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magnolia
magnolia Ⅳ
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magnolia Ⅳ
「……蓮」
柔らかい声色で呼びかけながら、雪也はこちらに手を伸ばした。
後少しで頬に触れる手を、蓮は避け、ふい、と横を向く。
今、自分が出来る精一杯の抵抗だった。
その反応に、雪也は驚いたようだったが、やがて困ったように笑顔を浮かべた。
「ごめん……驚かせちゃった?」
「……いえ、あの……」
(触らないで。……二度と、触らないで)
叫び出したいほどの言葉が、喉に詰まったまま動かない。
代わりに蓮は、ただ背を向け、黙って俯くことしかできなかった。
数秒の沈黙のあと、雪也の声がまた降りてくる。
「……じゃあ、こうしようか」
彼はソファに腰を下ろし、両手をこちらに差し出した。
立ち尽くす蓮に向けて、まるで抱きとめるように。
「僕からじゃなくて……君のほうから来て。僕のお願いなら、聞いてもらえるかな?」
何を言っているのか。
蓮は思わず目を見開いた。
(ふざけてる……)
怒りと困惑がせり上がる。
嫌悪の混じった視線を向けたが、雪也は気にも留めず、淡々と続けた。
「おいで、蓮。……蓮のほうから、来てほしい」
まだ、揶揄うつもりなのか。自分の顔が怒りで熱くなるのを感じながらも、手を上げることはできなかった。唇だけが、わなわなと震える。
「……ッ……!」
「ね、来て」
あやすような声だった。
むずかる子どもをなだめるような、優しくも煽る響き。
蓮は怒りと羞恥の渦の中で立ち竦んだ。
それでも、雪也が広げたその腕に向かって足を動かしてしまう。
ふら、ふら、と。
重い身体が引き寄せられるように、蓮はその中へ──堕ちるように辿り着いた。
「……ありがとう、蓮」
雪也の大きな腕が、身体が、何のためらいもなく蓮の背を抱きとめる。
あたたかく、柔らかく、優しい。
ふわり、と香ったのは白檀の、どこか懐かしく深い、心の奥を撫でるような香気。
そして同時に、その奥に微かに滲む、麝香の肉感的な甘い香りだった。
「……よく来てくれたね、会いたかったよ」
耳元で囁かれたその声は、まるで安堵した恋人のようだった。
深く、静かに、雪也の吐息が蓮の首筋にかかる。
ぞくり、と背中が震えた。
それは寒気ではなかった。
思い出してしまったのだ。
あの夜、何度もその声に貫かれ、壊れていったことを。
(ちがう……違う、俺は……どうして)
心の奥で否定の声が上がるのに、涙さえ滲むのに、身体はもう動かなかった。
「……君が来てくれたら、それだけでいいんだ…。だから……ね?」
雪也の膝に、まるで縋るような形で乗ってしまったことに気づいた蓮は、せめてもの抵抗とばかりに少しでも距離を取ろうと身をよじった。
だが、その動きを逃さず、雪也の腕が蓮の背をぎゅっと強く抱きとめる。
「……我が儘ついでにもう一つ……蓮、君からのキスが欲しいな」
「……えっ?」
思わず目を合わせてしまった。
その瞬間、雪也のねだるような、けれどどこか試すような視線とぶつかり──蓮は、しまったと息を呑む。
(……この人……やっぱり、遊んでる)
また誘導された。
また踏み込ませられた。
理解した瞬間、後悔が胸の奥で跳ねる。
(駄目だ。帰ろう。……このままじゃ、またどうにかなってしまう)
雪也の肩に置いた手に力を込める。
そしてもう片方の手でそっと彼の頬を撫でるように触れ、蓮は恐る恐る、ほんの一瞬だけ唇を重ねた。
触れたか触れていないか、それほどのキス。
けれど──
「うん……もう少し、深くがいいな」
「ッ……!?」
くすくすと、すぐそばで笑う声が落ちる。
蓮の首筋に、さざ波のように嫌悪と羞恥が走った。
自棄になった。
もうどうでもいいとすら思った。
息を吸い、勢いのまま、今度はしっかりと雪也の唇を奪うように塞ぐ。
すぐに、あのぬるく甘い舌が迎えに来る。
逃げ場を奪うように絡みつき、蓮の中の記憶を引きずり出そうとする。
あの夜──崩された夜──思い出しそうになるのを止め、何とか堪える。
「ん、んん……ッ……」
耐えるように閉じた瞳から、涙が一筋、頬を伝って落ちた。
雪也はひとつも動かず、ただ口づけを受けるだけだった。
そのおかげか、蓮は自分からやっとの思いだったが、唇を離すことに成功した。
肩で息をする蓮を見つめながら、雪也は唇をぺろりと舐め、緩やかに微笑む。
「……いい子。上手だったよ」
──その一言が、蓮にはどうしようもなく“嘲り”にしか聞こえなかった。
怒りが、感情の底から突き上げる。
ついに口を開こうとした、その瞬間──
どくん、と。
何かが、急激に、強く脈打った。
(……あれ?)
