ひだまりを求めて

空野セピ

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第七章 届かない声

傷付く仲間

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 ティミーの悲痛な叫び声が辺りに広がり、辺りの町民はティミー達に視線を向ける。
 その声はヴェイトに合流しようと近付いていたベルス達にも伝わり、ベルスとヴェノルは微かに眉を潜めた。

「おいヴェノル、今の声って髪の長い女か?」
「ティミーの事? 間違い無いと思う! 何かあったのかな」
「確実にあっただろうな。風と一緒に血の匂いが流れて来てるぜ」

 ベルスとヴェノルは走る速度を早めて、ティミーの声がした方へと向かう。
 その速さにプリムは何とか着いていくものの、息を切らして二人と段々距離が離れていってしまい、やがて立ち止まってしまった。

「はぁ、はぁ......二人共、何でそんなに速いんですか......」
「おせーぞプリム! テメェはその辺で伸びてろ!」
「そ、そんな事言わないで下さいよベルス中将! わっ!?」

 プリムが反論しながら再び走り出そうとすると、足元になにかが引っ掛かり、その場で躓いてしまい顔面から地面に転んでしまった。
 
「いったたた......もう、何なんですか......」

 涙目になりながらも足元を見ると、そこには一本の剣にヌンチャクが絡まっていている状態で落ちていて、プリムは顔を片手で押さえながらもゆっくりと剣とヌンチャクを見詰めていく。
 剣には血が付着していて、ヌンチャクの鎖部分が刃の部分に絡まっている状態だった。
 この二つの武器にプリムは見覚えがあり、思わず息を飲む。

「これって、まさかマッドさんとウォックさんの......?」

 プリムは何とか立ち上がり、剣とヌンチャクを持ち上げ、再び走り出そうとする。
 しかし、剣もヌンチャクも重量があり、とてもじゃ無いが二つを抱えて走るのは、体力が限界なプリムには困難だった。

「ちょ、待って......」

 それでもプリムは走ろうとした時、不意に肩を誰かに掴まれて思わずプリムは振り返る。

「おいプリム、どうしたんだこんな所で」

 肩を掴んだのはヴェイトだったようで、プリムはホッとしたのか、小さく息を吐いた。

「ヴェイト大佐! 良かった......。それより、なんか有ったんですか? サソリは......」
「サソリならもう倒した。だが、ティミーの声が聞こえたから急いで向かっていたんだが......何か分かるか?」

 ヴェイトはプリムに尋ねると、プリムは手に持っていた剣とヌンチャクを見せて、不安そうにヴェイトを見上げる。

「これ、マッドさんとウォックさんの武器ですよね? マッドさんの剣には血が付着してますし、どうしてかウォックさんのヌンチャクがマッドさんの剣に絡まっていたんです。それに、ティミーさんの叫び声が聞こえて」
「......この血は」

 ヴェイトは眉を潜め、マッドの剣に付着した血を見詰める。
 サソリの血は、確か紫色だった筈だ。
 ヴェイトは先程マッドがサソリを斬ったのを確実に見ていた。
 その時に付着するのであれば、紫色の体液の筈だ。
 しかし、この血はどう見ても赤く、まだ水分もあって新しい。

 何よりも、赤い血は何度も見てきた。
 軍医としても、軍人としても。

「......まさか、あいつらに何かあったのか?」

 ヴェイトは顔色を変えると、マッドとウォックの武器を拾い、プリムを立たせてベルス達が走って行った方向を見つめる。
 
「プリム、急ぐぞ。走れるか?」
「ま、また走るんですか?」
「急がないと。彼奴らに何かあったのかもしれない。それに、嫌な予感がする」

 風が強く吹き、ヴェイトは顔をしかめながらも先を見据える。
 このままだと、とんでもない事が起こりそうな予感がする。
 プリムも何とか立ち上がり、二人は地面を蹴り、走り出した。


「マッド、ウォック、しっかりして!」
 
 ティミーは何度もマッドとウォックの名前を呼び、心配そうに二人を見詰めていた。
 マッドは大量の汗を流し苦しそうにしていて、ウォックは左脇腹から大量の血が出ている状態で、どちらも意識は混沌しているようだ。
 治癒陽術を使えないティミーは何も出来ず、手に持っていたタオルでウォックの傷口を強く押し当てる事しか出来なかった。

