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マキ救出後の顛末1
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カールの屋敷。
リノ達がそこに転移すると、屋敷内にはおびただしい人が倒れていた。
誰一人として動く気配が無い。
だが生命反応は正常で、細々と生命を維持しているように感じられた。
武器を持ったまま倒れている兵士や魔導士の間をすり抜け、屋敷の奥に進むと豪華な造りの部屋の中に、恰幅の良い初老の男性と魔導士らしき人物が倒れていた。
「これが多分、この屋敷の当主のカールね。」
リノの言葉にナミは静かに頷いた。
「死んでいるの?」
「死んではいないわよ。麻痺しているだけのようね。」
ナミの問い掛けに答えたリノは、カールの額に手を置いて魔力で精査し始めた。
「麻痺しているだけなんだけど、少し様子が変ね。麻痺毒以外に何か別な要素が加わっているように感じるんだけど・・・」
「リリス様。これって本当に麻痺毒ですか? 少し様子がおかしいですよ。単に麻痺して倒れていると言うよりは、違う存在に改造されつつあるような状態に感じるんですけど・・・」
うん?
違う存在?
疑問を抱いたリリスはクイーングレイスに念話で問い掛けた。
だが、暗黒竜の加護は反応しない。
おかしいなあと思っていると、リリスの耳に背後から、壁を破壊するようなドスンと言う衝撃音が聞こえてきた。
リノ達が振り返ると、見覚えのあるプラチナ色のメタルアーマー姿の女性戦士が駆けこんできた。
その背後に法衣を纏った二人の女性が付き従っている。
リノ達が反射的に身構えて攻撃しようとしたので、リリスは慌ててそれを引き留めた。
「リノ。敵じゃないわよ。あれはマキちゃんだから。」
リリスの言葉にリノはえっと驚いて攻撃の姿勢を解除した。
リノは剣聖アリアが憑依したマキの姿を知らなかったようだ。
「マキちゃん! アリアの憑依を解いても大丈夫よ!」
「えっ? その声はリリスちゃん?」
マキはそう言うと、リノの肩に憑依した小さなピクシーの姿に目を留めた。
「ああ、使い魔の状態になっているのね。助けに来てくれたんだ。」
そう言うとマキはアリアの憑依を解除して法衣の姿に戻った。
「災難だったわね、マキちゃん。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。まさかビストリア公国に連れて来られるとは思ってもみなかったわ。」
マキはふんっと荒く鼻息を吐き、傍に倒れている魔導士に目を向けた。
「こいつよ。こいつが私を頑強な時限監獄に閉じ込めたのよ。そのせいでアリアの憑依状態になったのに、暴れ回る事も出来なかったのよね。」
そう言ってマキはその魔導士の頭をツンツンと靴で突いた。
マキはそのままその視線をカールらしき人物に向けて、驚きの表情を見せた。
「これって・・・オスニア家のカールじゃないの! こいつの顔も覚えているわよ。」
聖女召喚の頃の記憶が蘇ってきたようで、マキは怒りに駆られてカールの身体を蹴飛ばそうとした。
「マキちゃん! まあ、落ち着いてよ。この屋敷内の人物は全て麻痺して動けない状態だからね。」
「だったら尚の事好都合よ。腕の一本も切り取ってやろうかしら。」
「マキちゃん、落ち着いてってば!」
リリスはマキを宥めて何とか落ち着かせた。
マキの気持ちも良く分かる。
カール達の画策で、聖女召喚を通じてこの世界に召喚され、聖女としての教育を受け、聖女となった後には再起不能の状態になった傭兵の回復を強制されてきたマキだ。
しかも用済みになったと判断されて、暗殺まで仕向けた連中であり、マルタからマキへと偽装した後には自分達の都合で再度拉致して聖女として酷使しようとしていた連中だ。
リリスはマキの気持ちを察しつつ、屋敷からの脱出を急がせた。
「異変に気付いた為政者達が追っ手を向けてくるかも知れないわ。急いで脱出するわよ!」
リリスの言葉にマキは渋々従った。
他の二人の女性と共にリノ達は近くのアジトに転移し、そこから一気にミラ王国まで転移したのだった。
数日後。
リリスは再び学生寮の最上階に呼び出された。
いつものようにメイド長のセラのチェックを受け、彼女の部下のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に通されると、ソファにはメリンダ王女とフィリップ王子が並んで座っていた。
二人に挨拶を交わしてソファに座ったリリスは、メイドから出された紅茶をすすりながら、メリンダ王女の表情に若干の苦悩を感じていた。
何かあったの?
