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第1話 八度目の朝(二)
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オリヴィアは、指を組み、額に当てる。
七回分の記憶は、七回分の記憶は、すべて頭の中に刻まれている。社交界の力関係、クラウスの側近の名前と顔、関係する人物たちの行動パターン、そして毒の種類。証拠を集めることも、クラウスを追い詰めることも、理論上は可能だ。
しかし、頭の中の知識だけでは足りない。一人で動いても、結局すぐに居場所を掴まれ、殺される。
必要なのは――味方。
権力をもち、クラウスの敵となりうる立場にいて、決してオリヴィアを裏切らない人物。
(七回の過去を、最初から見直すのよ。どの周回でも私の死に関わっていない人物はいなかったか)
オリヴィアは目を閉じ、一回目から七回目までの自らの人生を、頭の中ですべて思い起こしてみる。
共通点は、間接的であっても、毎回クラウスに殺されていること。
相違点は――。
(あった。)
オリヴィアの記憶が、とある一つの場面で止まる。
七回目、“豊穣の夜会”。
六回目までオリヴィアは“豊穣の夜会”前に殺されていたが、最も長く生存できた七回目だけはこの夜会に参加することができた。
秋の実りを神に感謝する“豊穣の夜会”では、王宮大広間にて盛大な舞踏会が催される。ここに、過去六回の周回では一度も姿を見せなかった人物が現れた。
レイモンド・ヴァルトシュタイン侯爵。
北方の辺境を治める、社交嫌いで有名な当主だ。その地の気候と、本人の振る舞いから「氷の侯爵」とも呼ばれている。王都にはほとんど来ず、貴族会議の最低限の出席義務を果たす以外は、北方に引きこもっている――というのが、社交界での認識だった。
その男が、“豊穣の夜会”に参加していた。オリヴィアが何か働きかけたわけではない。レイモンド自身の判断で、あの夜会に来ていた。ずっと“貴族が集まる社交場”は避けていたはずなのに。
(なぜ?)
オリヴィアの脳裏に、レイモンドの姿が浮かんだ。
壁に背を預け、腕を組み、藍色の目で広間を俯瞰していた黒髪の男。オリヴィアとは一度も目を合わせなかった。話もしなかった。
だが、クラウスの動きを追っている目だけは、はっきり覚えている。
あれは、何かを探っている人間の目つきだった。
(レイモンド・ヴァルトシュタイン、北方侯爵、クラウスとの接点は……。)
頭の中で、点と点を結んでいく。
五回目に情報収集している最中、クラウスが隣国のラグナール帝国の特使と密会しているという噂を耳にしたことがあった。六回目では、その密会の場に潜り込み、クラウスの側近が「北方」「割譲」という言葉を口にしているのを聞いた。
レイモンドが治めるヴァルトシュタイン侯爵領は、ラグナール帝国との緩衝地帯に位置する。
(もしクラウスが、見返りとしてラグナール帝国に北方領の割譲を約束しているとしたら……それはヴァルトシュタイン卿にとって、自分の領土を他国に勝手に売られるのも同然の話。もしかして、どこかで卿も、クラウスの内通を知ったのでは? 何かを掴んでいる?)
(クラウスが見返りとしてラグナール帝国に“北方領の割譲”を盛り込んでいるとしたら……ヴァルトシュタイン卿に
オリヴィアは寝台から降り、鏡台の前に立った。
銀灰色の髪。薄い青灰色の目。一見すると、昨日と同じ十九歳の伯爵令嬢だ。
しかし、目の奥に宿る光は、初回の自分とはまるで違う。
七度死んだ女の、決意の眼差しだ。
(八回目――今度は一人で戦わない)
権力をもち、クラウスの敵となりうる立場にいて、決してオリヴィアを裏切らない人物。
レイモンド・ヴァルトシュタイン侯爵――共闘関係になれるのは、彼しかいない。
七回分の記憶は、七回分の記憶は、すべて頭の中に刻まれている。社交界の力関係、クラウスの側近の名前と顔、関係する人物たちの行動パターン、そして毒の種類。証拠を集めることも、クラウスを追い詰めることも、理論上は可能だ。
しかし、頭の中の知識だけでは足りない。一人で動いても、結局すぐに居場所を掴まれ、殺される。
必要なのは――味方。
権力をもち、クラウスの敵となりうる立場にいて、決してオリヴィアを裏切らない人物。
(七回の過去を、最初から見直すのよ。どの周回でも私の死に関わっていない人物はいなかったか)
オリヴィアは目を閉じ、一回目から七回目までの自らの人生を、頭の中ですべて思い起こしてみる。
共通点は、間接的であっても、毎回クラウスに殺されていること。
相違点は――。
(あった。)
オリヴィアの記憶が、とある一つの場面で止まる。
七回目、“豊穣の夜会”。
六回目までオリヴィアは“豊穣の夜会”前に殺されていたが、最も長く生存できた七回目だけはこの夜会に参加することができた。
秋の実りを神に感謝する“豊穣の夜会”では、王宮大広間にて盛大な舞踏会が催される。ここに、過去六回の周回では一度も姿を見せなかった人物が現れた。
レイモンド・ヴァルトシュタイン侯爵。
北方の辺境を治める、社交嫌いで有名な当主だ。その地の気候と、本人の振る舞いから「氷の侯爵」とも呼ばれている。王都にはほとんど来ず、貴族会議の最低限の出席義務を果たす以外は、北方に引きこもっている――というのが、社交界での認識だった。
その男が、“豊穣の夜会”に参加していた。オリヴィアが何か働きかけたわけではない。レイモンド自身の判断で、あの夜会に来ていた。ずっと“貴族が集まる社交場”は避けていたはずなのに。
(なぜ?)
オリヴィアの脳裏に、レイモンドの姿が浮かんだ。
壁に背を預け、腕を組み、藍色の目で広間を俯瞰していた黒髪の男。オリヴィアとは一度も目を合わせなかった。話もしなかった。
だが、クラウスの動きを追っている目だけは、はっきり覚えている。
あれは、何かを探っている人間の目つきだった。
(レイモンド・ヴァルトシュタイン、北方侯爵、クラウスとの接点は……。)
頭の中で、点と点を結んでいく。
五回目に情報収集している最中、クラウスが隣国のラグナール帝国の特使と密会しているという噂を耳にしたことがあった。六回目では、その密会の場に潜り込み、クラウスの側近が「北方」「割譲」という言葉を口にしているのを聞いた。
レイモンドが治めるヴァルトシュタイン侯爵領は、ラグナール帝国との緩衝地帯に位置する。
(もしクラウスが、見返りとしてラグナール帝国に北方領の割譲を約束しているとしたら……それはヴァルトシュタイン卿にとって、自分の領土を他国に勝手に売られるのも同然の話。もしかして、どこかで卿も、クラウスの内通を知ったのでは? 何かを掴んでいる?)
(クラウスが見返りとしてラグナール帝国に“北方領の割譲”を盛り込んでいるとしたら……ヴァルトシュタイン卿に
オリヴィアは寝台から降り、鏡台の前に立った。
銀灰色の髪。薄い青灰色の目。一見すると、昨日と同じ十九歳の伯爵令嬢だ。
しかし、目の奥に宿る光は、初回の自分とはまるで違う。
七度死んだ女の、決意の眼差しだ。
(八回目――今度は一人で戦わない)
権力をもち、クラウスの敵となりうる立場にいて、決してオリヴィアを裏切らない人物。
レイモンド・ヴァルトシュタイン侯爵――共闘関係になれるのは、彼しかいない。
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