 ウォックが微かに目を開くと、ティミーを見上げ、小さく唸りながらも何とか起き上がろうとする。

「ウォック! 駄目、動いたら傷口が」
「逃げ、ろ、ティミー。まだマッドは......」

 ヌンチャクを握りながら起き上がろうとするウォックだが、傷口が痛むのか直ぐに地面に倒れ込み、右手で傷口を押さえ付けた。
 しかし、血はどんどん流れていて、視界が霞む中、視線はマッドに向けている。
 ティミーも追うようにマッドを見ると、ゆっくりと起き上がり、右手で勢い良くティミーの胸倉を掴み上げた。

「きゃっ......!」

 突然の事にティミーは驚き悲鳴を上げるも、そのままマッドはティミーを押し倒して馬乗りになり、首を絞めようとティミーの細い首に両手を伸ばした。
 体重を掛けられているせいで起き上がる事が出来ず、ティミーは思わず脚をジタバタさせるも、無駄な抵抗で終わってしまった。

「やっ、マッド、やめてっ......!」

 マッドの手がティミーの首を掴み、段々と力を入れていく。
 しかしその手は熱く震えていて、思わずティミーは思わずマッドを見上げた。

「マッ、ド......?」

 マッドの表情を見た瞬間、ティミーは息を呑んだ。

「どう、して──」

 ティミーの目から涙が溢れ出た瞬間、凄まじい風が吹き、巻き起こった砂嵐で視界が見えなくなっていく。
 同時に、身体に感じていた重さが無くなり、ティミーは思わず身体を起こし、辺りを見回した。
 しかし、巻き起こる砂嵐で何も見えず、ティミーは目を細めながらも何とか先を見ようとしていた。
 
 やがて視界が少しずつ晴れると、マッドは少し離れた所に倒れ込み、即座に起き上がろうとしている。
 それを何者かが押さえ込み、マッドは地面に張り付けられてしまった。

「マッド!」

 ティミーが駆け寄ろうとすると、青緑の髪の軍人がマッドの左肩を踏みつけ、マッドの身体を跨ぐようにして銃を額に突き付けていた。
 血のように赤い瞳を細めて、足に力を入れて押さえ込む軍人──いや、軍医のベルスだ。

「ベルス、さん」
「おいおい何だよこの騒ぎはよ?」

 ベルスは銃のトリガーをカチャリと音を立ててマッドの額に銃口を押し付ける。
 その様子を見たティミーは思わず声を上げ、ベルスの足を掴んだ。

「何するんですか! マッドから離れて下さい!」
「あぁ!? テメェ、コイツ今テメェの事殺そうとしていただろうが! ヴェノルに頼まれて止めてやったんだから感謝位しろっつーの!」
「止め方が酷過ぎます! マッドだって怪我しているんですよ!」

 ティミーは必死にベルスの足を掴むも、ベルスはそれを軽く振り解き、空いている左手で軍刀を抜き、ティミーの額に剣先を当てた。
 その表情はとても冷ややかで、殺意すら感じ、ティミーは思わず息を呑む。

「散々暴れておいて仲間を傷付けてんのにコイツを助ける意味があんのか? 仲間も認識出来ねぇようなガキをよ」
「そっ、それは、マッドの様子が急におかしくなっちゃって、それでウォックが」
「テメェが弱いからウォックも大怪我したんだろう? 何も出来ねぇ癖に、弱い奴がイキがって出しゃばるなよ」

 ベルスは足に力を込め、更にマッドを地面に押さえ込むと、ニヤリと笑い銃のトリガーに力を込めた。

「なぁ? このガキぶっ殺しても良いよなぁ? 放置していてもテメェらやこの街の住民に害を出すだけだろう?」
「駄目っ、止めて下さい!!」
「ベルス、止めろ!!」

 ティミーの叫び声と同時に、ティミーの後ろから声が聞こえた。

「ヴェイト、さん......」

 ベルス達の後を追ってきたヴェイトが到着し、真剣な表情でベルスを睨み付け、ヴェイトはベルスに銃を向けた。

 
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