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獣人の国の港町
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マキからの連絡を受けてから1週間後。
リリスはマキと小さな食堂のテーブルの前に対面で座っていた。
この日の二人はブラウスに細身のパンツと言う、オフの散策に合わせたかなりラフな格好だ。
開けっ放しの大きな窓から流れ込んでくる潮の香。
真っ青な海の上には小さな漁船が行き交っている。
ここはアブリル王国の王都の北方にあり、海に面しているチェズと言う名の港町だ。
決して大きな町ではない。
漁港の近くの市場の外れに飲食店が立ち並び、その店の中の一つにリリスとマキは入ったのだった。
ここを紹介してくれたのは神殿の祭司長ケネスである。
ありふれた店で良いと言うマキからの要望も考慮しつつ、セキュリティの観点から考えてより安全な店を選んだのだと言う。
ちなみにマキにはこの日も警護が2名ついていて、マキからは目につかないように気配を消して店外で警護に当たっている。
聖女並みの役割をしているマキなので、ミラ王国としても警護は欠かせない。
マキもその配慮には感謝しているようだ。
「それで・・・大量の魔物が煮上げられたのを見て、海鮮鍋が食べたくなったって言う事なのね?」
マキの呆れ顔の問い掛けに、リリスはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。それが凄く美味しそうな匂いで、思わず海鮮鍋を思い浮かべちゃったのよね。」
「それにしても魔物で海鮮鍋を思い浮かべますかねえ。」
「だって、マキちゃん。巨大な魚の他にイカやタコの足のようなものまで煮上がっていたんだから・・・」
リリスの言葉にマキはう~んと唸った。
「私はてっきり紗季さんがホームシックに陥ったんじゃないかと思いましたよ。」
時折リリスを紗季と呼ぶのは、元の世界でのマキとの先輩後輩の関係ゆえである。
「今更それは無いわよ。物心がついた頃から、この世界での生活に馴染んでしまっているんだもの。」
「まあ、そうですよね。私だって貴族の家に引き取られて育ったから、この世界での食生活には不自由しなかったし、食事に関してはそれなりに豊かな生活をさせて貰いましたからね。」
この世界に来てからのお互いの境遇は異なるが、貴族の子女として育てられた事はありがたかった。
リリスはそう思いながら店内を見回した。
白を基調にした店で、壁の下半分にはカラフルなタイルで様々な模様が描かれている。
その配色に嫌味が無く、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
店内にはテーブルが八つ並べられていて、その半数が客で埋まっている。
午後の2時過ぎなので、それほどに混んではいない。
ラフな格好の獣人達の座るテーブルに定食らしき食事が運ばれた後、年配の獣人の給仕によって、リリスとマキのテーブルには魚介類の煮込みが運ばれてきた。
大きなスープ皿の中に数種の魚の切り身と貝類が煮こまれている。
味付けはシンプルに塩と少しばかりの香辛料だそうだ。
「一番シンプルな味付けのものを頼みましたが、これで良いですか?」
マキの問い掛けにリリスはその煮込みの香りをグッと吸い込み、満足げな表情をマキに向けた。
「これで充分よ。う~ん。この香りが堪らないわ。」
そう言いながらリリスはスプーンでその汁を口にした。
魚介類の旨味を塩と香辛料が控えめに盛り立てている。
その加減が絶妙だ。
魚の切り身をフォークで突き刺して食べる。
あまり上品な食べ方ではないが、漁港の場末の飲食店ならそれも普通の事だろう。
切り身は煮込んだだけなのに旨味が詰まっている。
しかも若干魔力を纏っているようで、それが味に深みを感じさせる。
やはり普通の魚ではなさそうだ。
「シンプルな味付けだけど美味しいわねえ。」
これだけでも満足そうなリリスに、マキは笑顔で付け加えた。
「ケネスさんのお勧めで、サイドメニューからあるものを追加しましたからね。見たら驚きますよ。」
マキの言葉に首を傾げていると、獣人の給仕が楕円形の皿を運んできた。
その中にあったのは2本の大きなカニの足である。
「えっ! この世界にカニってあったっけ? しかも大きいわね。長さは30cmほどもありそうだわ。」
リリスの言葉にマキはウフフと笑った。
「これってカニじゃないんですよ。シースパイダーって言う魔物の脚だそうです。でもボイルした姿はどう見てもタラバガニですけどね。」
給仕が運んできた取り皿にそのカニの脚のようなものを取り分け、マキは細長いナイフで脚の側面を切り裂いた。
その中からプルンと出てきたのは、やはりカニの脚肉にしか見えない。
マキをまねして脚肉を取り出し、切り分けて口に運ぶと、リリスの口の中に芳醇な味が一瞬で広がった。
魔物と言っても水棲の魔物なので、やはり潮の香が漂ってきて、それが更に旨味を引き出してくれる。
これって間違いなくカニだわ!
