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カトリーナと教会 4
しおりを挟む「教皇様!」
「捕まえろ!」
カトリーナが癒した騎士たちが口々に叫び立ち上がる。
「パパ!」
カトリーナはパパの首にさっと抱きつき、苦しげで色っぽい、昨夜のヒューを思い浮かべた。
(『おでかけ』! ヒューのとこ!)
「ヒュー!」
白銀のきらめきめがけてパパの元から飛び移る。
「カトリーナ! よかった! おかえり!」
ヒューはぐらりとよろけて壁に手をついた。
ちらりと視線を走らせるとベッドが整えてあった。
ヒュー、ありがとう! さすが気がつく!
カトリーナは致したベッドそのままの部屋にパパを連れてきたと今気づいたのだ。
パパは長剣を懐にしまい、息をついて床に座り込んだ。
たくさん暴れたみたいだし、疲れたんだろう。
「ポメちゃん! 扉開けさせないで!」
「わかったぞ! 『結界』」
これで寝室の扉は開かない。
ぱしんと張り詰めた感覚には覚えがあった。
えりはポメちゃんの結界に閉じこもって死んだのだった。
誰も入れない部屋で、ポメちゃんだけを抱きしめて。
ポメちゃんはあのあと、どんな思いで教会にいたんだろう。
カトリーナは扉の向こうに声を張り上げた。
「私はヒューと結婚するから! 聖女にはなりません! 聖女にするって言うならこのまま隣国に行く! 見たでしょう! 私、魔法でどこへだって行けるんだから!」
ヒューは魔法で連れて行けないけど、ハッタリだ!
いっそこのまま新婚旅行だ! 隣国でおもち探しちゃうんだから!
「お待ちください!!! カトリーナ様! 私も隣国にお連れくださいぃーーー!!!」
ハーラン先生……そんなに泣かないで……。
「えっこの声ハーラン先生なの? 泣いてるの? えっカトリーナ様?」
ヒューが驚いている。
だよね……!
どんどんどんどん扉を叩く音がするが、簡易な扉がびくともしない。
ポメちゃんの結界すごいんだよ!
魔法!?
魔法で移動できるのか!?
それで婚約者が教会に……!
扉の向こうは驚きの声で騒がしい。
「カトリーナ嬢! 子を生める聖女など、王妃も夢ではないぞ! 教会が嫌なら王太子にお会いしてみませんか?!」
この国は実は王政だ。
しかし王様より上位に教皇様がいて、教会の権力が強いから王族はとても影が薄い。
王妃になるということはつまり教皇様の下につくということだ。
しかし教皇様、さっき思いっきり首切られたのにそんな大声出して大丈夫?!
アルトゥール様の癒し、騎士たちの傷は治ってなかったよ?!
「ヒューと結婚するって言ってるでしょ! 私の王子様はヒューなの!」
カトリーナはぎゅっとヒューの首にしがみつく。
ヒューも強く腰を抱き寄せてくれた。
「そんな、癒しも使えぬ庶民と結婚するなど……せっかく子を生める聖女だというのに! もっと……!」
「教皇様、カトリーナさ……んはものではないのですよ」
「しかしせっかくの……!」
アルトゥール様が厳しい声で教皇様を諫めている。
そうだ! カトリーナは教会の手駒ではない!
イラッとした一同を代表するように、ポメちゃんがカトリーナから離れて扉に頭を突き刺した。
「我は神の使い、白のグランディードである」
ポメちゃん! 本当はそんな名前だったの?
言ってくれたらよかったのに!
「おお……!」
衣擦れが大きく聞こえた。
みんな跪いたのかもしれない。
「愛しい子の心を無視する教会など知らぬ。我は神と共に愛しい子と旅に出る」
「えっ神様も?」
思わずこぼれたカトリーナの声に答えるようにポメちゃんが言う。
「神は声を聞いてくれた愛しい子がとてもとてもかわいいのだ! ではもう行くぞ!」
「だめです!!!!! 教会にいてください!!!!」
教皇様他、神官や騎士の慌てた声が重なった。
どんどん、扉が激しく叩かれる。
「愛しい子、歌って! 神様を呼ぼう!」
ポメちゃんがカトリーナの胸に戻ってくる。
ヒューとくっついて狭いところにぎゅっと挟まった。
「えっ今? でも来てくれるの? 神様の像ないよ?」
「あるぞ!」
ポメちゃんがちょいちょいと前足で示したのは書棚に飾られた、教会と神様を描いた小さな絵だった。
「これでいいの?!」
「愛しい子が歌ってくれるなら、これで充分なのだ!」
カトリーナは頷いて、あの讃美歌を歌った。
ヒューを、ポメちゃんを抱きしめて、愛をこめて。
アーメン!
絵が激しく輝いた、と思ったら寝室の扉が壁ごと音もなく消し飛んだ。
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