訝し気にメリンダ王女の顔を見つめると、メリンダ王女はふっと失笑を漏らした。
「リリス。体調はどう? 闇魔法の憑依って憑依の度合いが高ければ高いほどに疲れるからね。」
「ああ、解除した日は若干疲れがあったけど、もう大丈夫よ。」
他愛もない会話ながら、メリンダ王女は何かを言い出そうとして躊躇っている様子だ。
「どうしたのよ? メルらしくも無いわね。」
リリスの言葉に吹っ切れたようにメリンダ王女は話し始めた。
「この数日、私のところに色々と入ってくる情報の量が半端じゃなかったのでね。とりあえず最初から話すわね。」
「マキさんを救出した次の日に、極秘ルートで王家に親書が届いたのよ。送り主はビストリア公国。内容はマキさんを拉致した事への謝罪と賠償の申し出だったわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスはえっ!と叫んで驚いた。
「随分反応が早いわね。まるで私達が潜入してくるのを察知していたみたいじゃないの。」
リリスの言葉にメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「あんたもそう感じるのね。私もそんな気がしているのよ。リノからの報告でもあったように、現ビストリア公は聖女をネタにしたビジネスに嫌悪感を持っていると聞いているわ。」
「おそらく聖女召喚に纏わる全ての権限を持つオスニア家を、国内から排除したいと思っていたんじゃないのかな。オスニア家の動向には内密に監視の目を向けていたはずよ。そんなところにあんた達が潜入してきた。」
「それでね。ここからが色々と問題なのよ。」
持って回ったメリンダ王女の言い方にリリスは首を傾げた。
メリンダ王女はフィリップ王子に目配せをして、代わりに話してくれと言う意思を伝えた。
「僕から話そう。リリス。君はオスニア家の屋敷で何をしたんだ?」
「何をしたって言われても、リノから報告されたままの内容ですよ。」
リリスはそう言うと、少し硬い表情で紅茶をすすった。
「麻痺毒で屋敷内の全員を機能不全に陥れたと言う事だね。だがビストリア公国からの報告では少し内容が違うんだ。」
フィリップ王子はそう言いながら軽く溜息をついた。
「確かに麻痺毒で身動きも出来ない状態だったが、半日ほどで全員回復したそうだ。それでビストリア公国の軍がカール達を尋問したのだが、全員が黙秘していて、彼等は一様に『リリス様の許可が無ければ話さない。』と言っているんだよ。」
うん?
それってどう言う事?
それにどうして私の名前を知っているのよ?
首を傾げるリリス。
その様子にフィリップ王子も若干戸惑っていた。
少し間を置いて、フィリップ王子は静かにリリスに問い掛けた。
「リリス。君はカールの屋敷内に居た500人ほどの者を全て眷属化してしまったようだね。その自覚はあるのかい?」
「眷属化?」
リリスは思い当たる事など何もないので、ただ驚くばかりだった。
「そもそも眷属化する手段すら持っていませんよ。」
「君が持っていなくても、君の持つ加護の力って事は考えられないか?」
フィリップ王子の言葉にリリスはウッと唸って考え込んだ。
可能性を考えれば暗黒竜の加護だ。
屋敷内の全ての敵に麻痺毒を転移した際に、クイーングレイスが何かを付与したのかも知れない。
考え込むリリスにメリンダ王女が話し掛けた。
「リリス。あんたはビストリア公国側の状況が分からないから、あまり深刻に考えていないようだけど、向こうにとっては大変な状況になっているのよ。」
「あんた達が乗り込んだ屋敷はビストリア公の外戚の屋敷で、当主のカールの配下の魔導士や戦士の中には優秀な技能を持つ者が多数いたのよ。更にビストリア公からの要請を伝えるために、ビストリア公直属の親衛隊の隊長や部下達もあの屋敷内の別室に待機して居たの。」
「また、当主の夫人に纏わる用件でビストリア公の妹君や数名の大商人も居たし、別件でアストレア神聖王国の使者まで寝泊まりしていたのよ。その人たちが全てあんたの眷属になってしまって、『我々はリリス様に忠誠を尽くすのみだ。』って叫んでいるんだからね。ビストリア公国からしたら、国の中枢部分を奪い取られると言う危機感すら感じているのよ。」
そんな事になってしまったの?