リリスの驚く表情にマキも満足そうだ。
付け合わせのサラダや焼き立てのパンなどが追加で運ばれ、リリスとマキは嬉々として海鮮料理を堪能していた。
何気ない会話の後、マキはふとリリスに問い掛けた。
「そう言えばリリスちゃんって魔法学院の最終学年よね? 卒業後の計画はあるの?」
「う~ん。それが特にないのよね。貴族の娘だから王国の行政機関に所属するか、領地に戻って領地経営に取り組むか、あるいは軍の所属になるかって事なんだけど、軍の所属は遠慮したいわね。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「そうよねえ。軍は避けたいわよね。戦争に駆り出される事だって無いとは言えないもの。」
そう言いながらマキは少し身を乗り出した。
「実はメリンダ王女様とその件で話す機会があって、メリンダ王女様もリリスちゃんを軍には送りたくないって言ってたわ。」
「軍の所属になると、多分嫌気がさして何処かに消えてしまうんじゃないかって。それでメリンダ王女様としては秘書室を創設して、リリスちゃんを直属の部下にしたいそうよ。」
マキの口から出た意外な言葉にリリスは首を傾げた。
「直属の部下って・・・要するに私をメルの手元に縛り付けておきたいって事?」
「それは考え過ぎよ。そう言う立場を与えておけば、軍が手出しをして来ないからだって明言していたからね。」
う~ん。
メルとしては私の将来の立場を心配してくれているのね。
確かに大量殺戮の場には行きたくないし、そんな事になりそうならユリアス様の研究施設に逃げ込んで、しばらくの間引きこもっているかもねえ。
「メリンダ王女様は、リリスちゃんを野に放つのは危険だとも言っていたわよ。放置していて魔王にでもなられたら困るからって、真顔で言っていたからね。」
「魔王って・・・それは無いわよ。」
「でもメリンダ王女様が知っている範囲のリリスちゃんのスキルや魔法だって、元々のリリスちゃんの潜在能力の氷山の一角に過ぎないでしょ? 当たらずとも遠からずってところじゃないの?」
そう言われれば返答し難い。
ロキや亜神達との関わりの中で、リリスは既にこの世界の根幹部分にまで関与するようになり始めているからだ。
「まあ、私の就職先を創ってくれるのなら、感謝しないとね。」
そう言ってリリスは魚介類の煮込みのスープを飲み干した。
おそらく身体中に魚介類の匂いが纏わりついているだろう。
満足げにスプーンやフォークを空いた皿に置くと、給仕はそれを片付け、冷たいドリンクを運んできた。
レモンの風味の甘酸っぱいドリンクで、清涼感が口の中に広がってくる。
マキもまたそのドリンクを飲み干し、満足げな表情で食事を終えた。
「そう言えば、もうそろそろ仮装ダンスパーティの時期よね。私もまた参加するからね。」
「ええっ、マキちゃんって今回も参加するの?」
「だって、リリスちゃんの在学中でしか参加する口実を主張出来ないからね。」
そうなの?
そんなの無くても参加しそうだけどね。
席を立ち支払いを済ませて店の外に出ると、リリスとマキは港に向かって歩き出した。
海から吹き上げてくる潮風が心地良い。
マキはリリスの顔を見て、何故か訝し気な表情を見せた。
その表情にリリスも首を傾げた。
「最近気になっている事があるんだけど・・・」
マキの言葉のトーンが低い。
「最近王家や神殿の依頼で、他国に出掛けて高位の聖魔法を施す事が多いのよ。まあ、それはそれで良いんだけどね。」
「でも何処からか私の行動を聞きつけて、アストレア神聖王国経由でビストリア公国から招請の申し出が来たの。もちろん多忙を理由にお断りしているけどね。」
ビストリア公国ってマキちゃんが召喚された国だったわよね。
用済みになったマキちゃんの殺害まで企てた国じゃないの。
「万一あの国に戻ったら、正体がばれて殺害されてしまうかも・・・・・」
「それは大丈夫だと思うわよ。容姿も魔力の波動も偽装しているから、少し似た顔立ちの他人だとしか、あの国では認識されないと思うけどね。」
「そうかなあ?」
「心配ないわよ。」
リリスの言葉を聞き、マキの表情は少し明るくなってきた。
「でも、やはり無闇に近付かない方が良いわよね。」
「それはもちろんよ。ビストリア公国からの招請なんて、何かと理由を作って断れば良いわよ。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
だが、ビストリア公国がどうしてマキを招請しようとしているのだろうか?
