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第一章 出会いと別れ
1 出会い。
しおりを挟む薄暗い。何やら酸っぱいような、鼻にツンとくる異臭が放たれる。
血……? 汗? 色々と混ざりあった臭い。
両脇には鉄格子。その先には生きているのか死んでいるのかすら定かではない、生を感じられない人々達がいる。
そして、私はというと……。
「キラ・ステラ、ここで大人しくしてるんだな」
国から突き放されて、何日が経っただろう。
鉄仮面を被り、ガタイが良く見えそうなプレートを着用した二人が前に。その内の一人に肩を押され牢屋に叩きつけられた記憶は今でも鮮明に覚えている。
それからは起床、ご飯、就寝時間に声をかけられる程度。何もやる事を与えてくれなかった。
鉄格子の隙間を覗いても何も無い。薄汚い壁に小さな傷があるだけだった。
牢屋の中は私一人。でも、どこからか嘆く声や笑い声が飛び交っているのは微かに聞こえていた。
隣……そのまた先に別の牢屋があるのかな?
どうして私だけ、こんな広々とした牢屋に一人だけなんだろう。
そこに笑い声があるのなら。牢屋に居る人でもまともに話ができる人が存在するのかな。延々に退屈とした日々が続くと、そういった小さな期待が芽生えてきた。
***
私が牢獄に閉じ込められた理由は、自分の立場にも問題があった。
問題というべきか、グロキシニアという国から定められたルールなんだけど……。
グロキシニア城では、上級、中級、下級の三つに分かれていて私はその下級に位置する存在だった。下級らは上級の人々に、日常に欠かせない必需品を作っては送り届けるを繰り返し、微々たる給料で自分たちは残飯のようなご飯を食べて過ごす毎日。治安も勿論悪い。そして下級者は、元々が上級と中級の住人たちばかりだった。つまり裕福だった生活が突然どん底に落ちたような人生を送っている人たちばかりで、その腹いせに彼らはよく中級の土地に乗り込んでは事件を起こすを繰り返した。
私はというと、生まれてこの方ずっと下級で静かに暮らしていた。おかげで盗みを覚えたくらいに成長した。
そして十七の時に、神様からのお恵みか? というくらいに輝いたダイヤの腕輪が道端に落ちていて、『ああ、あの人の落とし物だろう』と分かっていながらも盗みを犯した。
少しでも生活の足しになればいいと思っての行為だったんだ……。けれど、それは私の人生にとって大きな失敗だった。
それをキッカケに私は十八の誕生日を迎える直前に、まさか国を代表する有名な騎士に目をつけられてしまい、呆気なく牢獄に連れて行かれた。
家族もいない、自分の名前だけしか知らない私は、誰からも求められず牢獄で一生を過ごすこととなった。盗んだものにも問題があって、私にとっては高値で売れそうなダイヤとしか思っていなかった物が、実は、グロキシニア城の今は亡き王妃の形見だったから。
言い訳にならない言い訳をするとなると、その前にもう一人の盗人がいたんだ。だから本来はその盗人が落としていった物。私は落とし物をただ拾っただけ。……と言いたいところだけれど。
その盗人を目撃したのは恐らく私だけで、誰も気に留めていなかったのか周りの人間は私にだけ集中した。そうしたらこの通り、私だけが牢獄に閉じ込められた。
一時期、誰か助けて!! と泣き喚いた事があったけれど、兵士に怒鳴られるだけ。暫くしてから何ら希望を感じなくなった。
こんな退屈な牢獄で、何か労働をさせて貰えるわけでもない。今までも大した生活を送っていたわけではなかったけれど、こんな所よりかは遥かにマシなんじゃなかったかと思う。
ここにずっと居続けたら、精神がおかしくなるだけ……。
生き続けても何も得られない。
そうやって考えていくうちに、こうなったら、いっその事死んでしまおうか――――って思った時も……。
――なんて、その時だった。
ガタン!
