夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!

山科ひさき

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リーナの夢

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 気がつくと、大量のおもちゃが散らばっているだだっ広い場所にいた。人形に、ぬいぐるみに、積み木に、イミテーションのネックレス。
 ここは──リーナの夢なのかしら。
 床に広がるおもちゃを踏まないように、人影を探しながら歩いていくと、しばらくして座り込んで人形を着せ替えている金髪の幼い少女を見つけた。

「リーナ」

 声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り向く。「誰?」と顔に書いてあるようだ。けれど、怪訝そうにこちらをじっと見ていた彼女は、急にハッとしたような表情になった。そして恐る恐る口を開く。

「もしかして……お母様?」
「まあ。私のことがわかるの?」

 私はリーナがまだ赤ん坊の時に死んでしまったから、彼女に気づいてもらえるとは全く期待していなかった。だから彼女が私の顔を見ただけで正体を言い当てたことに少し驚いてしまう。

「肖像画で毎日見ていたから……。あなたは絵の中のお母様にそっくりなんだもの。本当に、お母様なの?」
「ふふ、そうよ。今日は特別に、お空の上からあなたに会いに来たの」

 そう言って微笑むと、彼女は急に立ち上がって私の方に走りより、ぎゅっと抱きついてきた。驚いたが、小さな体を優しく抱きしめ返す。

「お母様! ずっとお会いしたかった」
「まあ……! 嬉しいわ。私もあなたにずっと会いたかった。あなたと過ごせた時間はとても短かったから」

 それからしばらく抱きしめ合っていたけれど、やがて私はリーナにそっと声をかけた。

「ねえ、家族とは仲良くやっている? お父様とか……アメリアとは」
「お父様は、優しいわ。お姉様は……あまり好きではないの。だって、ずるいんだもの」

 そう答えながらも、リーナは私と目を合わせようとはせずさらに強く私に抱きついていた。
 私は彼女の頭を撫でながら聞き返す。

「ずるいっていうのは、どうして?」
「だって、私はお母様のことを何一つ覚えていないのに、お姉様はお母様と過ごした思い出がたくさんあって。私なんて、お父様から聞いてお母様のことを知るしかできないのに」
「まあ」

 リーナがそんなことを考えていただなんて、ずっと見ていたのに全然分からなかった。アメリアに対してあまり態度が良くないのが気になっていたけれど、そんな理由があったなんて。
 私はリーナの方に手を置いて視線を合わせると、とびきり優しい声で彼女に語りかけた。

「リーナ。私はあなたを産んですぐに死んでしまったから、確かにあなたとの思い出をたくさん作ることはできなかったわね。お姉様との方が過ごした時間は長い。それは事実だわ。だけどね、私はあなたたち二人をとても愛しているのよ。どちらが上なんてことはないわ」
「お母様……」
「でも、私はこれからあなたたちのそばにいることはできない。だから、他の家族とは仲良く過ごしてほしいの。だからね、あなたのお姉さまと仲直りしてくれないかしら。できる?」

 そういうと、リーナは一瞬だまりこくった後、こくりと頷いた。

「いい子ね」

 それから私たちは、リーナの夢が覚めるまで一緒に人形遊びをした。リーナは「初めてお母様と一緒に遊べた」と嬉しそうにしていた。
 楽しそうに人形の着せ替えをしている最中、リーナがポツリとつぶやいていた。

「仲直りをしたら、お姉さまとも人形遊びができるようになるかしら」
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