落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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港町での騒動

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港町チェズで起きた大きな爆発音。

その方向に向けてリリスとマキは駆け出して行った。

目の前に港が見え、建物の向こう側に黒煙が上がっている。
泣き叫ぶ人々の声や怒声があちらこちらから聞こえてきた。

だが爆発現場に辿り着く直前、二人の前をフードを被った獣人が遮った。
それはマキの警護に就いていたミラ王国所属の獣人の兵士である。
アブリル王国が獣人の国である事を考え、あえて獣人の兵士を警護にしたのだろう。

「マキ様! 危険ですから少しお待ちください。」

「ギルさん! 怪我人が出ているんでしょ? 私が行かないと・・・」

ギルと呼ばれた獣人の兵士はマキの言葉を聞くと、落ち着くようにと言う仕草を見せた。

「今、相棒のコニーが現場に居ます。直ぐにここに来ますので、行動はその後にして下さい。」

確かに警護の兵士の言葉ももっともだ。
リリスは冷静になって立ち止まった。
リリスはまだしも、マキの身に二次被害でもあれば一大事である。

ほどなくリリス達の前に獣人の女性兵士が駆け寄ってきた。

「コニー! 様子はどうだった?」

ギルから問い掛けられた獣人の兵士は、息も切らさず口を開いた。

「とりあえず大丈夫よ。被害が大きいけど現状では既に危険性は無いわ。」

「何があったんですか?」

リリスの問い掛けにコニーと呼ばれた兵士は、神妙な表情で口を開いた。

「要人の暗殺未遂事件ですね。犯人はアブリル王国の軍が追跡中だけど、逃げ足が速くて捕縛は無理な様子です。」

「あの爆発は火球などの魔法攻撃ではなく、大量の火薬を用いたものだったそうです。魔法なら発動の気配で察知出来たのですが、察知されない為にわざわざ火薬を用いたのでしょうね。」

この世界にも火薬はある。花火などで用いるからだ。
だがダイナマイトは開発されておらず、また魔法の方が攻撃手段としての手間が掛からないので、武器としてはあまり普及していない。それは誰でも魔法が扱えるこの世界の特色でもある。

「それと、目撃者によると犯人は黒装束で、要人の馬車に向けて毒を塗布したダガーを投げつけたそうです。」

う~ん。
攻撃手段が気になるわねえ。
黒装束で火薬を扱いダガーを投げつける・・・何となく忍者を連想しちゃうけど。
まさかレイブン諸島出身の傭兵や暗殺者じゃないでしょうね。

「危険性が無いのなら現場に向かいましょう。手当が必要な人が居るでしょうから。」

マキの言葉に二人の兵士は頷き、リリスとマキを現場に案内した。

建物に隠れて見えなかったが、現場日辿り着くと、そこには悲惨な光景が広がっていた。
横転した馬車と血だらけの馬。爆風で破壊された家屋や店舗。道端には大勢の獣人が血まみれになって倒れている。
かなり大量の火薬を用いたのだろう。
子供や女性の泣き叫ぶ声が渦巻き、その喧騒がその一帯に広がっていた。

リリスは横転している馬車の方に目を向けた。
馬車の中から救護の兵士達に救出された貴族風の男性は、その場にしゃがみ込んで治療を受けていた。
襲われた要人はこの人物なのだろう。
どうやら足を負傷しているようだ。
その傍でその男性に付き添っていたのであろう兵士が2名倒れているのだが、衣類は焼け焦げていて全く動かない。
この兵士達が身を挺して要人を守ったのだと思われる。