「ビストリア公国にもまだ優秀な魔導士は居るわ。でもどんなに手を尽くしても、あんたの眷属化が解除されないのよ。それであんたに何とかして貰わないと、ビストリア公国のみならずアストレア神聖王国まで含めて紛争に成りかねないのよね。」
メリンダ王女はそう言いながら頭を抱え込む仕草をした。
「それで私に眷属化を解除しろと言うのね?」
リリスの言葉にフィリップ王子が口を開いた。
「うん。そう言う事だ。ビストリア公国側からは、彼等一人一人の事情聴取もしたいので、指定された順番で眷属化を解除して欲しいって言っているんだよ。」
「それってあまりにも身勝手なお願いですね。そもそもマキちゃんをミラ王国から誘拐し拉致したのが、今回の騒動の発端なのに。」
リリスは胸の内のもやもやした思いを口にした。
フィリップ王子もメリンダ王女もその言葉に無言で頷いた。
「まあ、身勝手なお願いごとをするからには、その代価をビストリア公国も用意しているようだ。ビストリア公は我が国にかなり有利な条件での経済交流を求めてきた。経済交流を端緒にして国交にまで持っていきたいとの意思も表明している。」
「それでノイマン卿と数名の文官を近日中に派遣する事になってね。君にも同行してもらいたいんだよ。」
私がビストリア公国に行くの?
何だか気乗りがしないわねえ。
躊躇うリリスにメリンダ王女が口を開いた。
「あんたが行ってくれないと、何一つ始まらないのよ。お願いだから、ノイマン達に同行して。」
メリンダ王女からのお願いを反故にする事も出来ない。
リリスは渋々その意向を受け入れた。
メリンダ王女とフィリップ王子からの要請を承諾した後、リリスは自室に戻ってソファに座り、解析スキルを発動させた。
カールの屋敷に居た500人が私の眷属になったって言うんだけど、あの時そんなスキルを発動させたの?
『眷属化は暗黒竜の加護の発動に伴って表面化していましたね。ただ、眷属化が故意のものか否かは不明です。』
ちょっと待ってよ。
故意じゃなかったとしたら、前触れも無く眷属化しちゃうって事も在り得るの?
『クイーングレイスに全てを委ねると、そう言う事も起きかねないと言う事ですよ。』
う~ん。
それってリスキーねえ。
『ちなみにクイーングレイス本人は故意じゃないと伝えてきています。本当かどうかは分かりませんが・・・』
まあ、その件は今後また聞くとして、眷属化の解除ってどうするの?
『それに関してはクイーングレイスからの伝達がありまして、眷属化は簡単な呪詛のようなものなので、呪詛を解除する要領で魔力を操作すれば良いそうです。』
そんな事で簡単に解除出来るの?
メルの話では、ビストリア公国の優秀な魔導士でも解除出来ないって言うんだけど。
『人族の魔導士では解除は無理でしょうね。竜の加護を持つ特殊な者でなければ、眷属化を呪詛のように扱うなんて到底出来ませんから。』
そうなの?
本当にそれで大丈夫なの?
