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港町のプロローグ
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オホーツクの春の訪れは遅い。
刺すような寒さは日に日に穏やかになってきたが、4月になってもまだあちこちに雪が残っている。
てきとうに赤い軽自動車を停めた七海は、ショートブーツで泥混じりの雪を踏み、人影の少ない港に降り立った。
まだ、いやもう朝の7時。
人の出入りの多い時間は過ぎていた。
「いた」
今年も、錆びた係留柱にちょこん、と座るあの子を見つけた。
烏の濡れ羽色のおかっぱ頭の、藍にかくかくとした迷路のような白い染め抜きの、渋い柄の浴衣を着た女の子。
黒目がきゅるんと大きくビー玉のように輝くその子は、毎年雪解けの時期になるとそこに座っている。
「うみちゃん」
七海がつけた名を呼ぶと、楽しげに海を眺めていた瞳をこちらに向けた。
「うみちゃん、笑って」
カシャ!
着古したネイビーのダウンのポケットから取り出したスマートフォンを向けて、鈍く光る海と冴えた空、その小さな体を画面に収めた。
刺すような寒さは日に日に穏やかになってきたが、4月になってもまだあちこちに雪が残っている。
てきとうに赤い軽自動車を停めた七海は、ショートブーツで泥混じりの雪を踏み、人影の少ない港に降り立った。
まだ、いやもう朝の7時。
人の出入りの多い時間は過ぎていた。
「いた」
今年も、錆びた係留柱にちょこん、と座るあの子を見つけた。
烏の濡れ羽色のおかっぱ頭の、藍にかくかくとした迷路のような白い染め抜きの、渋い柄の浴衣を着た女の子。
黒目がきゅるんと大きくビー玉のように輝くその子は、毎年雪解けの時期になるとそこに座っている。
「うみちゃん」
七海がつけた名を呼ぶと、楽しげに海を眺めていた瞳をこちらに向けた。
「うみちゃん、笑って」
カシャ!
着古したネイビーのダウンのポケットから取り出したスマートフォンを向けて、鈍く光る海と冴えた空、その小さな体を画面に収めた。
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