聖女の召喚が滞っているのかも知れない。
あるいは高位の聖魔法を使えると聞いて、手っ取り早く利用出来ると思ったのだろうか?
いずれにしても闇の多い国だ。
二度と足を踏み入れないとマキも思っているに違いない。
まあ、海岸からの景色を見て気分転換すれば良いわよ。
そう思いながらリリスはマキと並んで港に続く道を歩いた。
海辺までの距離は200mほどだ。
漁師らしき獣人達とすれ違いながら歩くと、真っ青な空と青い海が徐々に近付いて来る。
その景色にリリスも何となく気分が高揚してくるのを感じていた。
「そう言えばこの国って不思議ね。獣人の国にしては治安が良いし、人々の表情も生き生きしているわ。それと、高位の聖魔法の発動もいつもより魔力の消耗が少ないのよね。」
「これってやはりローラ女王様の影響かしら? 女王様には昨日謁見したんだけど、人を幸せにしてくれるようなオーラをビシビシと感じたわよ。」
まあ、それはローラが自律進化した結果なのよね。
それをマキちゃんに教えるわけにはいかないけど。
「ローラ女王様や神殿のケネスさん達の努力の賜物だと思うわよ。ローラ女王様が王族を纏め上げたのも奏功しているって、ミラ王国の行政官から聞いたからね。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
だが次の瞬間、港の方向からドドーンと大きな衝撃音が響き渡り、爆炎が立ち上った。
何事だ?
リリスとマキはその爆炎が上がった方向に、反射的に駆け出したのだった。
リリスはマキと小さな食堂のテーブルの前に対面で座っていた。
この日の二人はブラウスに細身のパンツと言う、オフの散策に合わせたかなりラフな格好だ。
開けっ放しの大きな窓から流れ込んでくる潮の香。
真っ青な海の上には小さな漁船が行き交っている。
ここはアブリル王国の王都の北方にあり、海に面しているチェズと言う名の港町だ。
決して大きな町ではない。
漁港の近くの市場の外れに飲食店が立ち並び、その店の中の一つにリリスとマキは入ったのだった。
ここを紹介してくれたのは神殿の祭司長ケネスである。
ありふれた店で良いと言うマキからの要望も考慮しつつ、セキュリティの観点から考えてより安全な店を選んだのだと言う。
ちなみにマキにはこの日も警護が2名ついていて、マキからは目につかないように気配を消して店外で警護に当たっている。
聖女並みの役割をしているマキなので、ミラ王国としても警護は欠かせない。
マキもその配慮には感謝しているようだ。
「それで・・・大量の魔物が煮上げられたのを見て、海鮮鍋が食べたくなったって言う事なのね?」
マキの呆れ顔の問い掛けに、リリスはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。それが凄く美味しそうな匂いで、思わず海鮮鍋を思い浮かべちゃったのよね。」
「それにしても魔物で海鮮鍋を思い浮かべますかねえ。」
「だって、マキちゃん。巨大な魚の他にイカやタコの足のようなものまで煮上がっていたんだから・・・」
リリスの言葉にマキはう~んと唸った。
「私はてっきり紗季さんがホームシックに陥ったんじゃないかと思いましたよ。」
時折リリスを紗季と呼ぶのは、元の世界でのマキとの先輩後輩の関係ゆえである。
「今更それは無いわよ。物心がついた頃から、この世界での生活に馴染んでしまっているんだもの。」
「まあ、そうですよね。私だって貴族の家に引き取られて育ったから、この世界での食生活には不自由しなかったし、食事に関してはそれなりに豊かな生活をさせて貰いましたからね。」
この世界に来てからのお互いの境遇は異なるが、貴族の子女として育てられた事はありがたかった。
リリスはそう思いながら店内を見回した。
白を基調にした店で、壁の下半分にはカラフルなタイルで様々な模様が描かれている。
その配色に嫌味が無く、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
店内にはテーブルが八つ並べられていて、その半数が客で埋まっている。
午後の2時過ぎなので、それほどに混んではいない。