『クイーングレイスは、リリスなら簡単に出来るわよと言っていますよ。普通の人族とは存在のレベルが違う人外だからとも言っていますね。』
あ~あ。
とうとう人外呼ばわりされちゃったわ。
『当たらずとも遠からずと言うところでしょうか。』
そんな微妙なフォローはしなくて良いわよ。
リリスは解析スキルに感謝の意を伝え、発動を解除した。
程なく帰ってきたサラを夕食に誘い、リリスは学舎地下の学生食堂に向かったのだった。
そして数日後。
リリスは身体にフィットした黒のパンツスーツを纏い、待ち合わせ場所である王都の神殿の前庭に出向いた。
ノイマン達とビストリア公国に向う為である。
その直前には、あらかじめアポを取っていたマキと数分間会話し、リリスはマキの健康状態のみならず精神の状態までも確認した。それは先日の拉致の件がマキの心に深い傷を負わせていないかと言う、リリスなりの配慮であったのだが、マキは極平然とした状態で、リリスもあれこれと心配する余地も無かった。
マキちゃんにはアリアが付いているから、多少のアクシデントがあっても大丈夫よね。
そんな風に思って安堵するリリスである。
その日の祭祀に向かうマキを見送りしばらく待っていると、近くに馬車が停車し、ノイマン達が降りてきた。
ノイマンと3名の文官がリリスに近付き、互いに挨拶を交わした。
「私の事で色々とご迷惑をかけて申し訳ありません。」
迷惑を掛けたと言うのはリリスの本心ではない。
これはあくまでも外交辞令であり、リリスの本心では、迷惑を掛けたのはビストリア公国だと確信している。
そのリリスにノイマンはにこやかな笑顔を向けた。
「リリス君。気にする事は無いよ。君の関与したお陰で、我が国とビストリア公国との間の交流が深まる。しかも我が国にかなり優位な条件での経済交流が起点になるからね。私としても大歓迎だよ。」
外交に長けたノイマンの嬉々たる表情に、リリスは大いに慰められた。
その後数名の兵士と共にリリスとノイマンと文官達は、ビストリア公国の指定された転移ポイントに次々に転移していった。
視界が暗転する。
リリス達が転移した場所は、ビストリア公国の王都の神殿の前庭だった。
そこは良く手入れされた花壇や彫刻が立ち並ぶ、美しい場所だった。
そこから見える街並みは清潔感があり、この国の民度の高さがうかがえる。
リリス達を出迎えてくれたのはビストリア公国の文官のトップで、オニールと名乗る恰幅の良い人物だった。
互いに挨拶を交わすと、オニールはリリス達をビストリア公国の迎賓館に案内すると言う。
その迎賓館は神殿の近くにあり、遠目に見える小さな宮殿のような建物だった。
リリス達は軍用馬車に乗り込み、綺麗に整備された街路を進んで行く。
だが、迎賓館までの道のりを軍用馬車でゆっくりと進むと、迎賓館の門の前で大勢の人達が門番の兵士と小競り合いをしているのが見えた。
何事だろうか?
何かアクシデントでもあったの?
不審に思っているとリリス達の乗っている馬車が突然停止し、数名の兵士が駆け寄ってきた。
「オニール様、危険ですので迂回してください。」
「どうした? 何事だね? 大事なお客様をお連れしているんだぞ。」
怪訝そうに問い掛けたオニールは、迎賓館の前に集結している群衆の中に、見覚えある人物が多数紛れているのを発見した。
「あの者達は・・・・・カール様の屋敷で倒れていた者達ではないか。どうしてここに集まっているんだ?」
オニールの言葉にギョッとしてリリスは馬車の窓から迎賓館を見つめた。
そのリリスの顔を見つけて、群衆が一気に馬車の周囲に集まろうとし、制止する兵士達との間に緊張が高まった。
群衆の叫びが聞こえ、リリスは驚愕の事実を知る事となる。
彼等は叫んだ。
「リリス様だ!」
「リリス様が来られたぞ!」
「我等の主が来られたんだ!」
嬉々とした表情で叫ぶ群衆に、リリスは当惑し頭の中が真っ白になってしまったのだった。
リノ達がそこに転移すると、屋敷内にはおびただしい人が倒れていた。
誰一人として動く気配が無い。
だが生命反応は正常で、細々と生命を維持しているように感じられた。
武器を持ったまま倒れている兵士や魔導士の間をすり抜け、屋敷の奥に進むと豪華な造りの部屋の中に、恰幅の良い初老の男性と魔導士らしき人物が倒れていた。
「これが多分、この屋敷の当主のカールね。」
リノの言葉にナミは静かに頷いた。
「死んでいるの?」
「死んではいないわよ。麻痺しているだけのようね。」
ナミの問い掛けに答えたリノは、カールの額に手を置いて魔力で精査し始めた。
「麻痺しているだけなんだけど、少し様子が変ね。麻痺毒以外に何か別な要素が加わっているように感じるんだけど・・・」
「リリス様。これって本当に麻痺毒ですか? 少し様子がおかしいですよ。単に麻痺して倒れていると言うよりは、違う存在に改造されつつあるような状態に感じるんですけど・・・」
うん?