「ッ……?」
熱い。
身体の奥から、じんじんと熱が広がる。
指先、背中、胸、腰──すべてが一斉に火照りだす。
(……何?……これ、なんで俺……)
まるで全身が、ひとつの心臓になったみたいに、脈打っていた。
──あの時と、同じだ。
初めて雪也に抱かれた夜の翌朝。
目を覚ますこともできないほどの熱に襲われ、動けずに寝込んだ。
あのときも、全身がこんなふうに重くて、熱くて、ひどく心細かった。
(……似てる……あの時の……)
腰の奥が、疼いていた。
じくじくと、甘い痛みが這い上がってくる。
「……ッ!そ、んな……どうして……」
火照りと疼きが、もう誤魔化せないほどに全身に満ちていた。
触れられていないのに、肌が、内側が、まるで炎に包まれているかのようだった。
蓮はうずくまり、息を潜めるように雪也の腕の中で震えていた。
身体の芯がひくつき、じくじくと疼く。
腰の奥が熱く、痛いほどに張りつめていて──
(……おかしい、俺、……何で、こんな)
顔が焼けるように熱い。
けれど、それ以上に、身体の奥が“欲しがっている”ことがはっきり分かってしまう。
「……蓮、どうしたの?」
やさしく降りてくる声に蓮は弾かれたように顔を上げてしまった。
自分を見下ろして、穏やかに微笑む美しい相貌とかち合う。
これを全部見られてしまっている。
自分がこうなっているのを、この男に全て知られてしまっている。
どうして自分がこうなっているのか、全て解ってて、声をかけたのだ。
「……ねえ、僕に教えて?」
囁くように言いながら、雪也は蓮の耳元に唇を寄せる。
その吐息にすら敏感に反応してしまい、蓮はびくんと肩を揺らした。
「……大丈夫だよ、蓮。僕は……君が“望まなければ”、決して触れないから」
その言葉が、まるで呪いのように響いた。
(違う、俺は……っ、そんな……)
目を閉じて震える蓮の頬を、雪也の吐息が優しく掠めていく。
喉の奥が焼けるように熱く、息がうまく整わない。
呼吸が乱れて、口元から弱々しい声が漏れた。
「……っ……や、……めて……」
けれど、指先にぴくりと反応した自分の身体が、すべてを裏切っていた。
足の間に広がる熱が、自分の意志ではもうどうにもできないほど膨れ上がっていた。
(……どう、しよう……どうしたら……俺……)
言葉が喉元まで上がりかけては、涙と共に飲み込まれる。
けれど、それでも──
唇が震えながら、声にならない声で、ぽつりと漏れた。
「……お、ねが……」
雪也が、静かに目を細める。
「……ん?」
「………助けて」
その一言で、空気が変わった。
雪也は、深く、満たされたように微笑んだ。
「ああ……いいよ、蓮」
そう言って、ゆっくりと蓮の髪に手を伸ばす。
抱き寄せた腕が、まるで壊れものに触れるように優しいのに──
そこに、絶対的な支配の力が宿っていた。
ゆっくりと抱きしめられる。
胸元に頬を押し当てられ、蓮は身じろぎ一つできなかった。
白檀と麝香が、彼の髪から、肌から、全身にまとわりついてくる。
「蓮の“ここ”……すごく熱くなってる……辛かったね」
耳元に落ちる声と同時に、下腹部に指先が触れた。
ズボンの間の膨らみを布越しに撫でるようなその動きに、ビクリと背中が反応してしまう。
「ひ、っ……や……っ!」
「いいよ、もう我慢しなくていい……僕のこの手も身体も……君を救ってあげられるから」
その言葉とともに、ゆっくりと蓮の衣服が剥がされていく。
指先が丁寧すぎるほど優しく肌を撫でるたび、皮膚が息をするように脈打つ。
空気が触れるだけで、そこが感じてしまう。
「ふ……ぁ……っ」
喉から漏れた声に、雪也の瞳が細められた。
唇が、蓮の鎖骨にゆっくりと触れる。
「蓮の身体、僕をちゃんと覚えててくれて、嬉しいよ……」
その囁きが胸を抉るように甘く、苦しい。
触れられるたび、指先ひとつで火がつくように熱が広がっていく。
「や……っ、やだ……っ、なんで……っ」
「嫌?どうして?」
「……わから、ない、……わからないのに……っ、あつ、くて……っ」
涙声で揺れる蓮の訴えに、雪也はそっと微笑んだ。
まるで何も異常など起きていないかのような、穏やかで甘い声色。
「……大丈夫。これは、自然なことなんだよ。……ね、僕だって……」
そう囁くと、雪也は震える蓮の手をそっと取り、自身の下腹部の布越し、硬く膨らんだ部分へと導いた。
指先に伝わる、異様なほどの熱と確かな形。
蓮は思わず、喉奥に溜まっていた唾液を飲み込む。
「っ……!」
戸惑うその隙を縫うように、雪也の手が蓮のズボンの前をほどいた。
指先が器用に滑り込み、下着の内側へと忍び込む。
外気に曝け出された自分のものが外へ曝け出され、しっかりと雪也の指に包み込まれたのを目にしながら蓮にはどうにもできなかった。
「ひ……ッ!? やっ、やだ、や……ッ!」
慣れた指が、ゆるやかに、しかし明確な意図をもって蓮を扱き上げる。
生々しく、戦慄が走るほどの感触。
そこが雪也の手の動きに応じて震え、瞬く間に解放へと導かれていく。
「……こんなに反応してくれるなんて、可愛い」
耳元に、くすりと笑う気配。
その甘い声音に含まれる歓びと陶酔が、蓮の羞恥をさらに煽り、やがて蓮の敏感なその先端を雪也は悪戯に爪弾いた。
「──っんんッ!!」
呆気なく決壊し、とぷり、と自分のそれは熱を吐き出した。雪也の掌と、自分たちの境を汚してしまった事に蓮は嫌悪感や羞恥心、申し訳なさを混濁させながら涙で滲む視界の中、開放感に包まれたかった。
けれど。
(……なんで、まだ)
「ッ!!?」
さっきの比では無い程の強い疼きが腰の奥から湧き上がって、蓮の全身を走り抜けた。
不意打ちのそれに蓮は雪也の体に縋りついたまま再び目を見開く。
(……嘘だ……!)