ラフな格好の獣人達の座るテーブルに定食らしき食事が運ばれた後、年配の獣人の給仕によって、リリスとマキのテーブルには魚介類の煮込みが運ばれてきた。
大きなスープ皿の中に数種の魚の切り身と貝類が煮こまれている。
味付けはシンプルに塩と少しばかりの香辛料だそうだ。
「一番シンプルな味付けのものを頼みましたが、これで良いですか?」
マキの問い掛けにリリスはその煮込みの香りをグッと吸い込み、満足げな表情をマキに向けた。
「これで充分よ。う~ん。この香りが堪らないわ。」
そう言いながらリリスはスプーンでその汁を口にした。
魚介類の旨味を塩と香辛料が控えめに盛り立てている。
その加減が絶妙だ。
魚の切り身をフォークで突き刺して食べる。
あまり上品な食べ方ではないが、漁港の場末の飲食店ならそれも普通の事だろう。
切り身は煮込んだだけなのに旨味が詰まっている。
しかも若干魔力を纏っているようで、それが味に深みを感じさせる。
やはり普通の魚ではなさそうだ。
「シンプルな味付けだけど美味しいわねえ。」
これだけでも満足そうなリリスに、マキは笑顔で付け加えた。
「ケネスさんのお勧めで、サイドメニューからあるものを追加しましたからね。見たら驚きますよ。」
マキの言葉に首を傾げていると、獣人の給仕が楕円形の皿を運んできた。
その中にあったのは2本の大きなカニの足である。
「えっ! この世界にカニってあったっけ? しかも大きいわね。長さは30cmほどもありそうだわ。」
リリスの言葉にマキはウフフと笑った。
「これってカニじゃないんですよ。シースパイダーって言う魔物の脚だそうです。でもボイルした姿はどう見てもタラバガニですけどね。」
給仕が運んできた取り皿にそのカニの脚のようなものを取り分け、マキは細長いナイフで脚の側面を切り裂いた。
その中からプルンと出てきたのは、やはりカニの脚肉にしか見えない。
マキをまねして脚肉を取り出し、切り分けて口に運ぶと、リリスの口の中に芳醇な味が一瞬で広がった。
魔物と言っても水棲の魔物なので、やはり潮の香が漂ってきて、それが更に旨味を引き出してくれる。
これって間違いなくカニだわ!
リリスの驚く表情にマキも満足そうだ。
付け合わせのサラダや焼き立てのパンなどが追加で運ばれ、リリスとマキは嬉々として海鮮料理を堪能していた。
何気ない会話の後、マキはふとリリスに問い掛けた。
「そう言えばリリスちゃんって魔法学院の最終学年よね? 卒業後の計画はあるの?」
「う~ん。それが特にないのよね。貴族の娘だから王国の行政機関に所属するか、領地に戻って領地経営に取り組むか、あるいは軍の所属になるかって事なんだけど、軍の所属は遠慮したいわね。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「そうよねえ。軍は避けたいわよね。戦争に駆り出される事だって無いとは言えないもの。」
そう言いながらマキは少し身を乗り出した。
「実はメリンダ王女様とその件で話す機会があって、メリンダ王女様もリリスちゃんを軍には送りたくないって言ってたわ。」
「軍の所属になると、多分嫌気がさして何処かに消えてしまうんじゃないかって。それでメリンダ王女様としては秘書室を創設して、リリスちゃんを直属の部下にしたいそうよ。」
マキの口から出た意外な言葉にリリスは首を傾げた。
「直属の部下って・・・要するに私をメルの手元に縛り付けておきたいって事?」
「それは考え過ぎよ。そう言う立場を与えておけば、軍が手出しをして来ないからだって明言していたからね。」
う~ん。
メルとしては私の将来の立場を心配してくれているのね。
確かに大量殺戮の場には行きたくないし、そんな事になりそうならユリアス様の研究施設に逃げ込んで、しばらくの間引きこもっているかもねえ。
「メリンダ王女様は、リリスちゃんを野に放つのは危険だとも言っていたわよ。放置していて魔王にでもなられたら困るからって、真顔で言っていたからね。」
「魔王って・・・それは無いわよ。」
「でもメリンダ王女様が知っている範囲のリリスちゃんのスキルや魔法だって、元々のリリスちゃんの潜在能力の氷山の一角に過ぎないでしょ? 当たらずとも遠からずってところじゃないの?」