違う存在?
疑問を抱いたリリスはクイーングレイスに念話で問い掛けた。
だが、暗黒竜の加護は反応しない。
おかしいなあと思っていると、リリスの耳に背後から、壁を破壊するようなドスンと言う衝撃音が聞こえてきた。
リノ達が振り返ると、見覚えのあるプラチナ色のメタルアーマー姿の女性戦士が駆けこんできた。
その背後に法衣を纏った二人の女性が付き従っている。
リノ達が反射的に身構えて攻撃しようとしたので、リリスは慌ててそれを引き留めた。
「リノ。敵じゃないわよ。あれはマキちゃんだから。」
リリスの言葉にリノはえっと驚いて攻撃の姿勢を解除した。
リノは剣聖アリアが憑依したマキの姿を知らなかったようだ。
「マキちゃん! アリアの憑依を解いても大丈夫よ!」
「えっ? その声はリリスちゃん?」
マキはそう言うと、リノの肩に憑依した小さなピクシーの姿に目を留めた。
「ああ、使い魔の状態になっているのね。助けに来てくれたんだ。」
そう言うとマキはアリアの憑依を解除して法衣の姿に戻った。
「災難だったわね、マキちゃん。」
リリスの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「そうなのよ。まさかビストリア公国に連れて来られるとは思ってもみなかったわ。」
マキはふんっと荒く鼻息を吐き、傍に倒れている魔導士に目を向けた。
「こいつよ。こいつが私を頑強な時限監獄に閉じ込めたのよ。そのせいでアリアの憑依状態になったのに、暴れ回る事も出来なかったのよね。」
そう言ってマキはその魔導士の頭をツンツンと靴で突いた。
マキはそのままその視線をカールらしき人物に向けて、驚きの表情を見せた。
「これって・・・オスニア家のカールじゃないの! こいつの顔も覚えているわよ。」
聖女召喚の頃の記憶が蘇ってきたようで、マキは怒りに駆られてカールの身体を蹴飛ばそうとした。
「マキちゃん! まあ、落ち着いてよ。この屋敷内の人物は全て麻痺して動けない状態だからね。」
「だったら尚の事好都合よ。腕の一本も切り取ってやろうかしら。」
「マキちゃん、落ち着いてってば!」
リリスはマキを宥めて何とか落ち着かせた。
マキの気持ちも良く分かる。
カール達の画策で、聖女召喚を通じてこの世界に召喚され、聖女としての教育を受け、聖女となった後には再起不能の状態になった傭兵の回復を強制されてきたマキだ。
しかも用済みになったと判断されて、暗殺まで仕向けた連中であり、マルタからマキへと偽装した後には自分達の都合で再度拉致して聖女として酷使しようとしていた連中だ。
リリスはマキの気持ちを察しつつ、屋敷からの脱出を急がせた。
「異変に気付いた為政者達が追っ手を向けてくるかも知れないわ。急いで脱出するわよ!」
リリスの言葉にマキは渋々従った。
他の二人の女性と共にリノ達は近くのアジトに転移し、そこから一気にミラ王国まで転移したのだった。
数日後。
リリスは再び学生寮の最上階に呼び出された。
いつものようにメイド長のセラのチェックを受け、彼女の部下のメイドの案内でメリンダ王女の部屋に通されると、ソファにはメリンダ王女とフィリップ王子が並んで座っていた。
二人に挨拶を交わしてソファに座ったリリスは、メイドから出された紅茶をすすりながら、メリンダ王女の表情に若干の苦悩を感じていた。
何かあったの?