「……まだ、欲しい、でしょ?」
雪也の問いかけに、蓮はぎくりと身を強張らせる。
図星だった。怖いほどに。
「……ッ!?ちが……違う……っ」
「違わないよ。君の身体……まだ、僕を待ってる」
そう囁かれ、蓮は自身の内側がきゅう、と熱を帯びて収縮したのを感じた。
恥ずかしさと混乱で頭が沸騰しそうになる。
「……違う、のにッ……どうして……俺、どうしてこんな……」
「蓮の体はね、今僕のものに“成ろう”としてる、その途中なんだ……身体が必死に覚えようとしてくれているんだよ」
「っ!?……何言って……っ俺は、そんな事……」
「いいよ、否定してごらん?でも、君の身体は今どうしたいって言ってる?」
言葉にできなかった。
なぜなら、身体はもう、熱に浮かされたように雪也にしがみついていたから。
呼吸も、心臓も、肌の奥の疼きさえ、彼を欲している。
「……そ、だッ……嘘だッ!!」
ぼろぼろと、涙が溢れてくる。
それでも逃げようとした蓮の腕を、雪也がそっと引いた。
「蓮……僕の上に、おいで」
「──っ……!!」
その言葉に、蓮の全身が凍ったように固まる。
(……そんなの、出来るわけが……)
けれど──雪也の手が優しく腰に添えられた瞬間、
恐怖と羞恥の波の奥から、もう一つの感情が湧き上がる。
──触れて、ほしい。
──満たして、ほしい。
その欲を、理解してしまうと同時に蓮は自分に失望した。
もう、自分の中の“何か”が戻れないところに来てしまったことを。
「……や……やめ…………でも、俺……もう……」
言葉にならない声を漏らしながら、蓮は雪也の身体に手を這わせる。それに応えるように雪也は蓮を裸にしていった。
やがて、一糸纏わぬ姿で震える膝をソファに立て、雪也の膝をまたぐようにして、自らの意志で跨がる。
雪也の瞳が優しく細まり、微笑んだ。
「……よく、できました。蓮は、本当にいい子だね」
いつもの穏やかな声。
けれど、その一言のどこかに、手のひらの上で弄ばれるような含みがあった。
でも、その言葉にすら、今の蓮には蓮の胸の奥にはなぜか、甘くて苦い、どうしようもない痛みを覚えてしまう。
そして徐に彼の熱が、触れた。
重たく、熱を帯びて主張する雪也のもの。前をほどき、布に押さえられていた圧が解放されると、まるで意志を持ったように主張し、わずかに脈打つ。
下腹部を這うように、硬く、熱を持って自分を探ってくる。
「……そう、ゆっくりとね……大丈夫。怖くないよ」
囁きに促されるまま、蓮はゆっくりと腰を沈める。
その瞬間、思考が白く塗り潰された。
「──っ……あっ、あ、……あ……ッ!」
肉が押し広げられ、深く、深く──侵されていく。
ぬるりと、熱く、底のほうまで。
「すごい……全部、咥えこんでくれた……」
雪也の低い声が、歓喜と陶酔を帯びて響く。
「蓮の中、温かい、ね……。僕のこと、ちゃんと覚えて迎えてくれてる……」
「……っ、あッ、……そんな、の……っ」
顔を背けようとした蓮の顎を、そっと雪也の指が掬った。
「目を見て。君が“僕を受け入れてる”顔、ちゃんと見せてほしい」
陶酔と羞恥の中で、蓮の目尻から涙が滲んだ。
そして──
雪也がゆっくりと、腰を押し上げてくる。
「……っ、ん……あ……ッ、やっ、あッ……ああっ!」
深く、深く、何度も突き上げられる。
擦れるたび、繊細な粘膜が震え、熱と共に快楽が這い上がってくる。
だが、それだけではなかった。
もっと根源的なもの。
心の奥底から引きずり出される“何か”を、雪也に喰らわれていく感覚。
確かに、自分の中の何かが、“雪也のもの”に変わっていく。
「……うん、本当に……熱くて、柔らかくて……心地良いよ」
「っ、あ、あっ……やっ……っ……!」
羞恥がこみ上げる。けれどそれすら、足りないと身体の芯から背筋を這い上がる快感に呑み込まれていく。
「……はっ、……ん…ッ、………おね、が…………」
「何?」
「……お願い……もっと……触れて……」
蓮のかすれた声が雪也の耳元で震えた瞬間、
雪也の指が顎に添えられ、微笑が深く刻まれる。
「いいよ。……君の飢えがおさまるまで、僕が満たしてあげる」
次の瞬間、より深く、容赦なく奥を突き上げられた。
「──ッ……あ、あッ……!!」
息が止まりそうになる。
焼けるような圧迫感。奥を満たされていく生々しい感触に、全身が跳ねた。
そのまま雪也の唇が蓮の唇を塞いでくる。舌が、甘く、深く、容赦なく絡んでくる。
「ッ───!!?」
それはまるで、魂ごと吸い取られていくような口づけだった。
「ッああ……心地、いい、ね……」
唇を離した後の恍惚とする雪也の言葉の通り、奥を抉られるたび、骨の奥から震えるような快感が蓮を突き上げる。
「……!?やっ……やぁッ、ああっ!」
口では否定しているのに、身体は明確に反応していた。
雪也の動きに合わせて奥が締まり、擦れ合うたびに、熱い疼きが増していく。
「……っ!?あ、!?…ッもう、なんで、……まだッ、も、いいのに……ッ、なんで」
「だって、蓮の“中”が、僕を求めてるんだよ。ずっと、ずっと……」
雪也の声は優しく、そして何よりも甘かった。
毒みたいに、じわじわと心の奥を侵していく声。
(──嘘!?……どうして、止まらないの?)
