実家へ逃げ帰った男爵令息は、王子殿下に溺愛される

Matcha45

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 ──僕は旅に出ようと思っていた

 父の取引先の男爵家の子息達が、流行病で亡くなってしまい、末っ子だった僕は男爵家に養子に出された。

 男爵家の子供達はみな優しく、商人である父について家に行くと、本当の兄弟のように遊んでくれた──彼等がいなくなって寂しかったが、男爵様はもっと辛かっただろう。

 もともと男爵様に面識があったのと、学問が多少出来たこともあって、僕は男爵様の養子になった。けれど、1つだけ問題があった。

 僕は、オメガ性だったのだ。

 現在、バース鑑定は行っていない。昔に比べてオメガ性は、生まれにくくなっていて『都市伝説』なんて言われていたりもする。今となっては人口の0.0001%しか存在せず、国内に1人いるかどうか──というところだった。

 ──僕は旅に出ようと思っていた

 話を戻そう。なぜ旅に出ようと思ったのかと言えば、王子殿下に婚約を迫られているからだ。

 僕は男爵家を継ぐべくして、6才から屋敷で厳しい教育を受けてきた。けれど、15才になって社交界デビューしてから、どういう訳か、同い年の王子殿下に気に入られていた。

 もともと他家との関わり合いに明るくなかった男爵家は、王子殿下の『ご執心』に何も言えなかった。だから、急に婚約の話になったときは、天地がひっくり返るほどビックリしたのだ。

「僕の側へ来て欲しい」

 僕は首を捻った。側近としてだろうかと思ったが、従者に「それは恋文ですよ」と言われるまで気がつかなかった。

 それに加えて、最近『オメガ性』との診断がくだされた。医者の話によると、僕は男性を惑わすフェロモンを振り撒いているらしい──だからか。

 僕は王子殿下の腑に落ちない求婚に納得した。殿下は僕の『オメガ性』のフェロモンに振り回されていたのだ。

 殿下に申し訳なく思いつつも、医者からは「抑制剤を飲めば大丈夫」と言われていたので、これからは大丈夫だろうと思った。

 だから殿下の態度に──僕は何も疑問に思わなかった。


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