訝し気にメリンダ王女の顔を見つめると、メリンダ王女はふっと失笑を漏らした。
「リリス。体調はどう? 闇魔法の憑依って憑依の度合いが高ければ高いほどに疲れるからね。」
「ああ、解除した日は若干疲れがあったけど、もう大丈夫よ。」
他愛もない会話ながら、メリンダ王女は何かを言い出そうとして躊躇っている様子だ。
「どうしたのよ? メルらしくも無いわね。」
リリスの言葉に吹っ切れたようにメリンダ王女は話し始めた。
「この数日、私のところに色々と入ってくる情報の量が半端じゃなかったのでね。とりあえず最初から話すわね。」
「マキさんを救出した次の日に、極秘ルートで王家に親書が届いたのよ。送り主はビストリア公国。内容はマキさんを拉致した事への謝罪と賠償の申し出だったわ。」
メリンダ王女の言葉にリリスはえっ!と叫んで驚いた。
「随分反応が早いわね。まるで私達が潜入してくるのを察知していたみたいじゃないの。」
リリスの言葉にメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「あんたもそう感じるのね。私もそんな気がしているのよ。リノからの報告でもあったように、現ビストリア公は聖女をネタにしたビジネスに嫌悪感を持っていると聞いているわ。」
「おそらく聖女召喚に纏わる全ての権限を持つオスニア家を、国内から排除したいと思っていたんじゃないのかな。オスニア家の動向には内密に監視の目を向けていたはずよ。そんなところにあんた達が潜入してきた。」
「それでね。ここからが色々と問題なのよ。」
持って回ったメリンダ王女の言い方にリリスは首を傾げた。
メリンダ王女はフィリップ王子に目配せをして、代わりに話してくれと言う意思を伝えた。
「僕から話そう。リリス。君はオスニア家の屋敷で何をしたんだ?」
「何をしたって言われても、リノから報告されたままの内容ですよ。」
リリスはそう言うと、少し硬い表情で紅茶をすすった。
「麻痺毒で屋敷内の全員を機能不全に陥れたと言う事だね。だがビストリア公国からの報告では少し内容が違うんだ。」
フィリップ王子はそう言いながら軽く溜息をついた。
「確かに麻痺毒で身動きも出来ない状態だったが、半日ほどで全員回復したそうだ。それでビストリア公国の軍がカール達を尋問したのだが、全員が黙秘していて、彼等は一様に『リリス様の許可が無ければ話さない。』と言っているんだよ。」
うん?
それってどう言う事?
それにどうして私の名前を知っているのよ?
首を傾げるリリス。
その様子にフィリップ王子も若干戸惑っていた。
少し間を置いて、フィリップ王子は静かにリリスに問い掛けた。
「リリス。君はカールの屋敷内に居た500人ほどの者を全て眷属化してしまったようだね。その自覚はあるのかい?」
「眷属化?」
リリスは思い当たる事など何もないので、ただ驚くばかりだった。
「そもそも眷属化する手段すら持っていませんよ。」
「君が持っていなくても、君の持つ加護の力って事は考えられないか?」
フィリップ王子の言葉にリリスはウッと唸って考え込んだ。
可能性を考えれば暗黒竜の加護だ。
屋敷内の全ての敵に麻痺毒を転移した際に、クイーングレイスが何かを付与したのかも知れない。
考え込むリリスにメリンダ王女が話し掛けた。
「リリス。あんたはビストリア公国側の状況が分からないから、あまり深刻に考えていないようだけど、向こうにとっては大変な状況になっているのよ。」
「あんた達が乗り込んだ屋敷はビストリア公の外戚の屋敷で、当主のカールの配下の魔導士や戦士の中には優秀な技能を持つ者が多数いたのよ。更にビストリア公からの要請を伝えるために、ビストリア公直属の親衛隊の隊長や部下達もあの屋敷内の別室に待機して居たの。」
「また、当主の夫人に纏わる用件でビストリア公の妹君や数名の大商人も居たし、別件でアストレア神聖王国の使者まで寝泊まりしていたのよ。その人たちが全てあんたの眷属になってしまって、『我々はリリス様に忠誠を尽くすのみだ。』って叫んでいるんだからね。ビストリア公国からしたら、国の中枢部分を奪い取られると言う危機感すら感じているのよ。」
そんな事になってしまったの?