穿たれる度、疼きが増していく。
腰が無意識に雪也の動きに合わせてしまう。
「だめ」と「もっと」が、心の中でぐちゃぐちゃに混ざって、意味を失っていく。
「あっ、あ、ああ……ッ、いや、……だめッ! やぁ……っ!!」
感覚の波が、繰り返し押し寄せては全身を攫っていく。
雪也の名前を呼びそうになるたび、舌を噛みそうになる。
けれど──。
「蓮……分かる?君の中、こんなにもきれいに僕を咥えてる」
そう囁かれた瞬間、ふいに何かが決壊した。
「ひぁっ……あ、あッ……!!やぁ……っ、も、やだ、っ──!!」
瞬間、視界が弾ける。
全身が痙攣し、奥で雪也を締め上げる感覚に呑まれる。
痛い程の快楽の波が一気に押し寄せ、蓮は身体を震わせながら絶頂を迎えた。
もう、何も考えられなかった。
涙が零れても、声が震えても、蓮にはどうすることもできなかった。
そして、最後の波が蓮をさらっていった時、無意識のうちに呟いてしまった。
「…………雪、也、さ……ん……っ……」
一瞬、雪也の動きが止まる。
蓮自身も、自分の口からその名が零れたことに気づいた途端、肩を震わせて声を塞いだ。
(……なんで……っ)
だが、もう遅かった。
雪也は微笑みながら、まるで宝物のように蓮を抱きしめ、その髪を撫でる。
「……ああ、僕はここだよ。……蓮」
雪也の低く甘い声が、耳の奥を焼いた。
それだけで、蓮の身体はまた僅かに熱を持って反応してしまう。
(……なんで、まだ……)
息を整えられないまま、蓮はぐったりと雪也の腕の中に崩れた。
しばらくの静寂。
けれど──
「……もう一度、いい?」
「……っ……え……?」
蓮の目が、微かに見開かれる。
「駄目……かな?」
穏やかな声。けれど、どこか飢えを滲ませたその響き。
抱いてなお満たされない、雪也の奥底の“何か”が、蓮の身体に再び伸びてくるのを感じる。
「……ッや……もう、む、無理……っ、俺……っ」
「大丈夫。……蓮なら、まだいけるよ」
囁きとともに、再び雪也の手が蓮の脚を撫でた。
既に何度も絶頂を迎え、敏感になりすぎた蓮の身体は、びくんと震えた。
(いやだ、やめて、……でも……)
疼く。
熱い。
身体の奥底が、まるで雪也の熱を求めるように、疼いている。
(……どうして、……こんな……っ)
たった今まで、耐え難いほどの快感を受けていたというのに。
もう既に──
身体が、雪也を“待っている”。
数日前まではごく普通の、自分の身体だったのに。
いつの間にかこんなにも変わってしまった。
この男に、得体の知れないものに変えられていく。
その恐怖に蓮は慄いた。
雪也のそれが再びあてがわれ、沈み込んでくる瞬間、蓮の意識はまた白く染まった。
気づけば世界は闇の中だった。
今世の中は何時なんだろうか。
雪也の隣で、蓮はベッドにうつ伏せていた。
焦点の合わない目。
口も開かず、動こうともしない身体。
ただ、汗に濡れた自分の肌の熱と、全身の奥に残る脈打つような感触だけが、現実だった。
(……何で、俺……今、ここに居るの……)
自分が何を言ったか、どうして受け入れてしまったのか、思い出そうとしても霞がかかっている。
ただ雪也の名前だけが、喉の奥に焼き付いたまま、離れない。
雪也が、背中に転々と唇を落とし、最後に耳朶をやわらかく食むように口付ける感触がした。
「……な、んで……俺なんですか……」
ぽつりとこぼした声に、雪也は止まる。シーツに顔を埋めたままの蓮に、彼はそっと囁いた。
「初めて君を見た時から感じたんだ」
雪也の指が、蓮の背中に浮いた汗を辿る。
「僕には君しかいないって。……君が……君だけが僕を救ってくれるんだ」
——救う。
誰が?誰を?