既にチェズの常駐の兵士達が到着していて、数人の救護兵が動き回っているが、明らかに手が足りないのが分かる。

その悲惨な光景を前にして、マキはリリスを誘い、近くに居た救護兵の傍に駆け寄った。

「治療の手が足りないようですね。」

マキに問い掛けられた救護兵は、マキの顔を見てハッと驚きの声を上げた。

「ミラ王国のマキ様ですね! ありがたい。ここは小さな港町なので常駐の兵士が少ないのです。王都に救援を要請していますが、時間が掛かりそうなので・・・・・」

「分かりました。私も手伝いますね。」

マキはそう言うとリリスの手を強く握った。

「リリスちゃん。高レベルのエリアヒールを掛けたいの。魔力を補給して貰って良いかな?」

「ええ、もちろん良いわよ。」

リリスの言葉にマキは笑顔で頷き、リリスの手から魔力の供給を受けた。
だがその途端に、マキはウッと呻いて額に皺を寄せた。

「リリスちゃんの魔力ってこんなに濃かったっけ? 魔力が濃すぎて頭がクラクラするわ。」

まあ、私の魔力には二つの竜の加護まで加わったからね。
以前に比べて濃厚にはなっているのかも。

そう思いながらもリリスはマキに魔力の供給を続けた。
マキはその魔力を受け止めながら、急にふふふと笑い始めた。

「うん・・・うん! これなら最大のレベルでエリアヒールを発動出来そうだわ。」

マキはそう言うと身体中に聖魔法の魔力を漲らせた。
それに連れてマキの身体が白く光り始め、溢れる魔力が身体の周囲に渦巻き始めた。

「発動させるわね。」

マキはうっ!と気合を入れ、高レベルのエリアヒールを発動させた。
その途端にマキの足元に直径1mほどの魔法陣が出現した。
その魔法陣は徐々に大きくなり、馬車や建物の下に広がっていく。
街路に目を向けると遥か向こうまで魔法陣が広がっていた。
魔法陣の直径は100mを超えているだろう。

マキは更に気合を入れ、エリアヒールの発動を続けた。
それに伴って魔法陣から上空に向けて青白い光が放たれ、その巨大な光の中に魔法陣の範囲内のすべてのものが包み込まれてしまった。
それはまさに、濃厚なヒールの海にどっぷりと漬かってしまったような感覚だ。
身体中の痛みや傷が消えていく。
その感覚に負傷者は安堵のため息をつき始めた。

さすがは元聖女様ね。
でも私も何か手伝えないかしら?

リリスはそう思ってマキに声を掛けた。

「魔力の供給以外に、少し手伝っても良い?」

「ええ、手伝って貰えるなら何だって歓迎よ。」

マキは何気に答えたのだろう。
リリスに手伝って貰える事が何かなどとは考えもせず。

リリスはほくそ笑みながら、このタイミングで中レベルの細胞励起を発動させた。
細胞励起の波動が魔力を通じてマキの身体を経由し、巨大な魔法陣の上に居る全ての生物に伝わっていく。
負傷者のみならず、救護兵も居住者も家畜も馬車馬も全てがその対象であり、その恩恵を享受するのだ。
もちろんマキも細胞励起の恩恵を大きく受けている。

「これって・・・何なの?」

マキの驚きの声がリリスに届くが、それをかき消すように大勢の人の至福のうめき声が聞こえてきた。
オオオオオッと声ならぬ声が、エリアヒールの青白い光の中で幾重にも重なり、渦のようになって振動し始めた。

全ての生物が癒され、その細胞が高度に活性化されていく。

マキの高レベルのエリアヒールと相まって、その効果は強烈なものとなった。

10分ほど経って、マキはエリアヒールの発動を停止し、リリスもそれに従って細胞励起の発動を止めた。
かなりの魔力を費やしたので、リリスの息も荒い。
ハアハアと肩で息をしながら、リリスはマキに笑顔を向けた。

マキはにこやかに頷きながら魔法陣を縮小させ、それにつれてマキの身体から発していた白い光も薄れていく。
ほどなく魔法陣は消え、マキはふうっと深いため息をついた。

そのマキを取り囲むように人が集まってくる。
彼らの表情は明るく、口々に賛美の言葉を浴びせてきた。

「聖女様!」「聖女様!」「聖女様!」

「聖女様感謝します!」

「ありがとうございます! 聖女様!」

人々の感謝の声に笑顔で応えるマキを横目に見ながら、リリスは横転している馬車の傍に近付いた。
貴族らしき要人の男性も傷を癒され、男性の傍で身動きもせず倒れていた兵士達も起き上がっていた。
更に倒れていた馬車馬も息を吹き返したようにすくっとその場で立ち上がった。

「ありがとう。君達には何と言ってお礼をしたら良いのか・・・」

そう言って男性は頭を下げた。
優し気で品のある顔立ちの獣人の若い男性だ。
その傍に居た兵士がリリスの傍に近付き、その耳元に小声で呟いた。

「この方はドーム公国の王族なのです。お忍びでこの港町を訪れていて、賊に襲われてしまいまして・・・」

ええっ!
ドーム公国って・・・レームのダンジョンのある国だわ。
しかもリンディの姉の嫁ぎ先じゃないの!