「ビストリア公国にもまだ優秀な魔導士は居るわ。でもどんなに手を尽くしても、あんたの眷属化が解除されないのよ。それであんたに何とかして貰わないと、ビストリア公国のみならずアストレア神聖王国まで含めて紛争に成りかねないのよね。」
メリンダ王女はそう言いながら頭を抱え込む仕草をした。
「それで私に眷属化を解除しろと言うのね?」
リリスの言葉にフィリップ王子が口を開いた。
「うん。そう言う事だ。ビストリア公国側からは、彼等一人一人の事情聴取もしたいので、指定された順番で眷属化を解除して欲しいって言っているんだよ。」
「それってあまりにも身勝手なお願いですね。そもそもマキちゃんをミラ王国から誘拐し拉致したのが、今回の騒動の発端なのに。」
リリスは胸の内のもやもやした思いを口にした。
フィリップ王子もメリンダ王女もその言葉に無言で頷いた。
「まあ、身勝手なお願いごとをするからには、その代価をビストリア公国も用意しているようだ。ビストリア公は我が国にかなり有利な条件での経済交流を求めてきた。経済交流を端緒にして国交にまで持っていきたいとの意思も表明している。」
「それでノイマン卿と数名の文官を近日中に派遣する事になってね。君にも同行してもらいたいんだよ。」
私がビストリア公国に行くの?
何だか気乗りがしないわねえ。
躊躇うリリスにメリンダ王女が口を開いた。
「あんたが行ってくれないと、何一つ始まらないのよ。お願いだから、ノイマン達に同行して。」
メリンダ王女からのお願いを反故にする事も出来ない。
リリスは渋々その意向を受け入れた。
メリンダ王女とフィリップ王子からの要請を承諾した後、リリスは自室に戻ってソファに座り、解析スキルを発動させた。
カールの屋敷に居た500人が私の眷属になったって言うんだけど、あの時そんなスキルを発動させたの?
『眷属化は暗黒竜の加護の発動に伴って表面化していましたね。ただ、眷属化が故意のものか否かは不明です。』
ちょっと待ってよ。
故意じゃなかったとしたら、前触れも無く眷属化しちゃうって事も在り得るの?
『クイーングレイスに全てを委ねると、そう言う事も起きかねないと言う事ですよ。』
う~ん。
それってリスキーねえ。
『ちなみにクイーングレイス本人は故意じゃないと伝えてきています。本当かどうかは分かりませんが・・・』
まあ、その件は今後また聞くとして、眷属化の解除ってどうするの?
『それに関してはクイーングレイスからの伝達がありまして、眷属化は簡単な呪詛のようなものなので、呪詛を解除する要領で魔力を操作すれば良いそうです。』
そんな事で簡単に解除出来るの?
メルの話では、ビストリア公国の優秀な魔導士でも解除出来ないって言うんだけど。
『人族の魔導士では解除は無理でしょうね。竜の加護を持つ特殊な者でなければ、眷属化を呪詛のように扱うなんて到底出来ませんから。』
そうなの?
本当にそれで大丈夫なの?