その言葉の意味を測りかねる間に、意識が急速に闇に解けていく。
雪也の声に何も答えられないまま、蓮はまた静かに目を閉じた。
「……蓮」
柔らかい声色で呼びかけながら、雪也はこちらに手を伸ばした。
後少しで頬に触れる手を、蓮は避け、ふい、と横を向く。
今、自分が出来る精一杯の抵抗だった。
その反応に、雪也は驚いたようだったが、やがて困ったように笑顔を浮かべた。
「ごめん……驚かせちゃった?」
「……いえ、あの……」
(触らないで。……二度と、触らないで)
叫び出したいほどの言葉が、喉に詰まったまま動かない。
代わりに蓮は、ただ背を向け、黙って俯くことしかできなかった。
数秒の沈黙のあと、雪也の声がまた降りてくる。
「……じゃあ、こうしようか」
彼はソファに腰を下ろし、両手をこちらに差し出した。
立ち尽くす蓮に向けて、まるで抱きとめるように。
「僕からじゃなくて……君のほうから来て。僕のお願いなら、聞いてもらえるかな?」
何を言っているのか。
蓮は思わず目を見開いた。
(ふざけてる……)
怒りと困惑がせり上がる。
嫌悪の混じった視線を向けたが、雪也は気にも留めず、淡々と続けた。
「おいで、蓮。……蓮のほうから、来てほしい」
まだ、揶揄うつもりなのか。自分の顔が怒りで熱くなるのを感じながらも、手を上げることはできなかった。唇だけが、わなわなと震える。
「……ッ……!」
「ね、来て」
あやすような声だった。
むずかる子どもをなだめるような、優しくも煽る響き。
蓮は怒りと羞恥の渦の中で立ち竦んだ。
それでも、雪也が広げたその腕に向かって足を動かしてしまう。
ふら、ふら、と。
重い身体が引き寄せられるように、蓮はその中へ──堕ちるように辿り着いた。
「……ありがとう、蓮」
雪也の大きな腕が、身体が、何のためらいもなく蓮の背を抱きとめる。
あたたかく、柔らかく、優しい。
ふわり、と香ったのは白檀の、どこか懐かしく深い、心の奥を撫でるような香気。
そして同時に、その奥に微かに滲む、麝香の肉感的な甘い香りだった。
「……よく来てくれたね、会いたかったよ」
耳元で囁かれたその声は、まるで安堵した恋人のようだった。
深く、静かに、雪也の吐息が蓮の首筋にかかる。
ぞくり、と背中が震えた。
それは寒気ではなかった。
思い出してしまったのだ。
あの夜、何度もその声に貫かれ、壊れていったことを。
(ちがう……違う、俺は……どうして)
心の奥で否定の声が上がるのに、涙さえ滲むのに、身体はもう動かなかった。
「……君が来てくれたら、それだけでいいんだ…。だから……ね?」
雪也の膝に、まるで縋るような形で乗ってしまったことに気づいた蓮は、せめてもの抵抗とばかりに少しでも距離を取ろうと身をよじった。
だが、その動きを逃さず、雪也の腕が蓮の背をぎゅっと強く抱きとめる。
「……我が儘ついでにもう一つ……蓮、君からのキスが欲しいな」
「……えっ?」
思わず目を合わせてしまった。
その瞬間、雪也のねだるような、けれどどこか試すような視線とぶつかり──蓮は、しまったと息を呑む。
(……この人……やっぱり、遊んでる)
また誘導された。
また踏み込ませられた。
理解した瞬間、後悔が胸の奥で跳ねる。
(駄目だ。帰ろう。……このままじゃ、またどうにかなってしまう)
雪也の肩に置いた手に力を込める。
そしてもう片方の手でそっと彼の頬を撫でるように触れ、蓮は恐る恐る、ほんの一瞬だけ唇を重ねた。
触れたか触れていないか、それほどのキス。
けれど──
「うん……もう少し、深くがいいな」
「ッ……!?」
くすくすと、すぐそばで笑う声が落ちる。
蓮の首筋に、さざ波のように嫌悪と羞恥が走った。
自棄になった。
もうどうでもいいとすら思った。
息を吸い、勢いのまま、今度はしっかりと雪也の唇を奪うように塞ぐ。
すぐに、あのぬるく甘い舌が迎えに来る。
逃げ場を奪うように絡みつき、蓮の中の記憶を引きずり出そうとする。
あの夜──崩された夜──思い出しそうになるのを止め、何とか堪える。
「ん、んん……ッ……」
耐えるように閉じた瞳から、涙が一筋、頬を伝って落ちた。
雪也はひとつも動かず、ただ口づけを受けるだけだった。
そのおかげか、蓮は自分からやっとの思いだったが、唇を離すことに成功した。
肩で息をする蓮を見つめながら、雪也は唇をぺろりと舐め、緩やかに微笑む。
「……いい子。上手だったよ」
──その一言が、蓮にはどうしようもなく“嘲り”にしか聞こえなかった。
怒りが、感情の底から突き上げる。
ついに口を開こうとした、その瞬間──
どくん、と。
何かが、急激に、強く脈打った。
(……あれ?)
