ひだまりを求めて

空野セピ

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第七章 届かない声

助けたい想い

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「ティミー......」

 マッドは重い瞼を開き、視界に入るティミーの顔をぼんやりと見上げた。
 
「......此処、は」

 視界には青空とティミーの顔が入り、先程までいた暗闇の中では無い、と判断した。
 しかし状況が把握しきれず、マッドは起きあがろうとするも、身体が重く起き上がる事は叶わなかった。
 何より、起き上がる事をティミーが止めるようにして、マッドに思い切り抱きついてきたのだ。

「マッド! 良かった......目を覚ましてくれた......っ」
 
 ティミーは涙をポロポロと流しながら、マッドの胸に顔を埋めて何度も泣き声をあげた。
 ティミーの泣いている表情に心臓がグッと掴まれる感覚が走り、マッドは視線を逸らす。

「ティミー、俺......俺は」
「マッド......良いの......良いんだよ」

 ティミーは顔を上げると、マッドの右手を強く握り、その手を自分の頬に当てた。
 
 生きている。
 普通の体温では無いが、こうして暖かさを感じ取る事が出来る。
 ティミーはホッとしたのか、再び涙が溢れ出し、何度も生きている事を確認するかのように手を握ったり離したりした。
 その様子を見ながら、マッドは左腕で自分の目元を覆い、深く息を吐く。

「......ティミー。俺、お前とウォックを傷付けちまった」
「違うよ、そんな事......ううん、そうかもしれないけど、それは......」

 ティミーは言葉を続けようとしたが、喉がギュッとする感覚を覚え、言葉を詰まらせた。
 先程の事を思い返すと、言葉が続かない。

 マッドの意思じゃない、と素直に言いたいのに。
 それが直ぐ言えないのは──。

「......怖かっただろ? あんな狂ったように襲い掛かってきてさ」
「ち、違うよ......そんなんじゃ無い! だって、マッドはあの時......」

 ティミーが話している最中に、マッドはティミーに握られていた右手を振り解くと、その手をダランと地面につけ、左手で目元を隠しながら歯を食いしばった。

「違くねぇよ......お前の首、締めようとしていただろ」
「......マッド! 聞いてよ!」

 ティミーはマッドの左腕を退けて、無理矢理マッドの視線を自分に向けさせた。

「あれはマッドの本当の意思じゃないって分かってる! だってマッドは、苦しんでいたもの! 私の首を絞めている時だって、泣いていたじゃない! それは、自分の意思とは正反対だったからでしょう!?」

 ティミーの言葉にマッドは目を見開き、ティミーを見上げる。
 ティミーは再び涙を浮かべ、その涙はマッドの頬にポタポタと落ち、マッドは何とも言えない気持ちになった。

「......ティミー、泣かないでくれ......俺が、悪かったから」
「悪くない! マッドは悪くない......誰も、悪く無いよ......」
「......分かった、から......泣くなって。お前の泣いた顔なんて......俺だってもう、見たくねぇ......よ......」

 ティミーが泣いている姿に釣られて、マッドは目頭が熱くなるのを感じ、再び顔を隠そうとする。
 すると全身から力が抜ける感覚を感じ、マッドは喋りながら気を失ってしまった。

「マッド......!? マッド!!」

 ティミーは焦りながら叫び、その状態を見たヴェイトは術を止めると、銃を下ろしマッドの前髪をかき上げ、おでこに手を当てる。

「熱が下がらないな。解毒はある程度出来た筈だが、この状態だと此処での治療は難しい。軍に戻って治療するぞ」
「は、はい......」
「どの道ウォックもあの怪我だと直ぐに治療しないと危険だ。移動陽術で軍本部に戻れるから。急ぐぞ」
「......はい」

 ティミーは俯き、泣きそうになるのを堪えるようにスカートをギュッと強く握った。
 その手は震えていて、表情が隠れているとは言え、今にも涙が溢れそうになっているのはヴェイト自身も目に見えて分かっていた。
 このままの状態では危険だと判断したヴェイトはマッドを背負い、ゆっくりと立ち上がる。
 表情を見られないようにしながら、ティミーはヴェイトの後に着いていこうと歩き出した。