そう言われれば返答し難い。
ロキや亜神達との関わりの中で、リリスは既にこの世界の根幹部分にまで関与するようになり始めているからだ。
「まあ、私の就職先を創ってくれるのなら、感謝しないとね。」
そう言ってリリスは魚介類の煮込みのスープを飲み干した。
おそらく身体中に魚介類の匂いが纏わりついているだろう。
満足げにスプーンやフォークを空いた皿に置くと、給仕はそれを片付け、冷たいドリンクを運んできた。
レモンの風味の甘酸っぱいドリンクで、清涼感が口の中に広がってくる。
マキもまたそのドリンクを飲み干し、満足げな表情で食事を終えた。
「そう言えば、もうそろそろ仮装ダンスパーティの時期よね。私もまた参加するからね。」
「ええっ、マキちゃんって今回も参加するの?」
「だって、リリスちゃんの在学中でしか参加する口実を主張出来ないからね。」
そうなの?
そんなの無くても参加しそうだけどね。
席を立ち支払いを済ませて店の外に出ると、リリスとマキは港に向かって歩き出した。
海から吹き上げてくる潮風が心地良い。
マキはリリスの顔を見て、何故か訝し気な表情を見せた。
その表情にリリスも首を傾げた。
「最近気になっている事があるんだけど・・・」
マキの言葉のトーンが低い。
「最近王家や神殿の依頼で、他国に出掛けて高位の聖魔法を施す事が多いのよ。まあ、それはそれで良いんだけどね。」
「でも何処からか私の行動を聞きつけて、アストレア神聖王国経由でビストリア公国から招請の申し出が来たの。もちろん多忙を理由にお断りしているけどね。」
ビストリア公国ってマキちゃんが召喚された国だったわよね。
用済みになったマキちゃんの殺害まで企てた国じゃないの。
「万一あの国に戻ったら、正体がばれて殺害されてしまうかも・・・・・」
「それは大丈夫だと思うわよ。容姿も魔力の波動も偽装しているから、少し似た顔立ちの他人だとしか、あの国では認識されないと思うけどね。」
「そうかなあ?」
「心配ないわよ。」
リリスの言葉を聞き、マキの表情は少し明るくなってきた。
「でも、やはり無闇に近付かない方が良いわよね。」
「それはもちろんよ。ビストリア公国からの招請なんて、何かと理由を作って断れば良いわよ。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
だが、ビストリア公国がどうしてマキを招請しようとしているのだろうか?
聖女の召喚が滞っているのかも知れない。
あるいは高位の聖魔法を使えると聞いて、手っ取り早く利用出来ると思ったのだろうか?
いずれにしても闇の多い国だ。
二度と足を踏み入れないとマキも思っているに違いない。
まあ、海岸からの景色を見て気分転換すれば良いわよ。
そう思いながらリリスはマキと並んで港に続く道を歩いた。
海辺までの距離は200mほどだ。
漁師らしき獣人達とすれ違いながら歩くと、真っ青な空と青い海が徐々に近付いて来る。
その景色にリリスも何となく気分が高揚してくるのを感じていた。
「そう言えばこの国って不思議ね。獣人の国にしては治安が良いし、人々の表情も生き生きしているわ。それと、高位の聖魔法の発動もいつもより魔力の消耗が少ないのよね。」
「これってやはりローラ女王様の影響かしら? 女王様には昨日謁見したんだけど、人を幸せにしてくれるようなオーラをビシビシと感じたわよ。」
まあ、それはローラが自律進化した結果なのよね。
それをマキちゃんに教えるわけにはいかないけど。
「ローラ女王様や神殿のケネスさん達の努力の賜物だと思うわよ。ローラ女王様が王族を纏め上げたのも奏功しているって、ミラ王国の行政官から聞いたからね。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
だが次の瞬間、港の方向からドドーンと大きな衝撃音が響き渡り、爆炎が立ち上った。
何事だ?
リリスとマキはその爆炎が上がった方向に、反射的に駆け出したのだった。
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