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第19話 「終わりの形」
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中学卒業式の日は、冬の終わりの冷たい青が澄んでいた。光だけが春みたいに眩しい。その眩しさが、全部を祝っているみたいで、私は少しだけ息が詰まった。拍手も、礼も、歌も、同じリズムで並ぶスリッパの音も、全部が『ちゃんと』していた。
夕紀は、全員出席の式には出ないと聞いていた。私はそれを聞いた時、胸のどこかが勝手に安心していた。
『出ない』は、夕紀が生き残るための選択で、私は夕紀がいないことで息ができる。夕紀の存在を感じると、夕紀のことを考えると、息が詰まってしまうようになっていた。それなのに、それでも、『出ない』という事実が、私に『置き去り』を突きつける。
卒業式が終わって、教室に戻る途中、ポケットの中のスマホが震えた。
通知に、夕紀のSNSのサムネと短い文――『卒業おめでとう』
そのたった一行が、私の胸を切って、息が詰まる。『おめでとう』と言われたくて、でも言われたくなかった。祝われる資格がない気がする。私は画面を開けなかった。既読がついた瞬間に、夕紀と私の世界が動く気がした。動かしたくない。私が逃げるために、動かしたくなかった。
そのまま、私はスマホの電源を切って、ポケットに戻した。
最後のホームルームが終わると、教室ににぎやかさが戻ってくる。最初は、担任を囲んで写真を撮り、その後思い思いに教室や廊下で写真を撮り始める。
重なるシャッター音。
「こっち向いて!」
「笑って!」
――そうだ、卒業式は笑う日だ。笑うことで、終わりを終わりにする日だ。
笑顔の私と卒業証書が、何枚もの写真に納まった。
帰り道。グラウンドの隅に早咲きの桜――河津桜が咲いているのが目に留まった。凛と咲くピンクの花は、冬と春の境目の色のようだった。淡いのに、強くて、寒さの中で咲く。でも、その強さが、誰にも見えない。
(夕紀も、あの花みたいだ)
手元のスイートピーの花束が、私の動きに合わせて揺れ、そのたびに優しい甘い香りを放つ。
私は、ポケットの上から、電源を切ったスマホを握り、呟いた。
「夕紀、ごめん」
――私は見ない。見たら、既読をつけたくなる。既読をつけたら、返したくなる。返したら、夕紀と私の世界がまた揺れる。
――夕紀の世界を揺らしたくない。
夕紀の世界を揺らしたくない、という言い訳で、私は夕紀を遮った。そして、遮ることで、私は息を保つことができている。
それなのに、卒業式は終わりなはずなのに、私にとっては、まだ終わっていない日の続きのようだった。
夕紀は、全員出席の式には出ないと聞いていた。私はそれを聞いた時、胸のどこかが勝手に安心していた。
『出ない』は、夕紀が生き残るための選択で、私は夕紀がいないことで息ができる。夕紀の存在を感じると、夕紀のことを考えると、息が詰まってしまうようになっていた。それなのに、それでも、『出ない』という事実が、私に『置き去り』を突きつける。
卒業式が終わって、教室に戻る途中、ポケットの中のスマホが震えた。
通知に、夕紀のSNSのサムネと短い文――『卒業おめでとう』
そのたった一行が、私の胸を切って、息が詰まる。『おめでとう』と言われたくて、でも言われたくなかった。祝われる資格がない気がする。私は画面を開けなかった。既読がついた瞬間に、夕紀と私の世界が動く気がした。動かしたくない。私が逃げるために、動かしたくなかった。
そのまま、私はスマホの電源を切って、ポケットに戻した。
最後のホームルームが終わると、教室ににぎやかさが戻ってくる。最初は、担任を囲んで写真を撮り、その後思い思いに教室や廊下で写真を撮り始める。
重なるシャッター音。
「こっち向いて!」
「笑って!」
――そうだ、卒業式は笑う日だ。笑うことで、終わりを終わりにする日だ。
笑顔の私と卒業証書が、何枚もの写真に納まった。
帰り道。グラウンドの隅に早咲きの桜――河津桜が咲いているのが目に留まった。凛と咲くピンクの花は、冬と春の境目の色のようだった。淡いのに、強くて、寒さの中で咲く。でも、その強さが、誰にも見えない。
(夕紀も、あの花みたいだ)
手元のスイートピーの花束が、私の動きに合わせて揺れ、そのたびに優しい甘い香りを放つ。
私は、ポケットの上から、電源を切ったスマホを握り、呟いた。
「夕紀、ごめん」
――私は見ない。見たら、既読をつけたくなる。既読をつけたら、返したくなる。返したら、夕紀と私の世界がまた揺れる。
――夕紀の世界を揺らしたくない。
夕紀の世界を揺らしたくない、という言い訳で、私は夕紀を遮った。そして、遮ることで、私は息を保つことができている。
それなのに、卒業式は終わりなはずなのに、私にとっては、まだ終わっていない日の続きのようだった。
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