天の都

戯伽

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廃教会編

10.箱入り

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 少しずつ気温が上がってきて、日向は暑くなってきたというこの頃。


 夜に遊びにきた恋弥れんやとフルグはむつ佚世いっせに絡む。いや絡んでるのはフルグだけ。恋弥はおとなしく睦のカルテ処理を眺めている。脳之輔のうのすけはフルーツタイム。



「……機械みたいな頭してんだな。異形って全員こうかよ」
「うちはそう」
「馬鹿の周りは馬鹿しか集まんねぇな。その逆も然りか」
「頭いい人は馬鹿も丸め込むよ」
「勝ち組かー」



 嫌な会話をする子供たちをフルグと佚世が真顔で見ていると、フルーツを切り終わった脳之輔が台所から出てきた。


「恋弥君も頭はいいでしょ? 成績優秀だもんねぇ」
「優秀ってレベルじゃないですけど。馬鹿にはなりたくないです」
「食べる?」


 いちごを一粒頬に入れた恋弥がむしゃむしゃしながらカルテを見ていると、睦がそれを取った。


「先生終わりました。今月赤字です」
「この教会赤字とかあるの!? えッ!?」
「薬代と人材費だよぅ? 法の適用外だから保険が効かないってだけ」
「怖ッ!」
「睦の仕入れについてったことあるけど、薬って馬鹿高ぇよなぁ」
「上薬はね。うちはなるべく安く仕入れてるからマシだけど」
「……利益出なくね?」
「一年通して、薬と給料とか生活費抜いて百万も出ればめちゃめちゃいい方かなぁ。常に出費を賄う金額貰ってるだけだし」



 恋弥とフルグは顔を引きつらせ、睦は不思議そうに首を傾げた。


「何?」
「何じゃねぇよ……この病院赤字すぎるだろ……?」
「病院じゃないけどね」
「衣食住に給料抜いてだからね。だいたいそんなもんよ?」
「……百万とか一時間あれば稼げるだろ」
「恋弥、勘違いしないでね。三十分で重体十五人捌いたら百万は行くんだよ。薬と人材費しか請求してないだけで」
「この病院よくもってんな」

 それは大人二人が一番よく分かってるよ。佚世も経営聞いた時びっくりしたし脳之輔も死ぬ気で頑張ってる。経理は全部睦だけど。



「睦君すごいねぇ!」
「大人二人は何してんだ」
「だいたい読書かフルーツ食べてるよ。たまに料理」
「ほんっとに何してんだッ!?」






 脳之輔と佚世が謎に恋弥に説教を食らったあと、声が枯れそうな恋弥がふと、夕食を食べていた睦を見た。


「お前学校は?」
「行ってない。仕組みを理解してない」
「学校行かせたら政府の監視下に入るからね」
陽泰ようたいも行かないでしょ~」
「いや陽泰ようたいは政府公認だから」
「あのおっさんついに子供も取引道具にしたか」
「イツ君におっさんは言われたくないんじゃない?」
「睦君先生のフルーツ代削ったらさぁ! あれ生活費ッ……!」


 脳之輔が佚世の口を塞いで、佚世は半ギレになりながらもがく。醜い争い。



「……学校って勉強しに行くんでしょ? 何勉強すんの?」
「えいやお前は学ぶことなんもないと思う」


 唯一社会に出ても使いそうな文字と計算完璧で、なんなら医学や生物学、人体学、経済学もあるなら行く意味はたぶんない。


「……楽しくなさそう」
「それは個人の主観だけど。んー……お前同世代と騒ぐタイプじゃなさそうだもんな」
「同世代の人とまともに会ったことないけど。騒ぐのは嫌」
「先生やっぱこいつ学校行かせた方がいいです。箱入りがすぎる」
「同世代の子とまともに会ったことないのはヤバいよ?」

 佚世のそばにしゃがんでいたフルグは睦のそばに行くと、恋弥と席を変わって睦に学校の説明を始めた。



 椅子から立たされた恋弥は、仕方なくいつまでもふざけている大人二人に拳骨を落とした。


「この箱入りどうするんですか」
「一生ここで働けばいいじゃない!」
「ボスの過保護批判してた人間の口から出る言葉じゃないと思うんですが」
「恋弥君ってこんな大人っぽい子だっけ」
「わりと昔から大人肌ではありました」