リリスは慌てて片膝をつき両手を広げて頭を下げ、王族への敬意を表す仕草をした。

「ああ、そんなにかしこまらなくて良いよ。今回はお忍びだからね。僕の名はアンドリューだ。アンディって呼んで貰って構わないよ。」

気さくに答える王族だ。
リリスの傍に再び兵士が近付き、耳元でささやいた。

「ドーム公の弟君です。」

そうなのね。
兄君ほどにイケメンじゃないけど、気さくそうな人で良かったわ。

「それにしても我が国の中での揉め事に、他国の人を巻き込んでしまって申し訳なかったね。救護に駆けつけてきた君達の力には本当に感謝しているよ。」

「傷はもう大丈夫ですか?」

リリスの問い掛けにアンドリューはうんうんと頷いた。

「うん。もう大丈夫だ。おつりがくるくらいに治癒してもらったよ。馬まで治療してもらったからね。」

そう言って笑顔を見せるアンドリューの傍に、アブリル王国の兵士が駆けつけ、周りを取り囲むようにして安全な場所へと移動させた。
王都からの援軍が到着したようだ。
その兵士達の中から見覚えのある顔がリリスの方に近付いてきた。

「リリス様。色々とお世話になったようですね。」

それは新生したアブリル王国の軍を率いるグルジアだった。

「マキ様と休暇を過ごしておられたのですね。」

グルジアはそう言うと、群衆に取り囲まれているマキの方に目を向けた。

マキはまだ癒された人達に取り囲まれ、その応対に苦慮しているようだ。
その様子を見て失笑しているリリスに、グルジアは思いもかけないような事を話し始めた。

「実は先ほどの事件の混乱の中、別な場所で不穏な動きがありまして・・・」

「孤島の周囲に張り巡らせていたシールドの一部が破られていたのです。それに気づいた時点で既に・・・幽閉されていた前国王は暗殺されていました。」

「ええっ!そんな事って・・・」

リリスは驚きのあまり声をあげてしまった。
そのリリスの表情を見定めるように、グルジアは話を続けた。

「最初からそれが目的だったのでしょう。あのドーム公国の王族への襲撃は、我々の目を欺く陽動作戦だったのではないかと思われます。」

「でもどうして前国王を暗殺なんて・・・」

「それはまだ分かりません。でも他国が関与している事は間違いありませんね。例えば前国王が絡んでいて、他国との内密な取引や取り決めなどがあったのかも知れない。それを明らかにされるのが困る国があるのかも知れません。」

グルジアの言葉が重い。
リリスは言葉も無く考え込んでいた。

そのリリスにマキが駆け寄ってきた。
どうやら人々への応対は済んだようだ。

「久々に聖女様なんて言われちゃったわ。聖女じゃないんだけどね。」

照れ笑いのマキに向けて、リリスは笑顔で頷いた。

「そんなに謙遜しなくても良いわよ。マキちゃん、聖女並みの活躍だったわよ。」

「でもそれはリリスちゃんが手伝ってくれたからよ。リリスちゃんの魔力のサポートがなければ、あそこまでの高レベルのエリアヒールは発動出来なかったし、リリスちゃんが追加で発動させてくれたスキルも凄かったもの。あれって何なの? もしかして細胞励起?」

マキの口から細胞励起の言葉が出てきて、リリスは驚いてしまった。

「そうなのよ。その言葉を良く知っているわね。」

「だって、神殿のケネスさんが発動させていたので尋ねたらそう言われたのよ。まあ、リリスちゃんの発動させたものは、ケネスさんとは段違いのレベルだったけどね。」

そうだ。
自律進化の恩恵で、ケネスさんも細胞励起を僅かに発動出来るんだったわ。

「私の事は良いわよ。マキちゃんの聖女並みの力が評価されるのなら、私はそれだけで良いのよ。」

「でもねえ。あまり評判を上げると、私を招請しようとする邪悪な国があるので、そこは微妙なのよね。」

うんうん。
そうよね。
ビストリア公国なんて、マキちゃんが訪れたらそのまま軟禁しちゃいそうだものね。
死ぬまでこき使われるわよ。

マキの身を案じつつ、リリスはマキに笑顔を返し、警護の兵士と共にアブリル王国の王都への帰路に就いたのだった。








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