「ッ……?」
熱い。
身体の奥から、じんじんと熱が広がる。
指先、背中、胸、腰──すべてが一斉に火照りだす。
(……何?……これ、なんで俺……)
まるで全身が、ひとつの心臓になったみたいに、脈打っていた。
──あの時と、同じだ。
初めて雪也に抱かれた夜の翌朝。
目を覚ますこともできないほどの熱に襲われ、動けずに寝込んだ。
あのときも、全身がこんなふうに重くて、熱くて、ひどく心細かった。
(……似てる……あの時の……)
腰の奥が、疼いていた。
じくじくと、甘い痛みが這い上がってくる。
「……ッ!そ、んな……どうして……」
火照りと疼きが、もう誤魔化せないほどに全身に満ちていた。
触れられていないのに、肌が、内側が、まるで炎に包まれているかのようだった。
蓮はうずくまり、息を潜めるように雪也の腕の中で震えていた。
身体の芯がひくつき、じくじくと疼く。
腰の奥が熱く、痛いほどに張りつめていて──
(……おかしい、俺、……何で、こんな)
顔が焼けるように熱い。
けれど、それ以上に、身体の奥が“欲しがっている”ことがはっきり分かってしまう。
「……蓮、どうしたの?」
やさしく降りてくる声に蓮は弾かれたように顔を上げてしまった。
自分を見下ろして、穏やかに微笑む美しい相貌とかち合う。
これを全部見られてしまっている。
自分がこうなっているのを、この男に全て知られてしまっている。
どうして自分がこうなっているのか、全て解ってて、声をかけたのだ。
「……ねえ、僕に教えて?」
囁くように言いながら、雪也は蓮の耳元に唇を寄せる。
その吐息にすら敏感に反応してしまい、蓮はびくんと肩を揺らした。
「……大丈夫だよ、蓮。僕は……君が“望まなければ”、決して触れないから」
その言葉が、まるで呪いのように響いた。
(違う、俺は……っ、そんな……)
目を閉じて震える蓮の頬を、雪也の吐息が優しく掠めていく。
喉の奥が焼けるように熱く、息がうまく整わない。
呼吸が乱れて、口元から弱々しい声が漏れた。
「……っ……や、……めて……」
けれど、指先にぴくりと反応した自分の身体が、すべてを裏切っていた。
足の間に広がる熱が、自分の意志ではもうどうにもできないほど膨れ上がっていた。
(……どう、しよう……どうしたら……俺……)
言葉が喉元まで上がりかけては、涙と共に飲み込まれる。
けれど、それでも──
唇が震えながら、声にならない声で、ぽつりと漏れた。
「……お、ねが……」
雪也が、静かに目を細める。
「……ん?」
「………助けて」
その一言で、空気が変わった。
雪也は、深く、満たされたように微笑んだ。
「ああ……いいよ、蓮」
そう言って、ゆっくりと蓮の髪に手を伸ばす。
抱き寄せた腕が、まるで壊れものに触れるように優しいのに──
そこに、絶対的な支配の力が宿っていた。
ゆっくりと抱きしめられる。
胸元に頬を押し当てられ、蓮は身じろぎ一つできなかった。
白檀と麝香が、彼の髪から、肌から、全身にまとわりついてくる。
「蓮の“ここ”……すごく熱くなってる……辛かったね」
耳元に落ちる声と同時に、下腹部に指先が触れた。
ズボンの間の膨らみを布越しに撫でるようなその動きに、ビクリと背中が反応してしまう。
「ひ、っ……や……っ!」
「いいよ、もう我慢しなくていい……僕のこの手も身体も……君を救ってあげられるから」
その言葉とともに、ゆっくりと蓮の衣服が剥がされていく。
指先が丁寧すぎるほど優しく肌を撫でるたび、皮膚が息をするように脈打つ。
空気が触れるだけで、そこが感じてしまう。
「ふ……ぁ……っ」
喉から漏れた声に、雪也の瞳が細められた。
唇が、蓮の鎖骨にゆっくりと触れる。
「蓮の身体、僕をちゃんと覚えててくれて、嬉しいよ……」
その囁きが胸を抉るように甘く、苦しい。
触れられるたび、指先ひとつで火がつくように熱が広がっていく。
「や……っ、やだ……っ、なんで……っ」
「嫌?どうして?」
「……わから、ない、……わからないのに……っ、あつ、くて……っ」
涙声で揺れる蓮の訴えに、雪也はそっと微笑んだ。
まるで何も異常など起きていないかのような、穏やかで甘い声色。
「……大丈夫。これは、自然なことなんだよ。……ね、僕だって……」
そう囁くと、雪也は震える蓮の手をそっと取り、自身の下腹部の布越し、硬く膨らんだ部分へと導いた。
指先に伝わる、異様なほどの熱と確かな形。
蓮は思わず、喉奥に溜まっていた唾液を飲み込む。
「っ……!」
戸惑うその隙を縫うように、雪也の手が蓮のズボンの前をほどいた。
指先が器用に滑り込み、下着の内側へと忍び込む。
外気に曝け出された自分のものが外へ曝け出され、しっかりと雪也の指に包み込まれたのを目にしながら蓮にはどうにもできなかった。
「ひ……ッ!? やっ、やだ、や……ッ!」
慣れた指が、ゆるやかに、しかし明確な意図をもって蓮を扱き上げる。
生々しく、戦慄が走るほどの感触。
そこが雪也の手の動きに応じて震え、瞬く間に解放へと導かれていく。
「……こんなに反応してくれるなんて、可愛い」
耳元に、くすりと笑う気配。
その甘い声音に含まれる歓びと陶酔が、蓮の羞恥をさらに煽り、やがて蓮の敏感なその先端を雪也は悪戯に爪弾いた。
「──っんんッ!!」
呆気なく決壊し、とぷり、と自分のそれは熱を吐き出した。雪也の掌と、自分たちの境を汚してしまった事に蓮は嫌悪感や羞恥心、申し訳なさを混濁させながら涙で滲む視界の中、開放感に包まれたかった。
けれど。
(……なんで、まだ)
「ッ!!?」
さっきの比では無い程の強い疼きが腰の奥から湧き上がって、蓮の全身を走り抜けた。
不意打ちのそれに蓮は雪也の体に縋りついたまま再び目を見開く。
(……嘘だ……!)