どこからか扉の開く音。何人いるのだろう? 急な足音が疎らに聞こえてくる。
「203、お前は今日からここで生活してもらう。……626もいる。新参だ。ここには626しかいないから、むやみに人を殺すこともなく済むだろう」
いつも、声をかけてくれる兵士のドスのきいた声だった。
626は私の番号。……203? って?
そして、人を殺すって? 彼は殺人を繰り返してきたの?
私の目の前にはいつも見ている兵士が二人と、真ん中には黒髪の青年が俯いていた。上半身は無防備のまま、黒いズボンを履いていて、ボロボロに穴が空いたグレーの布を腰に巻いていた。
「203? 聞いているのか」
その203らしき男は、兵士の問いに対して何も反応を示さなかった。私の目に映るのは彼のボサボサとした髪が垂れ下がっているだけ。表情が見えにくい。
無言の中、兵士が舌打ちすると彼の頭を鉄格子に打ち付けた。
「あっ……!!」
思わず私から声が漏れた。
何もしてないのに。兵士はなんて乱暴な……。
髪の隙間から見える彼の頬から赤い液が垂れる。
――血だ。
「……はい」
漸く彼の声がした。
彼の血を見たせいか、私の鼓動が早くなり呼吸が荒くなった。
誰だろう? 久々に見た人の肌。そして自分は牢屋にいることを改めて思い出し、彼は決してロクな人間ではない事に気づく。
先程、兵士が「これで人が殺されずに済む」と言っていた。今は大人しいけれど、本来の姿は気性が荒い性格なのかもしれない。そんな人と、これからずっと過ごしてかなくてはいけないのかな……?
「あ……の……」
「あ?」
よく喋る兵士のほうが私に反応した。もう一人の兵士は鉄仮面をずらし、血に染まったような色の目で睨みつけてきた。
「こ……怖い……です。こんな、人と、二人なんて……」
喉に何か詰まってる感覚が治まらず、震えながらも精一杯自分の気持ちを伝えた。
「怖いだと? お前のしてきた行動のほうが、よっぽど国からしたら恐ろしいことだよ」
ほら、入れ。と、兵士は鉄格子の扉を開け、例の男を私の牢屋に入れた。
彼は両手首を硬そうな紐で縛られていて、私に背を向けて横たわった。
私も手首を縛られているため、むやみに動くことはできない。
……怖い。逃げられない、逃げ出したい。
何されるか分からない!! まさか殺されちゃうんじゃ。
兵士は何ら気にもせず、どこかへ行ってしまう。
「ま、待って……! 行かないで……!」
私の声は兵士の笑い声でかき消されてしまった。
***
暫くすると、本当に二人だけになってしまった。
彼は特に動かないので、私の心も多少ながら落ち着きを取り戻しつつある。けれど、いつ何が起きるかは分からないから、彼のことをじっと見つめていた。
すると、見ていたはずなのに、いつの間にか彼の手首を縛っていた紐が解けていた事に気づく。
「えっ?」
まさか。いとも簡単に。
「…………っし、やっとここまで来れた」
彼が起き上がると、こちらに顔を向けてくるので、初めてお互いに目が合った。
意味深な言葉の後に彼の口元が緩み、笑みをこぼした。が、良い意味での笑みではないように感じた。
「やっぱり……アンタからとんでもない魔気を感じる」
「えっ……魔気。私から?」
魔気は、体内に巡っている魔量の事を意味した……はず。一般人には無い、特別な人にしか無いという魔気。そんなはずがない。私は人生で魔力を使ったことなど一度足りともなく、あるとさえ感じたこともなかった。
何かの勘違いじゃ……。
「そう。だから、俺の運命の人」
「っ運命……!?」
ニタリニタリした彼の表情。やっぱり牢獄にいる以上、ろくな人は居ない。常人離れしたような雰囲気が醸し出される。
「はぁ……見つけた。お嬢さん」
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