ひだまりを求めて

空野セピ

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第一章 穏やかな日常

キノコ仕分け

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「マッド君、いらっしゃい」

 アミルは柔らかく微笑むと、水で濡れた手を拭きながら玄関まで歩いて来た。 
 ほのかに香ばしい匂いがマッドのお腹を鳴らし、マッドは苦笑しながらお腹に手を当てる。 
「よっ、アミルさん。何かすげえ良い匂いがするんだけど?」

「ふふ、今、ルグート牛の甘辛煮を作っているのよ。後はウマイダケを入れて煮込めば完成なの。仕分けをお願い出来るかしら?」

「ああ。直ぐに分けてやるよ」

 マッドの言葉に、アミルは嬉しそうに微笑んだ。 
 ルチアに背中を押されながら家の中に入り、台所へと向かう。 
 入った途端、玄関先まで漂っていた匂いが更に強くなり、マッドのお腹は更に大きな音で鳴った。 

「あははは! マッド兄ちゃんのお腹すげー鳴った!」

「うるせーな! まだ昼飯食べて無いんだから仕方無いだろ!」

「あら、まだお昼食べて無いの? 折角だし、食べて行かない?」

アミルが微笑みながら話すと、マッドは手をヒラヒラさせながら首を横に振った。

「いや、ティミーの所で食べるから良いよ。昼飯誘われてるんだ」

「あら、そうなの? 何時もキノコの仕分けしてもらってるからお礼にと思ったのだけど……」

「大丈夫だって。その分、家族で沢山食べれば良いだろ」

 マッドの言葉に、アミルは残念そうな表情をした。 

「まあ残念……。でも、食べたくなったらいつでも言ってね」

「ん、サンキュ。じゃあ、茸分けるから」

 マッドは軽く微笑むと、テーブルの上に置かれた沢山の茸の山を見た。
 傘の色がクリーム色で、赤色の斑が所々にある茸を、マッドは二つのお皿に分けていった。 
 この茸は「ウマイダケ」と呼ばれていて、赤色の斑が特徴の茸だが、斑の大きさが大きいものと小さいものの二種類ある。 
 しかしその大きさの違いは僅かであり、斑が小さいものは「ドクイリダケ」と呼ばれていて、食べると猛毒が体を巡ってしまい、大変危険な茸でもある。
 見た目は殆ど同じであり、僅かな斑の違いと匂いで見分けるしか方法は無く、見分けるにはそれ相応の視力と嗅覚、知力が必要とされている為、茸が大好きなマッドは茸を採ってきた村人から度々茸の仕分けを頼まれていた。
 この茸を仕分け出来るのはルグート村ではマッドしか居ない為、茸仕分け人と呼ばれる程だった。 
 数分経ち、テーブルの上にあった茸の山は、マッドによって二つのお皿に分けられていく。 
 マッドは小さく息を吐き、ウマイダケが乗ったお皿をアミルに差し出した。

「終わったぜ。今回はドクイリダケが大半あったな」

「ありがとうマッド君。それでも、ウマイダケがこれだけあれば充分よ。これで美味しいキノコライスが作れるわ」

 アミルは微笑むと、小さな袋をマッドに差し出した。 
 それを見るなり、マッドは小さく首を横に振る。

「悪いなアミルさん。ニルは貰わないぜ?」

「駄目よ。今日こそ貰って頂戴。いつもこっちがお願いしているんだから」

「気持ちだけで良いっての。どうせ金なんて使わないし、困ってもいないからいらねぇよ」

 ニルとはこの世界の通貨で、一定の金額によって通貨のデザインが異なり、アミルが握る袋の中に入っているものは銅で出来たものだった。
 アミルは無理矢理マッドに袋を押し付けるも、マッドはヒラリとかわし玄関へと向かった。

「良いから取っとけって。じゃあ、またな」

「ちょっと、マッド君!」

「マッドお兄ちゃん、帰っちゃうの?」

 腰に軽い衝撃を感じ、振り返るとルチアが不満げな表情を浮かべながらマッドの腰にしがみついていた。
 隣にいたアクスも、不満げな表情を浮かべ、頬を膨らましている。そんな二人の表情にマッドは苦笑した。

「そんな顔すんなって、また遊んでやるから」

「むー、約束だからね」

「マッド君、ありがとうね。次こそお礼させて貰うわよ。またいつでもお家に来てね」

「おう、邪魔したな」

 アミルは笑顔で玄関まで見送ると、マッドはアクスとルチアの頭を軽く撫で、足早に家を後にした。
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