「……まだ、欲しい、でしょ?」
雪也の問いかけに、蓮はぎくりと身を強張らせる。
図星だった。怖いほどに。
「……ッ!?ちが……違う……っ」
「違わないよ。君の身体……まだ、僕を待ってる」
そう囁かれ、蓮は自身の内側がきゅう、と熱を帯びて収縮したのを感じた。
恥ずかしさと混乱で頭が沸騰しそうになる。
「……違う、のにッ……どうして……俺、どうしてこんな……」
「蓮の体はね、今僕のものに“成ろう”としてる、その途中なんだ……身体が必死に覚えようとしてくれているんだよ」
「っ!?……何言って……っ俺は、そんな事……」
「いいよ、否定してごらん?でも、君の身体は今どうしたいって言ってる?」
言葉にできなかった。
なぜなら、身体はもう、熱に浮かされたように雪也にしがみついていたから。
呼吸も、心臓も、肌の奥の疼きさえ、彼を欲している。
「……そ、だッ……嘘だッ!!」
ぼろぼろと、涙が溢れてくる。
それでも逃げようとした蓮の腕を、雪也がそっと引いた。
「蓮……僕の上に、おいで」
「──っ……!!」
その言葉に、蓮の全身が凍ったように固まる。
(……そんなの、出来るわけが……)
けれど──雪也の手が優しく腰に添えられた瞬間、
恐怖と羞恥の波の奥から、もう一つの感情が湧き上がる。
──触れて、ほしい。
──満たして、ほしい。
その欲を、理解してしまうと同時に蓮は自分に失望した。
もう、自分の中の“何か”が戻れないところに来てしまったことを。
「……や……やめ…………でも、俺……もう……」
言葉にならない声を漏らしながら、蓮は雪也の身体に手を這わせる。それに応えるように雪也は蓮を裸にしていった。
やがて、一糸纏わぬ姿で震える膝をソファに立て、雪也の膝をまたぐようにして、自らの意志で跨がる。
雪也の瞳が優しく細まり、微笑んだ。
「……よく、できました。蓮は、本当にいい子だね」
いつもの穏やかな声。
けれど、その一言のどこかに、手のひらの上で弄ばれるような含みがあった。
でも、その言葉にすら、今の蓮には蓮の胸の奥にはなぜか、甘くて苦い、どうしようもない痛みを覚えてしまう。
そして徐に彼の熱が、触れた。
重たく、熱を帯びて主張する雪也のもの。前をほどき、布に押さえられていた圧が解放されると、まるで意志を持ったように主張し、わずかに脈打つ。
下腹部を這うように、硬く、熱を持って自分を探ってくる。
「……そう、ゆっくりとね……大丈夫。怖くないよ」
囁きに促されるまま、蓮はゆっくりと腰を沈める。
その瞬間、思考が白く塗り潰された。
「──っ……あっ、あ、……あ……ッ!」
肉が押し広げられ、深く、深く──侵されていく。
ぬるりと、熱く、底のほうまで。
「すごい……全部、咥えこんでくれた……」
雪也の低い声が、歓喜と陶酔を帯びて響く。
「蓮の中、温かい、ね……。僕のこと、ちゃんと覚えて迎えてくれてる……」
「……っ、あッ、……そんな、の……っ」
顔を背けようとした蓮の顎を、そっと雪也の指が掬った。
「目を見て。君が“僕を受け入れてる”顔、ちゃんと見せてほしい」
陶酔と羞恥の中で、蓮の目尻から涙が滲んだ。
そして──
雪也がゆっくりと、腰を押し上げてくる。
「……っ、ん……あ……ッ、やっ、あッ……ああっ!」
深く、深く、何度も突き上げられる。
擦れるたび、繊細な粘膜が震え、熱と共に快楽が這い上がってくる。
だが、それだけではなかった。
もっと根源的なもの。
心の奥底から引きずり出される“何か”を、雪也に喰らわれていく感覚。
確かに、自分の中の何かが、“雪也のもの”に変わっていく。
「……うん、本当に……熱くて、柔らかくて……心地良いよ」
「っ、あ、あっ……やっ……っ……!」
羞恥がこみ上げる。けれどそれすら、足りないと身体の芯から背筋を這い上がる快感に呑み込まれていく。
「……はっ、……ん…ッ、………おね、が…………」
「何?」
「……お願い……もっと……触れて……」
蓮のかすれた声が雪也の耳元で震えた瞬間、
雪也の指が顎に添えられ、微笑が深く刻まれる。
「いいよ。……君の飢えがおさまるまで、僕が満たしてあげる」
次の瞬間、より深く、容赦なく奥を突き上げられた。
「──ッ……あ、あッ……!!」
息が止まりそうになる。
焼けるような圧迫感。奥を満たされていく生々しい感触に、全身が跳ねた。
そのまま雪也の唇が蓮の唇を塞いでくる。舌が、甘く、深く、容赦なく絡んでくる。
「ッ───!!?」
それはまるで、魂ごと吸い取られていくような口づけだった。
「ッああ……心地、いい、ね……」
唇を離した後の恍惚とする雪也の言葉の通り、奥を抉られるたび、骨の奥から震えるような快感が蓮を突き上げる。
「……!?やっ……やぁッ、ああっ!」
口では否定しているのに、身体は明確に反応していた。
雪也の動きに合わせて奥が締まり、擦れ合うたびに、熱い疼きが増していく。
「……っ!?あ、!?…ッもう、なんで、……まだッ、も、いいのに……ッ、なんで」
「だって、蓮の“中”が、僕を求めてるんだよ。ずっと、ずっと……」
雪也の声は優しく、そして何よりも甘かった。
毒みたいに、じわじわと心の奥を侵していく声。
(──嘘!?……どうして、止まらないの?)