「......心配なの、分かるよ。でも大丈夫。マッドは必ず助けるから」
「......ヴェイトさん」
「ん?」

 ティミーは堪えきれなかった涙を流しながら、ヴェイトの左腕をギュッと掴み、顔を上げる。

「絶対に助けて下さい......約束、して下さい」

 涙をポロポロと溢れさせながら不安そうに見上げるティミーに、ヴェイトは何とも言えない表情をする。

「......分かってるよ」

 ヴェイトはしっかりとマットを背負い、移動陽術の術式がある場所までティミーと共にゆっくりと歩いて行った。

 



「ベルス! 早く早く!」

 一方ベルスは、ヴェノルに連れられてウォックの元へと駆け付け、到着した所だ。
 様子を伺うと、プリムがタオルで必死にウォックの左脇腹を押さえていて、何度もウォックの名前を叫んでいた。

「ウォックさん、しっかりしてください! あっ、ベルス中将!」

 意識が朦朧としているのか、何度呼び掛けても反応が無く、プリムは焦りながらも駆け付けたベルスを見上げる。

「こりゃひでぇな。ほら、どけプリム」

 ベルスは急いで止血しようとウォックの左脇腹に右手を当てると、右手から緑色の光が溢れ出した。 
 聖属性の医療陽術だろう。
 段々と流れ出る血の量が減っていくのが分かり、ウォックの呼吸も安定して来る。
 しかし、流れ出た血の量にベルスは小さく舌打ちした。

「こりゃ完全に手術しねぇとダメだな。この出血量だと内臓幾つかやられてるぜ」
「ベルス、ウォック、助かる?」

 ヴェノルは不安そうに見上げながら、ベルスに尋ねる。
 ベルスは小さく息を吐くと、手についたウォックの血を拭き取り、右手でウォックを担ぎ上げゆっくりと立ち上がった。

「大丈夫だっての。俺を誰だと思ってんだ? 泣く子も黙るベルトアの軍医だぜ?」
「泣かせてる、の間違いじゃ......ふにゃ!!」

 プリムがボソッと呟くと、ベルスの鉄拳がプリムの頭に当たり、プリムは思わず頭を押さえつつ涙目でベルスを睨みつけた。

「何するんですかベルス中将!」
「聞こえてんだよチビ。ヴェノル、テメェはアイツらの武器を持て。急いで軍本部に戻るぞ」
「はぁい! ほら行こうプリム! 早く早く!」
「え、ちょっと待って下さい、まさか走るんじゃ......」
「こっちはコイツの命預かってんだぞ、早くしろ! 全力で走れ!」
「あぁぁ~! やっぱりまた走るんですね!!」

 この二人に関わると、何故か全力で走らされると感じつつも、確かに良くない状況だ。
 
「術で痛みも暫く感じねぇだろ。早く行くぞ、遅れるなよプリム」
「分かってますってば」

 ベルス達も準備が整い、移動陽術の式陣がある場所に向けて走り出す。
 走りながら、プリムはふと、マッドは達の事が気掛かりになっていた。

「ベルス中将、あの、マッドさんとティミーさんは大丈夫だったんですか?」
「あぁ? 知らねーよあんな奴ら」
「あんな奴らって」

 ベルスは吐き捨てる様に言葉を吐くと、小さく舌打ちをした。

「自我が保てない時点で弱い。そんなんじゃ、いずれ己自身に飲み込まれて取り返しのつかねぇ事をやらかす。それを分かってねぇんだよあのガキ達は」
「取り返しの、つかない事......」

 ベルスは空を見上げながら、小さく呟いた。

「アイツらも、いずれそれが分かる。それで後悔もするだろうよ。この想いが、精霊達にも影響する事だろうとな」

 ベルスが走った後を追うように走ると、何処か冷たい風を感じた。

 彼等は風と共に走り行く。
 傷付いた者達を助ける為に。
 
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