 恋弥が二人を蹴ろうとするので、流石にまずいと思ったフルグが止めに入る。


 謎に恋弥がブチ切れて、大人二人がおとなしく待っていると教会にノックが鳴った。




 睦が扉を開けると、外には小さな子供を一人抱えた男性がいる。まだ若そうだ。



「はい」
「すまない、この子を診てやってくれないか。熱が酷い」
「どうぞ」



 睦はブランケットに包まれた子供を受け取ると、佚世に見せた。まだ三歳か四歳ほどの子供。


「天使ですよね」
「天使だね」
「やはり天使か」
「あなたもでしょう?」
「あぁ」
「政府は?」
「政府まで連れて行く前に死んでしまいそうで」
「小さいからねぇ」


 佚世がその子の額に手を当てると、その子は目を覚ました。


 佚世と目が合い、瞬間涙が溢れた。


 大泣きして、睦にしがみつく。


「あはは、生存本能だ。死ぬことはなさそう」
「天使と吸血鬼は相性は悪くないはずでしょう?」
「吸血鬼は全生物の敵だからねぇ」


 佚世が点滴を準備し、睦はその子を返すと腕で血管を探した。


 まだビービー泣いているが、まぁだいたいそんなもんだろう。何がそんなもんかはよく分からないが。




「いけそう?」
「大丈夫です」
「なに……? やだぁ……!?」
「大丈夫だ。じっとして」
「やだ……! やだぁ!」


 点滴を怖がるその子の腕を引っ張って固定し、点滴を刺すとテープで固定した。


「容赦ないねぇ……」
「時間かけてもどうせ泣きますよ。腕持って暴れないようにしといてください」
「あ、あぁ……」



 天使の熱は解熱剤も効かなければ特効薬もないので、とりあえず栄養失調と脱水を避けるために点滴と、必要なら輸血をするかなぐらい。
 熱の間は超再生がなくなるので、輸血は血を流した時に。たぶん、超回復どころか普通の回復もまともに機能しない体になっているので。






「ほら先生。やっぱ人との触れ合いは大事なんですよ」
「う……うぅん……」


 大泣きする幼子にまるで容赦ない睦を見て、恋弥は真顔で脳之輔を見上げ、脳之輔は顔を引きつらせた。


 幼い頃から拘束しすぎたんだろうな。ほんっとに情緒のない子。


「……イツ君、天使って皆こうなの?」
「いや私の知ってる限り天使は中身は人間です」
「睦がおかしいんだよ。ボスの教育論に文句しか言わなかったくせに」
「私睦君は育ててない」
「見てたら異常だって分かるだろ」


 首を傾げる睦を見下ろして、大人二人は揃ってため息をついた。



「……どこで間違えたかな」
「今現在進行形で間違えてますよ」



 脳之輔がうずくまって、睦がびっくりして、恋弥はびっくりする睦の肩に手を置いた。


「お前のせいだかんな」
「う……ん……?」
「先輩、本気で入学検討した方がいいと思います。いっそ学院じゃなくてもどっかに通わせるとか、定期的に表社会に連れ出すとか、絶対なんかやった方がいい」
「先生? 聞きましたか?」
「聞いてない」
「聞けよ」










 子供の点滴が終わる頃には熱でぐったりして眠ってしまい、睦は針を抜くとそこを押さえて止血した。
 ガーゼをテープで留め、一応の処置は終わりなのだが。



「……政府公認の天使ってことは請求は政府ですか?」
「だねぇ」

 天使も吸血鬼も基本的に法の適用外だが、この状況で男に請求すると脳之輔が捕まるので。



「……ま強気に行こう! こっちには政府非公認の天使も吸血鬼もいるからね」
「お願いします」
「点滴一パックぐらい経費で落ちるけどねぇ。今年は三つからわんさか貰ってるし」
「軍資金は多いに越したことはないですよ」
「よろしく」
「あ私がやるんですね。分かりました」
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