穿たれる度、疼きが増していく。
腰が無意識に雪也の動きに合わせてしまう。
「だめ」と「もっと」が、心の中でぐちゃぐちゃに混ざって、意味を失っていく。
「あっ、あ、ああ……ッ、いや、……だめッ! やぁ……っ!!」
感覚の波が、繰り返し押し寄せては全身を攫っていく。
雪也の名前を呼びそうになるたび、舌を噛みそうになる。
けれど──。
「蓮……分かる?君の中、こんなにもきれいに僕を咥えてる」
そう囁かれた瞬間、ふいに何かが決壊した。
「ひぁっ……あ、あッ……!!やぁ……っ、も、やだ、っ──!!」
瞬間、視界が弾ける。
全身が痙攣し、奥で雪也を締め上げる感覚に呑まれる。
痛い程の快楽の波が一気に押し寄せ、蓮は身体を震わせながら絶頂を迎えた。
もう、何も考えられなかった。
涙が零れても、声が震えても、蓮にはどうすることもできなかった。
そして、最後の波が蓮をさらっていった時、無意識のうちに呟いてしまった。
「…………雪、也、さ……ん……っ……」
一瞬、雪也の動きが止まる。
蓮自身も、自分の口からその名が零れたことに気づいた途端、肩を震わせて声を塞いだ。
(……なんで……っ)
だが、もう遅かった。
雪也は微笑みながら、まるで宝物のように蓮を抱きしめ、その髪を撫でる。
「……ああ、僕はここだよ。……蓮」
雪也の低く甘い声が、耳の奥を焼いた。
それだけで、蓮の身体はまた僅かに熱を持って反応してしまう。
(……なんで、まだ……)
息を整えられないまま、蓮はぐったりと雪也の腕の中に崩れた。
しばらくの静寂。
けれど──
「……もう一度、いい?」
「……っ……え……?」
蓮の目が、微かに見開かれる。
「駄目……かな?」
穏やかな声。けれど、どこか飢えを滲ませたその響き。
抱いてなお満たされない、雪也の奥底の“何か”が、蓮の身体に再び伸びてくるのを感じる。
「……ッや……もう、む、無理……っ、俺……っ」
「大丈夫。……蓮なら、まだいけるよ」
囁きとともに、再び雪也の手が蓮の脚を撫でた。
既に何度も絶頂を迎え、敏感になりすぎた蓮の身体は、びくんと震えた。
(いやだ、やめて、……でも……)
疼く。
熱い。
身体の奥底が、まるで雪也の熱を求めるように、疼いている。
(……どうして、……こんな……っ)
たった今まで、耐え難いほどの快感を受けていたというのに。
もう既に──
身体が、雪也を“待っている”。
数日前まではごく普通の、自分の身体だったのに。
いつの間にかこんなにも変わってしまった。
この男に、得体の知れないものに変えられていく。
その恐怖に蓮は慄いた。
雪也のそれが再びあてがわれ、沈み込んでくる瞬間、蓮の意識はまた白く染まった。
気づけば世界は闇の中だった。
今世の中は何時なんだろうか。
雪也の隣で、蓮はベッドにうつ伏せていた。
焦点の合わない目。
口も開かず、動こうともしない身体。
ただ、汗に濡れた自分の肌の熱と、全身の奥に残る脈打つような感触だけが、現実だった。
(……何で、俺……今、ここに居るの……)
自分が何を言ったか、どうして受け入れてしまったのか、思い出そうとしても霞がかかっている。
ただ雪也の名前だけが、喉の奥に焼き付いたまま、離れない。
雪也が、背中に転々と唇を落とし、最後に耳朶をやわらかく食むように口付ける感触がした。
「……な、んで……俺なんですか……」
ぽつりとこぼした声に、雪也は止まる。シーツに顔を埋めたままの蓮に、彼はそっと囁いた。
「初めて君を見た時から感じたんだ」
雪也の指が、蓮の背中に浮いた汗を辿る。
「僕には君しかいないって。……君が……君だけが僕を救ってくれるんだ」
——救う。
誰が?誰を?
その言葉の意味を測りかねる間に、意識が急速に闇に解けていく。
雪也の声に何も答えられないまま、蓮はまた静かに目を閉じた。
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