『クイーングレイスは、リリスなら簡単に出来るわよと言っていますよ。普通の人族とは存在のレベルが違う人外だからとも言っていますね。』
あ~あ。
とうとう人外呼ばわりされちゃったわ。
『当たらずとも遠からずと言うところでしょうか。』
そんな微妙なフォローはしなくて良いわよ。
リリスは解析スキルに感謝の意を伝え、発動を解除した。
程なく帰ってきたサラを夕食に誘い、リリスは学舎地下の学生食堂に向かったのだった。
そして数日後。
リリスは身体にフィットした黒のパンツスーツを纏い、待ち合わせ場所である王都の神殿の前庭に出向いた。
ノイマン達とビストリア公国に向う為である。
その直前には、あらかじめアポを取っていたマキと数分間会話し、リリスはマキの健康状態のみならず精神の状態までも確認した。それは先日の拉致の件がマキの心に深い傷を負わせていないかと言う、リリスなりの配慮であったのだが、マキは極平然とした状態で、リリスもあれこれと心配する余地も無かった。
マキちゃんにはアリアが付いているから、多少のアクシデントがあっても大丈夫よね。
そんな風に思って安堵するリリスである。
その日の祭祀に向かうマキを見送りしばらく待っていると、近くに馬車が停車し、ノイマン達が降りてきた。
ノイマンと3名の文官がリリスに近付き、互いに挨拶を交わした。
「私の事で色々とご迷惑をかけて申し訳ありません。」
迷惑を掛けたと言うのはリリスの本心ではない。
これはあくまでも外交辞令であり、リリスの本心では、迷惑を掛けたのはビストリア公国だと確信している。
そのリリスにノイマンはにこやかな笑顔を向けた。
「リリス君。気にする事は無いよ。君の関与したお陰で、我が国とビストリア公国との間の交流が深まる。しかも我が国にかなり優位な条件での経済交流が起点になるからね。私としても大歓迎だよ。」
外交に長けたノイマンの嬉々たる表情に、リリスは大いに慰められた。
その後数名の兵士と共にリリスとノイマンと文官達は、ビストリア公国の指定された転移ポイントに次々に転移していった。
視界が暗転する。
リリス達が転移した場所は、ビストリア公国の王都の神殿の前庭だった。
そこは良く手入れされた花壇や彫刻が立ち並ぶ、美しい場所だった。
そこから見える街並みは清潔感があり、この国の民度の高さがうかがえる。
リリス達を出迎えてくれたのはビストリア公国の文官のトップで、オニールと名乗る恰幅の良い人物だった。
互いに挨拶を交わすと、オニールはリリス達をビストリア公国の迎賓館に案内すると言う。
その迎賓館は神殿の近くにあり、遠目に見える小さな宮殿のような建物だった。
リリス達は軍用馬車に乗り込み、綺麗に整備された街路を進んで行く。
だが、迎賓館までの道のりを軍用馬車でゆっくりと進むと、迎賓館の門の前で大勢の人達が門番の兵士と小競り合いをしているのが見えた。
何事だろうか?
何かアクシデントでもあったの?
不審に思っているとリリス達の乗っている馬車が突然停止し、数名の兵士が駆け寄ってきた。
「オニール様、危険ですので迂回してください。」
「どうした? 何事だね? 大事なお客様をお連れしているんだぞ。」
怪訝そうに問い掛けたオニールは、迎賓館の前に集結している群衆の中に、見覚えある人物が多数紛れているのを発見した。
「あの者達は・・・・・カール様の屋敷で倒れていた者達ではないか。どうしてここに集まっているんだ?」
オニールの言葉にギョッとしてリリスは馬車の窓から迎賓館を見つめた。
そのリリスの顔を見つけて、群衆が一気に馬車の周囲に集まろうとし、制止する兵士達との間に緊張が高まった。
群衆の叫びが聞こえ、リリスは驚愕の事実を知る事となる。
彼等は叫んだ。
「リリス様だ!」
「リリス様が来られたぞ!」
「我等の主が来られたんだ!」
嬉々とした表情で叫ぶ群衆に、リリスは当惑し頭の中が真っ白になってしまったのだった。
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