%づつ可能
    
    発動時

     火魔法のレベルアップ  最大30レベルまで可能(時間制限有り)
                 火球30発同時発射可能

     魔力吸引  (時間制限有り)

     亜空間シールド  多重化可能(時間制限有り)


  暗黒竜の爪痕        

  

**************


う~ん。
何だか凄い事になっているわね。

でもこの暗黒竜の爪痕って何だろう?

リリスは即座に解析スキルを発動させた。

この暗黒竜の爪痕って何?

『多分、加護です。』

多分ってどう言う事?

『今のところと言った方が良さそうですね。加護の形態を取っていますが、正確にはその全容が分かりません。』

全容と言うからには色々なスキルも含んでいるの?

『それもおそらく、そうだろうとしか言いようがありませんね。』

『何かのきっかけで発動するものもありそうですが、今のところは加護としてのみ存在しています。』

そうなのね。
それで加護ってどの程度の加護なの?

『暗黒竜の気配を時折漂わせる程度です。それでも魔物除けにはなると思いますが・・・』

う~ん。
微妙な加護ねえ。
でも確かに暗黒竜の気配がすれば、ダンジョン内でも安易に魔物が寄り付かないかもね。
それでどうしてこんなものがリリアのステータスに出現したの?

『それはやはり暗黒竜に憑依され、禁呪で隷属させられたからでしょうね。』

『あの暗黒竜が消滅間際に自分の存在証明を残そうとしたのだと思います。当初はこちらに向かってきたのですが、覇竜の加護が跳ね除けましたので。』

そうだったのね。
それでリリアの方に食い込んだって事なのね。
でも少し不気味な加護を受けて、リリアが異常な方向に引っ張られなければ良いのだけど・・・。

『今のところ大丈夫だと思います。業火の化身が自律進化して主体性を持ち始めていますので。』

それはそれで心配なんだけどね。
まあ、そこのところのバランスが取れていれば、リリアも暴走する事は無いと思いたいわねえ。

『加護の事は加護に任せれば良いと思いますよ。』

本当にそれで良いのかしら・・・。

リリスも色々と案ずる事はあるのだが、とりあえずはその場その場で対処するしかないと割り切った。
解析スキルに感謝して発動を解除し、ウィンディ達とその日の作業に取り掛かった。



数日後。

リリスはロイドから、リリアとウィンディのダンジョンチャレンジに同行して欲しいと要請された。
ロイドの言うには、リリアからの申し出にロイドが押し切られたそうである。

「リリア君がやたらに積極的なんだよね。以前の彼女からは考えられない事なんだが。」

そう言って失笑するロイドだが、何故リリスが同行する事になるのか?
その点をロイドに尋ねると、万一の時の為の保険だと言われてしまったリリスである。

理不尽な要請だが、リリアをダンジョン内で放置する訳にもいかない。

その思いがリリスに決断を与えた。
それでもあらかじめ、手回しをしておかなければならない。

リリスはリリアのダンジョンチャレンジの前日の夜、自室でレイチェルを呼び出す事にした。

『レイチェル! 用事があるの。私の傍に来て!』

リリスが放った念波に応じて、ほどなくリリスの目の前にブルーのストライプの入った白い鳥が出現した。

「どうしたのよ?」

白い鳥はぶっきらぼうに尋ねた。
突然呼び出して若干機嫌が悪いのかも知れない。
それでも比較的面倒見の良いレイチェルである。
直ぐにリリスに用件を尋ねてきた。

「実は明日、リリアがウィンディとシトのダンジョンに向かうのよ。」

「ああ、あんた達の言うダンジョンチャレンジってやつね。それも授業の一環なんでしょ?」

さすがにレイチェルは分かりが早いわね。

「そうなのよ。ウィンディの話では、リリアが業火の化身の出力調整の具合を確かめたいそうなの。それで私も同行するんだけど、ダンジョン内で異常な事態が起きないように注視していて欲しいのよ。」

「うんうん、なるほどね。特殊な存在のあんた達3人がシトのダンジョンに潜ると、ダンジョンコアが刺激を受けて暴走しかねないものねえ。分かったわ。私が抑え込んでおくから安心して。」

「そうしてもらえると助かるわ。」

そう言ってリリスは白い鳥にぺこりと頭を下げた。

「それで魔物はどうするの? 普段のシトのダンジョンの魔物の分量じゃ満足出来ないわよね。」

「うん。リリアが少し暴れ回っても良いように、少し多めでお願いします。でも出現する魔物のレベルをやたらに上げなくても良いからね。」

リリスの言葉に白い鳥はう~んと唸って少し考え込んだ。

「ハービーが50体とか、ブラックウルフが30体とか、ゴブリンが100体程度でどう?」

「そうねえ。そいつらが同時に出てこなければ良いわよ。」

「OK! 任せて頂戴。」

そう言って白い鳥は飛び立っていった。

本当に大丈夫かしら?

若干不安を感じたものの、リリスは気持ちを切り替えて、翌日のダンジョンチャレンジの準備に取り掛かった。


その翌日。

リリスはリリアとウィンディと監督役のロイドと共に、シトのダンジョンの第1階層に入った。
4人はレザーアーマーにブーツ、ガントレットを装備し、多数のポーションをも持参している。
何時ものシトのダンジョンならそれで充分だ。
だがこの日は何が起きるか分からない。
あらかじめリリスが手回しをしておいたものの、ダンジョンでは何時何が起きるか分からないものだ。

笑顔で歩くリリアとウィンディの様子を見ながら、リリスは気を引き締めることを怠らなかった。
本来ならばシトのダンジョンの第1階層は、少数のゴブリンが出てくるだけなのだが・・・。

爽やかな風に吹かれて草原を歩くと、遠くから悲鳴のような声が多重になって聞こえてきた。
前方の上空に黒い霧のようなものが見える。

これってハービーかしら?

前方上空に探知を掛けると明らかに魔物の大群だ。
魔物が接近するにつれて、ギャーギャーギャーと言う金切り声が聞こえてきた。

「ハービーだ! それも何十体も居るぞ!」

ロイドが声を荒げ、即座にリリア達の前に多重の亜空間シールドを張り巡らせた。

「リリア! 準備して!」

ウィンディの声にリリアはうんと頷き、即座に魔力を循環し始めた。
それと同時にリリアの身体の周りに、うっすらとした霞のようなものが沸き上がり始めた。
業火の化身を発動させているのだろう。
リリアの表情がやる気に満ちている。

こんなに意欲に満ちたリリアの表情を見るのは初めてだわ。

そのリリスの思いに答えるように、リリアは拳を握りしめた。

「とりあえず30%の出力でやってみますね。」

そう言うとリリアは前方に駆け出したのだった。













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